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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 邂逅が手繰り寄せる可能性
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63 - 新入生総代への打診

 僕と洋輔がそこ、学区内の中心部にほど近い大きな建物に呼び出されたのは、五月十八日の午前十時半である。

 入口には警備の騎士さんと受付さん、とりあえず受付さんに話しかけて見る。

「すみません。セキレイ・コバル学長に呼ばれてきました、カナエ・リバーです」

「同じく、ヨーゼフ・ミュゼです」

「確認いたします……はい、確認できました。二階、第二会議室にお願いします。館内の地図は、こちらをご確認ください」

「はい」

 一応確認。階段を昇って右に曲がってすぐ、か。

 覚えやすいな。

 受付さんにお辞儀をして、僕達は道を進む。

 建物の内部はしんと静まり返っていて、僕と洋輔の足音が嫌に大きく響いていた。

 なんかなー。全然人っ気が無いっていうか、生活感が無いと言うか。

 でも、こんなものか?

 それでも社会科見学で見に行った国会議事堂とかは、もうちょっと賑やかだったように記憶しているけれど……。

 ともあれ、言われた場所に到着。

 扉を二回ノックして、

「カナエ・リバーです」

「ヨーゼフ・ミュゼです」

 とそれぞれ名乗る。

 すると、部屋の中からは「入りなさい」とすぐに答えが返ってきた。

「失礼します」

 僕と洋輔の声が重なる。

 扉を開けて、中へと。

 第二会議室……広さは、学校の教室と同じくらいか?

 そこに会議用の大きなテーブルが一つ置かれていて、一番奥にはいつか見た男性、セキレイ・コバルらしき人が椅子に座っていた。

 また、その人の横には眼鏡をかけた茶色い長髪の女性が立っていて、ファイルをぱらぱらとめくっている。

 壁にはこれでもかと言わんばかりに本棚がおかれているけれど、殆どの棚が空っぽだった。置き場に困ったのだろうか?

 そしてこの後どうすればいいんだろう、と考え始めた途端、学長はこほんと咳払いを一つした。

「よく来てくれた。私が普通科学長、セキレイ・コバルである」

「補佐役のポーラ・エサリアです」

 改めて見ると、セキレイ・コバルという人は初老くらいだろうか。

 決して若くは無いが、老いてる感じでも無い。

 物腰は優しそうだ……けど、なんか、妙な緊張感があるのは、立場が立場ということなのかもしれない。

 一方で、ポーラ・エサリアと名乗った女性からは、どこか機械的な印象を受けた。

 事務のプロ、みたいな?

「今回君達を呼んだのは他でもない。入学式典において、君達を新入生総代として扱うのだが、それについていくつかの確認をしておきたいのだ――ああ、長くなるから、座りなさい」

「はい。失礼します」

 勧められたので椅子に座る、と、補佐役のポーラさんが僕と洋輔の前に三枚ずつ、紙を置いた。

 紙には手書きで入学式典のタイムスケジュールが書かれている。半日掛けるのか……。

 新入生側がすることは宣誓くらいで、在校生と教職員による説明や激励がメインの式典になるっぽい。

 あとは国のお偉いさんも結構来る、と……。国立学校の卒業生、という肩書は、そのままこの国のエリートコースに進む事を意味するのだから、当然と言えば当然だ。

「具体的に、君達には新入生を代表しての挨拶をしてもらう事になる。原稿は学校側で準備するが、それを読みあげる練習はしてもらう。ここまでは君達に対して最低限お願いしたいことだ。構わないね?」

 僕達は頷く事で答えると、満足そうに学長も頷いた。

「では、次の話だ。新入生総代という役は、本来一人の生徒に対して与えられる称号である。よって、殆どの儀式も、一人がそれを担う事になっている。だが、今年はカナエ・リバー、ヨーゼフ・ミュゼ、が共に満点での合格だ。そこで、特例として二人を同格として扱うのだが……、しかし、物が一つしかないものも多い。持ち回りでそれはして貰う事になるが、便宜上の序列を決めておきたいと我々は考えている」

