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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 迷宮踏破は誰のお仕事?
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89 - 得意なことが違う二人

 試供品はともかく、ほかにもいくつか決めることはあるだろうに、

「それでは、以上で第一回、円卓を終了する。各自解散」

 と、セキレイさんはあっさり解散した。

 あれ? いいの?

 とかなり肩透かしを食らった気分だったけれど、僕と洋輔がそんな感じで疑問を抱いているのを見てか、一人――と一匹、カティアさんが僕たちに近づいてくると、空席となった隣の席に座り僕たちへと向いた。

「遅くなったけれど、おはよう、カナエくん、ヨーゼフくん」

「おはようございます」

「おはようございます」

 カティアさんは国立学校総合学長として円卓に参加している……んだけど、この人入学式典にいたっけ?

 いなかった気がする。

 政府関係者でもあるみたいな感じの紹介だったし、そっちがメインなのかもしれない。

「そしてカナエくんは早速お手柄ね。あなたのおかげで、作戦は形になるわ――前代未聞の状況だけれど、なんとかなるという目途が立ったわ。ありがとう」

「いえ、僕はできることをしているだけですから」

「そう。大変でしょうけれど、お願いしますね」

 優しげに微笑み、カティアさんは言う。

 んー……。

 気のせい……?

 ま、藪をつついて蛇を出す必要もあるまい。

「ヨーゼフくん。今はまだ、攻略を開始する段階……攻略をするための『準備』をする段階ですから、どうしてもカナエくんがメインになってしまいます。ですが、いざ攻略が始まれば、あなたの力を借りなければならないかもしれません」

「俺の力……ですか」

「ええ。魔導師としての……あなたの知識を」

 魔導師。

 また、そのワードか。

「最善はつくします。カナエの努力を無駄にしたくないし……。でも、俺にならばなんでもかんでも解除できるという訳でもありません」

「もちろんです。が――」

 カティアさんは抱えていた黒猫を円卓の上に移動させ、居住まいを正すと目を細めた。

「――あなたは、現代錬金術の『解析』を、しているのですよね?」

「…………」

「…………」

 …………。

 うん、普通にバレてたらしい。

 まあ、僕が現代錬金術用の鍋を要求するって時点でちょっと違和感はあったんだろうけど……そっか、じゃあ余分にいくつか貰ったのが決定だってところかな。いざという時のバックアップだったし。

「作業は順調ですか?」

「…………、」

 洋輔は困ったような表情で僕に視線を向けてきた。

 困ったような……『言っていいのかわからない』って感じか?

 いいんじゃない?

「まだ、本格的な解析はしてないので。六割くらいですか。分解は終わってるので、あとはそれをどの順番で組み合わせればいいのか……って感じです」

「え? もう魔法の構成自体はわかってるの?」

 思わず聞くと、洋輔は首を横に振った。

「いや、構成はわかってない。要素はわかってる……ってだけ。錬金術に無理やり寄せれば『マテリアルはわかってる』けど『その正しい組み合わせ方がわからない』、だ。いやお前の場合組み合わせも何もないか……」

