第二十一話 カナエられない願い 前編
はい。なのはです。
前回は、とても大事なことに気付けました。仲間がいるということは、信頼できるってことは、とてもいいことなんですね。
もしかしたら、あの子はそれが欲しかったのかもしれない。それに私は気づくことができませんでした。だから私も、同じように見捨てられるとか考えたのかも。だから私も……
いや、そんなことはどうでもいいですね。今は、今です。それでは、続きをどうぞ
太陽が真上になり、しかしそれでも秋らしい涼しげな風が当たりを包み込む、そんな時。
なのははDr.トーマスの研究所に呼ばれていた。内容は何か重要な発表があるとかなんとか。Dr.トーマスが通常では考えられないぐらい興奮した声で電話してきたので、なのはは少しドキドキしていた。
お邪魔します、と、控えめながらも堂々と研究所に入ると、もうそこにはすでに何人もの先客がいた。
こちらの存在に気づいて手を挙げるマコトとあやめ。そして眠そうに大あくびをしているのカナエ。そして、ちらりとなのはの方を見て、隣に合図を送る悟と、待ってましたと言わんばかりの顔でなのはを出迎えた。
「よし、みんなきたね……早速だけど、これを見てくれ」
Dr.トーマスはそう言ってなのはたちに何かを見せる。何か何かとそれを手にとって見てみると、それはとても見覚えがあるものであった。
「これ……ドリームコネクター?これのどこがすごいんだ、おっちゃん」
マコトがドリームコネクターを舐めるように見ながら、Dr.トーマスにそうきく、
ドリームコネクター。腕時計のような形をしており、装着者を強制的に眠らせ、夢の中に行くことができる、ドリームダイバーにはかかせない道具。
「聞いて驚かないでよ、なんとこの新しいドリームコネクターは……」
Dr.トーマスはそこでいたずらっ子のように言葉をためた。悟が早く行ったほうがと急かす。なのはたちは声には出さなかったが、ワクワクしたような目でDr.トーマスの次のセリフを今か今かと待っていた。
「現実の世界でもドリームダイブができるようになりました!拍手!!」
そう誇らしげにDr.トーマスは言う。暫くの沈黙が周りに広がり、その沈黙を破るように、あの、と、あやめが声をかける。
「つまりどういうことでござろうか?現実でもドリームダイブとは、いまいちよくわからぬでござる」
「うーん……まぁ、分かりやすく言うと、正確には現実でドリームダイブするんじゃなくて、夢の世界でドリームダイブすると、現実が夢になるんだ。そして、夢が現実になる。そういうこと」
そうDr.トーマスが説明するが、誰一人わかったような顔をしなかった。しかし、わからないと言ってもわかりやすい説明が返ってくるとは思えなかったので、皆押し黙る。
「そ、それでも、これいつの間に作ってたんですか?こんなすごい発明、すぐにできるとは到底……」
なのはがそういうと、カナエがあぁそれは、と一言おいて、ビシッと指を突きつけてしゃべる。
「試作品はかなり前からできていた。が、安定したものを作るのには時間がかなりかかってな。つい最近の追い込みでやっと完成したんだ。おかげで私は寝不足だ……ふぁ〜……」
カナエはそう言って眠そうに目をこすりながら、また大きくあくびをする。それで、もう質問はないのかと聞くように3人の顔をぐるりと見渡した。
「じゃ、その試作品ってのはいつからあるんだ?それに、俗に言うモニターみたいに実験台になるやつとかいるんじゃーーー」
「それは私だ。私が、実験台だ」
カナエがそういうとマコトがは?といいたげな顔をしてカナエの方を見る。カナエは自分の腕をまくりそこについてあるドリームコネクターをマコトたちに見せた。
「私が本当に未来を普通に見れると思っていたのか?私が未来を見るとき……そのときは常に、この新しいドリームコネクターを使っていたんだ。それがわからないとは……流石、筋肉ダルマ。賞賛に値する」
「新しい設定を突然ぶち込んだてめぇが悪いんだ。んじゃ、今は?」
「今は違う。本物の私だ」
カナエはそう言って大きくまたあくびをした。どうやら、最近寝てないらしく寝室に向かうのか、トコトコと歩いて行った。
「……彼女にはいろいろと寝る間も惜しんでやってもらったからね。それに、ドリームコネクターで現実にダイブしてると、とても疲れる。日常生活を送るのはかなり厳しくなるから、疲れがたまるのは仕方ないことだよ」
