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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 迷宮踏破は誰のお仕事?
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99 - ノルちゃんと切り札

 ノルちゃんに関する事実はさておいて、洋輔と僕が共同することで儀式を大魔法として処理できる件は、しかし結局、円卓でそれを公表することになった。

 僕と洋輔という二人に対するリスクは確かに大きいのだけど、それを補って余りある結果が得られる――具体的には、『千人規模の秘密を護れる魔法使いを用意する』というフェーズをなかったことにできるのが大きいと、カティアさんたちが判断したからだ。

 これに合わせて、第二回円卓が招集されることに。

 時間はこの後すぐ。集まり次第開始。

「そういうわけですから、お二人は私と一緒に来てくださいな」

「わかりました」

「はい」

 と、カティアさんについていくことになる。

 じゃあサンドルさんは? というと、

「こちらは円卓招集の手続きをしてからすぐに向かう」

「なるほど」

「では、また後ほど、円卓で」

 これは移動中にカティアさんが教えてくれたのだけど、サンドルさんは遠隔伝達の魔法が使えるらしい。

 それで呼び出しを行うから、開催までに時間はそうかからないんだとか。

「遠隔伝達系の魔法っていくつかあるけど、なんだろう……」

「サンドルが使うものは『色伝達』ですよ」

「ああ。なるほど」

 いや、そのあたりを勝手に納得されると困るのだけれど。

 ね、ノルちゃん。困るよね。

 そんな視線をノルちゃんに飛ばしてみると、

『いやいやいやいや。私にそんなことを言われても……』

 といったしぐさで返された。辛辣だぞこの猫又。

 ……いや、普通か。

「遠隔伝達の魔法は『音伝達』『色伝達』『文字伝達』の三種類が主流でな。『音伝達』はあらかじめ決めておいた五種類までの音を組み合わせて送る。『色伝達』はあらかじめ決めておいた場所に、自由な色を表せる。『文字伝達』はあらかじめ決めておいた場所に、最大で六種までの文字を表示できる」

「……不便だね。声とかが直接送れたらいいのに」

「一応、儀式でそれが成功した……みたいな記録もあるらしいけど、実際に成功したって明確な証拠がない。で、儀式でもそれほどできるかどうか曖昧なのに、魔法でどうにかできるわけがない。というのが、魔導師の結論」

「ふうん……」

 テレパシーとか、できてもいいのにね。

 むしろ定番な気がするし。

「ああ、でも抜け道が一個だけある」

「抜け道?」

「『使い魔の契約』だ。それを交わしていれば、契約者と使い魔の間では時間差のない意思疎通ができる。意識の隅っこに共有のスペースができて、そこで会話をするイメージらしい」

「さすがは魔導師。よくご存じですね」

『癪だけどね。知識だけは一人前だよ、こっちの子も』

 カティアさんが感心したように言うと、その腕に抱かれたノルちゃんはあきれつつもそう言いたげに尻尾を揺らした。

 ふうむ。意識の共有スペースか……。

「ん……あれ、じゃあさ、人間と使い魔の契約をしたら、特に寿命に変化もなくって、その意識の共有スペースも使えて便利なんじゃ?」

「そううまく行かねえって。人間と動物の間でも心の底からの同意がないとそもそも使えないって言っただろ。ましてや人間と人間の間で合ってみろ、たとえ将来夫婦になるような関係だったとしても、心のどこかでは隠し事をしていることが多い。それも、どうでもいいような隠し事をな。だから、人間同士で使い魔の契約はまずできない。心の底から相手を敬い屈服し、心の底から相手を受け入れ庇護する覚悟。そんなのを持てる奴らは居ない」

「でも、そういう条件付けができるってことは、前例がある?」

「……ある」

 やっぱり。

「ただ、そのケースもちょっと特殊でな。精神をいじるタイプの魔法をお互いに使って、やっと発動できたって話だ。先んじて言っておくと、精神をいじる魔法って、基本的に使っちゃいけないもんだぞ。でかい反動もある。だから、『理論上可能で事実上不可能』を二回やんないと、人間同士の使い魔の契約は成立しない」

