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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 長い旅路の始まりと
34/125

34 - 幌馬車上の離別 ~ 平穏無事

 十五日目。

 四月十七日。

 僕は初めて、この国の首都をこの目で見た。

「うわあ……」

 なんていうか……規模が違う。

 まだ入り口までは距離があるのに、活気がここまで伝わってくるかのようだ。

 ていうか幌馬車もひっきりなしだし。

 これが首都か。

 すごいな。

 なんか、まともに感想が出てこない……。

 とりあえず道に迷いそうだけど。

「ここがこの国の首都でね。広さは……まあ、見ての通り。街の隅から隅まで移動するのには半日かかるとも言われている」

「広ければいいってもんじゃないですね……」

「ごもっともだ。といっても、あまり心配はいらない。街は大きく四つの区画に、大体東西南北で分かれているからね」

 区画?

「ここから見えているのは一般商業区。普通に生活をする人たちはこの区画で暮らす。街の南側に位置している」

 ふむ。

「向かって左、西側は特別学区。君が受験をする国立学校の敷地だ」

「……え? えっと……、このやたらと大きな街を四分割した、その一つが、まるまる学校ってことですか?」

「そう」

 四分割しても普通の街の二、三個は余裕で入るぞ。

 そりゃあ、国立学校は広いとか、色々と設備が凄いとは聞いていたけど、なるほどと納得したくなる広さだな。

「ここからは見えない街の奥、北側は軍事区。騎士総本部だが、冒険者のギルド本部もここに纏めて置かれている」

 ギルドとはは冒険者たちが組むパーティ……の発展型で、パーティというわけではないけど、仲間という感じ。

 多少ずれるけど、パーティが学校で言う『班』ならば、ギルドは『部活』や『委員会』に属すると考えれば大体は合っている。

 この例えだと騎士を説明できないんだよね。教師陣? なんか違うな……。どっちかというと教育委員会とか行政とか……、って、脱線脱線。

「で、最後に向かって右、東側。中枢区」

「中枢区?」

「政府……ああ、国の政治とかをしている所のことだ。それらの建物が纏めて置かれている。裁判所とかもここだな」

 裁判所、あったんだ……。

「…………」

「どうした、妙な表情をして」

「いえ。……考えてみたら、僕、この国の法律全然知らないなあって思いまして」

「ああ……うん。まあ、人気のない道だったから良かったものの、あんな騒ぎを起こしたくらいだしな」

 あんな騒ぎ、というのは、僕が水蒸気爆発を利用した爆破実験を行った時のことだろう。かなり反省。

「ただ、その点については引け目を感じる必要は無いさ。『人をむやみに傷つけない』『殺さない』を護っていればとりあえず人間では居られるし、それ以外の法律は学校で教えてもらう事になるだろう」

「そうなんですか?」

「うん。国立学校はそのあたりの常識を教える学校でもある」

 何故そう言う常識を国立学校と言う狭き門の場所で教えるのだろう。

「区画は基本的にその四つだ。もっとも、それぞれの区画に別区画の施設も出張していることが多いから、大概の住民は一つの区画で生活しているな」

「それに僕の場合、受験に成功したらそのまま学校で暫く生活ですしね」

「そういうことだ」

 やれやれ、か。

 苦笑しつつも、僕は改めて大きな大きな街を見る。

 いつか、きちんと探索してみたいものだ。


 一般商業区、幌馬車停。

 僕はそこで荷物と一緒に幌馬車を降り、きちんと代金を支払った。

 それを確認して、御者さんたちは数度頷き、書類にサインする。

 これにて僕の幌馬車の旅は終わりである。

 最後に皆にありがとうございました、とお礼をして、そのままの流れで解散となった。

 十五日間共にした割にはひどくあっさりとした別れだったけれど、でも、こんなものなのか。

 騎士さんの二人にせよ、御者さんの二人にせよ、国に出された依頼を受けただけのお役所仕事……みたいな。

 ま、仕事はきちんとしてくれたのだ。特にこれと言って文句も無い。

「さてと。それじゃ、私達も依頼を終えるまで、もうちょっと頑張るとしよう。ついてきてくれ。君の宿に案内する」

「お願いします」

 というわけで、僕はアルさん、ジーナさんと一緒に幌馬車停から移動を開始。

 道中、簡単に主要施設の案内を受けた。

 主に道具屋さんや雑貨屋さん、それと食事ができる場所……。

 もっとも、食事は宿でも取れるから、あんまり気にしないでいいらしい。

 そんなこんなで歩くこと三十分ほど、到着したのはなかなかに立派な建物だった。

「ここが、例の宿だ」

「かなり良いところですね」

「宿泊予定の日数が日数だったからな」

 それもそうか。

 長期滞在に向いた宿もあれば、短期滞在に特化した宿もあるわけで。

「ちなみにこの宿、カナエくん以外にも何人か、国立学校の入試を受ける子が宿泊するそうよ」

「ライバルですか……」

 そうなるわね、とジーナさんは笑う。

 まあ、いつまでも入口で喋っているわけにもいかない。

 僕はアルさんにつられて、そのまま受付へ。

 途中、騎士さんとすれ違い、騎士さんはアルさんを見るや少し驚いたような表情を見せていた。

 でもアルさんは無反応。

 はて?

