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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 積み重ねるべきは
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10 - 来訪者

 僕とお母さん……あるいはお店との間に契約が成立したその日、約束通りの夕方に再び来店したあのお客さんは、特級の毒消し薬を三十個ほど予約して行った。

 来月に取りに来るそうで、前金として金貨三十枚を置いていこうとしていたのだけど、

『もちろん当店としては確保を前提に行動しますが、万が一、ということもあります。ですので、今回は前金をいただきません』

 とお母さんが受け取りを拒否。妥当なところだった。

 で、お客さんは少し嬉しげに帰って行った。まあ、変な博打を打たないで済んだとでも思っているのだろう。

 ちなみにその日のうちに、僕はお母さんからお小遣いとして銀貨四十枚を貰い、その銀貨を使ってお店で薬草と毒薬を一個ずつ購入。

 錬金術で毒消し薬にして、お母さんに提出。

 尚、試験人形の色で階級は大体分かるのだけど、ちょっと不正確である問題がある。

 そこで登場するのが、『表しの指輪:毒消し薬』だ。

 その名の通り、ポーションの階級を数字で表示してくれる表しの指輪の毒消し薬バージョン。

 本来は商品として金貨三百枚で並べていたものなんだけど、丁度良かったのでお店用で使う用にしましょうとお母さんが決断した。

 尚、それの仕入れ値は金貨百五十枚だったらしい。倍じゃそりゃ売れないよねって思ったんだけど、商売の事はわかんないからなあ。

 ともあれ、それまで階級調査に使っていた試験人形の上位互換にあたるツールをお母さんが手に入れたので、試験人形は僕にくれた。

 お店ではお母さんの表しの指輪を使えばいいのだけど、お母さんが居ないときとか接客している時に僕専用で使えるようになったのは大きい。あり難くもらっておくことにした。

 話を戻して、商売として最初に提出した毒消し薬は、無事に特級品だった。特級品の場合は数字が0と表示される。で、特級品だったので、契約通り金貨二枚をゲット。

 と言うわけで、お店で今度は薬草と毒薬を五個ずつ購入、金貨二枚也。

 ふぁん、ふぁん、ふぁん、ふぁん、ふぁんと連続で錬金し、結果は五つ全てが特級品。

 これで金貨十枚をゲット。

 ……ゆくゆくは本当に『金』を作れるようになるのかもしれないけど、今でも『お金』はやればやるほど増えてるから、なんかもうゴールでいい気がしてきた。

 いつまでも毒消し薬が売れるとは限らないので、他の錬金も色々とチャレンジして、いろんな特級品が作れるようになっておかないと後々駄目なんだろうから、頑張るけどね。

 結局、その日は最終的に毒消し薬を二十六個作り、銀貨換算で四千百六十枚の儲けとなった。


 翌日。

 僕はいつものようにベッドの上で目を覚ますと、元々慣れていたけれど、改めて慣れた感じに鏡の前へ。

 今朝も今朝で寝癖がひどい。そんなに僕の寝癖は悪いのだろうか? まあ、考えて見れば毎朝掛け布団が行方不明だけど……いや、行方不明と言っても、精々ベッドから落ちてるだけだけど。

 いつものように寝巻のローブから普段着に着替えて、階段を下りて一階へ。

 そういえば……、服とかも錬金術で作れるんだっけ。材料さえあれば。

 今日試してみようかな。でも服かあ。

 エプロンなら家庭科の授業で作った事があるけど……、えーと、布と、糸と、フェルトと……フェルトってあるのかな?

 羊毛だよね、たぶん。

 結局、その後は普段通り。

 朝御飯を食べてお母さんと一緒にお店に向かうと、毒消し薬の材料を買えるだけ購入。

 で、材料がある分だけふぁん、と錬金して、お客さんも居なかったので完成品をお母さんに丸投げしたら、

「ストップ。待ちなさい。カナエ、いくつ作ったのかしら。なんかすごい……大量に見えるのだけれど」

「薬草百三十個使ってるから、毒消し薬も百三十個だと思う」

「…………」

 お母さんが呆れたような視線で僕を見てきた。

 何故。

「いや。なぜ、みたいな表情だけど、カナエ。あなた、一日に三個とか言ってなかった?」

「それは、毎日最低作る数だよ。日課にしようと思って。それとは別に、沢山作る気力があるなら作ろうかなって」

「そう……」

 大きくため息をついて、お母さんは百三十個の毒消し薬の品質チェックを開始。

 とはいえ、数が数、結構時間がかかりそうだ。

「カナエ。ちょっと店番お願いして良いかしら」

「うん。会計はどうする?」

「特に教えてないはずだけど、まあ、算術は大丈夫みたいだし、やっちゃっていいわよ。ただ、割引とかを求められたら私を呼んで。私は裏で品質の確認をするわ」

「はーい」

 と言うわけでバトンタッチ、僕がカウンターの中へ、お母さんは裏手の錬金鍋のある部屋へ。

 地味に店番を完全に任されるのは初めてだったりする。

 お客さん来るかな?

