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ドリームダイバーズ  作者: は〜げん
22/26

第二十二話 カナエられない願い 後編

前回の続きです

カナエられぬ願い 2


(雨激しくなってきたな……)


赤い髪を揺らしながら、マコトはそう考え走る。手には今日の晩御飯の材料を持って。早く帰らないと家で弟や妹が文句を言う。それを考え少し苦笑する。


雨が降るとは思ってなかったため、いつも通りの裸足。濡れる足が気持ち悪くて、それから逃れるためにも自然と走る足は早くなる。


その時ふと何か目についた。それを見てマコトは思わず足を止めてしまう。青い髪で青いドレスを着ている少女。そんな少女がくるくると回っていた。


それを見て、マコトは思わずぞくりとしてしまう。なぜ彼女がここにいるのかという疑問が出てきて、足が止まる。それが間違いであった。


「ーーーあら。貴女は……うふふ♪会いたかったわ♪」

「オレは会いたくなかったがな」


その少女はマコト達の敵の一人、ソンジュであった。思わずマコトは一歩後ろに下がり、ソンジュは御構い無しにどんどん近づいてくる。


そして、トンっと、マコトの肩を軽く叩いた。マコトは思わず体を震わせる。そして、忌々しいものを見るかのような目でソンジュを見上げる。


「そんな怖い顔しないで♪私はただ、貴女を殺したいだけよ♪」

「……なんで、ここにいるんだ?夢の世界から出られるのか?」


マコトはあくまで強気に振る舞うが、心の奥では少しおびえていた。ソンジュはそれが分かってるというようにクスクス笑い、そんなの関係ないじゃないと言った。


「殺し合いましょうよ♪」

「嫌だと言ったら?」

「だったらここにいる人間全てを殺すわ♪なるべく残酷な方法でね♪」


もはや選択肢はなかった。マコトは小さくわかったとつぶやいて、ソンジュの案に乗る。


何も知らない周りの人間は日常を歩いていた。同じように道を歩く二人の少女は、片方は日常から非日常に。もう片方は非日常から日常に、足を踏み入れて行った。


そんな二人にはいっそう激しく雨がぶつかってるように見えた。



◇◇◇◇◇



(マコト……!!どこだ……!!どこにいる……!!)


町を激走する眼鏡の少女のカナエは頭の中でマコトの名前を呼びながら、彼女を探していた。


暫くすると疲れたように膝に手を置いて何度も何度も深呼吸をする。するたびに口の中に入る雨が不愉快であった。


カナエはふと、先ほどの会話を思い出す。


マコトが死ぬと予言した時。一番驚いたのはなのはであった。そして、すぐに合点がいったようにある名前を呟いた。


「もしかしてあの時見つけたのって……本当にソンジュさん……」


カナエはその名前を聞いて確信する。ソンジュ。それは、確かハサミで戦う青髪の少女。未来で見たマコトを殺す者と重なり、全てを察してしまった。


カナエはいてもたってもいられなくなり、すぐに研究所から出ようと足を速める。しかし、すぐに誰かにぶつかってしまう。


「あいたたた……な、何事でござろう?」

「あやめさん……」


作務衣をきた少女のあやめが傘を数本持って玄関前に立っていた。どうやら、なのは達が来てると思い、持ってきたらしい。しかし今はいつも見ることができないほど慌てているカナエを見て、あやめも慌てながら、何が起こったかを聞く。


「実はーーー」


悟が今さっき起こったことを簡単にあやめに説明をする。あやめは絶句したように口をぽかんと開けて、暫く固まった。しかし、ぶんぶんと頭を振り、カナエに本当かと尋ねる。カナエは頷くことで本当であると表した。


