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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
転章 入試が導く一つの邂逅
37/125

37 - 体術実技は何でもアリ

 座学の試験を終えた後。

 第二の試験会場に移動を皆で揃って行い、辿りついたのは運動場だった。

 まあ、体術の試験とか言ってたしな。当然の道理か。

 ちなみに、移動は会場ごとではなく、部屋毎だった。考えて見れば当然で、二千人ずつ同時に動かすというのも無理な話である。

 一部屋あたり四十人くらい居たから、五十のグループに分かれている感じだね。

 ちなみに僕が所属するグループは、どうやら最初の組らしい。うーん。できれば三番目くらいのほうが、試験の傾向も解って良かったんだけれども。

「ようこそ、受験生諸君。君達の体術試験を担当するカージだ。色々と時間が無いから、簡単に説明だけさせてもらおう。君達は既に座学のテストをしてきたね。そこでの席順を覚えているだろう? 覚えていないならば書類を見るように。ともあれ、その席順に並び直してほしい」

 ふむ?

 どうしたものか、と受験生たちがまどい始めたので、僕は大げさにぱんぱん、と手をたたく。

「一番の人。手を上げて」

「あ、俺だ」

「じゃあ二番の人は?」

「私が」

「一番の人の横に移動。はい、三番は挙手、移動。あとは解るね。四番。五番。六番……」

 一度誰かが仕切れば、あとは何とかなるものだ。というわけで簡単に仕切らせてもらう。

 結局、そんなに時間を掛けずに四十人が整列し直す事に成功。

「これで良いですか?」

「……ああ、満点だ。ええと。まあ、いいや」

 良いなら良いか。

「で、番号が小さい者から順番に、体術試験を受けてもらう。この試験は座学と違って、一人ずつ順番に行うものだ。自分の順番が来るまで、他の子は待機しているように」

 つまり、都合僕は八番目……か。

 最初の最初じゃ無くて良かった……のかな?

 内容次第だけど。

「試験の内容を説明しよう。といっても、座学と違って簡単で、しかも単純だ。この先には八人、国立学校の卒業生が居る。全員、正式な騎士になったばかりの新人だ。君達はその八人の内、一人と体術を競ってもらう。言ってしまえば戦闘形式だ。但し、君達は『何をしても良い』が、試験を実際に行う騎士たちは『回避と防御』しかしない。この試験は一定の時間が経過するか、試験を行う騎士が試験の続行を不可とした時点で終了だ。もちろん、試験を行う騎士は八人居るのだから、八人ずつ試験は行う。良いな?」

 ふうん……。八人か。

 つまり一番から八番……ああ、僕も最初の組なのか。様子見はさせてくれない、と。

 まあいいや。説明を聞いて居た限り、特に問題はなさそうだし。

「よし。それでは一番から八番までは移動するように!」

 とまあ、宣言されれば従うほかない。

 一番の子から僕までが、まずは奥へと進む。

 奥には柵で、十メートル四方くらいで区切られたのが横にずらっと八つ並んでいて、それぞれの区画の前には番号がいくつか書いてあった。

 どうやら何番の子がどこにいくかは予め決まっているらしい。

 僕は八番だったので、一番右の区画へ向かうと、そこには若い男性の騎士さんが。

 騎士さんはそこそこのきちんとした鎧と盾、そして剣を持っている。

「君が一番手か。よろしくな」

「はい。こちらこそ」

「予め説明しておくと、この剣は刃が潰してある。勿論当たれば痛いが、こっちから攻撃は出来ないルールだ。逆に君達は何をしても良い。君の体術を、示してくれ」

「何をしても……ですか?」

「ああ。何をしても」

 説明はおしまい、と言って、騎士さんは構えをとる。

「ちなみに、区画に入った時点で試験は始まっている。時間制限に気を付けてくれ」

「ああ……やっぱり時間制限があるんですか。とはいえ、体術か……」

 あんまり戦闘訓練は受けてないんだよね。

 最低限、剣を振りまわすくらいならできるけど、そもそも試験会場に剣は持ちこめていない。

 つまり、受験者は素手でどうにかしないといけないわけで……。

 体術を示せというのが鍵っぽいけど、どうかなあ。普通に殴りかかってみるか?

 軽く筋力を強化して殴りかかる……うーん、でもあっちは攻撃をしてこない。

 それを言い換えれば、全力で防御と回避をしてくるのだろう。となると、有効打なんて入りそうにないよなあ。

 まあやるだけやるか。

 筋力を強化して、地面を蹴って突貫して見みる。

 騎士さんはそれを見て盾と剣を構えて僕に向け……って、危ないな。突貫中止。

 いや。

 なるほど。この試験は剣を向けられた時の反応チェックも兼ねてる、のか。

 うーん。

「何をしても良い……か」

「ああ。何をしても良い」

 念を押すように言ってきたので、僕はならば、と考える。

 剣を向けられると、たとえ刃が潰されていると解っていても咄嗟に避けようとしてしまう。ていうか、突っ込みたがる馬鹿はそういないはずだ。

 こっちも武器を持っていればまだしも、素手なんだし。

 ならばどうするか?