 うん。全部一気にやっちゃってるし。

「でも、言いたいことはわかったよ。部品がわかっても、組み立て方は説明書がないとね」

「そういうこと」

 僕はあいにくとプラモデルの類を作ったことがない。

 が、たぶんそういう物だろう。

 だとしても、完成品をパーツの状態に切り分けるのってすごい大変そうだけど……。

「さすがは魔導師……ですか。頼もしい限りです。今回の大迷宮は、おそらくあなたに頼る場面も多くあるでしょう。期待しています」

「はい」

 満足そうにカティアさんは笑みを浮かべて立ち上がる。

 僕たちもそれに合わせて立ち上がりお辞儀をすると、「礼儀正しくありがとう」とカティアさんは言って去っていった。

 返礼はなしか。別にいいけど。

 そんなやり取りが終わったところに、今度は二人が近寄ってくる。

 二人――イスカさんとサンドルさんだった。

「カナエくん。マテリアルに関して少し相談がある。ちょっといいだろうか?」

「もちろんです」

「ヨーゼフくん、あらかじめ魔導師としての見解をもらいたいところが数点あるのだが」

「俺にわかることならば」

 僕はちらりと洋輔に視線を送る。大体にたような感じで、洋輔もこちらを見てきていたので軽くうなずき。

「僕はヨーゼフに隠し事をしたくないタイプですから、イスカさん。ここで話しても?」

「俺もカナエに隠し事をしたくない性分なので、サンドルさん、ここで話してもらっていいですか」

 似たようなことを同時に提案する僕たちに、イスカさんとサンドルさんは苦笑して。

「すまないが、ここでは無理だな。人が多いし、サンドルの用件はここじゃあ無理だろう」

「そういうわけだ。一緒に移動してくれるかな」

 構いませんよ、と、僕たちはうなずき、二人について移動した。

 周囲からの視線が集まってる気がする……。

 ちなみに、てっきりこのタイミングでマリージアさんも合流するのかと思ったのだけど、彼女はグラン・サッチャーさん(僕たちの隣に座っていた人)と会話中。

 円卓中は発言権のないオブザーバーでも解散後ならば大丈夫ということのようだ。

 ともあれ、僕たちが移動したのは隣の部屋。

 控室、その奥である。

「時間がないでな。順番に説明をすることはできない。同時に、これが妥協点だ。いいね?」

「はい」

 こちらにはそもそも主導権がないので、良いも悪いもなかったりするのだが。

「じゃあ、早速」

「話を始めよう」


 さて、洋輔たちのほうはさておいて、僕たちの側がするべきは決まっていた。

 つまり、調達するマテリアルについての確認だ。

「カナエくんの返しのおかげで、マテリアルに関してはある程度ごまかしができる。だが、その誤魔化しをするにせよ、君がそれぞれのものを作る際のマテリアルを知らなければならないからな――本来は好ましくないのだが、それぞれのマテリアルを教えてくれ。比率も、できれば」

「はい。ものすごく簡単なので、イスカさんならばすぐに覚えられると思いますよ。ポーションは薬草と水。水は一単位ぴったりです。毒消し薬は薬草と毒薬。毒薬の種類は問いません。毒草からの直でも錬金は出来ました。その場合も比率に変化はなかったですね。エリクシルは薬草二つと毒薬、水。この材料で一級品です。ここに金が二グラム追加すると特級品になります。最後に賢者の石。エリクシル二つと中和緩衝剤で、中和緩衝剤は僕の場合、薬草一つをマテリアルにしています」

「うん。なんでその材料でその品質になるのかな? とか、いろいろと突っ込みたいところはあるが、心得た。つまり最低用件ということだね?」

「恐らく。例の図鑑に書いてあった最低量で、大概のものは作れそうです」

「そうか。……補助(サブ)マテリアルもなにもあったものじゃあないな、君の場合は」

 まあ、余計に物を入れると品質下がることさえあるしな。

 一応上がる可能性もあるけど、すでに特級品が作れる以上、これ以上あげる意味があるか微妙な所だ。

 品質値という数値があるのだから、まったく無意味とも思わないけど。

「あの、今聞くことじゃないと思うんですけど、思いついちゃったので聞いてもいいですか?」

「何かな?」

「品質値ってあるじゃないですか」

「うむ」

「それを具体化する方法ってあるんでしょうか。表しの指輪みたいな感じで」

「あるよ」

 イスカさんはこともなげにそういった。

 そっか、あるのか。

 …………。

「知りたいかい?」

「……まあ、欲を言えば。別にたくさん錬金する対価に情報をください、と言ってるわけではないんですけど……いや、そうなっちゃうのかな。もしあるなら、いちいち表しの指輪を作らなくていいかなと思って」

「……理論上は、そうなのだがね」

 といって、イスカさんは肩をすくめる。

「『表しのレンズ』――というアイテムが存在する。そのレンズを通してみるものすべての品質値を表示する、というとても便利な道具だ」

「わあ。それだけあればほかのいらないじゃないですか。……なんで『理論上』なんですか? 喪失品とか?」

「いや、喪失品じゃあない。唯一品ですらない――まあ、珍しい部類であることは事実だが、しかし探せば見つからないというわけでもない道具だ。この国にも現品が十個はあるはずだし、何なら私でも作れる程度の、そこまで難しい錬金術でもない」

 うん?