「で。では、早く探しに行かなければ……!!」


あやめはそういうが、しかしどこを探せばいいか見当がつかない。そのため動きたくても動くことができなかった。


「……いや。どこにマコトがいるかは大体見当がつく。私は未来が見れるからな」


そう言ってカナエは暫く何かを考えるように目を閉じた。なのは達はカナエがなんというか今か今かと待っていた。そして、カナエはゆっくりと目を開けて、言葉を出した。


「……マコトは、海の方にいる……」




カナエがそういうや否や、皆一斉に雨の中駆け出していく。しかし一人だけ、走り出さずに、カナエの方をじっと見ている者がいた


「本当に、海にいるのか?カナエさん」

「悟さん……」


悟だ。彼はカナエの方を見ていた。カナエはまるで心の奥底を見られてるような気がして、バツが悪そうに目をそらす


勿論、嘘だ。マコトは海にはいない。なぜ、カナエは嘘をついたのか、自分でもわからない。しかし、嘘をつかないといけないような気がした。理由はそれだけであった。


「俺は少し怖い。カナエさんとマコトちゃんが、どこかに行ってしまいそうで。俺の大切な人みたいに、もう会えなくなってしまうような気がするんだ」


そう言って悟は首にぶら下げてある枕のネックレスを握りしめた。なんとなくカナエは声をかけづらかったが、ゴホンと咳払いして、いつものように悟に話しかける。


「なんですかそれは。私を口説くつもりですか?あと、さん付けはやめて欲しいと前にも行ったでしょう?あまりそういうのはしないほうがいいとーーー」

「答えてくれ!!」


悟はカナエの言葉を遮り、そう大声で叫ぶ。カナエは突然の言葉に、少しびくりとしてしまった。


「答えてくれ……君は、無事に帰ってこれるのか?」


悟とそんな声にカナエは暫く迷うような振りをした。そして、ゆっくりと口を開けて悟に言った。


「私が死ぬ未来は今のところない。それに、未来は変えれる。あの筋肉バカにできて、私ができないはずないだろう?」


「ーーーそうだ。私が、未来を変えれないわけがない」


荒れる息の中に入る雨を外に吐き出しながら、ピチャピチャと歩いていく。白衣を着てて、そして雨具を一切持ってない彼女を周りの人は、変なものを見るような目で遠巻きに見ている。


しばらく歩いたあと、気合を込めるように両頬を強く叩く。そして、ゆっくりと目を閉じる。改めて、マコトがどこにいるか見ようとしたのだ。


「…………見えた」


見えた場所はどこかの廃工場。しかし、その場所に向かっては自然と足が伸びていく。なぜかはわからない。


そして見えた未来の中でも、マコトはソンジュと戦っていた。あの、マコトが苦戦する相手に、なのはやあやめを呼ぶわけにはいかない。


「……私だけで十分だ。私は、人間じゃないからな」


カナエはそう言いながら、走り出す。目指す場所は未来で見えた、廃工場。そこに行けば、マコト達がきっといるはず。


そして、未来も変えれるはず。カナエは重い足取りだが、確実に歩いて行く。


その先に見えるのは、例え暗い闇だとしても、カナエは、歩くのをやめなかった。



◇◇◇◇◇



「へぇ、本当に変身できるのね♪不思議な不思議♪摩訶不思議♪」


天井に当たる雨の音か、不思議な世界を作り出しているこの廃工場の中で、二人の少女が、全く違う顔で見つめ合っていた。


赤い髪で、とても軽装な姿になっているマコトは相手を睨みつけ、その相手のソンジュは、ニコニコと笑っていた。それが気に入らなくて、マコトは小さく舌打ちをする。


「……早く来いよ。相手してやる」

「いいわね♪せっかちな人は嫌いではないわ♪」


そう言うとソンジュはどこから取り出したが、大きなハサミを構えていた。マコトは大きく息を吐き、拳を構える。


ザーザーと雨の音しか聞こえないほどの沈黙の中、二人は静かに見つめ合っていた。その沈黙を破ったのはーーー


「ーーーオラァ!!」

「ーーーキャハ♪」


お互い同時ーーー!!


片方は拳を構え、片方はハサミを構え、真ん中で衝突する。ガツン!と、ぶつかり合うような音が聞こえて、両者大きく弾き飛ばされる。


マコトは足でブレーキをかけながら、そこに大きく力を入れる。


スーパーダッシュ!!」


マコトはそう叫んで、一気に駆け出す。瞬間、マコトは風を超え、音に並ぶ。そのまま一気にソンジュの後ろに回って拳をつきだそうとする。


しかし、ソンジュはそれがわかってたというようにその場所にはハサミが突き刺してあった。マコトは思わず突き出しかけた拳を引っ込めてしまう。


「見えてるのよ♪」


そんな声が聞こえたかと思うと、マコトの目前にはハサミが襲いかかっていた。両腕をクロスにして、その攻撃から身を守るが、ガキンと音がして、マコトのグローブが真っ二つに割れる。


