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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 邂逅が手繰り寄せる可能性
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51 - 来訪者・改め

 五月十一日。

 そろそろお昼ご飯にしようか、などと洋輔と話をしている最中のことである。

 寮の自室の呼び鈴が鳴ったのは。

「誰だろ」

 ウィズあたりかな?

「俺が出てくる。佳苗はそのまま続けとけ」

「ん。ありがと」

 ちなみに僕は例のナイフの試作品を改良中。

 より強度の高く、より重い金属を作り出せればいいのだけど……金属材それ自体にあまりバリエーションが無いと言うのもあるけど、結構難しい。

 硬くて丈夫で、ってイメージだと、チタン合金とかがそれなんだけど、そもそもチタン合金ってチタンに何を足して作れるものかがわかんないし……。

 まあ、そんなこんなで例の鉄材を超える品物は今のところ出来ていない。

 元々、あれが完成した事自体が奇跡的だったのだろう――

「へえ、あんたがアルさん、と、ジーナさんか。初めまして」

 と。

 そんな声がして来訪者の正体を知り、僕は視線を通路に向ける。

 すると、洋輔は笑顔でアルさんとジーナさんの二人を案内していた。

「やあ。久しぶりだね。おめでとう」

「お久しぶり。けど、それ以上におめでとう、カナエくん」

「お久しぶりです、アルさん、ジーナさん。そして、ありがとうございます」

 ぺこりとお辞儀をしつつ、さて、椅子が足りないな。

「ヨーゼフ、ごめん。ちょっと板材もってきて」

「どのくらい?」

「四枚くらい」

「オッケ」

「アルさんとジーナさんは、椅子にどうぞ」

「良いのかい?」

 はい、と頷き席を勧めると、アルさんとジーナさんは普段、僕と洋輔が座っている椅子に座った。

 で、ちょっと遅れて洋輔が板材を抱えてやってくる。

「ほれ」

「ありがと」

 それを受け取り、錬金、ふぁんふぁんと椅子を二個作成。

「これでよし」

「良くねえよ」

「立ちながら話すのは疲れるもの」

「…………」

 洋輔はやれやれ、と首を横に振りつつも、作りたての椅子に座る。

「相変わらずの錬金術……だけれども、流石にあきれるわね……」

「家具も少し多い……かな。まさか、カナエくんが?」

「まあ、ちょこちょこと不足分を追加した程度です」

 ダイニングには言うほど物を増やしていないし。

 なんて思っていると、ジーナさんはポールハンガーに視線を止めていた。

 はて?

「ねえ。アレは何かしら?」

「ポールハンガーと言います。エプロンとか、服、外套、ベルトで掛けるタイプの鞄、帽子とかをそのまま掛けられて便利なんですよ」

「へえ。欲しいわね。今度買ってくるか。どこで売ってたのかしら?」

「木材から作ったので」

「…………」

 そんなひどい、と言いたげな表情だった。

「……木材さえ準備して貰えるならば、作りましょうか?」

「ええ。是非お願いするわ。二つ作って貰っても良いかしら」

「はい。必要な材料は一般的な木材の角材なら、一本で十分事足ります」

 ジーナさんは満足そうに頷いた。まあ、別にいいと言えばいいのだが。

「それで、今日の御用件は?」

「ああ。カナエくんが合格したと聞いて、そのお祝い。それと、相部屋の子とどんな感じかなと様子を見たかったのさ。君の錬金術はちょっと……そう、大分、尋常ではないからね。相部屋のに隠すにせよ教えるにせよ、結構な困惑が有るんじゃないかとおもったんだけれど」

 アルさんは答えつつ、洋輔に視線を送る。

 洋輔もそれに気付いてか、首を傾げた。

「心配は無かったようだね」

「はい。とても仲良しですよ。ね、ヨーゼフ」

「ああ」

 僕達のやり取りが面白かったのか、アルさんとジーナさんは笑みを漏らした。

 ま、中が良いのは真実だ。洋輔と佳苗という接点については、教えるつもりはないけどね。

「どうだい、寮での生活は。やっぱり寂しいか?」

「うーん。まあ、寂しいと言えば寂しいですよ。親元離れてますし。けど、今はヨーゼフが居るから……結局、そこまで変わらないかな?」

「へえ。ルームメイトと仲良くできるのは素晴らしいことだし、そうしやって寂しさをも埋めることが出来るならば最高だ。君は恵まれてるね」

「ええ。……他には、そうですね。ちょっと不便だな、と思わない所が無いわけじゃないですけど、概ね快適だと思います」

 それはなにより、とアルさんは頷く。

「それで、ヨーゼフくん。あなたもカナエくんと同じ成績なんでしょう?」

「あれを成績と言っていいものかわかんないんですけど。でも、試験の詳細な結果は完全に同文でした」

 洋輔が答えると、二人は神妙に頷いた。計りかねてる……感じかな?

「まさかとは思うけど、ヨーゼフくんも錬金術が使えるとかはないわよね?」

「使えませんよ俺、あんなとんでも技術」

 とんでも技術ってひどい言われようなんだけど……。

「同感ね」

「同感だ」

 あれ味方がいない……?

