22 - 飽くなき目標
明けて十二月二十六日。
まずは普通にポーションを作る。ポーションの材料は薬草と水……比率はきちんと計算したもので、ふぁん、と完成。
完成品の品質を確認すると、四級品。まあまあの成功品だ。
で、次に器を予め用意しておいたパターン。
そのために、今作ったばかりのポーションの中身は魔法で作ったボウルの中に破棄。あとで何かに使おう。
空っぽになった容器と薬草、水を使って錬金して見る。ふぁん。
完成したのは……ポーション、かな?
品質を確認してみると、三級品だった。
うん、やっぱり品質が上がるな。
……で、この結果を受けて、例の『ニンジン』を思い出す。
何故、ニンジンを混ぜると品質が上がるのか?
正直アレ、結局理由は全く解ってなかったんだけど、今ならば仮説がある。
つまり、ニンジンは『器』のマテリアルとして解釈されていたのではないか……ポーションそれ自体では無く、その器……容器になっていたのではないか。
うーん。当然のことすぎて盲点だった。
で、この結果を踏まえて毒消し薬も作ってみる。無事成功で、表示は0。
考えて見れば普段から特級品なので、どうせこれ以上は作れないんだよね……。
「お母さん」
「どうしたの?」
なお、今日はお店の錬金鍋ではなくダイニングに置いた自分の鍋で錬金中。
お母さんはお父さんと一緒に隣の部屋、リビングでくつろいでいるので、アドバイスを求めるのが簡単で良い。
「あのさ、品質なんだけど。特級品の中で、さらに細分化して知ることってできないかな?」
「…………? つまり、一つの品質の中で、さらに品質わけをする……ってことかしら? 七級品の下の方と上の方、みたな」
「そう」
「無茶を言うわねえ。……うーん。私には思いつかないわ」
それもそうか。
「ただ、毒消し薬と毒薬については、もうあなたはその手段を持っているわ」
「え?」
「あなたにあげた、試験人形、あるでしょう。あれを使えば良い。あれは表しの指輪のような『品質を知る』のではなく、『効果を知る』ためのものなのよ。ニュアンスが違うの、解るかしら?」
品質を知るのではなく、効果を知る……。
「でも、あの人形で品質を計れるんだよね?」
「そりゃそうよ。だって『効果を知る』んだもの」
ああ、そっか……そりゃそうだ。効果を知る、って事は、その効果を齎している理由、つまりそれの品質も含まれているわけだ。
つまり、数値化できないかわりにより詳しい情報を知れる、それがあの人形の役割と言う事らしい。
表しの指輪があれば要らないかな? と思って部屋にただの人形として置いてあるんだけど、ここにきてまた役目が復活。
なんだか長い付き合いになりそうだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
とりあえずお礼を言って、二階の自分の部屋へ。机の上に置かれた灰色の試験人形を手に取ると、そのままダイニングへととんぼ返り。
作った毒消し薬の中身を全部垂らしてみると、見事に真っ白になった。驚きの白さだ。
で、空っぽになった器と薬草、毒薬を合わせて錬金、毒消し薬が改めて完成。
一応表しの指輪にもたらしてみると、特級。ふむ。
人形は一度水洗いして灰色に戻した後、改めて完成した毒消し薬を全部垂らしてみる。真っ白に染まった……と思ったら、微かに発光しているようだ。
「…………?」
まあ、普通の特級品と比べて、ちょっと良いのかな?
光ってるし。
なんだか不気味なので水洗いして、灰色に戻しておく。
品質的には特級品でも、ちょっとランクが上がったと解釈して良い……のかな?
さて、それじゃあ本題、エリクシル。
材料は薬草、薬草、水、毒薬、そして空っぽの容器。ふぁん。
少し濃いめの青色、おお、この色の濃さは始めてかも。
「お母さん、何度もごめん。これの品質はどうかな?」
「見せてみなさい」
というわけで、リビングのお母さんにそのままパス。
完成したエリクシルを光にかざし、次に一滴肌に落し、ふむ、とお母さんは考え込む。
「五級か、四級か……。低く見積もれば、五級品の上の方。高く見積もれば四級品の真ん中くらいかしらね」
おお。
六級品の壁を超えた。
ネックになっていたものの内の、少なくとも一つは器だったらしい。
あとは器に相応しいものをマテリアルにしたり、比率を変えたりしてチャレンジかな。
僕は返却されたエリクシルにラベルを張り付け、五~四級、と書いておく。
とはいえ、器に相応しい物……って、何だろうね。
ガラス?
