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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 邂逅が手繰り寄せる可能性
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49 - 懐かしい物と新しい者

 夕飯時。

 僕と洋輔は自室のダイニングに移動していた。

 ダイニングのテーブルの上には簡易コンロがおかれている。

 見た目で言えばカセットコンロっぽくしているけれど、ガスは一切使わない、魔法の火による再現だ。

「なるほど、たしかにそれっぽいな」

「でしょ」

 鍋もそれっぽいものを鉄で作成。ついでだったので丁度いい取り皿とお箸も錬金術で作っておいた。

 最初からすき焼きを錬金術で作ってしまっても良いのだけど、それでは鍋の意味が無いと言う事で、醤油、酒、砂糖を混ぜてタレを作成。

 油を敷いて火で熱すると、お肉を投入。ちょっとしたらタレも流し入れて、予め切っておいた野菜類を投入して、無事完成。

「ああ……いい匂いだな」

「もう食べられるよ。卵使う?」

「うん」

 僕も洋輔も卵を器に入れて、軽くといておく。

 そしていざ、すき焼きを食べることに。

 お肉はほどよく柔らかく、なかなかに美味しい。

 あー。

 醤油ベースのタレ、ほんっとうに久々だな。

 すっごい懐かしい味がする……。

「美味い……美味いよ、佳苗。ありがとう」

「どういたしまして」

「あー……やばい。なんか泣きそう」

 洋輔はそんな事を云いつつもお箸を止めない。

 ううむ、もうちょっと多めに材料を買ってもよかったかもな。

 黙々と二人で食べて、お肉を追加したりもしつつ、ぐつぐつと鍋が立てる音に奇妙な安心感。

 やっぱり鍋料理は良いな……。

「なあ佳苗、お米も錬金術で作れないか?」

「それは無理かな……お米の『材料』がわかればまだしも」

「まあ、お米はむしろ材料の側か……」

 うん。

 敢えて言うならでんぷんとか……?

 なんか違う物ができそうだ。

「錬金術ってさ。結構理不尽な割に、出来ない事も多いんだな」

「そりゃそうだよ。……あ、そうだ。洋輔、締めのうどん、どんなのがいい?」

「どんなのって?」

「普通のとか、きしめんみたいな平べったいタイプとか」

「ああ。それなら平べったいタイプのほうがいい」

「おっけ」

 ふぁん。

「完成」

「…………」

 なにか理不尽なものを見るような目で見られた。

 僕にとっては日常なので、やはり慣れてもらうしかない。

「とりあえず、うどんを投入してっと」

「ん」

 ほんの少し待って、締めのうどんが料理として完成。

 改めていただきます。

「味が染みていいな……。なあ、醤油ってどのくらい作ってあるんだ?」

「えっと、美味しい方はあと一リットルくらいかな」

「ふむ」

「台所に置いておくから、使いたい時は使って」

「……小さい瓶に小分けとかできるか?」

「あー」

 醤油差し、そういえばないな。作るか。

 適当な瓶を手に取って、錬金。ふぁん。

「はい、できた」

「さんきゅ。あとでちょっと移させてもらうぜ」

 うんうん。

 そんなこんなで駄弁りながらの夕食は進み、無事に完食。

 ごちそうさま、と。

「ふう。本当に久々だぜ、すき焼き。ていうかヨーゼフになってからは初めてだ」

「僕もカナエとしては初めてかな。やっぱり安心するよね、醤油」

「うん。すげえ安心する」

 片付けをしようと立ちあがると、洋輔は手で僕を制した。

「ああ、いいよ。洗いものは俺がする」

「気にしないで良いのに」

「でも、準備したのはほとんど佳苗じゃん。だから、そのお礼も兼ねて」

「そ。じゃあ、お願い」

「任された!」

 洋輔は手慣れた感じで食器類を纏めると台所に移動させる。なんで慣れてるんだろう。

 やっぱり酒場かどっかで働いてたのかな。子供が接客するにも限度があるだろうし、もしかしたら皿洗いとかもしてたのかも。

「そうだ。洋輔、エプロンいる?」

「エプロン? まあ、あると嬉しいけど。別に無きゃ無いで……」

 布材は沢山買ってあるので、荷物から取り出して、錬金。ふぁん、で完成。

 完成したものはそのまま洋輔に投げ渡すと、洋輔は呆れたような視線でこちらを一度だけ見ると、しかし普通に装備した。

「……変な事きくけどさ。佳苗、材料があれば大概のものは作れるんだよな?」

「うん」

「じゃあ、例えばだけど、鎧とか剣とかも?」

「んー……、実際に作った事がないから、なんとも。でも材料は解ってるし、原理的には服を作るのと大差ないだろうから、行けると思う。鎧はともかく、剣は切れ味が分かんないんだよね」

「それこそ品質……だろ? いざとなったら、賢者の石だっけ、あれを使えばいいんじゃね?」

 その発想はなかった。

 言われてみればその通りだ。

「ていうか、洋輔は何が欲しいの? 剣?」

「いや、剣はお前のアレを借りるつもりだから、別にいい。ただあれ、ちょっとでかすぎるからな。小さいナイフが欲しいんだ」

「ふうん……? どんな奴が良いの? 毒が仕込めるタイプとかかな」

「毒はおまけ程度で良いぜ。俺が求めるのは二つだけ。一つは、包丁程度には切れ味があること。もう一つは、『重さ』」

 重さ……?

「可能な限り重くしてほしいんだよ。俺は重さをそのまま攻撃力にできるからな。重さがあって困ることはない」

「なるほどねえ……重さ、か」

 となると、できるだけ重い材料で作る……感じだな。

「材質は任せるよ。ただ、その二つの点さえ満たしてくれれば、ガラスだろうと鉄だろうと構わない」

「ガラスはちょっと、強度が駄目そうだね」

「まあな」

 となると単に重い金属か。

 真っ先に思いつくのは金だけど、金は柔らかいからなあ。

 ナイフにするには向かないと思う。合金にすれば違うのかな?

 あるいは、普通の金属に魔法を仕込むか。

 重さを増減させる魔法……、なんて想像したこともなかったけど、もしそれが実現すれば、それを錬金術のマテリアルに仕込めばある程度の調節がききそうだ。

「いつまでに作ればいいかな」

「別に、いつでもいいぜ。気が向いた時にでも作ってくれれば。ただ、そうだな。正式な入学までにはなんとかしてくれると、結構嬉しい」

「じゃ、それまでに試作品は少なくとも渡すよ。完成品がいつになるかは断言できないけど」

「ん。期待してる」

 とはいえ、重さを増減させる魔法ね。

 確認のためにも重量計が欲しいな……けど正直、あれって構造知らないんだよね。天秤で妥協するか。

 発想自体はそこまで難しくない。問題はそれにつり合わせるだけの連想ができるかどうかだ。

 軽くする方は結構色々思いつくけど、重くする方はいまいちこれが難しいかもしれない。要研究。

 なんて思考錯誤をしている間に、洋輔は洗い物を終えたようだ。

「さてと。そろそろ材料届いてるんじゃねえかな」

「それもそうだね。見に行こうか」

 洋輔はエプロンを外し、それを置こうとして置き場が無い事に気付いたのかその場に固まった。

 ので、近くに置いてあった木材を錬金してポールハンガーを作成して設置。

「……おう。サンキュー」

 だんだんと錬金術の理不尽にも慣れてきたようで、洋輔はハンガーにエプロンを引っかけた。

 よしよし。

 さて、部屋を出て鍵を掛けて、としていると、

「あ、カナエだ」

 と声を掛けられた。

「ウィズ……と、えっと?」

 視線を向けるとそこにはウィズ、ともう一人、黒い髪の毛の男の子。

 髪の毛は大分短めで、けれど目が綺麗な金色と、ちょっと特徴的な子だな。雰囲気がなんか……、猫っぽい……?

「ニムバス・トゥーベス。ニムでいい。ウィズと相部屋になった、しがない魔法使いさ」

 声は甲高く、抑揚が奇妙に馴染んでいる。

 感情という感情が声に重ねられているかのような……、不思議な声だな。

「君達が隣の部屋のカナエ・リバーくんと、ヨーゼフ・ミュゼくんだね? 話は聞いているよ。部屋も隣だし、良ければ今後はよろしくお願いしたいものだ」

「こちらこそ。えっと……ニム、でいいんだな?」

「ああ」

 洋輔の確認に、ニムくんは大きく頷いた。

「二人はこれから飯か?」

「いや、ちょっと野暮用。すぐに戻るんだけどね。そういう二人は、ご飯食べてきたの?」

「ああ。合格祝いに、ね」

 なるほど。

「ウィズもニムも、これからよろしく」

「おう」

「ああ。是非ともだ」

 じゃあね、と分かれて、そのまま道を進む。

 そして、階段を降り切ったあたりで。

「ニムって奴さ。初めて会ったけど」

「うん?」

 猫っぽい、だろうか?

「あいつ、強いな」

「…………?」

 強い……?

「しがない魔法使いとか言ってたけど……、魔法がすごいってこと?」

「さあ、そこまではわかんねえ。けど、強いぞあいつ。まともにやり合いたくはねえな……」

 ふうん……?

「僕はいまいち、そういうの分かんないんだよね。あんまり僕自身が戦える方じゃないからかな……」

「そうかもな。けど……まあ、実際に学業が始まれば解ると思うぜ。あいつの強さ」

 そう言う洋輔の表情はなにやら緩んでいる。

 ひょっとして、

「楽しみ?」

「割と」

 ちょっと意外な感想だな。なんて思っている間に搬入室に到着。

 そこには購入していた資材が揃っていた。

「さてと、運ぶか」

「そうだね」

 筋力を強化して、半分くらい持ち上げる。

 一方、洋輔は軽々と普通に持ち上げていた。釈然としない。

「いや、釈然としないみたいな表情されてもな。俺に言わせりゃお前のアレのほうがよっぽど釈然としねえよ」

 それは、まあそうなのかもしれないけど。

「……これなら往復は必要ねえな」

「うん」

 何事もなく部屋に戻り、そのまま倉庫用の部屋に全部移動。

 さて、材料が沢山だ。何を作ろうか。

「とりあえず何か欲しい家具ある?」

「いや、特に……、ああ、いや、一個だけ欲しいのがある。収納系じゃないけど」

「どんなの?」

「床に座って使える高さの机」

「ちゃぶ台みたいな?」

「うん」

 ふぁん。

「完成」

「さんきゅ。……でもやっぱり理不尽だろうそれ」

「座イスはどうする?」

「え、できるの?」

 ふぁん、ふぁん。

「僕の分も作ったから、運んでおいて」

「うん」

 さて、机と座イスを運んで行った洋輔をしり目に、物置を使いやすくするために色々と棚を作っておく。

 薬草類や毒薬類は鍵のかかるタイプの棚が良いかな……というわけで、ダイヤル式の鍵が付けられないかなと思考錯誤。

 あ、できた。

「洋輔ー、ついでに鞄ごと持ってきてくれるー?」

「おっけー」

 棚はちょっと大きめに作ってあって、下半分が引き出しタイプ、上半分はガラスを使った本棚や食器棚によくあるタイプにした。

 割とどうでもいいポーションとかは上の方に、ある程度貴重なものは下の棚に入れるとして。

 問題は、見られたくもないものをどうするか、だな。エリクシルとか。

「持ってきたぞ……って、もう出来てるし。すげえな」

「うん。あ、右下の引き出しはダイヤル式のロックが掛かってる」

「金庫か?」

「いや、所詮木材だから破ろうと思えば簡単。暗証番号は僕……っと、渡来佳苗の方ね。そっちの誕生日を四桁で。洋輔も使って良いよ」

「ん」

 右下のロックつきの引き出しにはある程度品質の高いポーション類や毒薬を入れる、として……。

 ロック無しの方には薬草を詰めておこう。

「問題はエリクシルとかをどうするか……」

「それこそ金庫でも作ればいいんじゃねえの?」

「それもそうか……」

 金属材を使って金庫を作成、こっちも鍵はダイヤル式にしておいた。

 まあ、大丈夫だろう。

「これの暗証番号は、鶴来洋輔の誕生日を四桁」

「ん」

「中身は賢者の石とか、エリクシルとかの高級品。必要だったら使っても良いよ」

「いやさすがに、そういう高級品はちょっと。大体、エリクシルを使うような怪我しても魔法で治すしな」

 洋輔の魔法も大概理不尽だよなあ……。

 まあいいや。あとは、何が必要か。

「これで一通りは揃ってるし、どうせすぐに作れるなら、材料のまま置いとけばいいんじゃねえの?」

 ごもっとも。

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