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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 長い旅路の始まりと
31/125

31 - 幌馬車上の考察 ~ 錬金術師

 幌馬車の旅は予定の中間地点を、概ね予定通りに通過。

 日を数えること八日間の雨の日、この様子ならば想定から大きく外れることはなさそうだ、と思いながら、カーテンを閉め切った暗い幌馬車の中に魔法で灯りを灯しつつ、僕はベッドの上に転がり考え込んでいた――考えなければならなかった。橋をでっち上げたあの日、リーグさんが教えてくれた錬金術の事は、その程度には重要で重大な事だったのだ。

 まず、錬金術という技術について。

 僕が、そして僕のお母さんが使うそれは、『錬金術』――珍しい錬金術と最近では呼ばれているらしい。

 元来、錬金術と言えばその技術のみを指していたそうだ。

 だが、習得にはとにかく才能が要求され、しかも才能を持っているかどうかは『解らない』。

 修行を積んで成果を出せれば才能を持っていたと解るけれど、修行を積んで成果が出なかったとしても、単に感覚が掴めていないだけと言う事もあるかもしれない……早ければ数日、遅ければ数十年という月日を掛けて到達する必要があるものであると言う。

 僕はその点、二日そこそこで終わったので、かなり早く済んだ部類だったようだ。お母さんも一週間がどうこうとか言ってたしな。

 ともあれ、才能を見分ける術も無く、だから闇雲に修行をしなければならない上、錬金術の感覚は人によって大きく違うそうだ。

 つまり、修行と一言で言っても、その明確なやり方、メソッドが無い。

 だから、技術としては魔法より昔からあったそうだけど、どの時代においても決してメジャーな部類であった事は無く、常にマイナーであったそうだ。

 そんな錬金術に変化が起きたのは、百年ほど前。

 とある人物が、錬金術を大幅に『劣化』させることで、メソッド化する事に成功した。

 即ち、現代錬金術と呼ばれる技術群の誕生で、錬金術の教科書、指導書とも言うべきものが完成したのはつい数十年前のことだそうだ。

 大幅に『劣化』させる、と言っても何がどう劣化しているのかについてまでは、残念ながらリーグさんは知らなかった。

 しかし、マルクさんが国立学校の授業でそのあたりを教わっていたそうで、少し面倒がりながら、それでも親切に説明してくれた。

 これも簡単に纏めると、次のような劣化になる。

 錬金術において成功の可否さておき完成品に対してマテリアルは自由に選択できるが、現代錬金術では完成品に対して予め指定されたマテリアルを使わなければならない。

 錬金術において完成品とされるものの最終品質は九級品から特級品まで作れる可能性があるが、現代錬金術では最高でも七級品までしか作ることが出来ない。

 錬金術において応用技術がいくつも存在しているが、現代錬金術に応用技術と呼ばれる物はない。

 錬金術において使用する容器は指定されていないが、現代錬金術は専用の錬金鍋を使わなければならない。

 とまあ、こんな感じ。

 劣化というか、もはや別物に近い。昨今の体験版や無償版でももうちょっと機能は解放されている気がする。

 で、現代錬金術はそう言った制約を背負って、それで誰でも使えるのかと言えば、それはまた否である。あくまでも『習得を簡単にした』というだけで、錬金術程ではないにせよ、一応の才能が必要だ。

 現代錬金術を習得できる割合は百人に三人くらいなんだとか。アルさんとジーナさんは、残念ながら九十七人の方。

 マルクさんは三人のほうだった。つまり、マルクさんは現代錬金術を使える――専用の錬金鍋と、マテリアルがすべてそろっていれば、だけれど。

 ちなみにこの百人に三人と言う割合を多いと見るか少ないと見るかは人に依るそうだけど、錬金術を習得できる割合は五万人に一人居るかどうかだそうだから、かなり高いのだろう。

 いや、魔法はきちんと学べば誰でも使える事を考えると、やっぱり低いか……。

 さて、そんな事情も相まって、国立学校の錬金術専門、いわゆる錬金科と呼ばれるコースは、残念ながら人気の無いコースであるらしい。

 『国立学校に合格した極々一部の、更に変わり者の巣窟』というのがマルクさんの印象で、アルさんに言わせれば『いばらの道』、ジーナさんに言わせても『そもそもあの科目に生徒どれほどいるのかしら』だそうで。

