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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 積み重ねるべきは
23/125

23 - 魔法について補足事項

 二月四日。

 午前の店番を終えてのお昼休憩、パンと卵、お酢とレモン、油にマスタードにハムを錬金鍋に投入、ふぁん。

 はい、ハム卵サンドの出来上がり。

 というわけで、お昼ご飯だ。

「……もう、いい加減慣れてきたけれど。あなた、結構料理の才能があるわよねえ」

「そうかな?」

 錬金術で作ったものを料理と呼んでいいのかどうか、僕には判断がつきかねるところである。

「それでカナエ、どうなの。宿は決まったって?」

「うん。アルさんがね、手配してくれてるみたい。そこそこ広い部屋で、長期滞在、三食付き。そこそこお金はかかるって」

「まあ、そうでしょうね」

 けどまあ、貯金から支払えない金額では無い。

 よほどの豪遊をしない限りは。

 なんて、手紙を読みながら僕は思う。

 ちなみにこの手紙はそのアルさんからのもので、首都への移動から受験を終えるまでの期間、滞在できる宿を探しておいてほしいという僕の手紙に答えてくれた形である。

「それで、他には何か書いてない?」

「身体の調子はどうだ、とか。最近のアルさんたちの様子とか」

「無難な内容ね」

「そうだね」

 特に目を引くことが書いてあるわけでもない

 僕はお母さんに手紙を渡すと、お母さんはさらりと斜め読みして僕に返してきた。

 男同士の文通に興味は無いらしい。

「だからこそ、手紙と一緒届けてくれたこれは、ちょっと嬉しいな」

「それねえ……」

 これ。

 と、僕が持ち上げたのは一冊の本である。

 なんとこれ、ジーナさんの手作りノートで、魔法についてのちょっと踏み込んだことが書かれていたり。

「そろそろ僕が行き詰ってるんじゃないかなーって、そう思ってくれたんだろうね。実際、魔法はこのところ全然進んでなかったし」

「良い先生ね、ジーナは」

「うん」

 僕は頷くと、お母さんはくすくすと笑った。

「まあ、午後は私が店番をするわ。あなたはそれを参考に色々してみなさい」

「そうだね。そうする」

「それと、あなたに一つ聞いておきたい事があるのだけれど」

「うん?」

 何だろう、改まって。

「この料理に使っている白いソース、どうやって作ったの? ピリッとしてて美味しいわ」

 ああ、マヨネーズのことか。

 理科の実験で作ったから、覚えてたんだよね。家庭科の調理実習だと既製品使うし。

「卵とお酢とレモンと油。ぴりっとしてるのはマスタードを混ぜたからだね。マスタードを抜いて、野菜とかにかけても美味しいと思う」

「そう。あとでマテリアルの比率、メモにしてくれる?」

「うん。良いよ」

 ……でも、もしかしてそれも売り物になるのかな?

 まあいっか。

 せっかくなら美味しいものを食べたいしね。


 マヨネーズの作り方のメモと、マヨネーズ単体の完成品をお母さんに渡したりしつつ、僕は手紙と一緒に送られてきたノートを本格的に読み始めていた。

 最初の方に書かれていたのは、魔法の基本的な考え方だ。つまり、発想と連想という基礎をもう一度見つめ直そう、みたいな感じ。

 その後に書かれていたのは、実際に学校で教えられる魔法に関する技術で、例えば『集中する事に集中する』コンセントレイトの具体的な修行の仕方など、結構嬉しい情報が多い。

 で、そんな技術の中には『詠唱』と呼ばれるものがあって、なんかそれっぽい! っと思って詳しく読んでみたら、僕が想像していた詠唱とはちょっと違うようだ。

 とある魔法があるとしよう。

 その魔法を行使するために詠唱が必要というわけではなく、詠唱に魔法を関連付ける、らしい。

 つまり『好きな言葉』に『好きな魔法』を結びつけておくことで、咄嗟に集中し難い状態でも、その言葉を発することで魔法が発動する……みたいな。

 この『好きな言葉』は別に何でもいいそうで、音程などもある程度融通が利くらしい。逆に言えば、口癖をキーワードとしてしまうと、その口癖を言うたびに魔法が発動すると言う珍獣になるから注意とも書かれていた。珍獣て。