 そりゃそうだよな。定員一名で設計されているものがほとんどなのに、そこに二人を乗せようとするのは結構大変なのだろう。

 で、あるならば……。

 視線を洋輔に向けると、洋輔は察してくれたようで、頷いた。

「ならば、ヨーゼフを上に置いて下さい。僕とヨーゼフを比較すると、僕のほうが幾許か支援に向いています」

「ふむ。カナエ・リバー、君の主張は解った。ヨーゼフ・ミュゼ、君の主張は?」

「異議はありません。自惚れでもあると思いますが、より解り易い形で力を示すのは俺の方が向いてます」

「なるほど」

 その様子なら心配はいらないね、と学長は頷く。

「実に結構だ。君達自身の意識がどう向くかが最大の懸念事項だったからな。君達が上手く折り合いを付けているならば、それに口出しをすることもあるまい。ポーラ、そのように手配してくれたまえ」

「畏まりました」

 折り合いね……、ま、表現は任せよう。

「では、二枚目を」

 学長に言われるがままに一枚目をずらし、二枚目。

 そこには会場の見取り図が書かれていて、新入生、在校生、教職員、政府関係者、海外からの来賓などがブロック分けされている。

 また、一部の面々については明示的に位置が決められている、ようだ。たとえば学長とか、各学年の成績優秀者とか……あ、ジーナさんの名前がある。

 けどアルさんの名前は無いな。ジーナさんは首席、アルさんは三席とか言ってたから、その差か。

「二枚目の図は入学式典の配置予定図だ。新入生総代も入場までは他の新入生と共に行動して貰うが、入場後の待機場所は壇上になる点に注意して貰いたい」

 ふむ……?

 最初から壇上なのか。宣誓とかのタイミングに合わせるとかならば、解るんだけど。

 ていうか、配置もなんか変だな。各学年の成績優秀者が無駄にバラけて配置されている。

「その図はここで覚えておくように。新入生総代である君達にならばそう難しい事でもあるまいよ。そして、その図の事は口外を禁ずる」

 予め教えてはならない……、ね。何か裏事情があるらしい。

「それを踏まえて、三枚目を見てほしい」

 二枚目をずらし、三枚目を確認――そこには新入生の名前と、奇妙な数字が羅列されていた。

 具体的には一番最初にカナエ・リバー、次にヨーゼフ・ミュゼで、僕の名前の横には『100、100、100』。

 一方、洋輔の名前の横には『100、100、100』と書いてある。

 他に見知った名前はというと、すぐ近くにウィンザー・バルが『80、60、60』、ニムバス・トゥーベスが『100、40、60』、カリン・アーシェは『60、100、60』で、ニーサ・イシュタルが『60、80、60』。

 試験の結果、かな?

 でもだとすると、ヨーゼフの次に書かれている名前の子が謎だな。

 フユーシュ・セゾン、横に書いてある数字は『40、40、40、100』。数字の数が一個多い。

「そこに書いてある数字は試験の評価値……を、曖昧にしたものだ。数字が三つ並んでいるのは二次試験が免除された、星の付与された者たち。四つ目の数字は二次試験の結果として見れば、大凡は正しい」

 なるほど。

 曖昧にした……というのは、まあ、僕達にそこまで開示する必要が無いからという事だろう。

 逆に言えば、大雑把な数値は教えておかなければならない理由があると言う事だ。

「式典において、君達には新入生総代として一つの洗礼を受けて貰う事になる。そこで必ず役立つ情報だ、その数値も可能な限り覚えておきたまえ。持ち出しは禁ずる」

 洗礼……で、役立つ……、ね。

 問題は、それぞれの数字が何を表しているのかが解らない事だけど……。

 僕と洋輔は満点だと言われた、つまり100点が満点。僕と洋輔は全て100だから判別できないけど、知り合いの名前から推測は可能かな?