神の杯や金の秘薬という別名も気になる。
器が金だから、とか?
ガラス……は、空き瓶から作れるかな。
試しに錬金。ふぁん。
ガラス板の完成。うん、出来た。
で、それをマテリアルに追加して、エリクシルを錬金。ふぁん。
色合いは……さっき作ったのと大差ないな。
まあ、考えて見ればそれを作る時にも空き瓶を使っていて、その空き瓶は多分ガラス製だから、意味が無い手順を踏んだのかもしれない。
となると、次に試すべきは金なんだけど……。金かあ。
勿体ないな、と思いつつ、僕はお財布から金貨を一枚取り出して、マテリアルとして追加、エリクシルを錬金。ふぁん。
さて、何が出来たかな……と思ったら、金色の器で中身が見えない。
蓋を開けると、なんだか不思議な香りがした。森? みたいな。
何か、これまでのエリクシルとは違うな。というかこれ、エリクシルか?
お母さんの元に持って行くと、お母さんは顔をひそめた。金色の器のマテリアルが金貨だと察したからだろう。
「ねえ、カナエ。お金をマテリアルにするのはいただけないわ。価値に対して勿体ないし」
「うん。今度からは金の延べ棒でも買う事にするよ。まあ、今回限りかもしれないけど……。で、中身確認してくれる?」
「ええ」
お母さんは蓋を開けると、目を細めた。
たぶんあの香りがしたからだろう。
そして器を傾けて、一滴手のひらに垂らす。その雫は深い青色だった。あれ?
「これは……、恐らくだけれど、一級品……かしら。特級品というには何かが足りないけれど、既にほとんど完成されているわ」
「…………」
ふむ……。
金の器で作る、が限りなく正解に近いっぽいな。問題は特級品に至らせるための比率。
それに、もし足りていないならば補助としてのマテリアルも……うーん。
ただ、闇雲に思考錯誤ができる類の物でも無いな、これ。
材料代が馬鹿にならない。
「ねえ、お母さん。確認なんだけど」
「ええ」
「特級品のエリクシルって実在してるの?」
「してるわ。首都でいくつか、取り扱いがあったはず。ただ、この所供給が無いらしいけれども」
「それ、いくらくらいする?」
「…………」
お母さんは少し考え込む。
「現物を、と言う事よね?」
「うん」
「……そうねえ。まあ、仕入れることが出来ない、とは言わないけど……でも、ちょっと気の遠くなるような価格よ」
だよなあ。本当の意味での万能薬だろうし……。
その現物を手に入れたところで、確実にそれと同じものが作れるようになるならばともかく、実際には参考になるかどうかも怪しいのだ。
「それになにより、目標は達成してる……か」
僕が呟くと、お母さんは僕に微笑みかけた。
「ええ。あなたの目標は、エリクシルの一級品を作る事……。だから、その目標は達成できている。誇りなさい。だけれど、今後も精進するならば……エリクシル以外のものも磨くように。案外、意外なところから答えが見つかるかもしれないわよ」
「うん」
それもそうだ。
とりあえずは、さっき作ったエリクシルの比率を頑張って覚えておくことにしよう。
「で、カナエ。それ、売り物にしない?」
「…………。いくらで?」
「一級品だから、金貨五万枚くらいかしら」
いや、えっと。
それ、買う人いるの?
僕の表情を読んでか、お母さんは笑いながら言った。
「まあ、売れないと思うわ。でも、『そういうものがあるお店』にはできるでしょ?」
ああ、そう言う事か。
「なら、はい。これで良いなら、あげる」
「ありがとう、カナエ。あとで代金は渡すわね」
別に良いんだけど、と言うと、
「首都に二週間から三週間は宿泊するんだから、お金は有って困らないわよ」
とのこと。
ごもっともだったので、頷いておいた。




