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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 迷宮踏破は誰のお仕事?
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88 - 成果と対価

「対価については後程協議するとして、つまり、供給は見込めるということで話を進めてもいいのだろうか? だとしたら、供給範囲が知りたい。ポーション、毒消し薬、エリクシル、賢者の石……そういった治癒系統のアイテムを、どの程度供給できるのか教えてもらいたい」

 改まって確認をしてきたのはまたもヴィクトリアさん。

 確かに実働隊にとって重要なのは、そういった回復アイテムの補充か。

 けど、正直に答えてもいいのかどうか……。イスカさんに視線を向けると、イスカさんはうなずいた。

 うん、わからん。僕とイスカさん、別に以心伝心って仲じゃないし。

 正直に答えておこう。変に嘘を浮いて後で面倒なことになるのは嫌だ。

「正直にお答えします。材料さえ用意していただけるなら、の前提は外せませんが、すべて供給は可能です。品質はポーションだと、前述のとおり原則、一級品。毒消し薬は特級品。エリクシルは一級品、賢者の石は明確に品質を表現しにくいのですが、事実上、一級品程度のものが用意できます。また、エリクシルに関してはコストの追加で、特級品も可能です。まあ、それをいうならポーションもですけど。何度も繰り返すようですが、『材料さえ用意していただけるなら』、今言った四つのアイテムは供給できます」

「……つまり、コスト、費用を考えないならば、ほぼ無制限にそのあたりのアイテムが使えると」

「はい。とはいえ、まったく制約が無いわけでもありません。どれもこれも薬草を使いますから、僕が何かを作るたびに薬草を消費します……僕は無学でして、薬草の流通回りとかは全然わからないんですけど、アレって結局、どのくらいこの国に備蓄があるんですか? ていうか、どこで供給してるんですか、アレ」

「……錬金術師殿が札を切ったのだ、こちらもカードを切らなければ失礼だろうな。このクァド・モノリスが流通管理者として、その質問に答えよう。薬草の製造場所などはさすがに教えることができないが、現状の設備だと、薬草の生産は一日当たり一万二千回分となる。これは製造に用いている道具に制約・限界があるからで、その道具さえ工面してもらえるならば生産能力は上昇させることはできる」

 一日一万二千回分……どうなんだろう。

 多いと言えば多いような気がするけど、一回分、つまり一個あたり銀貨十七枚で広く売り買いされている道具だし、国全土に行きわたらせることを考えると……いやでも、そんなものか。

 錬金術師は一日に百個単位で使うけど一般家庭じゃ一週間に一個使うかどうかだろうし、冒険者だって一日にって数えると、そんな数は使わないのかもしれない。

「多少コストはかかるが、必要な道具は私が用意できる」

 と、イスカさんが補足。

 増産しようと思えばできる、ってことか。

「だから、薬草の供給に関しては心配しないでもらいたい。必要な分を必要な所に――国王様のお達しは、今も守られている」

「わかりました」

 国王様……ね。

 『今も守られている』って、上手い言い回しだな。『今』だろうと『百年前』だろうとお達しはお達しだし。

「では、僕からの回答は繰り返しに繰り返しますけど、『材料さえ用意していただけるなら』問題はありません。材料については、僕の一存で開示していいのかどうかがわからないので、イスカさんを通してください。僕は錬金術師代表としてここに呼ばれているようですけれど、それ以前に国立学校の生徒ですので……」

「うむ。では、対価も含めた交渉はイスカ殿と行う。……だが、治癒系統の薬品類が金銭的にはともかく、単純な物資の制限がなく使えるとなると、踏破の難易度には多少なりとも影響がありそうだな。もちろん、兵站がしっかりしていればの前提だが。トゥーリス、その点は?」