 ウィズとニムは最初の数字が一番大きく、カリンは二番目の数字が大きかった。

 カリンがウィズやニムよりも得意としているのは戦闘だろうから、戦闘訓練が二番目の数字かな。ならば最初の数字は座学か。

 消去法で三番目の数字がその他の試験、あるいは何らかの補正値だろう。

 四番目の数字は二次試験の結果と明言されている以上……っていうか。

「すみません、一つ質問をさせてください」

「ああ。何かね?」

「二次試験の内容を僕達は知らないのです。結局、何をしたんですか? それが解らないと、ちょっと把握し難いのですけれど」

「それもそうだな。ポーラ」

「はい」

 学長はポーラさんに手を掲げると、ポーラさんは大きな紙を机に広げた。

 紙。

 それは学区の詳細地図、のようだ。かなり大きく、机の八割方が埋まってしまっている。

 そして、詳細地図の一部が赤く線で縁取りをされていて、注釈のように『生存試験会場』と書かれている。

 生存試験……ね。

「地図の赤枠内で『三日間生存する』。それが二次試験の内容です。赤枠内は自然区域となっており、試験中に限り食料を兼ねた障害としてシカなどの獣を放っていました。また、試験の開始直前に、受験者が希望する武器・防具・道具から一つだけを付与しています。一方で、水道設備はこの三日間、停止しています」

「自然区域……」

 地図を見る限り、林……かな。

 川も三つあるし、水道設備が止められていても水場には困らないだろう。

 問題は六千人近い受験者の数だけど……。

 地図を見た感じ、まあ、決して狭くは無いか。

 ただ、適当に行動していればすぐに別の子と遭遇しそうだよな。

 他の受験者をライバルとして見ると、障害として敵対することもありそうだよな……なるほど、障害の役割はむしろそこで用意してるのか。

 配布されているのが武器、防具、道具のうちのいずれか一つである以上、仲間を作ったほうがスムーズだ。

 生存試験とは銘打たれているけれど、その実、コミュニケーション力の調査という意味合いも強いんだろう。

 もちろん、コミュニケーションを不要とするほどに能力値がずば抜けてる場合もあり得るけど……90点以上が付いてる子は、大半はコミュニケーションを成立させた感じかな。

 で、それを点数化してさらに曖昧化させるという作業を経てまで、僕達に見せている。

 洗礼のために役立つから。

 その洗礼とは、何だ?

「…………」

 アルさんやジーナさんが言っていた事。

 色々な人から聞いた、この学校の事。

 それらを合わせて、この学校の性質を考える。この学校がやりそうな事を、考える。

 他に僕たちに渡されているのは、入学式典の配置図……。

 ふ、とその配置図をもう一度眺める。各学年の成績優秀者がまんべんなく配置された、効率的なのかどうか判断付きかねるような図。

 壇上には僕と洋輔、各学科の学長と、『在校生総代』、今年は第六学年、魔法科の生徒がそれらしく、その人が居るようだ。

 ……成績優秀者も、どうせなら壇上に配置するべきだと、思っちゃうけど。

 敢えてまんべんなく、分散させるように配置させている。そこに意味があるとしたら?

 洗礼。情報。配置図。成績表。

 事前の打ち合わせ。学校の性質……か。

 国立学校。

 学校とは言っても、ここは僕や洋輔の知る小中学校とは性質が全然違う。

 学び舎でありながら、同時に養成機関なのだ。

 となれば、洗礼とは……。

 いや、いくらなんでも飛躍しすぎか。

「さて。説明は以上だ――原稿は完成次第、寮の部屋に送る。読む場所も振り分けはしておくから、きちんとそれの練習をしてくれたまえ。ちなみに練習中はかならず窓を閉めて行う事……そうすれば、ちょっとした爆発音程度ならば聞こえなくなるからな」

「はい。わかりました」

「以上、他に聞きたい事があったらポーラに聞きなさい。この部屋は今日中、君達のために貸し切ってある。思う存分資料を読みたまえ。私は他の仕事があるので、ここで失礼する」

「ありがとうございます」

 僕と洋輔の言葉が重なった。

 学長は満足そうに頷くと、二、三ポーラさんと会話を交わして、そのまま部屋を去って行った。

 残された僕と洋輔、そしてポーラさんは、それぞれ地図を眺めている。

 折角だし、聞いとくか。

「生存試験の詳細、もうちょっと聞いても良いですか?」

「構いませんよ」

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