「まあ、冗談はさておいて。この様子だと本当の本当に大丈夫そうね」

「はい。おかげさまで」

「それと、もう一つ確認。もう学内は見て回ったの?」

「いえ、まだです。数日中には一緒に行こうか、ってヨーゼフとは話してたんですけども」

「そ。ならば私たちが案内してあげましょうか」

 ん……これは、思わぬ提案だ。

「僕はお願いしたいですね。ヨーゼフはどうする?」

「カナエが行くなら俺も行くよ。それに、この先輩たちはカナエと知り合いなんだろ?」

 うん。

「なら安心できるし、むしろ俺からお願いしたいくらいだぜ」

「だね。よろしくお願いします、ジーナさん」

「ええ」

「その前に、二人はもうお昼を食べたかな?」

 と。

 アルさんが聞いてきたので、僕達は首を横に振る。

 そろそろお昼ご飯にしようか、というタイミングだったしな。

「そういうアルさんたちはどうなんですか?」

「私たちもまだでね。もし君達が良ければだが、ちょっと変わったお店を紹介してあげようか。もちろん、今日は私たちのおごりで」

「行きます!」

 あ、洋輔が喰いついた。

 ううむ。

 まあいいか。

「僕もお願いします。それにしても、変わったお店……ですか」

「ああ。まあ、味は保証するよ」

 へえ……って、あれ?

「でもそのお店、学内にあるんですか? 僕達はともかく、お二人は簡単に出れないんでしょう?」

「もちろん学内だから、安心して頂戴。ただ、この寮からはちょっと歩くわ」

「広すぎるんだよね、学区が」

 アルさんが肩をすくめて言うと、ジーナさんは同意しつつも肩をすくめた。

「ま、そういうわけだから、案内には今日一日掛かるけど、いいかしら?」

「はい」

「よかった。じゃ、早速行きましょうか」

「解りました。じゃあ、ちょっと準備してきます」

 うん、と二人が頷いたので、僕と洋輔は揃って寝室へ。

 ご飯はおごってくれるそうだけど、途中、商店とかがあったら買い物をしたくなるかもしれないので、お財布は持って行くとして……。

 一応、最低限の錬金術セットも持って行く。

「ヨーゼフ、僕、ウェストバッグ作るけど、ヨーゼフはどう? 使う?」

「あれば使うけど」

 ふぁんふぁん。

「どうぞ」

「おう。サンキュ」

 革材を使って作成。

 錬金術のセットはここに入れておくことにした。

「僕はこのくらいかな。ヨーゼフは?」

「俺は……あ、そうだ。あの人が『あの』アルさんなんだよな?」

「うん」

「じゃあ念のために確認しとくか」

 確認?

 何をだろう、と思ったら、洋輔は部屋の隅に置かれた剣を手に取った。

 そういえばその確認があったな。忘れていた。

 ダイニングに戻ると、アルさんがおや、と洋輔の手に握られた剣に気付いたようだ。

「ごめんなさい。ついでみたいで悪いんですけど。実は以前頂いた剣、僕に扱いこなす技術がなくて……。そこで、ヨーゼフに貸してるんです。構いませんか?」

「もちろん。あの剣は君にあげたものだ、君の好きにしていいよ。けど、驚いたな。ヨーゼフくん、君はそれを扱えるのかい?」

「元々近接武器は得意なんですよ、俺」

 ふうん、と感心したようにアルさんは二度、三度うなずく。

「もっとも、こんな剣を実戦で振るった事はないですけど」

「だろうね。そもそも、実戦経験はあるのかい?」

「不本意な事に何度か……」

 それは僕も知らない情報だった。

「一番最近だと、試験を受けに首都に移動してる段階で襲われてな。それに反撃してたんだよ」

「なるほど」

「たぶん生きてるんじゃねえかな? 山の中ほどだったけど、近くに川もあったしな。とりあえず道端に捨ててきた」

「なる……ほど……?」

 え?

 実戦経験って人間相手?

「人殺しは良くないと思うなあ」

「殺さなきゃ殺されてる。そういう場面が多すぎるんだよ、この国。特に俺みたいな孤児(みなしご)にはな」

「……ま、それもそうか」

 むしろこれは僕が悪いな。

 洋輔の事情も考えずに変な事を言ってしまった。

「ごめん、ヨーゼフ」

「いや、気にするな。お前に悪気が無いのは解ってる」

 ぽんぽん、と僕の頭をなでるように叩いて、洋輔は笑う。

「それで、ヨーゼフくん。君は学内を歩くにあたって、その剣を持ち歩くのかい?」

「いえ。さすがにそれはちょっと」

「そうかい。……まあ、別に構わないと思うけどね。私も一年生の頃は、剣を常に持ち歩いていたし」

「危ないことしますね、アルさんも」

「私は魔法が得意では無かったからね。仕方なかったのさ」

 苦笑しながらアルさんは言う。

 たとえ魔法が得意だったとしても、それを使うシチュエーションなどそうそう無いだろうに。

 なんて言いつつ、僕も錬金術の一式持ってるからなあ。

 何があるか分かんないし。

「ま、念のためナイフくらいは持って行きますけど」

「ナイフ? 君はナイフを使えるのかい?」

「まあ、そこそこ。剣のほうが得意ですけどね」

 そうなの?

 ていうかなんでアルさんも驚いてるんだろう。

 ナイフのほうが基本的には軽いし、取り回しも良さそうだけど。

「そりゃ、扱いやすさだけで言えばナイフのほうが圧倒的に楽なんだけどな。ナイフはどうしても射程が短いから、その分だけ近づかないとそもそも攻撃できないだろ」

「言われてみれば……、確かに」

「俺はその点、ある程度自信を持ってるから、ナイフを使ってるんだけどな……」

 にたりと笑いつつ洋輔は言う。

 そして取りだしたナイフは例の試作品だった。

 改良どうしようかなあ。

「おや、そのナイフは君の私物かい?」

「はい。つっても、これは貰いものの面が強いです」

「なかなか良いものに見えるね。どこの鍛冶屋で買ったんだい?」

「カナエに作って貰いました」

「…………」

「…………」

 何故黙る。

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