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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 積み重ねるべきは
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16 - 十四日目の結果

 ただ結果を待つだけと言うのも時間の無駄。

 ということであれから色々と試行錯誤をして見たのだけれど、結局『表しの指輪』の材料は解らずじまいだった。

 ていうか、試すたびに特級品のポーションが必要というのが頂けない。全く、特級品の毒消し薬を売ったお金が無いとやっていけないじゃないか。

 で、ふと気付いたことがある。そう、『表しの指輪:毒消し薬』の存在だ。

 名前や性能からして、ポーションを毒消し薬に置き換えれば行けるんじゃないかとの推測である。

 僕は毒消し薬の特級品ならば作れるのだ。九級品を作るほうが大変だったけど、その辺に落ちてた小石や砂利を混ぜたり毒薬の量を削ったりすることでなんとか成功。

 その事をお母さんに言ったら、

『思考錯誤する方向が逆なんだけど……』

 と頭を抱えられた。仕方ないじゃん。必要なんだから。

 で、毒消し薬のストックは大量に用意したので、次に指輪の確保について。

 考えて見れば指輪も錬金術で作れるんじゃない?

 と発想し、銀の板と小粒な安い宝石を購入。

 小粒な安い宝石は複数を錬金して大きめの宝石に変化させ、その次に銀の指輪と大きめの宝石で錬金して石付きの指輪が完成。

 この結果、これまで指輪一つを調達するのに金貨一枚を掛けていたものが、銀貨十九枚にまで減った。

 いやあ、何事もトライが重要ということらしい。

 とまあ、そんなわけで最低限には届いていないが、必要なものである『指輪』『特級品の毒消し薬』『九級品の毒消し薬』は量産体制が整ったのである。

 更に、これらの作業をしていて気付いたんだけど、錬金術と魔法、すごい相性が良い。

 いやほら、錬金術って集中しないと出来ないんだよね。で、集中すると魔力が溜まる。だから、錬金術を一回するだけで結構な魔力が溜まるのだ。僕の感覚で言えば、毒消し薬を一個作るたびに、紙の面積が百平方メートルくらい広がる感じ。

 それで具体的にどの程度の魔法が使えるの?

 という件については、今のところ僕がまともに効果を出す事ができて、かつ最も魔力を消費するものが要求する面積が八十平方メートルだから、錬金術一回でおつりがくるというわけだ。

 相乗効果って奴だろうか。

 まあ、単純に僕の体質が『魔力が溜まりやすい』方だっただけという可能性が高いが、それならばそれで問題は無かったりする。

 閑話休題、『表しの指輪:毒消し薬』のマテリアル候補として、他にもいくつか怪しげなアイテムをお店で仕入れてみた。

 いくつか、というのは、定規、秤、分銅、時計だ。

 で、錬金術は『余計なものが入っていても、必要最低限が入っていればとりあえず完成はする』ので、全部投入。

 ふぃんっ、

 という方の音がして、とりあえず完成。音の違いは何か意味があるのかな?

 指輪の形状に変化は無し……毒消し薬を垂らしてみて、反応はっと。

 …………。

 あ、石に0って出てきた。

 これはもしかして、もしかしちゃう?

 成功しちゃう?

 お母さんに見せよう、と思って指輪を手に取ろうとしたら、指輪は粉のように崩れて消えた。

 ええ……。

 どうやら品質がよっぽど低かったか、何か間違っていたか……。

 まあ、使い捨てで良いならば出来たと言うのは大きいな。いやそうでもないか。特級品の毒消し薬使うわけだし。

 うーむ。

 思考錯誤にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 崩れるってことは強度に問題がある、のかな。

 ならば強度を補強できるようなマテリアルを混ぜるか、あるいは強度が変わりにくくするものを用意するか……。

 品質の安定化もやらないといけないならば、結構混ぜるべきマテリアルの姿は見えてくるんじゃないかな。

 品質が変わらないと言えばやっぱり薬草だろう。

 というわけで薬草を投入、ふぃんっ。

 指輪はとりあえず出来たので、毒消し薬を垂らす。また0と表示された。

 のは良いのだが、また粉のように崩れて消える。うーむ。

 何かこう、問答無用で品質を整えるようなマテリアルがあるなら、この方向で良さそうなんだけど……。

 これといって思いつかないしな。

 ならば、強度を補強する方向……。頑丈なもの。

 頑丈かあ。やっぱり金属?

