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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 積み重ねるべきは
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19 - 旅のしおり

 行動計画書が完成した、と告げる騎士さんが訪れたのは、予約をしてから三週間後だった。

 予定よりもちょっと早いが、その理由が僕には解っていた。

 ……いやね、というか、お母さんが結構やらかしてたことが判明していたのだ。

 僕が生まれる前の話なんだけど、三回ほどお母さんが原因で、駐屯地は更地になったらしい。

 なお、お母さんに言わせると、

『悪いのは私じゃないわ。騎士の方よ?』

 だそうだけれど、うん。まあ、お母さんだしな。それで納得しておこう。

 ともあれ、行動計画書が届いたと言う事で、僕はお母さんの許可を貰って、そのまま騎士さんに付いて行き、駐屯地へ。

 なんとなく視線に怯えが見えている。あれ?

 僕は何もしてないよね?

 ……まだ。

「やあ、カナエくん。行動計画書が今日、届いた」

「はい。知らせてくれてありがとうございます。早くて助かりました」

「そうかい。……それは、よかった」

 心の底から安心するような声で騎士さんが言う。え、何?

 まあいいや。

 机の上に置かれた行動計画書を手にとって、とりあえず斜め読み。

 表紙は行動計画書、作成日時、作成者の署名……ふむ。

 親書扱いらしく、蝋で封印がされている。

「これ、中身見ても良いんですか?」

「ああ。ちなみに私たちはまだ見ていない。それは一応、機密情報に属するからね。無論、君が私たちに見せてくれると言うならば話は別だが」

 そう言う事か。

 とりあえず中身を確認してみる……行動計画書は、大きく四つのセクションからなっているようだ。

 一、行動のルートと日程。

 二、行動に伴う物の紹介。

 三、実際に行動を行う人員。

 四、状況別の考えられるトラブルへの対処法。

 まず、行動のルートと日程について。まあ、最も重要な点と言っても良いかもしれない。出発は四月二日、到着は四月二十日だから、日程としては十八日。

 ちょっと長めにとっているのは、豪雨などを考慮した結果だそうだ。なお、試験は五月三日に始るから、四月二十日に付くとなると二週間ほど首都で宿暮らしとなる。まあ、なんとかなるだろう。

 次に、行動に伴う物、というのはつまり馬車や馬についての話だ。馬車は幌馬車……えっと、屋根付きの馬車のことだ、これを二台使うらしい。

 何で? と思えば、一台は護衛と水や食料を運ぶためなんだとか。で、もう一台の荷台は客、つまり僕の貸し切り。資料を読む限り、かなり大きい馬車のようだ。ベッドも置かれているらしいけど、移動中は流石に眠れない気がする。揺れそうだし。

 食料や水の量についてもここで触れられていて、途中二回、大きな街で補給を行うらしいが、何らかの理由で街による事が出来ない場合でも日程通りならば到着まで不足ない量が用意されている、模様だ。少なくとも僕についてはそう。ただしその場合、御者さんとか護衛さんは現地調達をすることになる。可哀そうだけどこれが客と仕事の違いらしい。

 三つ目、実際に行動を行う人員。御者さんと護衛役のことだ。どちらも経歴が載せられていて、不満があれば変更可能だという。軽く読んだ感じ、御者さんに問題は無い。熟練といって良いだろうし。

 一方で護衛役は、ちょっと驚きな名前が乗っていた。いつぞやに訪れたことのあるアルさんとジーナさんだ。この二人については賃金や食料などの経費が発生しないらしい。これは国立学校側からのリクエストで、是非僕の旅に同行させたい、んだとか。ふうん。もちろん、その二人はまだ学生なので、本職の騎士さんが二名、護衛に付く。それぞれそこそこ腕が立つ人らしいし、心配はいらないだろう。

 最後、トラブルへの対処法。

 いくつかの状況に分けて考えられていて、たとえば道が寸断されている場合の対処法や、盗賊団と遭遇した場合の対処法などが記されている。基本的に僕は馬車で大人しくしていればいい、ようだ。異議なし。

 これで全部かな?

 と思ったら、本編というか、行動計画書自体は終わっていたのだけれど、手紙が一枚、そして封筒がひとつ挟まれていた。

 封筒はなぜか、宛先がジーナさんになっているだけで、空っぽだ。

 手紙の方はあて名は僕、差出人は……ジーナさんか。

 曰く、今回の予約が僕からされたということを同級生だった新米騎士との伝手で聞きつけたアルさんがジーナさんに相談、僕と一緒に行動したいと志願した。

 僕が嫌だと言うならば引きさがるけど、もし良かったら一緒に旅をさせてほしい。その分の費用は学校が出してくれるから。そんな感じの内容だ。

 断る理由は無いな。

 で、良しとしてくれるならばその旨を、この手紙と同封した封筒に入れて返事として出してくれ、と。

 ふむ?