 だからこそ使い魔の契約は珍しいんだ、と洋輔は話題を打ち切った。

 この手の断言で一方的に打ち切るのは、洋輔らしくない。なにか抜け道を知っていて、それを知られたくないって感じがありありとしている。

 ま――洋輔がそれを否としているのだ。

 聞いたところで教えてくれないだろうし、僕もいつか教えてくれたらいいなあ、程度に考えておくのがいいか。


 で、本日二度目のセントラルアルター。

 さすがに招集を決めた張本人と一緒に来たこともあって、一番乗り、あるいは三番乗り。

 円卓の定められた席に座っていると、円卓の上を歩いてノルちゃんが僕の前にやってきて、座った。

 ちなみに見た目はただの黒猫に戻っている。ノルちゃんが猫又なのは内緒なのだろう。

「撫でてもいい? ですか?」

 と、ノルちゃんに聞いても仕方がないのでカティアさんに慌てて聞き直すと、「いいですよ」とお声をもらった。

 ので、撫で始める。

 やっぱり毛並みがいいよなあ。さらさらしてるしふわふわだ。

 首のあたりを撫でていると、イスカさんが到着。マリージアさんもついてきていた。

 そしてその後背中のあたりを撫でていると、サンドルさんやセキレイさん、ヴィクトリアさんにトゥーリスさんが。

 そろそろ潮時かな。名残惜しい。

『いやあ。君は猫を撫でるのが上手だよねえ。いい匂いもするし』

 と褒めるようにノルちゃんは尻尾と耳を揺らし、カティアさんの方へと戻っていく。

 ううむ。

 僕も猫飼いたいな。

 寮って猫大丈夫なのかな?

 いやでも、猫を飼うのはいいとして、地球に戻るときが大変か……。

 儘ならないものである。

「そう露骨にさみしがるなよ……」

「あんまり猫みないんだもん、このあたり」

「まあ学区だしな。野良猫なんていねえよ」

「だよねえ」

 はあ。

 気分を切り替えよう。

 結局、僕たちが入場してから三十分ほどで円卓がそろい、オブザーバーはまだ全員揃っていなかったのだけれど、そのあたりはお構いなしに円卓の開始が宣言された。

「今回、円卓を招集したのは私、カティアです。サンドルとの連名になります。詳しくはサンドルから」

「変わりまして、サンドル・クラウドが説明します。まず、第二回円卓において決定することとしていた三点儀式についての詳細ですが、これの省略を決定したい」

 三点儀式、というのは、例の脱出魔法絡みの三つのことらしい。

 何を言っているんだ、そんな感じの視線がサンドルさんに集まる。

「そしてその代替として、三点儀式と同等の『大魔法』の行使を宣言します」

「……『大魔法』? まさか、あの儀式を一人で発動するというのか」

「厳密には一人ではありませんが、おおむねにはその通りです」

 サンドルさんは言う。

 魔法科学長。

 当然、魔法技術において魔導師ほどではないにせよ、長けた者としての決定だ。

 裏付けがないわけじゃないだろうけど、信じ切ることもできない。そんな雰囲気が漂っている。

「で、誰が行使するんだ。サンドル殿、あなたか?」

 と、聞いたのはトゥーリスさん。

 騎士のまとめ役として、それらの重要性は身に染みているようだ。

「いえ。行使者は二名。ヨーゼフ・ミュゼ、及びカナエ・リバーの二名です」

「…………」

「…………」

 視線が、僕と洋輔に集まった。

「『タイム仮説の実証』――と言えば、この場の皆さんには伝わるでしょう。それによって彼らは、儀式を大魔法とすることに成功しました。私とサンドルの前で、です。千人単位の口封じをするよりかは、彼らに任せる方がまだリスクは低い」

「信頼性はどうなる。たとえリスクを背負うとしても、千人で儀式を使う方がよっぽど『安全』ではないのか?」

「設計図があるなら、そうするべきでしょう。ですが今回の規模ともなると、三点儀式の設計図に前例がありません。それでも無理に発動させるよりかは、この二人にやらせたほうがまだしも効果は高い」