何かに、そして誰かに言い聞かせるようにDr.トーマスがそう呟いた。それを聞いて、なのはは少し首をかしげる。が、気にしてはいけないことだと思ったので、扉を閉めるカナエの後ろ姿を見ていることしかできなかった。
そうすると、Dr.トーマスがそうだと一言言って、ごそごそとまた何かを取り出した。それは数枚の書類のようなものであった。
「いつか聞いたけど……ハキーカだっけ?彼について気になったから少し調べてみたんだけど……」
「ハキーカ……いや。もういいよ、あいつのことは……あいつは多分、死んだ。いや、殺された、か?」
マコトがそういうと、Dr.トーマスが驚いたような顔をして、パラパラと書類をめくる。そして、ある一点を見ながら、彼はそれを読み上げる。
「この紙にはこう書いてある。『無限睡眠症候群には、存在がつかめない謎の存在があることがわかった。ただ夢を覚ますだけでは、その存在によって目的を果たすことはできない。そこで我々は伊賀夫妻の協力のもと、最強のドリームダイバーを作るために研究を始めた。娘を使い、軽くデータを集めた後、本番に入る。目指すは死なない体を持ったドリームダイバー。我々はそれをかなえるため、それの名前を先に考えた。『現実』にかなえるため、そのドリームダイバーの名前は
『ハキーカ』
と、ここに名付ける』……って」
Dr.トーマスがそういうと、あたりがざわっとまるで木々のさざめきのように広がっていく。彼は今何と言った。もしその話が本当なら……
「……一応、この書類には計画は失敗して、不死身は無理だったと書いてある。それに、登録書では彼は死亡扱いされているから、大丈夫だよ」
Dr.トーマスが安心させるようにそういうと、皆表面上では、大丈夫だという顔をする。しかし、内面は荒れている海のように穏やかではなかった。
その後、とりあえずこの場は解散となった。ドリームコネクターは何となく、皆それを持っていく。どこかで不安があったのかもしれない。
「……ハキーカ、か……」
なのはたちが出て行くのを見ながら、悟はポツリと呟く。河川敷で一度会った彼。人間のように見えたが、もしかしたら作られた人間なのかもしれない。そう思うと、どこか奇妙に思えた。
「あかね達にも一応、伝えておくか……危険な目にはあって欲しくない」
悟はそう呟き、思い出したかのように、Dr.トーマスの方をチラリと見る。彼は、じっと書類の方を眺めているだけで、特に何もしてないように見えた。しかし、どこが真剣で、罪悪感があるような、眼差しをしていて、悟は思わず顔を背けた。
ふと気づくと、外は雨が降りそうな天気になっていた。
◇◇◇◇◇
「あはは〜お姉様おはよ〜♪あら♪どこか嬉しそうじゃない♪」
「……おはよう、ソンジュ」
いつもの書斎でレーヴはニコニコと笑うソンジュの挨拶に、簡単に声を返す。前まで、ここにいたのはソンジュではなく、彼であった。
しかし、もうこの世に彼はいない。つい先日、ソンジュがニコニコと笑いとした顔でレーヴに言ったのは、ハキーカを殺したということだけ。
が、そのことに関してレーヴは特に何も思わなかった。しつじくんはどこか寂しそうな顔をしたように見えたが、おそらくは気のせいだ。
「……あ、お嬢様。それに、妹様も……呼ばれまして、やってきました」
そうしつじくんの事を考えてると、ガチャリとドアが開いて、しつじくんがやって来た。髪で表情は見えないが、どこか不安そうに見えた。
「やぁ、遅かったな……まぁ、いい。さて、君たちを呼んだのは他でもない。実は、ついに完成したんだ」
そう言ってレーヴは机の上にコトンと小さな瓶を何個か置いた。ソンジュとしつじくんはそれをしばらく見た後、やがてあぁ、と合点がいったように頷いた。
「とうとう完成したんですね……外の世界に出れる薬……」
「あぁ、やっとだ。あの人たちに食料として渡す夢のエネルギーを少し減らしてやっとできた……目標は、達成された。と言っても無限睡眠症候群はやめるわけにはいかんからな……」
そうレーヴはいい、ため息をひとつついた。しつじくんは改めてその瓶を見る。中には水のような透明な液体が入っていた。これを飲めば外に出られるのだ。
「じゃ、これがあればマコトくんとか殺せるし春香ちゃんに会えるのね♪」
「まて、ソンジュ。春香くんに会うのはいいが、殺すのはいかん。色々と面倒になる」