 なお、この関連付けはどうやるのかと言うと、魔法を行使しながらその言葉を呟く、を繰り返すだけ。

 個人差はあるが、五十回から五百回ほどやれば大抵はできるようになるそうだ。うん、思ったより力技だ。やっぱり魔法は感覚で使う物らしい。

 もうちょっと理詰めであってくれたほうが楽だったんだけどね……。

 ま、詠唱は使うかどうか微妙だけど、そういう技術があるということは覚えておこう。

 他にもいくつか技術は書かれていたけれど、特にこれ! と言う物は無いかな……。

 それで、魔法の分類について。これはおまけ程度にだけど書いてあった。

 結構と重要だと思うのだけど。

 まず、国立学校においての考え方として、魔法は次の系統があるらしい。

 即ち、攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、妨害魔法、回復魔法、便利魔法の六系統だ。

 もちろんこの六系統から更に細分化されていくわけだけれど、それぞれ六系統の基本とされる魔法があって、その基本とされる魔法の習熟具合が、大凡、それらの系統に対する適正を調べるのに丁度いい、んだとか。

 それらの魔法についての記述は簡単にされていて、原文ままで次の通りとなる。

『攻撃魔法は魔力を矢に変えて打ち込むイメージ』

『防御魔法は魔力を壁のように生やすイメージ』

『補助魔法は魔力を自分の力に変えるイメージ』

『妨害魔法は魔力を霧のように起こすイメージ』

『回復魔法は魔力を体力に変えるイメージ』

『便利魔法は魔力を食器類にするイメージ』

 うん、もうちょっと詳しく書いて欲しい。ていうかイメージしか書いてないじゃん。

 とまあ不満が正直大いにあるのだけれど、これについては既に弁明がノートの中でされていて、そもそも魔法にはきまった形が無いんだそうだ。

 だから、基本とされる魔法というのも、所詮そういった『イメージ』程度のものであり、それを使う人によって大分効果も変わるんだとか。

 それ基準って言えないよね?

 …………。

 まあ、途方も無くざっくりとしたイメージではあるけど、大体何をすれば良いのかは想像がつくので、それぞれ試す事にする。

 と、そんな時だった。

「カナエ、ごめん。五級品のポーションをあと十五個お願い」

 お店の方からそんな声が。

「はーい」

 五級品のポーションは五個しか常備していない。二十個買いたいというお客さんが来たようだ……とか思いつつ、薬草と水を用意、錬金、ふぁん。

 ちゃんと五級品になるように調整済みで、僕は出来たてのポーションをお店へと運ぶ。

「おまたせしました」

 お客さんにお辞儀をしつつ、僕はお母さんにポーションを渡すと、お母さんは数度頷いた。品質確認をするために時間を稼げと言う事らしい。

 どうしたものか……と思いつつも、お客さんにもう一度視線を向ける。すると、お客さんが背中に盾を背負っているのが見えた。

 盾。

 盾?

 いや、盾というか、あれは板か?

 タワーシールドというやつだろうか。珍しいな。

「うん? 坊や、この盾に興味でもあるのかい?」

 あ、勘づかれた。

「すいません。珍しいなあと思って」

「ああ。特注だからなあ」

 そりゃ珍しいわけだ。

「興味があるなら触ってみるかい?」

「え、良いんですか?」

「ああ。盾は守るための物だ。そこまで危ないものでもないしな」

 お客さんは背負っていた盾を床に下ろすと、たんたん、と盾を叩いた。

 僕はそれに近寄って、ちょっと触ってみる。

 鉄……じゃないな。これは、何だろう。合金っぽい。色的には銀に何かを混ぜた感じかな?

