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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 積み重ねるべきは
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13 - 魔法とは発想と連想であるらしい

 翌日、朝御飯を食べ終えて直ぐに指定された場所へと向かうと、既にジーナさんがスタンバイしていた。

 少し待たせてしまったらしい。

 だが、特に不満を言う事もなく、ジーナさんはそのまま僕を、またあの運動場へと案内した。

「今日、アルさんは居ないんですか?」

「ええ。アルは魔法が苦手なのよ」

 なるほど。

 でもわざわざ運動場に移動したってことは、魔法って結構危険なのか?

「さてと。じゃあ、魔法について簡単に教えてあげる……んだけど、そもそもあなたは、魔法で何が出来るのかは知っている?」

 さて、ゲーム的には……いや、ここは、

「知りません」

 正直に答えると、そうでしょうね、とジーナさんは頷いた。

「魔法とは『発想と連想』よ。例えば、『燃え盛る火の矢があればいいのに』という発想。それに対して連想するのは、例えば『熱い』『やけど』『矢』『追尾』とか、そう言う事ね」

 ん……、つまり、

「魔法の形を最初に『発想』して、その形に合わせて効果を『連想』する?」

「呑み込みが早いわね。その通りよ」

 効果を積み重ねることで結果としての魔法が発生するのではなく、結果としての形から効果を逆算する……感じ。

 だから、錬金術とは逆なのかな。錬金術はマテリアルの足し算をして、その答えが解ると発動するわけだけど、魔法は答えが先に合って、そこに(イコール)で釣り合うような式を作る、と。

 要するに、錬金術は1+1=2という式を頭に浮かべてやるならば、魔法は2=1+1……。

 ……いや、何か違うな。錬金術は元に戻せないっぽいし、=、ではないのか?

 うーん。適切な表現が解んないや。

「それを踏まえて、魔法の発動条件についてなんだけど……、そもそも、あなたは魔力と言うものを知っているのかしら?」

 魔力!

 やっぱりあるのか。

 でもどんなのかは知らないな。

「知りません」

「なら、そこから説明を始めるわ。と言っても、ものすごく簡単よ」

 簡単?

「魔力とはね。『集中力』とほとんど同じなの」

 集中力……、か。

「たとえば、本を読んでいる時。たとえば、ご飯を食べている時。それに集中する事があるわね。何かをしているせいで、別の何かに気付けない……とか、そういう時のことよ。それは、集中しているという状態に他ならないわ。そして……魔力と言うのは、その『集中』をしている間に溜まって行く、精神的な力を指すわ」

 ん……?

「それは、何に集中していてもいいんですか?」

「ええ。だから、本をしっかりと読めばそれだけで魔力は溜まるし、ご飯を食べることに集中していても魔力は溜まるの。溜まって行く魔力は、人によって多寡がある……簡単に言えば、才能によって、魔力が溜まる速度が違うってことになるわ」

 ふうむ……。

 これはゲーム的に考えたほうが良いな。

 全てのキャラクターはターンごとに魔力が回復する。

 但しキャラクターによって回復する量には差が違って、多いキャラも居れば少ないキャラも居る、と。

「……質問、しても良いですか?」

「ええ」

「何に集中しても良い、って言ってましたけれど、ならば、『集中する事に集中する』……のは、ありですか?」

「あなた、本当に筋が良いわねえ。大ありよ。というか、それは真理ね。魔力がたまる速度が生まれつき遅くても、『集中する事に集中』するという行為を極めたことで、『大魔法使い』と呼ばれるまでになった人物も居るわ。ちなみに、それはコンセントレイト、という名前も付いた技術だったりもするわ」

 なるほど。

「溜まった魔力は、使わない限りずっと残るんですか? それとも、何かをすると消えちゃう……とか」

「後者が近いわね。基本的に魔力は『起きている間に溜まって』、『寝ると消える』の。だから、魔法をメインに使うような人たちは、目が覚めたらコンセントレイトで一定量の魔力を確保する場合が多いわ。魔力が無いと魔法が使えないからね」