 ならば鉄でも混ぜてみる?

 鉄くず買ってこよう。


 思考錯誤は何日も続き、十四日も経過したと言うのに、結局使い捨てのものしか作れなかった。

 いや、頑丈なら良いかといえば、たぶん違う。これは解った。

 確かに頑丈には作れたんだけど、一度使うと粉のように崩れて消える。そこには頑丈さとかが関係しているとは思えない。

 となると、やっぱり品質が低いから……か?

 なんて思って、色々と比率を弄ったりもしたけど、これもあんまり効果無し。

 具体的には粉が砂になる程度で、結局は消えて無くなるのである。

 つまり、ゲーム的には使い捨てアイテムでしかないのだ。

 それを連続して使えるようにするためのマテリアルが必要だ。

 何度も使える。

 うーん。

 それこそ、表しの指輪か……?

 でも、表しの指輪を作るのに表しの指輪を使うって、色々と本末転倒……、ああ、いや、そうか。

 一度しか使えない表しの指輪をまず作って、それをマテリアルとして追加するとか。

 思い立ったのでやってみる。

 ふぃんっ、の方の音がして、無事完成。

 指輪は二つになったりせずに、やっぱり一つのままだった。

 で、毒消し薬を垂らしてみる。

 0、と表示されて……あ、やっぱり崩れた。

 そうそう上手くはいかないか。

 ていうか、ポーションで作ったやつとこれ、なんか違くない?

 ポーションで『表しの指輪』を作ろうとした結果出来たものは、何度ポーションを垂らしても壊れたりしなかったわけで。

 うーん。

 そっちの指輪がおかしいのか、こっちの指輪かがおかしいのか……。

 訳が解らん。

 僕はとりあえず店の様子を窺うと、お母さんは暇そうにしていた。お客さんは居ないようだ。

「お母さん」

「あら。何か出来た?」

「ううん。逆。なんにも出来ない……。気晴らしに走ってくるね」

「解ったわ。気をつけなさい」

 許可を貰ったので、僕は店から外に出る。

 太陽はまだ高く、お昼過ぎ。

 ちょっと走るには早すぎるけど、まあ、良いか。


 町を一周走り終えて店に戻ると、店の前には見慣れない馬車が止まっていた。

 その馬車の車には紋章が刻まれていて、どっかのお偉いさんだか何かなのかもしれない。

 お母さん的には上客かな?

 でもお客さんが居るなら、お店の方から入るのもな。

 僕はそう考えて、裏口から静かに入る。

 裏口を開け、錬金鍋のある方の部屋に向かうと、そこにはお母さんと知らない男の人が居て、知らない男の人はお母さんに詰め寄っていた。

 これは……、

「強盗? 騎士さん呼んでくる! お母さんちょっと待ってて!」

「待て」

 いや、待てと言われて待つ奴は居ないと思うけど。

「待ちなさいカナエ。勘違いだから、それ」

 あ、そっちの待ては当然聞くよ。お母さんの言いつけだし。

 しかし、と僕は首を傾げる。この人誰だろう。

「じゃあ、この人はどなたなんですか? まさかお母さん、不倫……? 確かにお父さんは最近お仕事忙しいけれど、だからといって愛人はちょっと、息子としてはやめてもらいたいなあって。家庭がぎくしゃくするし……」

「色々と待ちなさい。どこでそんな言葉を覚えてきたのよ」

 どこって、昼ドラとかでだけれど。

 熱を出して学校を休んだ日にこっそり見て、訳が解らん、ってなってたなあ、懐かしい。

「なあ、サシェ。この気の抜ける感じのやり取り。まさに君の息子かね?」

「ええ、その通りよ、師匠」

 師匠?

 …………。

 ああ、お母さんの錬金術の師匠さんか。

「挨拶なさい、カナエ」

「…………? 僕は、カナエ・リバーです」

「うん。だろうな。私はイスカ・タイムと言う。君のお母さん、サシェに錬金術を教えた者だ」

 ふうん……?

 お母さんが否定しない所を見ると、それは本当なんだろうけど、だとしたらおかしいよね。

 凄い忙しい人って話だったんだけど。

「私はサシェから鑑定を依頼されてね。それが錬金術によって作られたものであること……そして、それを作ったのはサシェの息子であること。最後にそれが何なのかを調べてほしいと、そういう手紙だった。まあ、解りにくいかもしれないが」

「えっと……、タイムさん、は」

「ああ、私の事はイスカと呼んでくれ。苗字の方は私の血縁が使っていてね、紛らわしいのだ」

「じゃあ、イスカさん、は、えっと、忙しい人だと聞いていたんですけど」

 師匠さんことイスカさんは頷く。

「忙しい事は忙しいがね。だが、物事の優先順位はわきまえているつもりだ」

 ならば尚更、なんで今ここに居るんだろう。お仕事の方を優先すればいいのに。

「結論から言おう。カナエくん。君が作ったこの指輪だが……登録名称は『生命の指輪』と言う」

 『生命の指輪』?

 ていうか、登録名称って何?

 結局聞きそびれてたな。

「えっと。登録名称って何ですか?」

「……サシェ、教えてないのかい?」

「だって私、教科書なんて持ってないわよ?」

「…………」

 え? 教科書あるの?

「待て。だとしたら、どうやってこの子は錬金術を成功させたんだ」

「感覚でとりあえずやってみなさいって言った日から数えて、二日くらいでポーションを作ってたわ」

「え?」

 え?

 イスカさんの表情が面白い事になっている。笑ってるんだけど笑ってない。あれは絶対怒ってる感じだ。

「……まあ、何だ。少なくともカナエくん。君は悪くない。だから、あとでサシェを叱るとして……、まず、カナエくんの疑問に答えてあげよう。登録名称というのは、あらゆる『もの』の名前を記した図鑑に記載されている名前のことだ」

 学名……じゃないにしても、図鑑に登録してある名前、みたいなものかな?

 同じモノを指して別の名前が付いてたりすることもあるから、それを避けるためのものって感じか。

「じゃあ、『生命の指輪』って、何ですか?」

「魔法の効果が錬金された指輪、というのは、種類に富んでいてね……これ、『生命の指輪』は、『病を調べる』という恐るべき効果を持つ。病に罹った者に使う事で、それを癒すためにはどのような薬が必要か……みたいな事までを、教えてくれるわけだな」

 なるほど、診察をしてくれる指輪か。医者の指輪的な。

 しかも処方箋まで出してくれると。便利だな。

「それで、だ。カナエくん。重要な話をしよう。すこし難しい話になるが……まあ、我慢して聞いてくれ。できるだけ簡単な言葉を使うからね」

「はい……わかりました」

「この『生命の指輪』は、現時点でこの国に存在する一人前の錬金術師、百三十七人の内、一人でさえも作ることが出来ない、『過去の錬金術師が何かの間違いで完成させたけど、その一例しか完成例が存在しない』もの――俗に『唯一品(ユニーク)』、もしくは『喪失品(ロスト)』と呼ばれるものなんだ」

 つまり、超貴重品ということだろうか……。

「そこで、カナエくん。折り入って相談がある。大事なお願いだ。この指輪を作るマテリアルを教えてくれないかい?」

 マテリアルを……?

 それは、調べればわかると思うけど。

「もちろん、対価は十分に支払う。それに、必要なマテリアルを教えてくれたとしても、錬金術の研究以外の目的でこれを錬金することはしないと約束するし、そのマテリアルは誰にも教えないという契約をしても良い。どうだろう、錬金術の発展のために、教えてはくれないだろうか?」

 んー……?

 お母さんに視線を送ってみると、いつもは何らかの意思をつたえてくれるお母さんが、今回は特に無反応。

 自分で考えろ、と言う事だろうか。

 うーん……。

「表しの指輪の作り方とか、僕が知らない事を教えてくれますか?」

「構わんとも」

 なら、断る理由は無いか。

「良いですよ」

 僕は錬金鍋の方に向かいつつ答える。

「使うマテリアルと、手順は――」

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