弾かれた勢いを利用しながら、マコトはソンジュから大きく距離をとる。そして、割れたグローブを投げ捨てながら、ソンジュの方を見る。


ソンジュは憎たらしいほどの可愛らしい顔でニコニコと笑っていた。マコトはそれが恐ろしくて、ぞくりと悪寒が走る。ソンジュはこの殺し合いの場でも、あんなに楽しそうなのだ。


「……あら、来ないの♪だったら、こっちから行っちゃうわ♪」


ソンジュがそう言うと、ダンッと大きな音を響かせながら、突っ込んできた。マコトは突然の事で驚き、横に大きく転びながら飛んで避けることを選択した。


しかし、左の肩に激痛が走る。攻撃は避けたはずなのにと考えながら、転がりが終わり、立ち上がりながらそこをちらりと見ると、小さなハサミが深々と刺さっていた。


ソンジュはハサミの突撃をメインとしたわけではない。むしろ避けられると想定していた。そのため、小さなハサミを避けるマコトに投げて当てるのは簡単であった。


「ちっーーー!」


マコトは忌々しく舌打ちをしながら、肩にあるハサミを抜いて、近くの壁に突き立てる。それを見たソンジュはキャハキャハと笑う。


そして、笑いながらソンジュはまたマコトの方に突っ込んでいく。マコトは今度は焦ることなく横に飛ーーー


「ハァッ!!」


ばずに、壁を思い切り殴り破壊した。その空いた空間からマコトは外に飛び出していく。


降りしきる雨でびしょびしょに濡れている地面に足をつける。ぐにゃりと気持ち悪い感覚があったが、マコトは急いでそこから動く。


すると、ソンジュが追いかけるように廃工場の壁から飛び出してきた。地面にいるマコトを見つけると、にこりと笑い、小さなハサミを無数に投げる。


雨に紛れて飛んでくるハサミをマコトとしては殺られる前に殺るであった。だからこその先手。だからこその、敵に突っ込むという行動。しかし。


「ーーーあは♪」


それもソンジュには計算通りであった。ソンジュはまず地面を蹴り上げた。突然の目潰しにマコトは思わず足を止める。それをソンジュは見逃さない。巨大なハサミでマコトを突き刺す。


「ぐうっ!?」

「あは♪やっと入った決定打♪そしてこのまま斬り上げる♪」


ズバンとソンジュがハサミを斬りあげると、マコトの体から鮮血が飛びちった。マコトは痛みに声を上げる暇もなく、ソンジュによって蹴り飛ばされる。


何度か地面に体を打ちつけながら、転がり続ける。やがて勢いは止まり、そして雨に消えるようにに変身姿から、元の姿に戻った。


雨によりどんよりとしている空を見上げながら、ゆっくりと近づいてくるソンジュの足音をマコトは聞いていた。その足音が一歩ずつ近づくにつれて、まるで死刑台の上に送られていくような錯覚にマコトは陥った。


そんなマコトの口からは、雨が降ってるのにもかかわらず、乾いた笑みであった。そして、ゆっくりと目を閉じる。


「はは……オレももうここまで、か……悔いは、ねぇや……」


そうマコトが呟くと同時に、ソンジュは近くに来ていた。そして、ハサミを大きく振りかざしてーーー



「ーーーやめろ!!」


その時マコトには聞き覚えがある声が耳に入ってきた。ゆっくりと立ち上がると、ソンジュの動きが止まっていた。そして、そのソンジュを羽交い締めしてるのは、白衣を着た少女であった。


「おま、カナエ!?どうしてここに……!?」

「筋肉ダルマ!お前今諦めようとしただろ!!」


カナエがそう叫ぶと、マコトは思わずびくりとしてしまう。それを見たカナエは追い込みをかけるように一気にまくし立てる。


「君は……君は私がしようとしてる未来を変えるということを邪魔するのか!?君にできて私にできないわけがない!未来を変える!君を助けてみせーーー」

「うるさぁい!!」


ソンジュはそう叫んでカナエを振りほどく。そして、肘を突き出しカナエの腹をつく。カナエは口から唾を出して腹を抑えて、それをソンジュはサッカーボールのように蹴り飛ばす。