 ヴィクトリアさんの問いかけに、トゥーリスさんはうなずく。

「最善を尽くします。この数年、大規模な作戦がなかっただけに、多少練度に不安はありますが……、それでも騎士の威信にかけて、ぬかりなく」

「結構」

 騎士側はそれで納得したらしい。

 となると問題は、実際に矢面に立つことになる冒険者側。

「冒険者代表として提言したい。報酬を金銭以外で付与することは可能か?」

「金銭以外となると、名声……あるいは地位くらいしかないように思うが……ホランド・アウリア殿、その問の意図は?」

 セキレイさんの確認に、冒険者代表のホランドさんは僕を見た。

「各分野の実力者とのコネクション、だ。無論、それを与えるのはごく一部に限る。特に戦功華々しい者に、金銭や名声のみでは遇せない場合、だ」

 ふむ。いまいちそのあたり、僕には価値がわかんないんだけど……他の面々の様子を見る限り、どうやらダメな提案らしい。

 怒ってる感じじゃないけど、呆れてる感じではあるしな……。

「……よほどのことがない限り、生徒については厳しい、と思ってほしいわ」

 と。

 答えたのは、自己紹介の際以来、黙って抱えた猫を撫でまわしていた女性、カティアさんだった。

「ご存じとは思うけれど、国立学校の生徒はただそれだけで狙われやすいの。去年もついに、十五人が犠牲になっている……。学校としてはこれ以上、生徒にリスクを背負わせるわけにはいきません。ホランド殿。ですから、たとえば学校関係者でも、イスカ・タイムやサンドル・クラウドと言った教員側の『実力者』とのコネクションならば可能ですわ。けれど、生徒は不可。……ましてや、あなたが望んでいるのはカナエ・リバーとのコネクションでしょう?」

「…………」

 沈黙は、肯定。なるほど、こういう時に使うのか、あの言葉。

 なんて的外れなことを考える。というか、そうとでも考えないとなんか空気が重い。

「例外的な才能を持つ子に対してコネクションを持ちたいという気持ちはわかりますわ――ですが、それはやはりだめです。それとも、あなたはカナエ・リバーという才能がつぶれることを期待しているのですか?」

「そのようなことは」

「ならばあきらめてくださいな」

「……そうですね」

 結局、ホランドさんはあいまいにそう答えた。

 はい、とは言っていない。まだあきらめてないのかもしれない。

 大人の駆け引き……これについてくのは無理だな。イスカさんたちがうまいことフォローしてくれることを願おう。

「無理を言って申し訳ない。カナエ・リバー殿。気分を害したならば、謝ろう」

「いえ」

 面倒ごとに巻き込まないならばどうでもいい。

「冒険者に対する報酬は、基本的に金銭と名声で済ませる。ただし、一部の功労者に関しては政府や国立学校教員とのコネクションを与える……これが現実的な落としどころですわ。ただし、迷宮探索で獲得した戦利品に関しては、基本的に冒険者側で分配として構いません」

「基本的に、ですか」

「ええ。具体的には何らかの障害が発生し、それの突破に第三者の介在が必須であった場合――などは、その第三者も交えての協議としてもらいます。迷宮では滅多にありませんが、大迷宮。そういった場面も数度は出てくるでしょう」

 うん? そうなの?

 カティアさんの言葉に慌てて資料を確認すると、たしかに『い号大迷宮』においては、すさまじい難易度の魔法罠があったらしい。

 で、それの解決に『魔導師』……まあ、当時はまだ血統とは呼ばれていなかったようだけど、その走りの面々が奔走した、とある。

 となると、今回はそのポジションが洋輔か。

 あれ?

 もしかしてこの大迷宮、踏破の鍵って僕と洋輔だったりするのか?

 …………。

 ううむ。これがゲームクリアの条件だったら納得だけど、もしこれでゲームクリアじゃなかったら釈然としないぞ。

 やるしかないけど……。

「了承した。では、冒険者側はその線でまとめよう」

 ホランドさんの宣言に合わせて、セキレイさんはうなずき一仕切り。

「それでは、ここまでの決定を確認する」

 騎士団は制圧維持の任につく。これに対する報酬は、戦時における騎士に対する報酬と同額とする。

 冒険者は探索、踏破、制圧を目指す。宝物発見時の分配ルールは、原則冒険者の『普段通り』。冒険者に対する報酬に関しては妥当な額を政府が算出し、次回以降の円卓において決定し、金銭以外の者に関しては検討を続ける。

 回復アイテムの供給は、ほぼ無制限。ただし、費用は当然掛かるし、現地において生産が行われるわけではないから、発注から供給までに時間がかかる可能性はある。供給に関しては材料調達を商人ギルドが、生産は国立学校錬金科で行い、学校からの運搬は騎士団の兵站が行う。

 現地において冒険者に対する強制力として、冒険者ギルドからギルドマスターが数名派遣される。この数名のギルドマスターは騎士団と協力し、調整を行う。なお、前述した回復アイテムの販売については、ギルドマスターおよび騎士によって行い、どちらかが不当な金額をつけた場合、これを告発する義務を負うものとする。

 とまあ、こんな感じにまとめられ、円卓の面々がそれぞれ頷く。

 そんなタイミングを見計らったかのように、何やら伝令らしき人が部屋の中に。

 怪我をしているようだが、誰もその人物を止めようとはしなかった。

「先遣速報隊より、円卓に報告申し上げます。つい先刻を持ちまして、先遣速報隊は三名死亡、二名重傷により撤退。撤退中、四名が行方不明に。戦死と判定します。確認された魔物の階位は、第一階層の時点で『六』です」

「ご苦労。他の先遣速報隊の面々は治癒施設に?」

「はっ」

「ならばよし。ご苦労。君も治癒を……」

 いや、この人も大概、怪我してるよ?

 僕は鞄からエリクシルを取り出し、円卓に置き、そのまま中央にすっと滑らせる。

「使いますか? せっかくですし、僕が作るものの『確認』も必要でしょう」

「魅力的な提案だな」

 ヴィクトリアさんはそう答えると、エリクシルを手繰り寄せ、そして先遣隊の伝令さんを呼び寄せると、エリクシルを振りかける。

 効果はすぐに表れて、無事に完治。まあ、破損した装備品は、灰色のエッセンシアことワールドコールを使わないとダメだけどね。

「調子はどうかね」

「驚きました、万全です。今のは、エリクシル……ですか?」

「そうだ」

「……軽めの神経毒も入っていたのですが、それも吹き飛んでいますね」

 …………。

 毒や病気を特に治したいときは、振りかけるよりも経口摂取した方がより効果が出るので、その点については留意してもらいたいところだった。

 まあ別に、よほどの毒でもないかぎりは振りかけるだけで大丈夫だけどさ。

「すまないが、同じものをいくつか携帯していたりするか?」

「同じもの、というと、品質もですか? 今のは一級品です」

「うむ」

「一級品のエリクシルはあんまり持ち歩いてないんですよね……」

「そうか。さすがに無理……」

 一応、バッグの中をあさってみる。特級品ならそれなりに持ってきてるんだけどなあ。

 一級品は……うん。

「あと七本しかないです」

「……しか?」

「特級品でよければ十二本ありますよ」

「カナエくん。ちょっと?」

 と。

 イスカさんが立ち上がり、僕を呼び寄せた。

 わあい、なんかすごい嫌な予感がするぞ。

 でもいかないわけにはいかないよな。観念して立ち上がり、一応最後の抵抗として洋輔に助けを求めてみる。

「あきらめろ」

 現実(よーすけ)は非情だった。

 とぼとぼとイスカさんの方に近づくと、イスカさんはかがみ、僕の耳元で声を潜めて言った。

「何をいくつ持ち歩いているのかな、君は」

「えっと……」

 小さな声なら大丈夫かな?

「ポーションは、特級品を六本だけ。毒消し薬は特級品が十二本。エリクシルは特級品が十二本、一級品は八本で、さっき一本使ったのであと七本。賢者の石は三つ、ほぼ同じ品質です。あとは銀塊が五十グラム分、紐とガラス瓶、割れた鏡……で全部になります」

 ショルダーバッグなのでそんなにものが入らないのだ。結構ぱんぱんだったり。

「後でマテリアルを補填する。自分の席に戻ったら一級品のエリクシルの残り四本と、特級品を三種、二本ずつ。賢者の石も二個、円卓の上においてくれ。騎士と冒険者へ試供品として譲渡する」

「わかりました」

 てっきり怒られるかと思ったんだけどな。

 怒られたいわけではないのでそのあたりには触れず、席に戻って言われたとおりに。

「彼が持ち歩いていた、普段使い用の分ですが、品質的には供給するものと同等品となります。騎士殿と冒険者殿は、それぞれご確認を」

 イスカさんがそう言うと、

「普段使いって……」

 と、誰かがつぶやいた。

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