レーヴがそう言うとソンジュは一瞬シュンとした顔で落ち込んだように見えた。しかし、次の瞬間レーヴの目の前で手を叩き猫騙しをした。
レーヴは突然のことで驚き、一瞬目を閉じる。その隙をついてソンジュは机の上に置いてある瓶を一つ握りしめて、走り出した。
カツンとハイヒールの音がだんだんと聞こえなくなり、遠くの方でカランと何かを床に投げ捨てる音も聞こえ、それ以降何も音が聞こえなくなった。
「……どうします。お嬢様」
しつじくんがあくまで落ち着いたトーンでレーヴにきく。レーヴは二、三秒悩むそぶりを見せて、本棚から本を一冊取り出した。
そしてそれを読み始める。これをみたしつじくんは一瞬で理解し、そして何だか悲しい気持ちにもなった。が、レーヴがそうしろというなら、それに従おうとしつじくんは決めた。
「お嬢様、何か食べたいものでもありませんか?作ってみます」
「そう、だな……片手で食べれてあまり汚れないものを作って欲しい」
「かしこまりました」
そうしつじくんはいい、ぺこりと頭を下げて、書斎から出て行く。レーヴはしばらく本を読んでその本をパタンと閉じた。そして一つの疑問を口にする。
「……ハキーカ……あいつは本当に死んだのか……?」
どこか遠くで僕様は死なないよという、聞いたことがあるような声が聞こえたが、レーヴはそれを幻聴と考えて、少し自重気味に笑う。
そしてまた、視線を本に落として、ゆっくりと読書を始めた。時計の音が、何故か笑い声に聞こえたのも多分、幻聴であろう。
◇◇◇◇◇
「へぇ!なのは、こっちでも変身できるようになったんだ……ねね、今度見せてよ!」
「あはは……でもまだ、よくわからないんだよねぇ……それに、ちょっと恥ずかしいというか何というか……」
「でも、わたくしも気になりますわ。あまり、夢の中のことは覚えておりませんゆえ……」
アリスと春香。それになのははいま、秋の空が涼しい中、ドリームダイバーの研究所に足を向けていた。ただ、遊びに行くだけだが、それでも楽しいといえば楽しい。
手には三月パンのクロワッサンをお土産として持っている。袋越しに伝わるバターの香りが、食欲をそそる。
突然なのははそうだ!と言って話題を変えようとする。どうやら、あまり変身姿のことは気にして欲しくないらしい。確かに、なのはの変身姿はファンシーすぎる。
「春香ちゃんが撮ってくれた写真。現像まだなの?」
春香が撮った写真、それは、つい先日春香がしたアリスへの誕生日プレゼントであった。なのはとアリス。それにマコトやカナエたちも一緒になって撮った写真。それを聞かれて春香があーと言い淀んだ。
「ごめん、まだ終わらない……というか、腕がいい親戚の人に頼んだんだけど、時間があまり取れないらしくて……」
そう言われると、これ以上この話題につっこむわけにはいかない。なのははそっか。と言って何か話題を探そうとする。
(ーーーっ!?)
なのははその時ふと、何か目に入った。ルンルンとした足取りで辺りをキョロキョロする青い髪で青いドレスの少女。それを見た時、何か得体の知れないほどの悪寒が身体中を駆け巡った。
体内に虫が蠢くような錯覚にとらわれながら、なのはは春香とアリスの手を掴んで走り出した。
「ーーーあら?」
青い髪の少女はなのはたちが走り去った後、そこをちらりと見てみた。しかし、誰もいなくて首をかしげる。
が、すぐにそのことはどうでもいいというように大きく伸びをした。そして、また道を歩き出す。しばらく歩いて曲がり角を曲がった時何かにぶつかった。
「いってぇな……」
「あら♪ごめんなさい♪見てなかったわ♪まるで『バイキングに来てはしゃぎすぎてこける子供』みたいだったわ♪」
少女はそう言ってそそくさとそこを去ろうとする。しかし、ぶつかった男性が待てよと声をかけて肩に手を伸ばす。
「今ので、骨折れたわ……どーしてくれんだ?あぁん?……そうだなぁ20万、払ってもらおうか」
そう言って男性はいやらしく笑う。それを見た少女はあらあらと楽しそうに笑って、ぐいっと男性の手を引っ張った。
男性は何だよと文句を言おうとしたが、それを許さないような少女のオーラに男性はたじろいでしまう。
しばらく連れられると、何故か辺りに人目がないところまで来ていた。
「貴方、折れたって言ってたわよね♪」
そう聞かれああそうだと言おうとした瞬間。何か胸が突然冷たくなった。正確には冷たいものを突きつけられたような。そんな感じ。
