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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 積み重ねるべきは
15/125

15 - 七日の成果と錬金術

 約束していた七日間はあっという間に過ぎ、ついにアルさんとジーナさんは学校に戻ることになった。

 帰りは馬車を使うらしい。二人は丁寧に挨拶をして、普通に帰って行ってしまったので、僕としては大分拍子抜けと言う感じだ。

 そんなこんなで、店番中。

 既に今日のノルマとしての毒消し薬は錬金済みで、相も変わらず『ちまちま』と、しかし莫大な量の稼ぎがあったりする。

 まあ、それはそれ。

 アルさんにもらった剣は、お母さん曰く『大分上質な剣』で、『鍛冶屋が作ったちゃんとしたもの』らしい。

 で、お父さん曰く、『その剣を作った奴はかなりの腕前』で、『かなりの高級品』なんだとか。

 そんな大したものを貰っても、暫く僕が使える目は無いから、部屋の隅に置いてあるんだけどね。

 いつか振りまわせるようになればいいなあ。

 振りまわす、と言えば、結局アルさんは僕に剣術を教えてくれなかった。

 なんでも、まだそれを習うには早すぎる……らしい。

 実際、僕の身体は決して筋肉質というわけではない。まだ早い、の意味は解らないでもないし、納得しておくことにした。

 で、その七日間を経て日課が二つ増えている。

 具体的には朝と夕方の二回、町を一周走る。これが一つ目。

 もう一つは寝る前の、魔法の練習だ。

 魔法に何ができて、何が出来ないのか。突き詰めるならば『発想と連想』の限界こそが魔法の限界であると、ジーナさんは僕に助言をくれた。

 だから、というか、なんというか。

 まあ、それ以上に好奇心として、魔法に何が出来るのかを確認している感じだ。

 今のところ、攻撃魔法っぽいものは威力はともかく、普通に使えている。魔法と言えば攻撃、と回復、ということで、回復魔法も頑張ってみたんだけど、これはちょっと微妙。

 いや、発動はしてるんだけど、実際に効果があるかどうかを確かめるためには当然、怪我をしなければならない。

 何が悲しくて自分で自分を殴る意味があるのだろう。というわけで、実践したことがないわけだ。まあたぶん効果はあるだろう。たぶん。

 でもって、補助魔法とかもちょっと考えてみた。ほら、防御力アップ! とか。

 が、これがまた難しい。

 いやだって、防御力ってそもそも何? って話なのだ。

 鎧を着てれば鎧が丈夫になるとか……なんだろうし、ならば鎧を着ていない状態、服だけならば、服が丈夫になるって魔法だろうかと連想して使ってみたら、まあ、一応発動はした。

 で、服が凄い硬くなった。そしたら動き難いのなんの。食い込んで痛いし。

 肌が硬くなるって連想してたらあれだね、下手すると石になってたかもしれない。危ないところだった。

 逆に、攻撃力アップはまだマシだった。

 要するに攻撃力というのは力の強さだ。だから、単に力を強化する魔法として考えれば良い。

 ちなみに、この力を強くする魔法を使っている状態ならば、剣の持ち運びは余裕になった。流石に振りまわすまではいかないけど……。

 最後に、便利系魔法について。

 一番最初に使った光源を作る魔法とかもこれに入るんだけど、意外と思いつく幅が少ない。

 それでも真っ先に試したのは、錬金術で作ったものの品質を顕す……とかなんだけど、これは成功しなかった。

 まだ僕が知らない何かがあるのか、あるいは単に魔力が足りないのか。後者の可能性も大いにあり得るので、今後も要研究といったところだろうか……。

「カナエ、お疲れ様」

 と。

 ぐーたらと店番をしていると、お母さんが店の方に戻って来た。

 どうやらお母さんの用事は終わったらしい。

「もういいの?」

「ええ。助かったわ、ありがとう」

 というわけで店番交代。

 結局今日はお客さん無し。

 …………。

 忙しい日は忙しいんだけどね。今日は暇な日らしい。

「そうだ。お母さん、錬金術で、魔法をマテリアルにできる……って言ってたよね」

「ええ」

「何か、それで作ったものの見本とかないかな?」

「それなら、あなたが首から下げてるじゃない」

 うん?

「それよ」

 と、お母さんが指差したのは、ネックレスに通した『表しの指輪』だった。

 ああ、そっか。これ、やっぱり魔法絡んでるんだ。

「材料は……、どうかしら。ヒント、いる?」

「んー……、自分で考える、って言いたいところだけど」

 普段のお母さんならそもそも聞いてこない……よね。

 なのに敢えて聞いてきてるってことは、僕が知りえない材料か、よほどの思考錯誤が必要ってことか。

 それはそれで燃えるけど、ふむ。それを作って目標達成、ってわけじゃないんだよね。

「じゃあ、僕が知らなさそうな事だけ教えて」

「良い答えね。……あなたに教えていないマテリアルの選び方に、『同別の法則』と言うものがあるわ」

「なにそれ?」

「『同じ』だけれど『別の』ものを混ぜるのよ」

 …………?