 来てほしいような、ほしくないような。

 カウンターの中から眺める道具屋の風景、改めて見ると道具屋さんというより雑貨屋さんかな……。

 でもまあ、錬金術師のお店って大体こうなるのかもしれない。

 錬金術、大概のものは作れちゃうし。

 暫くそうして暇をつぶしていること十五分ほど。

 扉が開き、鈴が鳴った。

「いらっしゃいませー」

 とりあえず応対しつつ観察してみると、入って来たのは若い女性と青年の二人組だった。

 兄弟……かな? よく似ている。

 女性の方は軽装にマント。小さな杖を持ってるし、魔法使いかも。

 青年は甲冑にマント。こちらは典型的な騎士に見える。

 二人ともマントは同じ柄っぽい。銀色の糸で縁取りがされていて、見るからに普通の冒険者ではないな。

「おや、この店の主人は君かい?」

 青年の方が話しかけてきたので、「いえ」、と僕は答えた。

「僕はこの店の主人の息子で、お手伝いをしているのです」

「ああ、なるほど。じゃあ、お店自体はやっているんだね?」

「はい」

 うんうん、と青年のほうが頷いた。

 一方で、女性は既に店内の商品を見て回り、何かに気付いてか手に取った。

「ねえ、若い店主さん。この薬剤、何かしら?」

 そう言って彼女が差し出してきたのは、僕がいつぞやに作った毒消しの複合ポーションだ。商品化してたのか……。

「簡単な毒消しの効果のついた、複合型のポーションです。ポーションとしては六級品で、褒められた品質じゃないですね。同時に毒を取り除きたいという場合に、使えない事が無いかもしれない。そんな感じですか」

「ふうん……、複合ポーション。そんなものまであるのか」

 女性は感心したように言う。珍しいのかな?

「流石は錬金術師の店って事だね、ジーナ」

「そうね、アル」

 そしてこっそり名前が判明。女性がジーナで、青年がアルか。どっちも愛称っぽいし、その名前で呼ぶわけにはいくまいが。

「それで、この毒消しポーション。幼い店主さん、あなたとしてはどうなの、売れると思う?」

「売れないんじゃないですか?」

「それはどうしてかしら?」

「だって、毒消し薬とポーションを別々に買ったほうが取り回しも良いです」

 大は小を兼ねるけど、小で事足りるなら小で済ませたほうが良い。

 毒と傷を同時に負っている場合においては、確かにそれ一つで済むという利点はあるけれど、毒だけの場合や傷だけの場合にそれを使うのがちょっと勿体ないしね。

 そのあたりをなんとか説明すると、お客さんの二人はははは、と笑い、僕に同意してくれた。

「ああ、その通りだ。……しかし、あれだね。君は商売人には向いていない」

 そして青年、アルさんにダメ出しされた。

「それ、実は僕、お母さんにも言われたんです。けど、いまいち理解できて無くて……。なんで、僕は商人に向いてないのか、お兄さんたちには解りますか?」

 気になったので聞いてみると、青年は女性に視線を送り、女性は青年に視線を返した。

 アイコンタクト、というやつだ。そして二人して笑みを浮かべたまま、教えてくれたのはアルさんだった。

「もし、商売人としての視点がそこそこあるならば、そこはこの、複合型ポーションの良い所を列挙するんだ。君が説明してくれたような悪いところは伏せてね。そして、複合型ポーションを売る。まあ、こちら側には仕入れに掛けている金額が解らないから断言はできないが、それでも、その方が利益になるんじゃないかい?」

「なるほど……」

 言われてみればごもっとも。

「逆に言えば、あなたには私たち側……使う側としての見方が強いってことよ。ふふ、あなた、何歳になの?」

「この前、十一歳になりました」

「十一歳。ということは、来年は受験できる歳ね。どうなの、あなたは国立学校、目指すのかしら?」

 僕は頷くと、女性を湛えたままで言った。

「店番ができると言う事は、多少、算術が出来るのでしょうね。文字の読み書きも大丈夫かしら。ならば、あとは体力をつけなさい」

 それは有難いアドバイスだった。けど、体力? なんで?

 僕が悩む一方で、

「……ジーナ」

 と、感心しないといった声色で青年は言う。

 怒る……まではいかないけど、なんか駄目らしい。

「俺達の立場上、あまり口出しをして良いものではないだろう」

「あら、でも優秀な生徒が集まることは望ましいでしょう?」

「…………」

 優秀な生徒……生徒?

「もしかして、お二人は先生さんなのですか?」

 とりあえず聞いてみると、二人は苦笑して同時に首を横に振った。

「いや、違う。俺もジーナも、関係者であることは違いないがな」

 関係者だけど先生じゃない……?

 ならば、先輩に当たる人なのかな。それか職員さんか。

「安心しなさい。あなたが受験をするならば、私たちの正体もその時には解るわ」

「そうですか……。わかりました」

 女性は棚に複合ポーションを戻し、さて、と仕切り直す。

 それに青年も同調すると、丁度良くお母さんが店に戻って来た。

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