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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 ちょっと違った学校生活
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66 - 学校生活は計画的に

 部屋に戻り扉を開けようとして、僕と洋輔は一瞬固まった。

 というのも、部屋の前にどかんと大きな荷物……本が軽く数十冊を超えるほどにおかれていたからである。

「台車までついてやがる……」

「……無いよりかは助かるけどね」

 とりあえず鍵を開けて台車ごと荷物を搬入して、と。

「どうする? ダイニングのテーブルか、ベッドの上か」

「ベッドのが楽だろ」

「だよね」

 というわけで寝室に移動、それぞれベッドの上に飛び乗ると、洋輔が一冊目の本を手に取りつつぼやいた。

「なんかこの部屋、本率高くなってきたよな」

「だよねえ……。今度本棚追加で作ろうか」

「うん。頼む」

 ニムに用意して貰ったノートも大概な量だったんだけど、今日運び込んだのはちゃんとしたハードカバーの本が数十冊。

 なんというか、妙な圧力がある。

「で、一冊目はなんて?」

「『本校が導入する単位制についての詳細』だとさ」

 慣れた様子で本をベッドの中央に広げ、洋輔はページをめくってゆく。

 ページをめくる速度も、もはや何も言わなくてもだいたい解るって言うか……ニムに感謝なのかな?

 ともあれ、内容はきちんと記憶して行く。

 まず、単位制という制度について。この学校は授業を自由に選択して受ける事ができる……のだが、その授業にちょっと癖があるようだ。

 大学と同じ感じなのかな? と思ったんだけど、そもそも僕にせよ洋輔にせよ、大学の詳しいシステムを知らないっていう……。

 まあいいや。大学は大学、国立学校は国立学校。

 そもそも世界が違うんだから、制度が同じと思う方がおかしいのだろう。本来は。

 話を戻して、癖のある授業と言うのは、まず受けたい授業については予め届け出を出さなければならない。

 この届け出の提出期限は六月十四日。今日が六月一日である以上、二週間ほどの猶予が有るわけだけれど、この二週間はいわゆる見学期間、お試し期間で、届出不要で授業が受けられる。

 裏を返せば、それ以降は原則、届け出を出した授業にしか参加する事は出来ないと言う事になる。

 で、授業ごとに実施される時間も異なる。

 例えば『魔法理論』という授業は、一回の授業あたりにかかる時間が百二十分で、毎日午前十時からで固定。

 一方、僕達新入生にとっては必修科目とされている『護身術』の授業は、一階の授業あたりに掛かる時間が五十分で、毎日午前八時半、十時半、十三時半、十五時半からの四回。

 七日間で授業の内容が更新される、と言うのは、『七日の内一度でも参加すれば最低限出席した事にはなる』ということで、同時に『何度でも出席できる』ということでもあるらしい。

「あんまりメリットなさそうだけど、復習用?」

「素直に読めばそうだな。解らなければもう一度最初から授業を受ける、ってのができる感じで」

 そう言われると、確かにメリットか。

 解らないならば解るようになるまで繰り返せると。

 逆に言えば授業は毎回、前回の内容を理解したという前提の上で行われるのだろうし、付いて行くのは大変そうだ。

 ちなみに、授業毎に単位というものがそれぞれ設定されていて、概ね三十分ごとに単位が一つ付くようだけど、これには例外もあると記載されている。

 詳細はそれぞれの授業毎に書いてあるから、そっちを読めとも。

 そして、進学をするためには一定の単位を集めなければならないのだけど、当然授業を受けて居ればそれだけで単位が貰えるわけではなく、それぞれの授業毎に行われる課題をこなす事で初めて単位が付与される。

 課題というのは、座学系ならば試験が殆どで、実技系ならば実際にやってみる、というものも出てくるそうだ。

 これも敢えて逆に言えば授業について行く事が出来なくても、究極的にはその課題をこなす事ができれば良いと言う事である。

 最後に、進学するために必要な単位は二十二。 

 第一学年が第二学年に進むのも、第二学年が第三学年に進むのも同じで、卒業するためには最低でも六十六単位を納めなければならない。

 但し、この単位は保持されるから、例えば第一学年で四十四単位とる事ができれば、第二学年に進んだ後に何もしなくても第三学年に進学できるし、究極的には第一学年で六十六単位を納めればそのまま卒業まで行ける。

 また、卒業に必要な六十六単位を納めれば、その時点で卒業を宣言できるそうだ。

 ちなみに、第四学年以降に進むためには単位はもちろん、特殊な条件を満たさなければならないが、この条件は公開されていない。

 もちろん、前提として成績が優秀である事……とは書かれているけど、それだけだった。

「二十二単位……か。結構、簡単?」

「だろうな。護身術で二単位確定、残りが二十単位……」

 授業には大まかに分類(カテゴリ)階級(ランク)が設定されている。

 分類というのは大分類と小分類があり、大分類としての『体術』には『近接戦闘』『間接戦闘』『遠隔戦闘』『非戦闘系』『護身術』の小分類とか、そんな感じだ。

 大分類として表記されていたのは、『体術』『魔法』『算術』『指揮』『社会』『研究』『歴史』『錬金』の八つである。

 一方で階級は原則として、『基礎』『発展』『応用』『昇華』の四段階。

 『基礎』はその名の通り基礎中の基礎で、『発展』はその次の段階。単位を『発展』ランクで修得すると、その分野において一人前。

 『応用』は『発展』の先にあって、これを習得できればその分野の一線級。『昇華』になるとその分野の第一人者、と言う感じで、どんどん評価が上がる。もちろん難易度も。

 原則として、という一文が付いているのは、一部の階級が存在しない分類があるため。

 例えば『錬金術』の『一般錬金術』は『基礎』が無くて『発展』『応用』『昇華』の三つ、逆に『現代錬金術』には『応用』と『昇華』が無く、『基礎』と『発展』だけ。

 なにも錬金術に限らず、他の分類においてもちらほら歯抜けがある。

 ここで注意したいのは、『基礎』だろうが『昇華』だろうが、取得する単位に補正も制限も掛からないと言う点。

 つまりよっぽど自信があるならば最初から『昇華』の授業を受けても良い。但し、『昇華』を修得したからといって、『基礎』だとかの下位にあたるものが自動で修得される事は無い。