そして次には身体中が燃えるように熱くなった。ゆっくりと胸の方を見ると何かが刺さっていた。それはハサミだった。
全てを理解した男性に次に襲ってきたのは身体中を襲う鋭い痛みであった。そして、地面を転がるようにゴロゴロとのたうちまわる。
「あら、貴方折れたって言ってたわよね?にしては元気じゃない♪嘘はダメよ♪」
「や、やめ、助け……助け……!!」
男性が目に涙をためて少女に訴える。それを見た少女はしばらく悩んで、ため息を一つついて。
「いいわ♪殺さない♪」
そう言った。男性は喜んだように顔を上げると、突然目の前が真っ暗になった。突然夜になったかと思ったがそうではない。恐る恐る顔に手を当てると、何かがなかった。
「あぁあ……あぁああぁあぁあああああ……!!!」
「殺さない♪殺さない♪殺さない♪殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない殺さない♪」
少女はそう楽しそうに、歌うようにその単語を繰り返し続けて、何度も何度もハサミを男性に突き出し続けた。
そして、男性の叫び声が段々と消えていき、代わりに少女の狂ったような笑い声が辺り一面に響き始めた。
◇◇◇◇◇
「ーーーあぁ、またこの世界、か」
メガネをかけた少女、カナエはそうつぶやいてゆっくりと体を起こす。どうやら眠ってるうちに無意識のうちに未来を見てしまったらしい。
あたりをきょろきょろと見渡すと、そこはどこかの路地裏だというのがわかった。なんの未来が少し気になったカナエはあたりを警戒しながらゆっくりと歩く。
「……なんとなく、嫌な予感がするな……」
たらりと冷や汗を垂らしながら、壁伝いに歩くと、やがて大きく開けた場所に出た。そこには二つの影が何か会話をしていた。
その二つの影を見てカナエは確信する。あぁ、これはあの時見た未来なのだと。また、同じ未来を見ているのだと。
「未来は、変わるよな……」
カナエはそう確かめるようにポツリと呟く。やがて、二つの影は一つその場にばたりと倒れる。もう片方の影はニヤニヤと笑ってるように見えた。
その時カナエはなんとなくまたあたりを見渡した。夢の世界なら、ここに行かせなければマコトは死ぬことはないとは言えないが、グンと確率は下がる。
しかし、何か嫌な予感がした。そういえばなのははどこだ?あやめもいない。いるのはマコトの影と敵の影。
もしかして、マコトが勝手にドリームダイブをするのか?そう考えるが、それはないと決める。マコトは余程のことがない限り、 給料が出ないと働かない。ある意味仕事人みたいなものだ。
では、なのはとあやめが無限睡眠症候群になったのか?いや、一度なった人間はほぼならない。ではなぜ、『この場にマコトしかいない』のだ?
前見た未来もそうだった。どこかでマコト『だけ』がここで殺されていた。
ドクンと心臓が脈打つ。カナエは悪い予想を打ち消すように違うと呟いた。しかし、それしかありえないだろう。が、それを認めたくなかった自分がいた。
ふとポツリと自分の体に何か当たったような気がした。雨だ。だんだんと雨が激しさを増していく。それを見てカナエは小さく、あぁ、とうめき声のような声を上げた。
そんな中、マコトの影はゆっくりと立ち上がり構える。敵の影はあざ笑うかのようなポーズをとり。そして、ゆっくりとマコトの影に近づいて行く。
が、それはカナエに見えてはなかった。カナエはもう、気づきたくない現実に気づいてしまった。この戦い。この生死の分かれ目が起きている場所。ここは。
「この戦いは……現実世界の出来事だ……!!」
そうカナエが呟くと同時に、大きな雷が落ちた。そのまま、カナエはパタリと倒れた。
消えていく意識の中で見えたのは、空を舞う、マコトの首であったーーー
◇◇◇◇◇
「……あ、雨だ」
「はぁ、はぁ、はぁ……なのは、突然走り出してどうしたの?」
「そうですわ。何か見つけたんですか?もしかして、小雨が降るのに気付いたとか?」
「い、いや。そんなわけはないよ……あはははは」
なのははそう言葉を濁して笑い出す。まるで何かを隠すようにそういう。春香とアリスはもっと深く聞きたかったが、なぜか聞くことができなかった。
小雨が降ってきたため、なのはたちは研究所に急ぐ。時間が経てばもっと激しく降りそうなため、おそらく家に帰る時間はない。