 それでも取りつぶされていない、科目として存続しているのは、錬金術という技術が、たとえどんなに劣化した状態であっても、学校にとって必要不可欠である……という事らしい。

 具体的にはポーションとか毒消し薬とかの精製。

 七級品以下のポーションは効果が大分低いけど、数で補えるし、やっぱり薬草と違って速効性があるのが大きいようだ。

 毒消し薬に至ってはそれがないと自然に治るのを待たなければならないわけで……。

 そんなわけで、たとえ品質が低くても、それを作ることができる錬金科の生徒はとっても重宝されるらしい。

 で、学校からの支給品以外に予備などが欲しい時は、錬金科の生徒など、錬金術が使える人を探して頭を下げて売って貰うことさえあるのだとか。

「…………」

 まあ、学校内でお金が足りなくなったらどうしようかなあ、という僕の考えは、だから杞憂に終わるらしい。

 実際、ジーナさんやアルさんは、僕が入学したら僕の所に買いに来ると言っていた。僕もあの二人にならば売るだろう。

 けど……。

「…………」

 錬金術という技術が、それほどまでに貴重な技術だとは、正直考えていなかった。

 いや、まともに使えるのは百人くらいしかいないとか言ってたような気はするけど、でも百人いれば十分だろうともどこかで思っていたのだ。

 全然足りない。それが現実であるとして……だ。

 錬金術師という立場。

 正直、危なくない?

 いや、僕がどの程度の錬金術をできるのか……という詳細を知ってるのはお母さんくらいだ。

 お父さんはあんまり僕の錬金術に興味を示さなかったし。ただ、エリクシルについての質問をしてしまっているから、そのあたりまでは気付かれているかもしれない。

 で、両親を除くとどうだろうと思うと、町の中ではあんまり錬金術について話していない。まあ、お母さんに習っているというくだりは世間話されていたから、ある程度知られているだろうけど、僕がどのくらいの錬金術を使うのかまでは知られていないはずだ。

 町の外に目を向けるにせよ、ある程度詳しく知っているのがジーナさんくらい。彼女には賢者の石を見せてしまっている。

 ただ、彼女に漏れている事は多分、アルさんにも漏れているだろう。あの二人は仲良いし、情報交換はしていると見たほうがいい。

 賢者の石を見せていないにせよ、橋のでっちあげについてはこの随員全員に見せてしまっているわけで……。

 皆の口が堅い事を望むばかりである。

 ……万が一、僕がエリクシルを作れる程度には錬金術ができることを知った悪い人がいたとしよう。

 で、その人の気持ちになって考えると、常識的に考えて僕と言う『資源』は重要だ。

 多大なリスクを払ってでも得られるリターンは大きい。

 普通の人はそう考えなくても、悪い人ならそう考えるだろう。

 下手に知られると誘拐されるよねこれ。

 単なる誘拐で済めばいいけど、拷問されたり監禁される奴だよね多分。

 今は護衛が四人いるから大丈夫だろうけど……護衛が外れた後、だから試験を受けるまでの空白時間や、試験を受けた後の自衛手段が必要のようだ。

 とりあえず、アルさんとジーナさんには護衛の延長を要請してみるとして……でもなあ、あの二人、学生だからなあ。そうそう簡単に延長とかできない気がする。

 ならば首都についてから、冒険者を雇うか?

 それこそリスクだよなあ。かといって、首都に知り合いなんて居ないし。

 アルさんとジーナさんを介して紹介して貰うのも、僕の事を知る人が増えるから駄目。

 となると……自分が強くなるしかない、のか。

 首都までは、あと一週間といったところ。

 たったの一週間。この一週間で誘拐から身を護るための術を手に入れろ! って、すっごい無茶な……。

 それでも、錬金術と魔法が使える分だけマシか。

 しかし錬金術で自衛するってどうやるんだろう。

 爆弾でも作ってみるか? 多分簡単に作れるだろう。

 でもそれ、自分も巻き込まれて痛い目見るんじゃない?

 ならば魔法か。

 それでも最悪、怪我をしたらエリクシルをがぶ飲みする感じでなんとかできそうな所ではあるんだよな……即死とか気絶しない限りは。

 痛いのは嫌だけど、まず求めるべきは爆弾と防御系の魔法……?

 防御の魔法ってどうやるんだろう。

 盾とか鎧を作りだすイメージ……?

 うーん……。まあ、やってみるだけやってみるか……。

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