「これは……重たそうですね」

「おう。四十キロほどある」

「僕と同じくらいですか……」

 そりゃ重いわ。持てるかな?

「ははは。持ち上げてみてもいいんだよ。まあ、出来ないとは思うが」

「良いんですか? じゃあ、遠慮なく」

「え?」

 筋力強化の魔法を使って持ち上げてみる。流石に片手持ちは無理そうだけど、両手でならば、うん。持てるな。

 四十キロ……より、ちょっと重いくらいか。構造的には普通の大盾、をさらに巨大化させて、分厚くした感じ。

 それに伴って、取っ手部分がかなり頑丈に作ってある、と……。

 錬金術で作ったものじゃないな、鍛冶師さんの作品だ。銘も彫ってあるし、特注、それもかなり良質ってわけだろう。

「すごいですね、この盾。誰が作ったんですか?」

「え……? あ、ああ。えっと、首都に居を構えてる工匠の女性で、ジュディという、防具系を専門にしてる人……だ」

「なるほど……。うーん。でも、使う人はかなり選びそうですね。両手じゃないと持てないだろうから、武器を持てないし。えっと、お客さんは冒険者さん……ですか?」

「ああ。そうだ」

「珍しいですね。冒険者さんの大半って、結構防御を捨ててるって先入観がありました」

「……うん。まあ、そうだな。ある程度名が売れてくると、俺みたいな盾役……防御を一手に引き受ける役が重宝されるから、防御は専門家に任せて、装備は攻撃や補助面に偏らせるのが定石だから」

「なるほど……」

 明確な役割分担があるのか。だから普通の冒険者さんは鎧は軽めのやつしか着て居ない、と。

「珍しいと言えば君の方が珍しいな。君みたいな子がそれを持ち上げたと言う事は、強化魔法だろう?」

「はい。僕に魔法を教えてくれた人……と、一緒に居た人が、僕に不釣り合いな大きな剣をくれまして。それをなんとか持つために思考錯誤してたら、使えるようになってました」

「ははあ。……魔法使いは困難に際して新たな魔法に開眼するとは言うが、何と言うか、君の場合はとんだ災難だな」

「そうですね。でも、折角のプレゼント、貰わないのも失礼ですし、もらったならば使わないとやっぱり失礼ですから……」

「しっかり者だな」

 ちょっと照れるな。

「盾、持たせてくれてありがとうございます」

「うん」

 とりあえず盾は返却。

 さて、と僕はお母さんに視線を向けると、お母さんは僕たちが雑談している間に品質の確認を終えたらしい。

「お客様、うちの息子がご迷惑を掛けたようで」

「いや、気にしないでくれ店主どの。きっとこの子は大成するぞ」

「ありがとうございます。お客様のようなご高名な冒険者様に言っていただけると、この子も励みになりますわ」

 え? ご高名?

 有名人だったんだ、この人。いやそうだよな、じゃないとそんな盾もってないか。

 表情に出さずに驚きつつ。

「というわけで、こちらが商品になります。五級品のポーション、二十点。特級品の毒消し薬、八点。六級品のエリクシル、十二点」

「うむ」

 ……エリクシルが売れるの、始めて見るかもしれない。

「確かに、確認した。では店主どの、そして息子さん。君も、ご壮健あれ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございました」

 会計は先に済ませていたようだ。

 そう言って冒険者さんは帰って行く。

 扉から普通に荷物を持って出て言った冒険者さんを見送った後、せっかくなので聞く事に。

「ねえ、お母さん。さっきの人、有名な人なの?」

「そうねえ。『大盾のロード』って言えば、この国で知らない冒険者は居ないんじゃないかしら……ってくらいには有名よ。一種の冒険者の憧れ、到達点としての人物ね」

 つまり超ビッグネームじゃん。

 嘘じゃないの?

「というかね、カナエ。特級品の毒消し薬に、エリクシルなんて高級品を複数個、現金で一括払いは。流石に冒険者だと、トップクラスじゃないと無理な芸当よ。商人ならともかくね」

 ごもっともだった。

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