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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 邂逅が手繰り寄せる可能性
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48 - 調達してきた懐かしいもの

 人気のない路地裏に向かい、周囲を軽く警戒。

 人目は無い。ので、錬金。

 ふぁん。

「はい、キャリーバッグ完成」

「おい」

「うん? 色が気に入らない?」

「いや……うん。もういいや」

 洋輔に完成したばかりのキャリーバッグを渡して、あらためて路地裏を出る。

「色々と買い出しだね。洋輔は何か、欲しいものはある?」

「替えの下着くらいかなあ……俺、マジで着のみ着のままって感じだったから」

「じゃあ、衣料品店か……」

 さほど歩く事もなく無事に到着、入店。

 店主さんからの奇異の視線は慣れないなあ……。

 まあそれはともかく、洋輔は自分の替えの下着を数点購入。

 僕は良いや。必要になったら作ればいいし。

「佳苗は何を買い出しするつもりだ?」

「とりあえず、材料とか薬品類とかはある程度仕入れておきたいかなあ……」

「ならば道具屋だな」

 うん、と頷き、近所の道具屋さんへ。

 店主さんがぎょっとするのが解る。無視。

「すいません。薬草をある程度数欲しいんですけど、用意して貰っても?」

「ああ。いくつだ?」

「二百個で」

「……金はあるのか?」

「はい」

 渋々と言った様子で店主さんが用意を始めたので、他に必要な道具もここで買いそろえておくことにする。

 紐を百メートル分くらい、銀の延べ棒を一定量、傷のある安い宝石は十五個ほど、毒薬は……まあ、とりあえず百個あればいいか。

 それとランタン用の油を十回分、ランタン現品も一つ。蝋燭も束で買うとして、木の棒とかも買っとこうかな? あって困る事はないし。ああ、でもどうせこの後用品店いくからな。そっちで買ったほうが安いか。

「えっと……お前さん、何に使うんだ、こんな大量に」

「学校で使うんですよ」

「……国立学校って大変なんだなあ」

 けどそれで納得するのか。便利だなこの肩書。最大限に活用しよう。

 結局、その他にも数点購入して、金貨七百枚にちょっとまけてもらった。美味しい。

「既に俺の全財産以上に消費してるぞお前」

「学内じゃ揃えにくいからね。今の内に揃えておきたいんだよ」

「…………」

 ジト目で見られた。

 ともあれ、購入したものは洋輔に渡したキャリーバッグに詰め込んで貰うことに。

 さて、次の店。

「で、次は用品店。木材系のお店だね」

「何のために」

「棚とか」

「ああ。なるほど」

 というわけで到着。

 木材は適当な大きさのものを適当に購入……、

「問題は運べるかどうかだね……」

「最悪、俺が持つけどさ。流石にあんまりに多いと、不審がられるぞ」

「だよね。……あの、店主さん。これ、運んでもらう事ってできませんか? もちろん、相応の対価はお支払いします」

「どこにだい?」

「国立学校までです」

「そうだよねえ。君達の格好からして、他に無いか……。いいよ、運ばせよう。門までいいのかな? 中には入れないし」

「はい、それで構いません。いつごろ届きますか?」

「今日中には届けよう」

 商談成立。

「なら、これを発注と言う事で。門に届ける際は『カナエ・リバー』宛て、でお願いします。署名しておくので、それを見せてくれればたぶん大丈夫です」

「うむ」

 ペンと紙を借りて、カナエ・リバー、201号室、新入生、荷物、と記述して渡すと、店主さんは数度頷いた。

「確かに。お代はどうするね?」

「ここで支払いますよ」

 というわけでお会計、金貨十一枚。まあ、こんなものだろう。

 でもって、最後に向かったのが食品店。

 ここでの買い物は最低限かな。

 冷蔵庫ないし。

 と言う話を洋輔にすると、

「確かに冷蔵庫はなあ。ほしいよな」

「そうなんだよね。まあ、僕達が想像してるようなそれじゃなくても、ちょっとはマシになるようなのがあればいいんだけど」

「氷室とか?」

「ひむろ?」

 何それ。

「ワラとかを使って断熱材にして、中を氷とかで冷やすんだよ。そこそこ規模がでかくなるのが欠点だな。クーラーボックスの原始的なやつ」

「…………」

 クーラーボックス……そうか、その手があったか。

 問題はクーラーボックスの構造を知らない事だ。断熱材を使って間に真空の層を挟む……とか?