「貴女……私の邪魔をしないでくれる♪」

「は、はは……今君が私の目的を邪魔してるじゃないか……おっと、未来が見えたぞ……」


カナエはそう言いながら、太々しくソンジュに笑いかける。そして、カナエは腹を抑えながら、ソンジュを指で指して、声を絞り出す。


「君は……もうすぐで……死ぬさ……いや、殺されるというのが正しいか……?理由を教えてやろうか?理由はな」

「黙れ」


ソンジュが短くそう言い、ヒュンとハサミをカナエに投げた。それはまるで最初からそこにあったかのように、カナエの胸に深く突き刺さる。


「グアッ……!」

「カナ……!?」


マコトなカナエの名前を呼ぼうとした。しかし、それより前にあることが気になってしまい、名前を呼ぶのを忘れてしまった。


ソンジュも、カナエの姿を見て、口を開けていた。今回初めての予想外の出来事であった。そして、マコトは震えながら、口をゆっくりと開けた。


「カナエ……何で血が……『緑色』なんだ……?」


カナエの胸から流れ出る血は、白衣を緑に染めていた。それを見られたカナエは自嘲気味に笑う。そして、胸に刺さるハサミを抜きながら、どさりと倒れこむ。


「何度も……言っていただろ……私は、バケモノだとな……『知識欲』……私は、知識を求める欲の……集まりだ……」

「な、なんで……」


マコトは言わなかったという言葉を続けようとしたが、やめた。きっと、カナエは思われたくなかったのだ。本当にバケモノだと。


一方ソンジュはしばらく唖然としていたが、やがてくすくすと笑いだし、カナエに近づく。そして、ネクタイを掴み上げ、笑いながら話しかける。


「貴女、人間じゃないのね♪いいわ、私たちの仲間にならない♪」

「はは……バケモノ同士仲良くか……」


カナエはそう言ってフッと笑う。ソンジュはそれを了承の合図と思い、口元をほころばせる。


「ふざけるなよ……」

「……え♪」


カナエは突然そう言って、思い切りソンジュを殴り飛ばした。その細腕からは想像もつかないほどの威力で、ソンジュは目をパチクリとさせて驚く。


カナエは肩で荒々しく息をしていたが、やがて、片膝をついて倒れる。しかし、苦しそうではあるが口元は先ほどのソンジュのように笑っていた。


「私は……未来を変えるんだ……ここできみらの仲間になったら、最悪の未来は消えない……ここまでいえば、わかるだろ?」

「カナエ……」


マコトはやっと、カナエの名前を呼んだ。彼女は何であれ彼女は彼女だ。今まで共に戦ってきた、仲間だ。だったら、その気持ちを尊重しなければならない。


未来を、変えなければならない。


そう考えてマコトは立ち上がるが、ソンジュはつまらなそうな顔でカナエのそばにより、ハサミを取り出した。そして、首元にゆっくりと近づける。


「だったらここで死になさい♪虚しく、そして、儚く♪」

「な、や、やめーーー!!」


マコトは傷ついた体を押して無理やり変身して走り出す。足に力を入れて、能力を使う。しかし、それではソンジュがハサミを振り下ろす速度には到底追いつけない。それはソンジュも、もちろんマコトもよくわかっていた。


空を見上げると雷のようなものがゆっくりと落ちていくのが見えた。それでもマコトの足は届かない。ソンジュのハサミの居合の前には、間に合わない。


(もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっと!!!!)


だが、マコトは諦めるわけにはいかなかった。諦めたら、いけなかった。だから、体の痛みも何もかもを抑えて、忘れようとして、大きく、強く足を踏み込んだ。


「もっと速くーーー!!」


そうマコトが叫んだ瞬間だった。どこかで雷が落ち、何かが宙をまった。


「ーーーつっ!?」


空を舞ったものは驚いたように目を見開いて地面を見る。下を見るとそこには赤い髪のマコトと地面に横たわる一人の少女がいた。


「…………流石だな。筋肉ダルマ」


横たわる少女はマコトにそういたずらっ子のような笑みを浮かべながら声をかける。マコトはその声に対してニヤリとわらった。


そして、彼女は腰を低くして、地面を強く踏みしめる。グググと力をこめ続け、ダンッと、まるで弾丸のように前に飛び出した。


ソンジュはマコトがくると思い空中で器用にハサミを構えた。今吹き飛ばされたのはきっと何かの間違いと思ったからだ。だからきっと今回は斬り伏せれる。


しかし、それは間違いだった。マコトの足はただ単純に、風を超え、音を超え、そして、光を超えてーーー


ーーー時を超えたーーー


「な、なんで目の前ーーー!?」


目の前に突然現れたマコトに対してソンジュは驚きの声を上げる。しかし、マコトはそれに対して明確な答えは出さなかった。ただ、拳を大きく振りかざし、ソンジュを殴り抜けた。