「流石に最初から最高レベル、『昇華』はどうかと思うけど、『基礎』をすっとばす奴は居るだろうしな……」

「何かしらに自信があれば『発展』から行けそうだからね。その時、『基礎』を受けるか、無視するかは自由って事なんだろうけど」

「時間的に余裕があるならば受けておいた方が良い、と」

 ま、そんなところだろう。

「授業の選択は年に二回。六月十四日と、十二月十四日……。うーん。そう考えると、二十二単位って一瞬じゃない?」

「俺達の感覚……例えば中学校だと、まあ、そうだよな。中学校は朝八時から午後三時までとして考えて、七時間だろ。内一時間を休憩と見て六時間。一週間に五日頑張るわけだから、三十時間。三十分で一単位ならば六十単位。それが年に二回カウントだから、一年当たり百二十単位取れる」

「この学校が簡単すぎるのか、それとも日本の学校頑張り過ぎなのか……」

「どっちだろうな……前者であってほしいような気もするし、後者であってほしいような気もする……」

 まあ、うん。深くは考えない方が良いだろう、これ。

「洋輔はどんな授業選ぶの?」

「無難に魔法系と、社会、歴史かな……。体術も一応取る、かも。佳苗はどうするんだ」

「見た感じだと、魔法と算術、社会、歴史、錬金かなあ……。見学次第だけどね」

「お前の錬金術、あれだろ。珍しい方なんだろ? 大丈夫なのか?」

「うん……僕もそこが心配だったんだけど、ほら」

 僕は本の一部を指差した。

 大分類『錬金』、小分類には『一般錬金術』『現代錬金術』の文字があった。

「一応、小分類にある事はあるんだよね、錬金術」

「……ほんとだ。けど、なんかざっくりしてるな。『現代錬金術』ってのが例の劣化版だろ。で、お前が覚えてるのが『一般錬金術』か」

「たぶん」

 授業として存在するならば、一応受けておいても損は無いと思うのだ。

 まだまだ僕の知らない技術もありそうだし。

「俺も現代錬金術は覚えてみてえけど、授業内容次第だな。選ぶかどうかは」

「結局、そこだよね」

 見学出来る期間は今日から十四日まで。

 まあ、今日は面倒だから良いとして、十四日は最終日だから既に出しておきたい。

 となると、明日から十三日までのおよそ十二日間で、めぼしいところを見学しないと駄目ということだ。

「ま、なんとかなるだろ。ていうか、俺には心配事が別にある」

「それは何?」

「いやさ……一冊目で既にこれほどの情報が渡されてるのに、あと何冊あるんだよって」

「…………」

 洋輔は台車のほうに視線を向けた。

 言われてみれば全く持ってその通りだ。

「全部読まないと駄目だよねえ……」

「だろうな……」

 はああ、と僕と洋輔のため息が重なった。

 結局、全ての本を一気に読むのは無理だと僕達は判断し、表紙から重要そうなものを選択して読む事に。

 幸い、大半の本は各種授業の内容を説明する補助資料としての本だったので、ある程度無視できた。

 逆に言えば一部の本はそうではなく、例えば今後、学生としての生活を送る上でやらなければならない事、逆に正式に学生になったことでできるようになった事などを記した本から、上級生や教職員に対するマナーを記した本、決闘に関する決まり事に、校内で生活費を稼ぐ方法や、校外に出るために必要な手続きの仕方、校外との連絡のとり方など、重要な事が結構書かれている。

 そして最後に、『新入生総代専用』と書かれた本が一冊。

 どうやらその本は新入生総代、つまり僕と洋輔にしか配布されていないようで、その内容は学年の生徒の代表として今後僕達は何かと扱われるから相応のふるまいをしなさいという警告と、それを勤めあげている限り僕達が受けられる恩恵とが書かれていた。

 警告はそのまま警告だけど、恩恵と言うのはちょっと驚き。

 無視するには惜しい特典があるのだ。いくつかの手続きをすっとばせたり、条件付きとはいえ上級生に連絡を取って貰う事が出来たり、一部の学年内部のルールを決める事が出来たり。

 もちろん、それらの特典……恩恵を受けるためには模範的な生徒でなければならず、また成績も優秀でなければならないから、維持をするのは大変だろうけど。

「ま、こんなところか。明日から色々授業を見て回るとして、どうする、一緒に行くか? それとも別々?」

「僕はどっちでも。ただ、洋輔に興味が無いのがあるように、僕にも興味が無いのはあるから……」

「とりあえず、基本的なところは一緒に回る。その後気になった所があったらそれぞれ回る……で良さそうだな」

 そうだね、と頷き、僕は本を置いた。

「そういえば特に書いてなかったけど、もしかして学年とか関係ないのかな、授業」

「かもしれねえな。そもそも学年ごとに集まるような授業も無さそうだし」

「縦割班を思い出すね」

「そうか? 俺はどっちかと言うと部活かな」

 ま、どちらにせよ普通の学校や授業とはなんか違うよね。

 僕達はそんな話をしつつ、六月一日を終えたのだった。

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