「予約をしていたアルだ。予約札はこれ」

「確認いたします……はい、たしかに。当宿へようこそ。宿泊者様ご本人の記名をお願いします」

「カナエ、書いてくれ」

「あ、はい」

 僕は受付さんから紙を受け取り、ペンでさらさらと名前を書いて返却。

 受付さんはちらりとそれをみて、数度頷いた。

「確かに。当宿のご利用は初めてですね。簡単に設備をご説明いたします」

「お願いします」

「まず、お客様のお部屋は三階、二号室です。部屋には浴槽付きの風呂場、御手洗いはもちろん、台所も設置されております。水に関しましては、国家錬金術研究所の協力を得て水道を導入しておりますから、ご自由にお使いください」

 あ、水道あるんだ。

 便利で良いな。

「また、お客様がご利用になられる部屋にはベッドが二つ置かれております。ご自由にお使いください」

 二つ……?

 本来は二人用の部屋ってこと?

 まあ、いいけれど。

「お部屋の掃除サービスが必要でしたら、お食事の際など、スタッフにご都合のいい時間をお伝えください」

「それは、お願いしないなら自分でやればいいってことですか?」

「そうなりますね。お客様の中には、機密情報を扱われる冒険者さんなども居ますので」

 なるほど。

「食事については、一日に三回までは無償で提供されます。食堂で、もしくはお部屋に受付に時間を指定していただければ、お部屋にお届けします。その際は、食後に食器類を部屋の外にお出しください」

 ふうむ。

「台所があるって事は、自分で調理しても良いって事ですか?」

「もちろんです」

 ま、三回食事が取れれば十分そうだけど。

「次に、規則事項についてご案内します。当宿の敷地内では、一切の戦闘行為をご遠慮ください。また、お客様のお部屋以外の、別のお部屋に勝手に侵入するなどは厳禁です。お部屋に置かれている家具などは、基本的にはご自由にお使いいただけますが、扱いとしては貸し出しです。大きく破損していた場合などでは、退去時に追徴金が発生する事があります。予めご了承ください」

 ようするに好き放題をしないこと。

 まあ、よくある決まり文句である。

「尚、外出時は、受付に一言頂ければ、お部屋の警備を致します。外出に制限はありません。一日中、常に受付は解放されていますから、行動はご自由に」

 門限は無し、お出かけ中は荷物番をしてくれる、と。

 覚えておこう。

「以上のものを含め、細かい説明や施設案内、宿敷地内地図などが記述されたファイルが、お客様のお部屋のテーブルの上に置かれていますので、必要に応じてご確認ください。おまたせしました、お客様のお部屋、三階、二号室の鍵がこちらになります」

 す、と渡されたのはスティック状の鍵だった。

 この形式は……始めて見るけど、使い方は解りやすそうだ。

「お会計はいつすれば?」

「退去時に一括でお支払いしていただくことになっております」

「一括……、というと、追加の食事代もそこでってことですか」

「はい」

 便利と言えば便利だけど、なんだかサービスが過剰な感じだな。

 渡来佳苗としては違和感がさほどないんだけど、カナエ・リバーとして考えるとなんか胡散臭い。

 ちらりとアルさんに視線を向けると、アルさんは苦笑して答えてくれた。

「この宿はここ、首都でも有数の高級宿でね。予約するにも、まず事前に審査がある。そしてカナエくん、君は既に審査に合格してる……だから許されていると、そう考えてくれ」

「審査? 支払い能力とか?」

「……うん、まあ、そうなんだが。身も蓋も無いな」

 ということはお母さんのことは知られてると見たほうが良いな。

 だから後払いでもオッケーと。いざとなったら店に要求できるし。

 ふーむ。

 ま、環境的には最高だし、文句は無い。

「ありがとうございます」

 僕は鍵を受け取って、受付さんに一度挨拶。

 ちらりと時間を確認、午後の一時過ぎ。

「四時過ぎに、食事を運んでいただけますか」

「はい。量はどの程度がお望みでしょうか?」

「普通の大人の昼食くらい……かな。ま、そのくらいで」

「かしこまりました」

 これでよし。

「アルさん、ジーナさん。ここまで、ありがとうございました」

「いいえ、なかなか刺激的で楽しかったわ。……これから先、あなたは試験を受ける。それはきっと、大変でしょうけれど、あなたならきっと大丈夫よ。私はそう思ってるわ」

「私もだ。カナエくんならば、なんとかなるだろう。試験まではまだ少し日があるが……、気を緩め過ぎずにな。何かあったら相談してくれ。学校まで来てくれれば、私かジーナかのどちらかには話が通るだろう」

「わかりました。なにからなにまで、ありがとうございます」

 二人に頭を下げると、二人はこちらこそ、とお辞儀をしてきた。

 礼儀正しい……か。

 そして、二人は去ってゆく。

 僕は改めて、鍵を眺めて、小さく息をついた。

 そう。

 故郷から首都までの旅は終わったけれど、旅をしておしまいでは無いのだ。

 受験というメインのイベントは、まだ始まってすらいない。

 やれやれ、気を抜けないな。

 とりあえずお風呂でも入るか。

「それじゃ、これからよろしくお願いします」

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