今度は下に飛ばされるソンジュ。体を地面に打ち付け跳ねるように転がりはじめる。するとまた目の前にマコトが突然現れてまた殴り飛ばされる。


少し跳ねるとまた。そしてまた跳ねるともう一度と言わんばかりに殴り飛ばされる。


顔の原型がよくわからなくなるぐらい殴られて、ようやくマコトの攻撃は終わった。ソンジュは震えながら、ゆっくりと立ち上がり、キッとマコトを睨みつける。


「あなた……ふざけないでよ……突然能力に目覚めたみたいなことをして……!!御都合主義すぎるわ……!!こんな、こんな結果……認められないぃいぃいいぃい!!!」


ソンジュはそう叫びながら、鬼のような形相でマコトに突っ込んでいく。マコトは動揺する気配もなく、ただ深く深呼吸をした。


「御都合主義とか関係ない……どんな過程であれ、結果は結果だ……それを受け入れるんだ。だが、気に入らない結果が出るとするなら、出ると思うならーーー!!」


マコトはそう言ってまた地面を踏みしめる。そして、一気にソンジュに近づいた。


ソンジュはハサミを振り下ろすが、マコトはそれを避け、ソンジュの懐に潜り込む。体をひねり拳に力を込めて、ソンジュの腹を殴り抜ける。


ドン!と大きな音が周りに響き、ソンジュは白目をむきながら、飛んでいき廃工場の壁を突き破る。そのままソンジュは見えなくなるぐらいに飛んで行った。


マコトはそこを見たあと、どさりと倒れる。降りしきる雨を身体中に受けながら、小さく笑う。そして、満足そうな声でこう言った。


「気に入らないなら……その結果を変えるために、過程で全力を尽くせばいいんだぜ……その結果がこれなんだ……」


そのまま、マコトは気を失った。



◇◇◇◇◇



「……うぅん……ここは……」

「ようやくお目覚めか。筋肉ダルマ」


マコトが気を取り戻すとすぐ近くからそんな声が聞こえてきた。いつもの調子の、マコトを小馬鹿にした態度の声。それが聞こえて少しほっとする。


ふと気づくと、自分の頭の下に何か柔らかいものがあるような気がした。そして真上から聞こえるカナエの声。気づいて、大慌てで退こうとする。が、体が思うように動かない。


「バカが。体が痛むなら少しぐらい安静にしておけ」

「で、でも……あー!わかったわかった!!今ぐらいはてめぇの言うこと聞いてやるよ!」


マコトは開き直って、カナエの膝の上から動かなかった。暫く気まずい空気が広がったが、カナエがゆっくりと口を開く。


「私の名前を呼んでくれて……その……」

「あー礼はいうな。気持ち悪い」

「なっ……君はなぜそんなことを……!!」

「あぁ?オレはお前のことを思ってんだぜ?」

「筋肉ダルマ」

「陰気もやし」


そう二人が睨み合いながら言い合いを続けていたが、やがて笑い出す。そう。二人はこういう関係がちょうどいいのだ。


「……おい、見ろよカナエ。雨、やんでんぜ」


二人のことを祝福するように、雨は綺麗に止んでいた。そして空には大きな虹がかかっていて、今までの曇り空が何処へやらと消えて、新しい空が広がっていた。


「さて、帰るか……」

「おい、もう立てるのか?……それに私はもう」

「るせぇな。帰るんだよ。お前が本当にバケモノだとしても、人間じゃなくても、お前はお前だ。多少のことなら受け入れてやんよ」


果たしてバケモノな事は多少のことなのかどうかというツッコミをする前に、マコトは痛む体を抑えて、恥ずかしがりながらカナエに手を差し出す。


カナエはあっけにとられたようにその手を見ていたが、やがて小さく笑ってその手を取って立ち上がる。マコトはニコリと笑って、体を引きずりながらも、カナエを引っ張りながら前に歩き出す。