「しかしその道具には欠点……、否、欠陥がある。見境がなさすぎるのだよ。『すべての品質値を表示する』のだ。任意のものの数字だけが知りたくても、ほかのすべてにも品質値が表示されてしまう。見境なくね。結果、視界に入るのは『数字ばかり』で、何にも見えないのさ」

 なるほど、洋輔のベクトラベルで見ているあの矢印の世界の悪化版みたいな……うん?

 いや、ふむ、そういう可能性もあるのか……。

「それでもいいならば作り方は教えてあげられる。現物は今、学校にはおいていないから、渡すことはできないけれど」

「教えてくれますか?」

「珍しいね。いいだろう。といっても、あの図鑑の『八』番、その後ろから二十ページほどめくればすぐに見つかるよ。マテリアルもそこ書いてあるが、一応口頭でも教えよう」

 そう前置きしつつ、イスカさんは小声で言う。一応錬金術師以外には教えたくない、のかな。

 曰く、マテリアルはガラス、紐、『細かく分けるという発想に数字の連想を含む魔法』、以上。

 ううむ、思った以上に単純だぞ。

「実際には今のマテリアルだけでは完成しないことが多い。補助(サブ)マテリアルとして、いくつか追加するべきなのだが、君には不要だろう」

「そうですかね……まあ、やってみますか」

 紐は持っている。

 ガラス……も、瓶もってるしこれでいいや。

 器に入れて、細かく分けるという発想に数字の連想を与えた魔法を行使、錬金。

 ふぃん。

 完成したのは丸いレンズが一枚。

 手に取って右目の近くに寄せ、左目を閉じてレンズ越しの世界を……うわあ。

「なんにもみえない……」

「だろう?」

 そもそもこれは道具以外にも反応してるっぽいな。空気とか。

 下手すると空気中に若干あるであろう塵とか、あるいは空気を動かす風にさえ反応してるのかも。

 使い物にならないというか、それ以前の問題だ。

 品質の問題……というか、発想の問題というか。連想で全部表示してるからこうなってるのだろう。

 改善すればなんとかなりそうだし、聞いといて正解だったな。

「でも、ありがとうございます、イスカさん」

「うん」

「ほかに確認はありますか?」

「材料はこちらで用意する。一度試しに、エリクシルの大量生産を試してほしい」

 なるほど。

「かまいません。材料は先ほど述べたもので」

「ああ。手配しよう」

 と、こちらの話が一段落したあたりで、僕とイスカさんの視線が自然と洋輔、サンドルさんに向く。

 二人はまだ話を続けていた。

「――ですから、俺にできるのは魔法の分析じゃないんです。魔法の分解なんですよ。複数の魔法を一つずつに戻すことはできます――部品にすることはできる。けれど、設計図まではわかりません。単純なものならば再現もできますけど、複雑になると所詮、十二歳の子供なんで。魔導師として、最低限の知識は持ってますし、たぶんほかの魔導師と比べても分解は得意ですけど、再現はちょっと……」

「ううむ……」

 分解と分析――再現、か。

 洋輔はどうやら、複雑な魔法をパーツ単位までばらすのが得意らしい。組み立てが苦手と。

 僕とは反対だな。

 …………。

 ふむ。

「あの、イスカさん。もう一つ確認しても?」

「何かな?」

「一般論として、です。僕の場合は考慮しないでください。えっと、魔法をマテリアルにすること、ありますよね。他人が使った魔法をマテリアルにしたり、自分で魔法を使ってマテリアルにしたり」

「ああ。表しの指輪とか、表しのレンズとか」

「魔法が主なマテリアルとされる錬金術もあるんですか?」

「ある――にはあるが、極めて高度な応用だな。あのマリージアにさえ、限定的にしか使えないし、私にも使えない。世界という単位で見れば、何人か、使い手はいるけれどね」

 なるほど。

「それがどうかしたのかい?」

「思いつき……ですよ。ただの。今のところはそれ以上でも、それ以下でもありません」

 僕には……どうかな。

 たぶん難しいだろうな。練習すれば、できないこともないだろうけど。

 でもまあ、それを試すよりかは、手伝ってもらった方が早い。

 僕にはすぐにできなくても――

 洋輔はすぐにできそうだしね。

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