1話 さよなら現代日本、ようこそ未知の場所へ
プロローグもそうですが、今回も短いです。
意識が戻ると、そこは雑草が生い茂る草原だった。素早く身を起こした俺はまず、持ち物を確認した。
リュック、財布、スマホ、ハンカチ、腕時計・・・・・特に何も無くなってなさそうだ。
荷物を探っている間、なぜここにいるのかを思い出していた。
路地裏で変なもの?に飲み込まれ、気がついたらここにいた・・・・全く役に立たん。
誘拐?、にしては何も拘束されていない。
どこか知らない場所へ拉致された?今どき都会のど真ん中でそんなことするのか。ありえなくはないが、可能性は低いだろう。
これなら、拘束されて誘拐犯が目の前にいた方がよっぽど良かった、少なくとも目的は分かる。
少し考えた俺は結論を出した。
結論・・何もわからん。
俺はリュックからメモ帳と鉛筆を取り出し、これから何をすべきか書き出した。
1、ここはどこか?
パッと見草原しかないここは、日本の都会ではほとんどに見なくなった、自然豊かな田舎の風景だ。少なくとも東京ではないだろう。つまり、俺の住んでいる東京に帰る為にはここがどこか知る必要がある。
2、帰る方法の確立
俺の現所持金は2000円と100円玉2枚、10円玉6枚、1円玉3枚、少ない。もしここが九州や北海道の場合、東京に帰るには飯代を合わせると足りないだろう。警察に行けばなんとかなるかもしれないが、あまり世話にはないたくないのが本音だ。
3、ここに連れてこられたのが、人為的なものか、偶発的なものかの確認
これは優先項目ではないが、人為的の場合は一言文句が言いたい。ただそれだけだ。
書き出して感じたことは、ここが日本でなければほぼ手詰まりだということだ。
ため息をつきながらスマホを確認する、そこには絶望があった。
”ネットワーク接続がありません”
昨今の携帯の電波普及率は日本全国に及ぶはずだ、地下でもない限り圏外などまずありえない。
つまりここは外国の可能性が高く電波がない。詰みだ。
あても無く彷徨うのも手だが、外国語が堪能ではない俺が日本に帰れる可能性は限りなく低い。
「くそっ」
今日は悪態をつくのが多い、こんなことは意味がない。すぐに気持ちを切り替える。
「落ち着け、冷静に物事を見極めるんだ。深呼吸だ。」
実のところは、かなり混乱していたが深呼吸の際、周りにある自然の匂いに不思議と気分が落ち着いた。
「自然は偉大か・・・」
少し気分が良くなった気がする、今なら良い考えが浮かびそうな気がする。しばし、思考の海に沈む。
「よし」
とりあえず、歩いて町に行こう、最悪大使館に駆け込めばいい。そう考えれば気持ちが楽になった。
(まずは、街道を探さなければ。そして次は・・・)
次々とこれからの方針を立てていく。
こうして俺の、どこかもわからない外国での1人旅が幕を開けたのであった。
ーーーーーーーーーーー
歩くほど1時間、景色は相変わらずの草原地帯、街道っぽいものは見つけたが舗装がされてない。
草むらは俺の胸ぐらいまでの高さになっており一本道だ。
この時点で、俺は色々と諦めていた。周りに生えている植物は見たことがない植物で、昆虫でさえ見たことがない。
ここが日本の田舎ではなく、外国の田舎であることは明白だろう。
幸いだったのが、気候だ。晴れてはいるが、暑すぎるということはなくちょうど良い。
日本で言うところの春みたいな気温だ。ここはどこの国だろう?