 ふうむ。

 ゲーム的には寝るとむしろ魔力は回復するのが多いと思うんだけど……。

 消えちゃうのか。

 一日に使える魔力の量はどうしても限界があるな。

 例えば一日くらいならば寝ないで頑張れるかもしれないけど、徹夜をすると集中力は落ちるはずだ。つまり、新たに魔力を溜めることが難しい。

 結局のところ、魔力を最大限に使うためには定期的な休息が必要になる、と……。

「さて、集中によって魔力が溜まる事は解ったわね。ならば、その溜めた魔力はどうやれば使えるのか……なのだけれど、そのためには自分の中にある魔力を認識しないといけないの」

「魔力を認識……、って、何をすれば認識できるんですか?」

「それは、その人によるわ。ただ……例えば、私にとっての魔力の感覚は、身体の中に溜まっている水。だけれど、アルは身体の中の熱だと言っているし、私の先生は身体の中の寒気だと言っていたわね。つまり、『身体の中にある、よくわからない感覚』を探せばいいの」

 よくわからない感覚を探せ……、なんだろう、哲学的な感じがする。

「いくつかあたりを付けて、集中して、その感覚が増えていればそれが魔力よ。解りやすいでしょ?」

 まあ……、そうなのかな……?

「魔力を認識したら、魔法は使えるんですか?」

「もう一段階必要よ。魔力を認識出来たら、次に魔力をどうやって使うかをイメージしないと駄目」

 どうやって使うか……も、人に寄るのか。

「私はその点、とても簡単だったわ。何せ身体の中に溜まっている水、それが私にとっての魔力のイメージだったから、それを掬ったり零したりするイメージをするだけで、魔力を使えたのよ。で、魔力を使った時に『発想と連想』をして、必要な分だけ魔力を消費しきれば、無事に魔法が発動する。そんな感じね」

 う……うーん。

 なんだろう。魔法ってどっちかというと、こう、本とかで勉強するのかなーって思ってたんだけど……そうじゃなくても、もうちょっと解りやすい解説があるのかなと思ってたんだけど。

 実際はとんでもない感覚派だな。

 擬音で説明されてないだけマシか……。

「さて、それじゃあ早速、あなたの中の魔力を認識できるように頑張ってみましょう」

「はい……? えっと、頑張るって具体的にはどうすれば?」

「あなたが頑張るのよ。自分の中にある違和の感覚を、とりあえず探してみなさい」

 いや、とりあえず探してみなさいって……。

 錬金術の時もそうだったけど、なんかあれだな。もうちょっとマニュアル化されていてほしい。

 教科書で大体のことが覚えられて、そうでなくとも探せば大概の事にお勉強用の本があるのって、とっても良いことだったんだなあ。

 ま、無い物ねだりをしても仕方が無い。

 違和の感覚……か。

 自分の中にある、自分のものではない感覚。

 難しいな。

 ちょっと考え方を変えてみよう。集中することで勝手にそれが溜まるならば、つまり、普段から無意識下にそれを保有していると言う事だ。

 だけど、感覚としては違和である、というところがポイントかな?

 つまり普段は無意識下にあること。息をするとか、足を動かすとか、そういう感覚をまずは考えてみる。

 勿論それらは意識して、息をしようとすれば息はできるし、足を動かそうとすれば足は動く。そこに違和感は無いことが多い……だから、そういう意味での感覚では無い。

 逆に言えば、意識をしてしようとした時、何か違うな、という感覚があれば、それが魔力……とか。

 足を動かす、手を動かす、つまり身体を動かすと言うこと。

 何かをしようとすること。何かを知ろうとすること……。

 うーん……?