カナエは最初は嫌そうにしていたが、やがて観念したようについていく。しかし、不思議と嫌ではなかった。


カナエはマコトの後ろ姿を見ながら、マコトの耳に入らないように蚊の鳴くような声で、しかし、しっかりとした声でぼそりと呟いた。


「ありがとう……マコト……」


カナエがそう呟いたら、マコトの歩くスピードが少し上がったような気がした。



◇◇◇◇◇



「はぁ……はぁ……」


体を引きずりながら道を歩く少女、ソンジュ。彼女の青い服は彼女の血で赤く染められていた。一歩歩くたびに苦しそうな声を漏らすが、対照的に口元は笑みを浮かべていた。


暫く歩いていたが、やがて力尽きたようにバタンと倒れる。そして、目をゆっくりと閉じた。


「マコトくんなかなかいい感じじゃない♪……今度こそは確実に殺せるわ♪」


そう満足そうにぼそりと呟いた。体は血に染まってるが、笑ってる顔はとても不釣り合いで、少し恐ろしかった。


このまま死んでしまうとは彼女は考えておらず、這ってでも元の世界に帰ろうとした。ズサリズサリと腕の力だけで暫く這って動く。


この世界に来た時、誰かの夢を通った気がした。場所は確か病院だったとそんなことを考えながら動いていると、何かに頭をぶつけた。壁かと思ったが、壁じゃない。壁というほどの硬さはなかった。


よく見たら、それは誰かの足であった。ソンジュはとりあえず顔を上げる。すると、目と目が合ってしまった。


「……え……」


ソンジュはその瞬間に顔を青ざめた。まるで見てはいけないものを見たかのようなリアクションをして、息が荒くなり、そんなソンジュを見て、目の前の人物は笑い始める。


「こんにちは。妹様」

「ハ、ハキ、ハ、ハキーカ……な、なんで……」


ソンジュが彼の名前を読んだ瞬間、彼はソンジュの頭を踏みつけた。ぐしゃりと音がして、地面とソンジュはぶつかり合う。


「なんで、あなたが……死、死んだはず……!?」


ソンジュはそう苦しそうに言うと、ハキーカはさらに強く足を踏みしめた。ハキーカはケラケラといつものように、いつも以上に笑っていた。


「なんで生きてるかって?僕様は死んだよ。一回ね。でも本当には死んでない。本当に僕様を殺せるのは、なのはちゃんだけだからね」

「やめ……たすけ……」

「あははは。命乞い?でも甘いなぁ。僕様は君の力が欲しい。欲しいんだ……さて、君たちナイトメアが死ぬとどうなるか知ってる?知ってるよねぇ!」

「やめて……!!」

「んー……」


ソンジュの必死な頼みか、ハキーカは足の力を緩くした。ソンジュはこれ好機とばかりに立ち上がろうと手をついた。こんな目にあわされて、ソンジュは黙ってれるほどお淑やかじゃない。彼を殺すことで頭がいっぱーーー


「だ・め」


グシャ!そんな音がなって、ハキーカは完全に地面を『踏みしめた』あたりには少しづつ血と、何かドロドロに溶けたような液体が広がっていった。


ハキーカは身をかがめてその液体を手ですくい上げる。そして、それを暫く見たあと、ニタリと笑って、


口に持って行った。


ゴクリと音がして、ハキーカはその液体を飲む。少ししたあと今度は無我夢中でそのあたりにある液体を飲み続けた。


「ふふふ……あは……あははは……最高の……最上の……最良の……気分だ……これで君の力は僕様のモノ……これで計画は進む……あははは……」


ハキーカはそう笑いながら、どこかに去っていく。その場所に残ったのは無数の小さなハサミだけであった。


誰もいなくなった場所には、ハキーカの笑い声だけがあたりに反響するように残り続けていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【次回予告】

「あの子達だけ、危険な目に会わせたくないからね」

「私がみたのは」

「うちの息子を助けて……!!」

「やぁ、久しぶり」

【次回:23話 散りゆく思い。託される思い】


お疲れ様でした。

カナエさんの。そしてマコトくんのメイン回でもある今回。いかがでしたでしょうか?

そしてだんだん明かされていく謎。次回も期待してくれたら嬉しいです

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