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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 長い旅路の始まりと
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29 - 幌馬車上の実験 ~ 粉の用途

 同じような粉が作れないかな、といくつか試しに錬金して見た結果、なんとなく法則が見えてきた。

 多分だけど、『薬草を含むもの』は、全てこの粉にできる。

 例えば一番最初につくったアレは、そもそも空になった容器と薬草を錬金した結果である。

 今回はポーションと魔法を錬金したわけだけれど、ポーションの材料は『薬草』と水……。

 推定八級品のエリクシルと水からも粉は作れたけれど、エリクシルの材料には当然『薬草』が含まれているし、まさかと思って毒消し薬も作ってみたけど、普通に作れた。

 恐らくマテリアルに要求される条件は『薬草を含む』だけで、他の材料は何でもいい。具体的には薬草+薬草でもできるだろう。

 で、必要最低限なマテリアルは、ポーションならば一般的なポーションの総量を百としたとき、十ほど。

 つまり、ポーション一つを十分割して、ポーション足すポーションをすることで、五セットの砂が作れる。

 ちなみに、砂の量は一定に精製されている。ポーションを二つ使おうと、ポーションを五分の一しか使わなかろうと、一定の量だ。

 品質に差がある可能性は大いにあるけど、何度か作った感じ、ポーションを二つ使ったものでも、五分の一しか使ってないものでも、差らしい差は無いように見える。

 それが意味するところは不明。

 単に品質がほとんど目に見えないのか、あるいは何らかの特性に起因するのか……。

 そのあたりも含めて色々と実験をするか、とか考えていると、幌馬車が止まった。

 外を見れば、夕方。今日はこのあたりで設営するようだ。

 少し眺めていると、あっというまテントとタープが張られる。うん、早速タープ使うのね。

 で、タープの内側に調理場も完備。今日の調理当番はマルクさんのようだ。

 とりあえず荷物を片づけて、幌馬車から降りる。

「おつかれさまです」

「ああ、おつかれさま。どうだい、二日目は。退屈だろう」

「ええ、正直に言うと、とても……」

 あくびを噛み殺しながら答えると、リーグさんは苦笑によって答えた。

「さっそく使ってるんですね、タープ。……一度しか設営見せてないのに、よくわかりましたね?」

「構造そのものは簡単だったからね。それにこの手の便利な道具は、一度見れば大概は何とかなる」

 ふうん。さすがは騎士……経験豊富だろうしなあ。

 あ、そんなリーグさんにならば解るかな?

「あの、リーグさん。質問しても良いですか?」

「答えられる事ならば」

「実は、とある品物の正体が知りたくて。僕の知識には無い物なのです。リーグさんなら、どこかで見たことがあるかなって」

「……物によるとは思うが。見せてくれるかい?」

「はい。取ってきます」

 というわけで荷台の、纏めた荷物から例の粉を取り出して、すぐに戻ってリーグさんに手渡してみる。

 リーグさんはその粉を容器から取り出すと、「ほう」と感心するような声を漏らした。

「これは、中和緩衝剤か。珍しいな」

「中和緩衝剤?」

「ああ。たまに、錬金術師が使うらしい材料の一つでね。……こちらはあまり、錬金術に詳しくないから、なんとも言えないのだが、確か効果は、『同じものを混ぜないためのもの』……だったかな。そんな説明を受けた事がある」

 同じものを混ぜないためのもの……、中和緩衝剤……ね。

 同じものを混ぜない。

 名前も『中和緩衝剤』……中和をさせない、ってことかな?

 ニュアンスが微妙だな。とはいえ、これ、タイムリーなマテリアルっぽい。

「もっとも、この粉、基本的には……価値が無いね。いまどき、そんな錬金術を使う人は居ないし、よしんばいたとしても滅多に必要としない上、簡単に作れるんだったかな」

「なるほど」

 だとしたら……か。

「ありがとうございます、リーグさん。……ご飯まで、もうちょっと時間かかりそうですか?」

「十五分くらいかかるかな」

 答えてくれたのはマルクさん。包丁さばきが妙にさまになっているが、一応騎士さんだったよね……?