「すみません。ペンを借りても良いですか?」

「ああ。どうぞ」

「ありがとう」

 幸い、紙はメモ用に結構持ち歩いている僕である。

 事情を了承した事、そして歓迎する旨と、サインをして封筒に入れると、そのまま騎士さんに渡した。

「すみません。この手紙を出したいのですけど」

「うん? わかった」

 ちなみに手紙の配達は騎士さんのお仕事なので、問題は無い。

「それで、行動計画書で解らない点とか、あったかい?」

「いえ、解りやすく書いてあったので。手続き、ありがとうございました」

「ああ。いや、それならばいいんだ」

 じゃ、こんなもんか。

 僕は挨拶をして駐屯地を去る。結局、騎士さんに行動計画書は見せない方針にした。

 秘密というわけじゃないけど……警戒はしておいて損が無いだろうし。

 結局、騎士さん達も無理に中身を見ようとはしなかったしな。

 それは遠慮と言うより、お母さんに対する畏れなんだろうけども……。

 で、お店に戻り、お客さんが居なかったので事の次第をお母さんに報告。

「ふうん。アルとジーナが……、良く許可が下りたわね」

「あ、やっぱり普通は駄目なの?」

「そうねえ。珍しいケース……に、違いは無いんじゃないかしら。何か、動きがあったのかもね」

 動き?

 僕の周りに何か、事件の兆しでもあったのかな?

「ああ、いや。ごめんなさい、言い方が悪かったわ。事件の種が見つかったから……じゃなくて、単にあなたの名前が既に学校で流れてるんじゃないかってことよ」

「へ?」

 なんで?

「僕まだ、試験を受けるよ! とは言ったけど、書類も出して無いよね?」

「そうね。そろそろ書類は書いて郵送しないといけないわ」

「じゃあ、なんで?」

「決定打になったのは私の師匠……イスカの証言でしょうね」

 イスカさん?

「その前の段階で、既にアルとジーナの二人があなたの名前を学校に報告していた可能性もあるわ。『有望株』としてね。もちろん、その段階では学校はさほど興味を示さなかったでしょうけど、イスカも同じく報告した……だから、あなたの名前が浮いている。そんな状況だと思うわ」

「…………? あれ? イスカさんって、学校に関係してるの?」

「してるもなにも、専門課程の錬金術コースの学長よ」

 学長……って、校長先生的な?

 うわあ、超お偉いさんじゃん。なんでそんな人が。

 いや、お母さんの師匠だからか。

 …………。

 あれ?

「今更だけど、お母さんって国立学校いってないよね?」

「ええ。私は学校に行かなかったわよ」

 じゃあなんでイスカさんの弟子なんだろう。

「私は四歳のころから師匠の家で住み込みしてたからね。そのせいよ。学校に行かなかったのは、学校に入っちゃうとイスカの家を離れなきゃいけなかったから……それじゃあ、私が錬金術を学べないでしょう? だから手を抜いて、受験は失敗ってことね」

 なるほど……なのかな?

 でも、四歳からって。

 ある意味エリートじゃん。

「……すごい失礼な事、聞いても良い?」

「場合によるわね。拳骨を覚悟するなら聞いても良いわよ」

「うっ……」

 それはちょっと……いやでも、気になったし、しかたない。

 聞いちゃお。

「なんでお母さんは、お父さんと結婚したの?」

「え?」

「しかも、なんで僕を産んだの?」

「…………」

 お母さんは虚をつかれた、という感じになって。

 暫く黙り、そして噴出した。

 それはもう、大爆笑だった。

 え?

 笑われるような事?

 怒られるならまだ解るんだけど。

「ああ、そうか。いや、ごめんなさい。そういえばカナエは知らなかったのか。……言われてみれば、教えたこと無いものね」

 うん……?

旦那(パパ)はね、今でこそ大工さんだけれど、元はといえば騎士だったのよ?」

「……へ?」

 お父さんが……騎士?

「騎士と言っても、戦闘以外に特化した専門職だったけれどね。築城専門……つまり、お父さんはもともと、砦とかを作る名人だったの。で、材料を探しに師匠の店にきて、お手伝いをしていた私と出会ったってワケ」

「……え? じゃあ、お父さんもお母さんも、この町の生まれじゃないんだ?」

「そうね。私も旦那(パパ)も首都生まれよ。ただ、旦那(パパ)が騎士をやめるってなった時に、首都で暮らすのも不便よねって話になって、この町に越してきたの」

 普通逆だと思う。なんで首都が不便なんだろう。物価かな?

「そうね、物価もあるわ。でも、それ以上に競合店が多すぎたのよ。道具屋さんが、ね」

 ああ、そっちか……。

「それで、この辺境の町には道具屋さんが当時一つしかなかったから、ここに移住したってワケ」

 なるほど。

 …………。

 当時一つしかなかったって、今もここの一つしかないんだけど。

 あれ?

「……お母さん、その話を通す場合、もしかしてこの店って、その一つしかなかった店を乗っ取った?」

「まさか。そんなマネはしないわ。普通の道具屋さんだったし、私がやりたかったのは見ての通り、錬金術師の道具屋さんよ」

 だよね。

 …………。

 つまり、ライバル店を潰したのか……世知辛いなあ……。

おまけ:

母親の言い分「潰しただなんて人聞きが悪いわね。勝手につぶれたのよ。」

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