リュックには水筒があったため、水はギリギリだが大丈夫そうだ。
外国の水は日本人には合わないという、つまりこれは俺にとっての生命線だ。
それに川の水を汲むなど持ってのほかだ、感染症になった時のリスクが大きすぎる。
目下の問題は食料だ。サバイバル知識が乏しい俺は、野生動物を捕えて食せる程の腕はない。
腕時計を見る。あと3時間ほどで、日が暮れる。それまでになんとか町につかなければ、こんな知らない環境での野宿する羽目になる。この状況では野宿は命関わる。野生動物、夜間の気温、雨などの自然環境、あらゆるものが俺に牙をむく。ネガティブな思考をし徐々に視線が下を向く。
(ここまでなのか・・・)
その時である。
「うわぁぁぁぁぁ」と、なんとも間の抜けた悲鳴が聞こえた。俺は思わず顔を上げる。人だ。
思えば、1時間歩いたのに人っ子ひとりとして出会うことがなかった俺にとってこれは朗報であった。
たとえ、悲鳴だとしても。たとえ、面倒くさい事案であったとしても。俺にとっては朗報だ。
俺は声が聞こえた地点に走り出した。
ーーーーーーーーーー
悲鳴の元にたどり着いた俺は、信じられないものを見た。
馬車である。馬は茶色で2頭いるし、車部分は木製で上に布がかぶせてある。紛れもない馬車である、この車が普及しているご時世にあるのにも関わらず。
その傍らには、男と女がいた。男はなかなか恰幅がいい奴みたいだが今は情けなく、女の子の腰にしがみついている。俺は思わず、街道の街路樹の後ろに身を隠した。
理由は単純で、女の方が弓を持っていたからである。今はこちら側を向いておらず、馬車の後方の方を見ていた。
危なかった。弓は基本的にこちらを見ていなければ撃たれる心配はない。俺はひとまずの安全は手に入れられたということだ。安全が確保されたところで、彼らを覗き見る。男が女に対して、何か怒鳴っているようだった。よく聞こえない。
ここで、俺には3つの選択肢が生まれた。
1、このまま素通りし先に進む。
彼ら見つかるリスクを除けば現実的、これがベスト。
2、引き返す。
可能であるならばしたくない。これまで歩いてきたものが無駄になる。しかも、一本道なのだ。
3、彼らと接触する。
彼らは武器を持っている。こちらは丸腰。除外一択。
俺は仕方なく2を選択することにした。女の弓の腕は不明だが不用意に背中を晒して撃たれるのはごめんだ。
踵を返そうとした時、俺の耳に信じられないものが聞こえてきた。
「だから!!離しなさいよ!!撃てないじゃない!」
日本語、俺の耳がおかしくなければ日本語に聞こえた。よほど大きな声を出したのだろう。じゃなきゃこんな後方に聞こえるはずない。女性特有のソプラノボイスだったことから、声を発したのは弓を持っている女であることは明白だ。
俺は慌てて女の後ろ姿をよく観察する。
髪・・金髪、少し長め。カツラではなさそうだ。
身長・・160ぐらい、日本人の女性平均的な身長。
服・・洋服?黄緑色でまとまっているワンピースっぽい。スカート短め。
装備・・弓、矢筒、ポーチ。弓矢20本以上。
ぱっと見、日本人ではなさそうだ。なら外人がコスプレしているのかと思ったが、冷静に考えて見る人が少ない、こんな田舎道でコスプレする必要はないだろう。
だったら、あれはなんだ?と、
俺が混乱している中、相変わらず言い争いをしている二人の向いている方を何気なく見た俺はさらなる混乱を覚えた。
獣、というにはあまりにも人間に近い。
人、というにはあまりにも人間から遠い。
化け物という方が合っている気がする。
目が大きく、耳が長く、鼻はでかく、背は小学生ぐらい、体色は抹茶色、手には棍棒?らしきものを持っている。
そんな奴らがいた。
俺の頭は混乱の極みにあった。なんだあれは?生物なのか?ここは本当にどこなんだ?と。
そんなことをボーッと考えていると、1匹?が彼女らに向けて突進してきた。
「ギャギャーーー!」
奇妙な鳴き声をあげるそれは、見ていてあまり気持ちの良いものではなかった。
「ーーーーーーー!!」
と、何かを女が叫び弓矢をつがえて放つ。
「ギャッ!?」
正確に謎の生物の眉間を撃ち抜き、謎の生物は倒れ動かなくなった。
「速い」
俺は驚愕した、弓矢を放つまでの速さだ。
俺は弓道部ではないため詳しくは知らないが、弓矢を素早く放つのは非常に難しいと聞く。それを女はいともたやすく、それも一発で行動不能にしてしまった。
このままあの女が、謎の生物を駆除するまで待機するのも有りか。と思っていた俺はその考えが甘いことに気づく。
あの謎の生物は複数いるのだ。ジリジリと距離を詰められている。いくらあの女が弓の名手といえど、弓では複数の敵を同時に相手するのは難しいだろう。ましてや、腰には男の大人がすがりついてるのだ。攻撃をかわしながら、時間を稼ぐなども難しそうだ。
「・・・」
一つアイデアが浮かんだ、うまくいけば彼らを助けられるだろう。情報ももらえる可能性がある、ただ俺がリスクを負うが。
考えろ、考えるんだ。現状、身を守る物も無ければ、現地の情報もなく、今夜寝る場所も困っている俺にとってはこの状況は渡りに船だ。
それに、見知らぬ土地で日本語を話している人に会えたということも大きい。
今ここでリスクを負わないと、のたれ死ぬかもしれない。・・・・・よし、覚悟を決めた。
俺は街道の草むらを見るとそこに入っていった。
主人公の名前はまだでできません。