 うーむ。作ってみないとわかんないな。それにプラスチックとかないから、金属で作らないといけないし。あれ、それが冷蔵庫か?

 なんとかなるかな?

「氷室は俺が働いてたところで使ってたんだ。だから、こっちの技術だよ」

「ふうん……構造、覚えてる?」

「まあ、大まかには」

「図にできるかな」

「努力はするぜ」

 あとはその氷室とやらを冷やす方法か。氷を立てるのが一番よさそうだな。

 状態の変化自体は錬金術で出来ちゃうし、魔法でも凍らせるくらいのことはできるから、言い逃れも可能、と。

 規模は……うーん、ちょっと大きめに考えるとしても、それでもそんなに大量の食品がおけるとは思えないし。

「まあ、食品類は予定通りの少量にしようか」

「それが良いな」

 というわけで食品店へ。

 野菜やお肉は少なめに、穀物類はちょっと多めに購入。香草類も一定量は仕入れておく。

「何か食べたい料理、ある?」

「えっと……すき焼き?」

 すき焼き……、砂糖、酒、醤油でタレは作れるから……。

 問題は醤油だな。

「店主さん。大豆置いてます?」

「大豆というと、この豆の事かい?」

「そうそれ。在庫はどのくらいありますか?」

「それなりには揃えてあるが。どのくらい御入り用かな」

「五キロくらい」

「…………」

 駄目かな?

「まあ、生徒さんの頼みならば揃えるけれど。そんなに買っても、この豆、あまり美味しくないよ?」

「趣味です。気にしないでください」

「まあ、良いけれど」

 というわけで普通に大豆を発見、購入。

 五キロもあれば色々作れそうだ。納豆は厳しいかな? あれ、特殊な菌が必要だ、みたいなことをきいたし。

 それでも大豆からは豆腐、醤油、味噌とかが作れるわけで、あって困るものではない。

「お米があれば理想的なんだけど、白米はいまだにお目にかかって無いんだよね……」

「俺も。ちょっと残念だよな」

 うん。

「まあ、仕方ないから小麦粉追加で買っておいてと。締めは麺にしようか」

「お、良いね。……けど、すき焼きと言えばやっぱりあれが欲しくないか。コンロ」

「それは手持ちの材料で作れる」

「そう……」

「魔法がね。結構便利なんだよ」

「そうかなあ……」

 そう言う事にしておいて貰ってお会計を済まして、買い出し終了。

 結構な大荷物になってしまった。

「じゃ、学校に戻ろうか」

「ん」

 他に必要なものとか、忘れてないかな……特に大丈夫そうかな?

 まあ、必要があったらまた買い出しに来たら良いだろう。

 そんなわけで学区に戻り、門で買い出しをしてきた事、その荷物が多すぎるのでお店の人に任せて運んでもらうようにお願いした事を説明。

「なるほど。そう言う事なら寮まで運ぼう」

「え、良いんですか? 僕達が自分で取りに来るつもりだったんですけど」

「入学後に詳細は説明されるのだが、この門はその手の『受付』も兼ねていてね。寮まで運ぶのは我々の仕事だ」

「そうですか……、じゃあ、お願いします」

「うん。寮の一階に多目的室があっただろう。その隣が搬入室だ。そこに運ばれるから、そうだな、今日の夜頃にでも見に行ってくれ」

「はい」

 ラッキー。

 で、二人揃って再入場、寮までちょっと歩いて、予め搬入室とやらを確認。

「ここ……か?」

「みたいだね」

 まあ、結論から言えばすぐに見つかったのだけど、想像していた者とは大分違った。

 多目的室のようなものが一個あるだけかなと思ったのだけど、寮の部屋毎に、スペースが取られているのだ。しかも小部屋のようになっていて、扉もついているから、他の部屋の中は見れない。

 一応鍵も掛けられるようだけど、鍵穴が二つあった。一つは部屋の鍵と同じだったけど、もう一つは違うようだ。恐らく搬入する人が開け閉めできるようにするためのものだろう。