 ……………………。

 駄目だな、この切り口じゃあ、答えには辿りつけない。そんな気がする。

 ジーナさんは水がイメージだった。アルさんは熱で、ジーナさんの先生は寒気だった。

 それはそう言うものだとジーナさんたちが認識しているだけで、実際にそういう感覚があるのか、それともそう言う感覚だと思い込んでいるのか。

 前者だとしたら時間を掛けて探さないといけない。いつかは見つかるだろうけど、いつ見つかる事やら。

 後者だとしたら……つまり、自分の中にある『魔力』について、具体的な想像をできれば良いのではないか。

 魔法とは『発想と連想』だとジーナさんは言った。

 だから、『魔力』という『発想』に、何かを連想させることで、それを管理しやすくしている……ジーナさんは水を連想する事で、『掬う』や『零す』という更なる連想をしやすくして、魔力を使いやすくしている。だけど、アルさんは熱を連想してしまったから、熱の温度を連想する事は出来ても、切り離す事が苦手……とか。

 もしその考えが近いならば。

「ジーナさん。ヒント代わりに、一つ教えてほしい事があります」

「言ってみて」

「アルさんは魔法が苦手、なんですよね。苦手は苦手でも、『調整が利かない』……か、『調整が利きすぎる』のどっちか、とかじゃないですか?」

「えっと……どういう事?」

「何か特定の魔法を狙って発動する事は苦手だけど、発動してしまえば調整が妙に突きぬけてる……みたいな」

 僕の問いかけを暫く吟味するようにして、ジーナさんは考え込む。

 三十秒程の沈黙を経て、「ああ」、とジーナさんは続けた。

「なるほど。そう来たか。……ええ、確かにあなたの言う通り……ではないけれど、近いわね。アルは魔法が使えないわけじゃない。ただ、発動がどうしても安定しないの。同じ魔法を連続して使う事すら難しい……ただ、発動できれば、魔法の制御はかなり上手な部類ね」

 発動が不安定。発動したら上手。

 つまり……『熱の温度を切り離すイメージがしにくいから、魔法の発動が上手くいかない』けれど、『熱の温度を細かくイメージできるから、発動したら上手』。

 だとしたら……僕が探すべきは違和の感覚じゃあないな。

 それは単なるとっかかり、解りやすい目印に過ぎない。それよりももっと、解りやすい形で『定義』してやればいい。

 しかもこれは、曖昧にではなく無く数値化できる形で定義したほうが、たぶん有利だ。

 例えばゼリー状の物があるとしよう。そしてそれが魔力だと定義した時、ゼリー状のものをどの程度きりわければどの魔法が作れる、と、そう連想できる。けれど、この場合はどうしても毎回同じと言うわけにはいかない。どうせゼリー状のものとして定義するならば、大きさから形から硬さまでを定義しておけば、どこからどこまでを切り取れば良いとそう連想できる。安定するし、上手にできそうだ。

 けれど、ゼリーと言うのは何か、僕のイメージと違うな。より単純で、より解りやすい方が良い。できれば状態も複数あるような……。

「…………。紙」

「うん?」

「紙です。大きな、紙。それが僕の魔力のイメージ……」

 必要な量を面積で、必要な形は切り取り方で、必要な状態を色や質感でそれぞれ表現できるし、重ねる、折る、破るとかの連想も簡単だ。

「魔法は、発想と連想……。魔力を使うイメージを持って、結果を発想して、効果を連想する……」

 頭の中に広げた大きな紙。

 そこから一辺が十センチの正方形を切り出して、それを魔力の消費とする。

 結果としての発想は『無害な光のボール』で、連想は『蛍光灯より暗いけど光ってる、白色、触れる、温度は無い、ふかふか、球体』……。

 ふっ、と。

 僕の身体の中から、何かの一部が消えるような、そんな感覚がして――僕の目の前には、まあるい、発光する綿毛のようなものが顕れていた。

「できた!」

「え?」

 え?

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