20 - 手抜きが呼ぶ気付き
時は流れ、十二月三日。
なんだかんだで朝と夕方の走り込みは、町一周から二周に増やしていた。体力は結構、付いてきてる気がする。
で、朝の走り込みを終えて家に戻り、鍋にパンとチーズを投入、錬金。ふぁん。
はい、チーズトーストの完成。
…………。
いや、我ながらどうかなとは思うんだけどね?
ちなみにこれが出来ることに気付いたのはつい先週。
ひょっとして錬金鍋って調理にも使えるんじゃないの?
と魔がさして、野菜スープを目指して野菜と水を錬金したら野菜スープが出来てしまったのだ。
まあ、すごい味が薄かったけど。だから塩とか入れたら美味しくなった。
調理過程は錬金術でなんとかなるらしい。
で、そこから発想を転換。錬金鍋で普通の料理が錬金出来るなら、実は普通の鍋でも錬金術使えるんじゃない? と。
まあ、料理をするのに使う鍋をあれこれ使うのは気がひけたから、錬金鍋を使って鉄板と木の破片から鍋を作って、その鍋で実験。そしたら普通にできてしまってさあ大変。
大体、最初に錬金術を教えてもらった時、『袋とかでやってる人も居る』みたいなことをお母さんも言ってたし……と思いだし、袋でも試してみたらこれもまた出来てしまった。
錬金術にはかなりアバウトな所があるようだ。
一度気付いてしまうとどこまでが出来るのかを試してみたくなるのは本能のようなもので、まあ、好奇心はつきることが無く。
要するに、錬金術に必要なのは『マテリアルを受けとめる器』があれば良いと僕は結論した。
それはつまり、薬草と水があれば手のひらの器ででもポーションが錬金出来ると言う意味でもある。
流石に大量のマテリアルを使う場合とかは何らかの器が欲しいけど、そこで『簡易的なお皿を作る魔法』を応用して『簡易的なボウルを作る魔法』とし、それを持ち運びできて、かつ移動に手間がかからない錬金鍋とすることにも成功。
世の中やってみるものだ。
ちなみに『簡易的なボウルを作る魔法』に使う僕の魔力のイメージとしての紙の面積は、大きさにもよるけど、大体二十五平方センチメートルくらい。ものすごく大きくつくっても八平方メートルくらいだろうか。どのみち錬金術を一度使えば百平方メートル増えるので、すっごいおつりがくる計算だったりする。
当然、錬金術を使わなければ単に魔力を消費するだけに終わるけれど。
とりあえずチーズトーストをもぐもぐと食べて、一息。
コンソメってどうやって作るのかな……。
家庭科実習で使った感じだと、何かの塊だったけど、そもそもコンソメって何なんだろう。
調味料? とは違う気がするし。
でも調味料だよな。うま味調味料みたいなものか?
それとも、……本だしみたいな?
うーむ。コンソメが作れれば、結構色々と料理の幅は広がりそうなのだけど。いや、料理と言っても錬金術だけどね。
意外と、『僕』が食べていたものが何で作られているのかって、解らないものだなあ。
などと考えつつ軽食を食べ終え、僕は顔を改めて洗うともう一度着替えて、お店へと。
既にお母さんは店番の準備をしている。
最近は僕も、店が忙しい時は本格的にお手伝いする事も増えてきたのだけれど、基本的には錬金鍋を使って色々としていたり。
ま、普段通りノルマの毒消し薬を作って品質を確認。今日も当然のように特級品ばかり。
うーん、僕としては楽で良いんだけど、結局なんで特級品が作れるのか、解ってないんだよな。
品質といえば最近、ポーションはニンジンを使わなくても四級品が作れるようになってきた。ニンジンを入れると三級品もたまに作れる。ちょっとずつ水の量を調整した成果と言えよう。
「あ、カナエ。ちょっと」
「うん?」
と、呼ばれたので店の方に顔を出してみると、お母さんが僕にメモを渡してきた。
買い出しかな?
「悪いんだけど、これ用意して貰える?」
「えっと?」
ちらりと斜め読み。
えっと……毒消しポーションの、品質指定はポーションとしては五級品相当で、毒消し薬としては四級品相当?