「こっちも倉庫として使えない事も無さそうだけど」

「どうだろうな。わざわざこんなスペースが確保されてるってことは、案外学校で色々と配布される物が多いって事かもしれないぜ」

 言われてみれば確かに……。

 ともあれ、この広さならば送られてくる資材も入るだろうと判断して自室に戻ると、それぞれ寝室の衣服棚とかを整理することに。

 ハンガーは十分足りるけど、いずれ不足しそうだな。後で作ろう。

 で、僕は机の上にポーションをいくつか並べておく。

「机の上のポーション類はどうでもいいやつだから、好きに使ってね」

「好きにって……いいのか? 高級品だろ?」

「僕にとってはただの完成品」

「そうか……? まあ、そう言う事なら、使わせてもらうけど」

 それでよし、と。

「で、お前が買ってきた大量の薬草はどうするんだ?」

「材料が届いたら適当な箱を作って、そこに入れる感じだね」

「ふうん……。で、大豆は何のために買ったんだ?」

「豆腐とか醤油とか作れないかなって。お味噌持つくれたら、みそ汁も作れるし」

「いや無理だろ……」

 やってみないと解らない。

 というわけで、大豆を少量取り出して、適当な器に入れる。

 塩とかいるのかな?

 まあいいや、とりあえず錬金を試みて見てっと。

 ふぁん。

「あ、醤油っぽいのができた」

「は?」

 ふぁん。

「豆腐もいけるね」

「え?」

 ふぁん。

「味噌も出来る、と」

「なんでだよ」

「錬金術はマテリアル、材料の足し算なんだけど、最低限必要な材料が決まってて、それさえ満たしてれば強引に完成できることもあるんだよね。特に食品の加工は成功しやすいんだよ。ただ、品質が低い……味がいまいちな事も多いけど」

 とりあえず作った豆腐に醤油を掛けて一口食べてみる。

 んんんー……。

「洋輔、一口食べてみて」

「……なんか怖えーんだけど」

 恐る恐る、といった様子で洋輔は冷ややっこもどきを一口食べる。

「ああ、すっげえ懐かしい味……だけど、なんだろうな。いまいち物足りないって言うか。まずいわけじゃないんだけど美味くもないなこれ」

「品質の低さが原因だね」

 僕はそう言いつつも、手持ちの材料をちょっと集約。

 薬草、薬草、水、毒薬、空っぽの容器、でワンセット、これを六セット揃えて、一気に錬金。

 結果、エリクシルが六つ完成。

 追加で中和緩衝剤を三つ全部使い、エリクシル六つと錬金、ふぁん。

 はい、賢者の石が三つ完成。

 で、それぞれ大豆と合わせて錬金を実行。

 完成した醤油、豆腐、味噌を並べて見る。

「何か今、またすげえ理不尽を見た気がするんだが」

「気のせいじゃないから、早い所慣れてね」

 とりあえず冷ややっこマークツーを作成、一口食べて見る。

 これは……うん、行ける。超行ける。

「で、こっちも食べて見て」

「……はい」

 おそるおそる、そしてぱくりと一口食べると、洋輔の顔色が変わった。

「これは……すっげえ美味い。うわあ、すげー。超懐かしい味がする。ああ、そうだ。豆腐ってこんな味だったよな。醤油も完璧じゃねえか」

「よかった。今後は大豆さえ確保できれば、いくらでも作れるからね」

「それは……いやまあ、美味いから良いけどさ。でも、さっきの今でどうしてこうも味が変わったんだ?」

「賢者の石の効果でね」

 僕は今回錬金に使わなかった賢者の石を一個取り出し、洋輔に投げ渡す。

「色々と使って確かめてみたんだけど、これ、魔法を使う時みたいなイメージでかざすと体力をちょっと回復してくれるみたい。ポーションでいうなら七級品くらいだから微々たるものだし、使用できる回数も結構限られてるんだけど。で、それだけが効果だとしたら材料に対してあんまりにも弱すぎるなと思って、思考錯誤したんだけど」

「したんだけど?」

「どうやら『賢者の石をマテリアルに入れると、完成品の品質が無条件で跳ね上がる』……みたい。ポーションで試した限りだと、九級品になるはずのものが三級品になったから、品質で言えば六級くらいかさましかな」

「…………? えっと……、ちょっとよくわかんねーな。どういう意味だ?」

「ゲームで考えれば簡単だよ。必要最低限の材料を用意する。そこに賢者の石を追加して作成する。すると、完成品の品質が跳ね上がる」

「理解した」

 まあもっとも、本質はワイルドカードとして使えるみたいな効果なのかもしれないけどね。

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