 こっちが武器を調達するか、あっちの武器を無くすか。妥当なのはこのあたりか……。

 錬金術用の道具は残念ながら殆ど持ってきていない。マテリアルとして使えるものは、ポケットに入っているものだけ。

 だから、錬金術で武器を調達するのは困難。

 となると、魔法で調達するか、魔法もしくは錬金術を使って相手の武器を消せばいい。

「くどいようで申しわけありません。もう一つだけ質問をさせてください。なにをしてもいい……というのは、例えばその剣を使いものにならなくしてもかまわないと言う事ですよね?」

「うん……? まあ、できるものならな。よっぽど自信があるのか?」

「体術に自信はあまりないですけど」

 魔法を使う。使う魔法は『器』をつくるもので、作りだすのは大きな袋だ。

 その中に、僕と騎士さんが入る格好。

 そして、僕は手をポケットに突っ込み、中から小さな鉄くずを一つ取りだし、右手に握った。

「何をしても良いなら、対処法はいくらか思いつきました」

 もう一つついでに魔法を使っておいて、剣と手にしたものをマテリアルとしつつ錬金術。

 ふぁん、の方の音がして、騎士さんが持っていた剣が消えうせる。

 もう必要は無いので、袋も消してと。

「さてと、じゃあここから体術勝負と言う事で」

 僕は右手に握っていた『剣』を両手で握り直して宣言した。

「…………」

 剣術らしい剣術を、僕は結局習得しきれていなかった。

 だから、僕が錬金ででっち上げたのは竹刀のような形のものだ。

 当然、僕が使うのは、だからいつぞやに見た記憶のある、剣道もどきだ。

 でもこれ、材質は鉄だから、これで『面』を叩きこんだらひどい事になりそうかな……。

 胴にしよう。

 せーので地面を蹴って、騎士さんの前へ移動。

 騎士さんはそれを剣で受けとめようとして、持っていたはずの剣が無くなっている事に気付いたのだろう、慌てて盾での防御に切り替えた――ふむ、まあ大丈夫だろう。

 というわけで、そのまま斬りかかる。盾に竹刀ならぬ鉄刀は撓るようにぶつかり、そのまま盾を弾き飛ばし、ついでに騎士さんの腕も弾き飛ばし、見事に胴に入った……けど、手ごたえがいまいちだ。

 咄嗟に後ろに飛ばれたかな? 追撃しないと。

 さらに一歩踏み込んで、鉄刀を返すように引き戻す。騎士さんはそれを半身ずらして回避……むう、やはり付け焼刃じゃだめか。

 いいや、捨てよう。

 そのまま鉄刀は手放して、更に踏み込み騎士さんに迫る。騎士さんはそれを見て一瞬止まり、それでも後退することを選択したらしい。

 場の範囲は十メートル四方、とはいえ逃げ回られたら追いつけないな……。

 ということで、『防衛魔法』を展開、騎士さんを閉じ込める壁にする。その壁にぶつかり、騎士さんの動きが不自然に止まったのをみて、僕は拳をまっすぐ突き出した。

 すると、何とも形容しがたい音を立てて、騎士さんが吹き飛ぶ。

 あれ?

 防衛魔法は……まあ、許容量以上の衝撃を受けたら壊れるように張ったけど、一発で壊れた?

 騎士さんの来てる鎧になにか仕掛けがあるのかもしれないな。

 なんて思いつつ、僕はちょっとしびれている右手を軽く振る。

 近くに鉄刀が落ちていたので、一応拾っておくことにする。奪われたら面倒だ。

「そこまで!」

 ん?

 と、僕と騎士さんの間に、隣の場所で戦っていたはずの騎士さんが割りこんでくる。

「中止! 君、何とどめ刺そうとしてるの!?」

「え? とどめって……?」

 何言ってんだろうこの人。

 思いっきり猜疑の視線を向けてると、割りこんできた騎士さんは僕の右手を指差して、その次に突っ伏したまま動かない、先程付きとばした騎士さんを指差した。

「ああ。もしかしてこれでとどめを刺そうとしている、と。そう見えますか?」

「見える。すっごい見える。お前すっごい笑ってるし、大体もう勝負付いてるだろう」

「まだ解りませんよ。『この試験は一定の時間が経過するか、試験を行う騎士が試験の続行を不可とした時点で終了』、と試験官さんは言いましたから。時間はまだ、なんですよね? じゃあ、後者のルールが残っている。『試験を行う騎士が試験の続行を不可とした時点で終了』ならば、まだ試験の続行を不可とされていない以上、試験は継続しています。制限時間がどのくらいなのかは知りませんけど、その間にあの騎士さんが目を覚まして、続ける可能性が否定できません。その時、騎士さんの手元に武器が残ってたら厄介です。だからこうやって、ちゃんと確保したんです……別にとどめを刺そうとしたわけじゃないですよ。試験ですから」

「ああうん。わかった。確かに君の言う事ももっともだ。だがあれだ。君、ちょっと容赦がなさすぎるね。えっと……。とりあえず、君は奥に行って待機だ。待機場があるから。それと、これを持って行くように」

 これ、と渡されたのはまたも星型のバッヂである。

 ただ、筆記試験でもらった奴とは色が違う。

「ちゃんと付けておけよ」

「わかりました」

 というわけで、バッヂを並べるようにして装着しながら移動。

 せっかくなのでちょっと後ろの様子も見て見ると、僕の相手をした騎士さんが外へと運び出されていた。

 …………。

 いや、大丈夫だよね?

 ちょっと、殴っただけだし。

 騎士さんなら大丈夫だよ。

 うん。

 鎧も着てたし。

 大丈夫大丈夫。

 気のせい気のせい。

 血も出てないし。

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