「これ、お母さんの字じゃないね」
「ええ。注文書よ」
「ふうん……」
ざっくりとしているようできっちり指定されている。面倒だな。
「いつまでに用意すればいい?」
「可能なら今週ね」
僕は眉をひそめる。
……うーん。
「毒消しポーション、作れる事は作れるけど、この品質は作った事が無いなあ……」
「ま、修行も兼ねていると思いなさい。それにあなた、最近はポーションの品質も上がってるんでしょう? なら何とかなるわよ」
なるといいけど。
僕はとりあえず頷いて、材料を要求。お母さんは何も言わずに差し出してくれたので、受け取って錬金鍋の横にずらっと並べておく。
さて、毒消しポーションの材料は毒消し薬とポーションを合わせたようなもので、薬草、足す、毒薬、足す、水だ。
もっとも、毒消しポーションとして統合すると、どうしても品質が落ちる傾向にある。多分比率が違うのだろう。
ま、とりあえず一つ作ってみて、ふぁん。
指輪に垂らして品質確認、ポーションとしては五級品、毒消し薬としては三級品。
惜しい。
一応確認するか。
店舗に向かって、お客さんが居ないことを確認して、と。
「お母さーん」
「何かしら」
「これ、指定された品質きっちりじゃないと駄目かな?」
「そりゃあ、指定されてるんだし、駄目だと思うけど。何で?」
「いや、ポーション五級毒消し薬三級は出来たんだけど」
「ああ、上にはみ出たのね……」
うん、と頷く。
「どうしても指定通りに作れないならば、これを納品するけれど。でもやっぱり、品質を指定されている時は、きっちりその品質で作るべきよ」
「解った」
じゃあ、思考錯誤の開始だな。
再び錬金鍋の前に戻り、何を減らすか一瞬考える。
幸い、品質を上げるのではなく落す方向で考えればいいし、ポーションではなく毒消し薬のほうを落とせばいいだけだから、減らすべきは薬草もしくは毒薬のどちらかだ。
で、薬草を減らすとポーションの方にも干渉が起きる以上、減らしていいのは毒薬のみ。
毒薬を小匙でちょっと別の器に移して量を調節した上で錬金……完成自体は問題なく。ふぁん。
品質確認、ポーションは五級、毒消し薬は三級。あれ? まだ駄目か。
今度は小匙で三杯分ほど削って錬金。ふぁん。
品質は……ふむ、ポーション六級、毒消し薬四級。ポーションの品質まで落ちてしまった。これは駄目だな、ということで×印の付いたシールを張って置く。
この手の複合するものを錬金するのって、実は結構難しいらしい。
お母さんに言わせれば、だけど。僕にとっては感覚が同じだから、大差ないって言うか。
ちょっと調整が面倒だけどね。
その後も比率を変えて七つほど錬金をしてみたけど、なかなか要求通りのものが出来ない。うーん。
どちらかの品質を落とそうとすると、もう片方の品質も落ちてしまう。
かといってどちらかの品質を上げると、もう片方の品質も上がる。
完全に連動してるのか……それとも、何か分断する方法があるのか。
ちょっと思いつかないな。
なので、ポーションとしては五級品で毒消し薬としては三級品のものを主材料として、毒消し薬の九級品をマテリアルとして投入、錬金して見る。これで毒消し薬の部分だけちょっと品質落ちてくれたらラッキー程度の考えだ。
ふぁん。
錬金術自体は成功、確認してみると……ふむ、ポーションとしては五級、毒消し薬としては四級。要求された品質できっちり完成した。
ので、お店に向かい、例によってお客さんも居なかったのでお母さんに納品。
「はい。できたよ」
「そう。…………。今週中に、とはお願いしたけれど、今日中にできたのね?」
「何事もやってみるもんだね。ただ、ちょっと気になる事もあったから、これからいくつか実験してみる」
「解ったわ」
というわけで材料を購入、錬金鍋の方へ。
ポーションと毒消し薬を適当にふぁんふぁんと作り、品質を確認。ポーションは四級、毒消し薬は特級。
で、その二つをマテリアルとして錬金術を実行。ポーション、足す、毒消し薬、=、毒消しポーションになったりしないかな?
ふぁん。
あ、何か出来た。見た感じ毒消しポーションっぽいな。
表しの指輪に垂らして品質を確認……ポーションとしては四級品、毒消し薬としては特級品らしい。
…………。
最初からこっちを思いついてれば楽できたなぁ……。
「はあ……」
まあ、いいや。
微妙に材料が違うし。
まず、直接作る場合は何度もやった通り、薬草、毒薬、水の三つが必要だ。
けれど毒消し薬とポーションから作る場合は、それらの材料は合わせて薬草、毒薬、薬草、水である。
つまり薬草が一個余分にかかる。
…………。
うん?
もしかして、と、薬草二つと毒薬、水で錬金をしてみることに。
ふぁん。
で、当然のように毒消しポーションっぽいものはできたんだけど……あれ?
「なんか、違う……」
主に色が。
普通の毒消しポーションはほぼ無色透明なんだけど、今作ったものはほんの僅かに青色っぽい。まあ、並べてみないと分かんない程度の差ではあるけど……。
一滴垂らして品質を確認……、確認……、あれ?
表しの指輪に何も表示されない?
「…………?」
別の毒消しポーションを垂らしてみると、普通に表示される。表しの指輪が壊れたわけではないようだ。
つまり、毒消しポーション……じゃないってことかな?
本日何度目だろうか、とりあえず店に向かい、暇そうにしているお母さんにすっと差し出してみる。
「ねえ、お母さん」
「今度はどうしたの?」
「なんか良く分かんないのが出来たんだけど……」
「また……?」
また、と頷く。
お母さんはやれやれと軽く頭を振ってからポーションを受け取り、光にかざして、あれ、と首を傾げる。
その後、一点手のひらに垂らすと、うん、とお母さんは頷いた。
「これは……」
「知ってる?」
「…………、知っていると言えば、知っている……のかしら?」
うん?
「いえ、これの『完成形』なら、何度か見たことがあるってだけよ。残念ながらこれはかなり品質が低いけれど。よく作れたわね」
「え? ……それ、何てアイテムなの?」
「エリクシル」
えりくしる?
「エリクサー、とも呼ばれるわね。特級品ならば、万病と万毒、万傷を癒す究極の回復薬と言えるわ。もっとも、特級品は透き通るような青色が特徴で、これは大分色が薄いから、……良くて八級、恐らくは九級品の、『とりあえず完成はしたけど』という代物ね。これでもある程度の怪我は治せて、毒も消せて、病も癒せるでしょうけれど」
え……エリクサー!? 全回復アイテムじゃん!
でも、それってそんな簡単に作れるものなの?
いやだって、マテリアル自体はすごい簡単だったしな。特にこれと言って特別なものは使ってないし。
「何をマテリアルとして使ったのかは解らないけれど、思考錯誤してみなさい。完成したと言う事は、最低限のマテリアルはそれで正解ということよ。そこに何かを追加するか、比率を変えることで品質を上げて行きなさい」
「うん。色々やってみる」