「タイム仮説か」

 ヴィクトリアさんがつぶやき、ホランドさんも数度うなずいた。

 タイム仮説。結構有名だったらしい。

「冒険者代表として、その二人による大魔法の行使には条件を付けたい」

「何をですか?」

「確認だ。三点儀式の代替としてその二人が大魔法を行使した後、こちらで選抜した三つのパーティに試させる」

「かまいません」

 カティアさんが断言すると、ホランドさんが鼻白む。

 即答されるとは思っていなかったようだ。

「タイム仮説……錬金術による魔法の組み立てね。だが、イスカ殿でさえ成功しなかったそれを、この二人が本当に使えるというならば、その実証してもらいたいものだが」

「実証、ですか」

「ああ。わかりやすい形で、何かやってみてほしい。それができるならば、騎士はこちらで説得する準備がある」

 どうだ、できるか、と言った様子でヴィクトリアさんが僕たちに視線を向ける。

 さて。困ってカティアさんに視線を向けると、カティアさんも困った様子で僕たちを見てきた。サンドルさんも同じだ。

 ノルちゃんはどうかな?

『いや、猫に意見を求められてもね? ……ゴーレマンシーでもやればいいんじゃないのかい?』

 それもそうだ。

「ヨーゼフ。今朝使ったアレをやろう。僕も手伝った方」

「……あれか。まあ、たしかにわかりやすいわな」

 うん、という訳で、魔法で器を形成し、その中に魔力を僕は入れておく。

「大魔法はヨーゼフが単身で行使するんですが、ちょっと時間がかかります。ちょっとだけ待ってください」

「いや、もうできた」

「早っ」

「三度目だしな」

 回数を重ねればその分だけ早くなるさ、と言い、実際器の中に圧力を感じたので錬金、ふぉんっ。

 魔力ゴーレムの完成だ。

「ゴーレマンシー。ご存知ですよね? 『使い魔の契約』とは異なり、『物に意思を与える』という魔法……魔導師、特に七つの血統としては到達点とされる一つ。『大魔法』に近しい性質を持つんで、まあ、これでわかってくれるとありがたいです。これじゃあだめというならば、なんか適当な儀式を大魔法として行使しますけど……」

「いや、十分だ。……十分だが、一つ確認を。そのゴーレムの材料は?」

「魔力です。俺の、じゃなくて、カナエのですけどね」

「……ピュアキネシスか」

 らしいです、と僕がうなずくと、トゥーリスさんはふるふる、と首を横に振った。

 はて、と思ったんだけど、トゥーリスさんのフルネームは『トゥーリス・アラン』。

 アランと言えば血統の一つだから、その線かな?

「いいだろう。騎士としても認めよう。とはいえ、規模がでかいぞ。実際に行使可能なのか?」

「可能です。すでにアルターヘイブン内部で試行しています……すべて、そつなく発動に成功していました」

「例の隔離地区か」

 カティアさんの補足にホランドさんが続けた。

「さすがは円卓に参加することを許されたもの……か。だが、疑問もある。この二人がタイム仮説を実証した。それにより三点儀式を代替できる。それは良い。だが、その事実を知れば、世界中がこの二人をつけ狙うだろう――この二人の能力は、それほどまでに『価値』が付与されるものだ。それはカティア殿の意図とは反対側に進むぞ。たとえこの場にかん口令が敷かれているとしても、いずれは露呈する。それをどうするのだ」

「ホランド殿の意見もごもっともです。事実、この二人がタイム仮説の実証を見せてくれた後も、私とサンドルでしばらく悩みましたから――そして、その上でやはり、この二人に任せるのが適していると我々は判断しました。なぜならば、『儀式』ではどうしても発生するであろう欠損(ロス)を、『大魔法』においては無視できるからです」

 今回の踏破対象であるところの大迷宮は、いまだに大まかな規模すらわかっていない。

 だからこそ、強引に全てを指定できる『大魔法』の方が優れる――儀式と違って、大魔法にはロスがないから。

 カティアさんの説明に、しかしまだ不満があるらしく、ホランドさんは突っかかった。

「魔法と儀式の信頼性を問うているのではない。この二人の安全性を問うているのだ。この二人にはある意味、最大限の功績が最初から付与されるようなものだ――三点儀式の成立をたった二人でしたという点で、それは途方もない功績だ。いずれはこの二人は特定されるぞ。ここにいるオブザーバーも含めた者たちの誰かが、かならず漏らす。人の口に蓋はできん」

「解決策は用意してあります」

 カティアさんはそう言って、

「ノルちゃん。よろしくお願いしますね」

 と言うと、ノルちゃんが僕たちの前にまた歩いてきた。

 それが答えだと、カティアさんは態度で示した。

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