「美味しいものを作る。期待しててくれ」

「お任せします。じゃあ、ちょっと僕は工作続けますね」

「工作?」

「ええ。まあ、完成するかどうかはわかりませんが……」

 思考錯誤をしないと、ね。

 と言うわけで、改めて幌馬車に戻り、ストックからエリクシルを取り出す。

 推定七級品と、推定二級品。ちょっと勿体ないんだけど、一級品よりかはマシだろう。

 空き瓶については、ポーションから粉……中和緩衝剤を作る段階でいくつか用意できているので問題は無い。で、最後にその中和緩衝剤を用いる。

 材料は、とりあえずこれだけで……ふぁん。

 完成品は……っと。

 うん。

 無事に青い宝石のような何か、賢者の石らしきものが出来ていた。

 質感はやっぱりビニールっぽいけど、かなり硬い。

 揺らすと内側の青は揺らいでいる……ジーナさんに見せてもらったやつよりも、青の濃淡は強いな。ただ、ジーナさんが持ってたやつは全体的に青みが強かった。僕が作った奴はちょっと薄い。

 ジーナさんが持ってたアレは、品質の高いエリクシル同士で作った感じかな?

 でもこれ、何に使うんだろうね。

 『最初に目指す通過点』ってことは何かの材料だとは思うんだけど。

 普通に錬金術の補助材料として突っ込めばいいのだろうか。

 ま、それは今度試す事にして……っと。

 僕は作った賢者の石をポケットに入れて、幌馬車から降りると周囲をちらりと確認。

 ジーナさんは……いたいた。

「ジーナさん、ちょっと良いですか?」

「うん? 構わないわよ」

 既に設営は終わっているし、とジーナさん。

「とりあえず、例のものなんですけど」

「例のもの?」

 何それ、という表情をされた。

 …………。

「ほら、さっき見せてもらった、賢者の石です」

「ああ。あれか。それがどうしたの?」

「とりあえず、試作品ですけど」

 ポケットから取り出して渡してみると、ジーナさんは頬を引き攣らせる。

「え?」

「品質はたぶん、こっちのほうが劣ってますけどね。でも、大体同じものです。品質の上げ方も、なんとなく想像は付きますし……。というわけで、材料は解りました」

「え? ……いや、確かに『材料が解ればいいなあ』とは思ってたけど、本当に作っちゃったの? それも、さっきの今じゃない」

「偶然に助けられた部分も多いですけどね。ただ、見た感じで主材料はわかったので」

「そう……。ちなみに、何を使うのか、教えてくれる? ああ、詳細はいいわ。どうせ私には作れないし。だから、大雑把に一番高いものを教えてくれるとそれが一番なのだけれど」

「そうですねえ。価格的に一番高くつくのは、エリクシルかなあ。ジーナさんが持ってる奴は、たぶん一級品を使ってると思います」

 色の濃さからして、一級品と二級品……もしくは、特級品と一級品だろう。

 考えうるかぎりでは、だけれど。

「お母さんのお店には、一級品のエリクシルも置かれてますよ。金貨五万枚ですけど」

「ご……、って、それ売れるの?」

「たぶん売れないと思いますね。まあ、なんかそういう品物があるだけでどうとか、お母さんは言ってましたけど」

「ああ……なるほどね。ふうん。なら実質的な価値はちょっと落ちるでしょうけど……そうかあ、でもそんな価値があるのか、あの石」

 正直信じてなかったわ、とジーナさんはぼやいた。

「……それにしてもカナエくん、いくらなんでも錬金術、慣れすぎないかしら?」

「そうですか? ……でも、子供ですからね。興味を持ったことには、全力を出せるって言うか。それが僕の場合は、お母さんに触発されて、錬金術として顕れた……のかもしれません」

「ふうん……」

 実際、最初の一度の感覚さえ分かっちゃえば簡単だし。

「これは返すわ。もともとあなたのものだしね」

 ジーナさんは言い張る僕に呆れるような表情を見せつつも、僕に石を返してきた。

 没収されかけてたのか。あぶないな。

「でも、それを何に使うのかは解るの?」

「いえ全く。でも、作り方は解ったんで、あとは適当に使ってみますよ」

 実にあなたらしいわね、とジーナさんは言って、僕に石を返してきた。

 ま、他に使い方もあるのかもしれないけど、基本的にはマテリアルでいいのだろう。

「適当……か。あなたの適当って、なんだか突拍子もない結果を産みだしそうだわ……」

「そんなことは……」

 無い……、無いと良いな……。

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