「表しの指輪だと、特級品と九級品の『ポーション』を使うのよ」

「同別……って、『同じもの』の、『別の品質』ってこと?」

「そう」

 なるほど。

 ……んー。

「あとは自分で考えてみなさい」

「うん。……ありがとう」

「ええ。頑張って」

 というわけで、錬金鍋の前へ。

 特級品のポーションはこの前、お母さんから買ったものが三つあるからそれでいいし、九級品のポーションは自分で作れる。水の量を極限まで減らしてやれば簡単に作れるんだよね。

 で、いざ錬金鍋の前に立って改めて考える。

 特級品と九級品のポーションって、たぶん錬金したら五級品か四級品か、そのあたりのポーションになる、はずだ。

 それなら最初から五級品、もしくは四級品あたりのポーションを使えば良さそうにも見える。

 でも、お母さんは敢えてその二つを要求したし、『同別の法則』などという言葉も出してきた。

 法則として名前まで付いていると言う事は、何か意味があると言う事だ。

 素直に考えるならば……何かなあ。

 基準?

 それが品質を調べるためのものとして作る以上、品質の一番下と一番上を基準として設定しなければならない、とか。

 で、指輪なんだから当然指輪も材料だよね。

 だから指輪、足す、九級品のポーション、足す、特級品のポーション……が最低値。

 同じく、魔法が絡んでることも確定……どんな魔法かは不明だけど、お母さんはその点については何も言わなかった。

 つまり、今の僕でも発想できる事、のはずだ。お母さんがうっかりやでない限りは。

 品質を調べる魔法は成功しなかった。

 成功しなかったが、発動した、はずだ。たぶん効果としての連想が足りなかったんだと思ってたけど……。

 うーん。まあ、一度試してみるか。最低でも三回まではチャレンジ可能だし。

 とりあえず九級品のポーションを作成、無事完成。

 石付きの指輪をお店で購入して、改めて錬金鍋の前に戻り、マテリアルとして指輪、九級品のポーション、特級品のポーションを投入、最後に『品質を顕す魔法』を行使してマテリアルとして認識、『表しの指輪』という完成品を想像し……、


 ふぃんっ。


 と、いつもと違う音がして、何かが完成した。

 錬金鍋の中には、投入した指輪だけが残っている。はて?

 とりあえず拾い上げてみる。指輪は……あれ?

 これ何か、色々と違う……?

 少なくとも示しの指輪とは違うんだけど、何だろう。

 困った時は、

「お母さーん」

 というわけで。

 お店のほうに戻り、暇そうにしていたお母さんに出来上がったものを渡してみる。

「こんなのが出来たんだけど、何かわかる?」

「…………」

 呆れと憐れみが混ざり合った視線が帰って来た。

 いやでも、他に聞く人居ないし……。

 結局、お母さんは指輪の鑑定を開始。

 途中、ポーションや毒消し薬などを垂らしたりもしつつ、「あら?」とお母さんは首を傾げた。

 やっぱり何かがおかしいらしい。

「……この指輪」

「うん」

「何かの効果が付与されてるのは間違いないのよ。……でも、その効果が解らないわね」

 お母さんにも解らないのか……。

「じゃあ、失敗作?」

 僕が呟くと、「いえ」とお母さんは首を横に振った。

「こうして指輪が完成している以上、完全な失敗ではないわね。品質が低い……というのは、あるかもしれないけれど」

 品質が低い……か。

「だとしても、これは『表しの指輪』ではないわ。最低品質の『表しの指輪』も何度か見ているけれど、それとは違うもの」

 あれ、じゃあ何が出来たんだろう。

「あなた、何をマテリアルにしたの?」

「えっと、指輪と九級品と特級品のポーション、あとは魔法を入れただけだけども」

「魔法……、何の魔法?」

「品質を調べる魔法だよ。でも、僕の感覚からしてその魔法自体は発動してるんだけど、効果が全然見えなくて……まあ、ものは試しにってやってみたの」

「そう。その材料だとどのみち表しの指輪は作れないわね」

 あ、材料足りてなかったのか。

 ……じゃあ、なんで完成したんだ?

「うーん……。ねえ、カナエ。もしあなたが良ければだけれど、この指輪、私の師匠に送って調べてもらうというのはどうかしら」

「お母さんの師匠……って、でも、忙しいんでしょ?」

「まあね。でも、『未知のアイテムを調べる』のが好きだから、多分早めにやってくれると思うわ。対価は……、まあ、この現物を進呈することになるでしょうけども」

 なるほど。

 …………。

「じゃあ、ちょっと待って。もう一個作ってみて、同じようなのが作れたら、それでお願いしてくれる? 再現できなかったら……とりあえず、持っとくことにする」

「良いわよ。やってきなさい」

「うん」

 結論から言えば、たぶん同じっぽい、というものが再現できたので、指輪はお母さんがその日のうちに、速達便を使って鑑定の依頼を出してくれた。師匠さんの手元には早ければ一週間で着くらしい。

 で、せっかくなので、再現したほうの指輪は表しの指輪と一緒にネックレスに通して、首から下げておくことにした。

 しかし、送るのに一週間か。

 その日の内に鑑定してくれて、その日のうちに同じように答えを送ってくれても、結論が出るのは二週間後……。

 気の長い話だなあ。

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