研究所で傘を借りるか、もしくはアリスの使用人が来るのを待つか。兎に角この小雨から逃げたかったのもあった。もしかしたら、この雨以外にも逃げたいのがあって、なのはの足は早くなるのかもしれない。
パシャリパシャリと雨を踏みしめる音が幻想的に辺りに響く。実体がないものを踏むのは少し変な話だが、そんなことを気にならなくなるぐらい、雨を踏む音、そして雨が降る音というのは焦るなのはに安らぎを与えてくれた。
雨がだんだんと激しくなる中、やっとこさなのはたちは研究所についた。濡れた服を絞りながら、コンコンとドアをノックする。しかし、いくらノックしても誰も出てこない。仕方なしに3人はドアを開けて研究所に入る。
「お邪魔しまーす……誰もいないのかな?」
なのはがそう言って辺りをキョロキョロと見渡す。しばらくすると、向こうのドアがガチャリと開いて、すまなさそうに悟が顔を覗かそる。
「すまない、気づかなかった。Dr.は今研究室にこもってる」
そう言いながら悟がこっちにやってくる。首元にキラリと光る枕のネックレスが、少し眩しかった。
なのははこちらこそと言って、すぐに顔を赤くする。雨に濡れていて、その姿を悟に見られたからだ。悟も顔をそらしている。
衣服に水が染み込み、身体中にぺたりと張り付いて、自分の体の形がよく見える。暫く気まずい雰囲気が漂い、なのはも申し訳なさそうに声を絞り出す。
「ごめんなさい……タオルとか貸してくれませんか?」
そう言われ、悟はタオルを持ってこようとするが、突然後ろのドアがバン!と大きな音が響い開いた。そこにはどこか焦ってるように顔を青ざめているカナエの姿があった。
なのはが心配そうにカナエさん?と声をかけるが、カナエはそれを無視するように窓をちらりと見る。
「雨が降ってるだと……!!くそ!」
カナエは大きく舌打ちをして、悟もなのはに今気づいたようにチラリと見る。そして、小さな声でマコトは?と聞く。
「マコトさんか?……俺はずっとここにいたが、今日は見てないぞ」
そう言うとカナエは絶望したような顔をする。暫く時間をおいてツカツカとなのはたちの横を素通りしながら外に出て行こうとする。なのはは引き止めるのがなぜかできなかった。
「まって、カナエさん」
パシンと、カナエと手をとって止めたのはなのはではなく、春香であった。この時春香の人を心配するような性格には助けられる。
「……離せ、春香」
「嫌だ。離さない。だよね?なのは」
春香がそう聞くと、なのはは少し時間をおいてそうだねと言った。
「どこに行くんですか?私達に教えてください」
「……成長したんだな、なのは……」
そう言いカナエはバタンとドアを開ける。雨がだんだんと激しさを増しており、カナエは自分の体に雨を受ける。白い白衣が濡れて、なのはたちのようにピタリと体に張り付く。
その姿がどこか人のように見えなくて、なんだか本当に化け物のような恐ろしさと美しが見えた。
「私はさっき未来が見えた」
そうぼそりとカナエは呟いた。その声を聞いてなにかただ事ならぬ空気を感じて、なのはたちはゴクリと唾を飲み込んだ。
「…………」
「カナエさん?どうしたんですか?……どんな、未来が見えたんですか?」
なのはがそう聞くと、カナエはまるで暫く悩むように押し黙る。言葉を探しているらしいが、やがて言葉を探すのは無理だと気付いたのか、観念したように口を開ける。
「おそらくだが……あと少しで……」
カナエはそこで一旦言葉を切った。まだいうのをためらってるようで、ちらりとなのは達の方を見た。いつもの自信にあふれた顔とは違い、一切の自信のなさ。まるで叱られた子供のような顔でこちらを見ていた。
「カナエさん」
なのははカナエの名前を呼んだ。その名前を呼んだので意味があったのか、カナエは意を決したように、口を開けた。その言葉は、なのはたちにも。勿論ーーー
「マコトがーーー死ぬ」
カナエも耳に入れたくなかった、一言であった。外ではいっそう雨が強くなり、天気が大荒れしていた。
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【次回予告】
「オレは会いたくなかったがな」
「そうだ、私が未来を変えれないわけがない」
「は、はは……オレももうここまで……か……」
「ここで死になさい♪」
【次回:22話 カナエられぬ願い 後編】
続きます




