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ドリームダイバーズ  作者: は〜げん
20/26

第20話 ーーー

前回の続きです

「ごめんなさい……!!僕たちが近くにいたのに……なのはちゃんが!!」

「申し訳ありません……わたくし達がいつの間にか寝てしまっていて……」


涼しい風が吹く中、アリスとなのははドリームダイバーの研究所に来ていた。そして、近くのベッドにはぐっすりと眠っているなのはが横たわっていた。


そして、そのなのはを神妙な顔で見つめるのは、マコトとあやめ。それとカナエであった。悟とDr.トーマスはこの間から何かを作ってるらしいが。


「なのはの寝顔……なんでこいつ、こんなに辛そうなんだろうな……どんな夢、見てんだろうな」


マコトはそう言ってなのはの髪の毛を優しく搔きあげる。その度にオレンジの髪と反比例して、顔が青ざめていく。そして、なのはは少しずつだが、息遣いが荒くなっていくのがわかった。


「なのは殿が無限睡眠症候群にかかるとは……正直予想外でござった……けれど」


あやめはそう言ってカナエとマコトの方を向いて頷く。それを見てマコトも同じように頷き、カナエは腕を組んでため息をついた。


「確かにな……まぁ、恩返しするにはちょうどいいかもしれん……カナエ。サポート頼むぞ」

「ふん。私を誰だと思ってる筋肉ダルマ。私はカナエだぞ……任せておけ」


カナエはそう言って白衣を翻し、どこかに歩いていく。その後、あやめとマコトはドリームコネクターをかざす。すると春香があの。と声を出してマコト達を呼び止める。


「お願いです……なのはを助けてあげてください」


春香がそう言うと、マコトとあやめは親指を立ててそれを春香に突き出す。それを見た春香は安心して胸をなでおろす。


「あの……春香さん」


あやめ達が眠った後、アリスは春香の名前をよんだ。春香は何?と言いながら、マコトとあやめを運んでいた。


「どうしてお願いしたんですか?この二人ならきっとなのは様を助けれると思いますが……」

「まぁ、そうだろうねