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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 ちょっと違った学校生活
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68 - 血統ならざる雑種の奇跡

「さて、と。俺達は次の授業見学……の前に飯だな」

「そうだね。ここからなら、お店行ったほうが近いかも。フゥとヤムナはこの後どうするの?」

「あたしはこの後、近接戦闘の発展を見学する予定よ。魔法剣士として、一応学んでおきたいし……でもまあ、この授業を受けた限り、発展じゃ物足りないかもしれないわね」

「フゥもヤムナと一緒ですよー」

 ふむ。

 近接戦闘の発展、の授業見学が始まるのは一時間ちょっと先。

 移動にはさほど距離も無いはずだ。

「もし二人が良かったらだけど、一緒にご飯食べない?」

「お心遣いはあり難いけれど、遠慮しとくわ。あたしたち、お弁当用意してあるの」

「ああ。それなら、仕方ないか」

 お弁当か。僕達もお弁当にしたほうがいいのかな?

 お店で食べるよりかは安いだろうし、作るのも一瞬だし。錬金術って便利。

 結局、ヤムナとフゥとはその場で別れる事に。

 ただし、ここで改めて出会ったのも何かの縁、ということで、お互いの連絡先を交換しておいた。

 もっとも、成績面ではともかくとして、男女という壁は途方も無く高いので、どっちも直接尋ねる事はまずないだろうけどね。

 で、僕と洋輔は近場の定食屋さんに入店して食事を開始。

 時間が中途半端だったからなのか、それとも別な理由があるのかはわからないけど、他にお客さんは居なかった。

 味は結構良いので、穴場かもしれない。覚えておこう。

 その後、僕達が見学した授業は『近代歴史基礎』、『地理社会基礎』、『算術応用』の三つ。

 残念ながら新入生と遭遇は無かった。近代歴史と地理社会はそもそも授業としての人気が低いようで、算術応用は最初から応用を見学しに来る子が居ないという理由だったけどね。

 ともあれ、こうして六月二日の授業見学は予定通りに終了。

 寮の部屋に戻った。

「まだ見学向けの授業だから、断言はしかねるが。この様子なら問題は無いな」

「だね」

 僕達にとって得意分野とは言えない近代歴史基礎、地理社会基礎は、『基礎』の授業ではあったけれどそこそこ手ごたえがあった。

 正直全てが頭に入ったとは言い難い。勉強のし甲斐が有ると言う事だ。

 一方で、算術応用の授業はちょっと退屈気味だった。小学校の五年生、六年生でやっていた内容……くらいだろうか?

 記号を使った計算が入ってるけどそれくらいだし、体積の計算もそこまで複雑なものは無かった。

 ただ、負の数……という概念は、ちょっと大変かもしれない。感覚的にマイナスの話は解るけど、小学校じゃやってないし。

 そう考えると、中学校一年生くらいなのかな?

「基礎は小学校入学時点、発展は小学校高学年、応用で中学校、昇華で高校か大学……くらいだろうな。座学のイメージとしては」

「実技系は、やってみないと解らないところが多すぎるから除外するとして……それでも、感覚的には似てそうだね」

「ああ」

 大体似たような喩えになるもののようだ。

 ま、中学や高校の授業がどんなものかは知らないのだけど、学校に違いはあるまい。

「明日は、どうする? 洋輔は近接戦闘系見に行きたいって言ってたよね」

「うん。この感じだと、発展か、応用か……。時間的に発展と応用を連続して見学できるから、そうしようと思う。佳苗はどうするんだ」

「僕は正直、戦えなくても良いって思ってるからなあ……」

 こっちの世界で、カナエ・リバーとして生き抜くことを決意していたならばきっと、僕は戦う術を求めただろう。

 だけど、元の世界に帰る――渡来佳苗に戻るとなると、戦闘技術はあまり意味が無い。

 日本は平和な国なのだ。そもそも剣などを持ち歩いたら銃刀法違反待ったなしである。

「けど、剣道とかで無敵になれるかもしれないぜ?」

「どうだろうね。剣道と言えば、僕、その真似事をアルさんの前でやったことがあってね。アルさんには感心されたよ」

「へえ。やっぱり違うのかね」

「そりゃそうでしょ。剣道は相手を殺すための技術群じゃないし」

 それもそうだ、と洋輔は苦笑してコップを手に取り、水を汲むなり一気に飲み干す。

 どうやら喉が渇いていたらしい。

「じゃあ、佳苗は明日どうする? 一応、俺についていくるか? それとも、そっちの都合で行くのか」

「行くとしたら、普通の錬金術……だろうね。何人くらい生徒がいるのかも分かんないし」

「ふむ……なら、明日は別行動だな」

 ま、四六時中一緒に行動する方がおかしいのだ、本来は。

 たまには良いだろう。

 尚、現代錬金術については洋輔も興味を持っているようなので、明日はスルーすることに。

 同じ理由で護身術は明後日、一緒に見に行く事になった。

 明日は行動する時間がずれるので、いろいろと先に決める事は決めておく。ご飯は何が良い、とか、そのあたりだ。

 掃除や洗濯については最初に決めたルールが今でも有効。心配は無いだろう。

 一通り確認を終えた後に、僕はついに気になっていた事を聞く事にした。

「ところで、洋輔。ヤムナと話してた、シヴェルとか、アランとか。あれって何?」

「魔法使いの血統のことだよ。ほら、ミュゼが俺……ベクトラベルって形で一つの完成を見た、って話をしただろ? まあ、失敗作だけど」

「うん」

「そういう試み、企みをしてる血統がミュゼ以外に六つあってな。ミュゼは基本的にはぐれ者、家系内部で完結してる閉鎖的な血統だったけど、他の六つは何らかの形で国にかなり寄与してたりしてる有名どころ。ゲーム的には何か色々やってる賢者の家系みたいな感じで伝わるか?」

「すごい解り易いね……」

 ゲームに例えて良い事かどうか微妙だけど。

「血統の名前はミュゼ、シヴェル以外だと、タクラ、カモ、アラン、ディール、ガンスタンアルバス。それぞれ方向性は違うけど、魔法について色々な研究をしているって点ではどこも同じだな」

「ふうん……具体的にはどんな事してるの? なんか、フゥの話題でアランって出てきてたよね」

「アランは『得意苦手の無い均一化された魔法の構築』を追求してる家系。ほら、俺もお前もそうだし、他の連中だってそうだけど、基本的に魔法は種類ごとにどうやったって得意苦手が出るだろ。それをなくして、均して、全員が同じように魔法を使えるようになれば理想だよなって考えて動いてる血統だ」

「得意苦手が無い……ああ、それでフゥが疑われた、と」

「そう。もっとも、アランの家系はまだそれを完成させてないはず……大分良い線までは行ってたらしいけどな」

 ふうむ。

 何世代も掛けて作ろうとしている才能があって、けれど天然物としての完成形がたまにいる。

 その天然物がフゥということか。性格も天然だしな。いや、それは関係ないか……。

「ちなみにヤムナの奴は、シヴェルとしては基本的な部類だと思うぜ」

「髪の毛で判別してたよね。あれ、どういう事?」

「なんか髪の毛の色が不自然だっただろ」

 うん、と頷く。

 そう、確かにヤムナの髪の毛は、なんというか、綺麗過ぎる色なのだ。

 あんな綺麗な銀に近い金色の髪は、見た事が無い。

「あれはシヴェルの刻印に付き纏う副作用みたいなものでな。刻印が刻まれた時点で、あんな感じになるんだと」

「刻印……って、掌に刻まれてたアレ?」

「アレも、だ」

 も。

 ということは、他にもあるのか。

「直系の当主にもなると四百くらい刻まれてるらしいが、ヤムナって名前は寡聞にして聞かねえし、血筋的にはちょっと遠いんじゃねえかな。となると汎用六種に、プラスアルファ……多くても二十くらいだと思うぜ」

「……詳しいね」

「俺だけが詳しいってわけでもねえよ。ヤムナも俺の事をある程度知ってるはず……まあ、ベクトラベルの正体までは掴めてねえ筈だけど、俺が何らかの魔法的感覚を持ってる事くらいは確信してるはずだ」

 そんなものだろうか?

 疑問が顔に出ていたのか、洋輔は苦笑しながら補足をしてくれた。

 なんか最近このパターン多いな。僕、そこまで表情に出やすいのだろうか。

「失敗作とは言え、俺はミュゼの跡取り候補だったからなあ……。他の六血統について、結構情報それ自体は与えられてたんだよ」

 そんなもの、なのか。

「ヤムナは、だから別におかしくは無い。珍しいなりに仲間だな、と思うだけで、それだけだ。だからこそ、血統と関係の無い奴に興味が出てくる」

「フゥのこと?」

「『フゥも』、だ」

 あれ、他にもそれっぽい子がいる……のか?

 思い当たらないけど。

「ニムだよ。あいつも大概、魔法が突きぬけてるタイプだと思うぜ。恐らく、フゥとは逆の方向で」

「得意苦手がはっきりしすぎてる……魔法使い?」

「そう。例のノートを大量に用意した時も恐らくは自動筆記系の魔法を駆使したんだろうけど、それはかなりの高等技術だろうし。そう言う意味では、ニムの奴は最初から魔法系は昇華を受けてても驚かねえぜ」

 言われてみれば、あり得ない話じゃない。

「カリンも戦闘系は、最初から昇華行けそうだったしね。星が二つあるってのは、そういうことなのかも」

「だな。俺達はまあ、例外と言う事で」

 なんとも自分たちに都合のいい考え方だ。けど、僕も同感である。

「そういやさ、佳苗。魔法使いについてはそういう血統の話とかが有るんだけど、錬金術師についてはどうなんだ?」

「んー。お母さん、あんまり他の錬金術師については教えてくれなかったんだよね。だから、僕の錬金術が『現代的には普通の錬金術じゃない』って事にも気づくのがだいぶ遅れたし」

「へえ……。あんまりってことは、多少は教えられてるのか」

「いや、名前を聞いた事があるのが一人、実際に会った事があるのが一人ってだけ。会った事のある一人がお母さん師匠に当たる人で、イスカ・タイムって人」

「さらっと超有名人じゃねえか」

「名前を聞いた事があるってだけの人はお母さんの兄弟弟子で、マリージアって人だね」

「その名前、たしか教員名簿にあったぞ」

「え、本当に?」

 洋輔は大きなため息をついてから教員名簿を取ってくると、僕にそれを見せてくる。

 マリージア・タイム。担当科目は一般錬金術の発展、応用、昇華らしい。

 ていうか、現代錬金術の基礎と発展はイスカさんが直接やるのか。

「お前、実は教員名簿読んでなかっただろ」

「うん。別にいいかなと思って」

「しっかりしろ総代」

 曖昧に頷きつつ、一通り目を通す。

 そもそも僕には知り合いが少ないので、知ってる名前なんてそうそう無いよな……。

 ん。

 あれ?

「どうした?」

「……『指揮』、『小隊指揮発展』の授業の教員の名前が、引っかかって」

「えーと、アルガン・リバー……リバー? お前の血縁か?」

「わかんない。お父さんもお母さんも、特に何も言ってこなかったし……」

 けど、その二人はもともと首都で生活していたのだ。

 こっちに血縁者が居ても、おかしくは無い。

 ……だとしても、親戚が国立学校の教師をしてるなんてことがあったら、普通は教えてくれそうなものだけど。

「偶然、苗字が同じだけ……かな。リバーって、そこまで珍しい名字でもないだろうし」

「どうだかな。一応挨拶代わりに見学でもしてみたらどうだ。明日、余裕があるならだけど」

「そうだね……」

 授業の時間は……うん、大丈夫。行けそうだ。

「そうしてみる」

「おう」

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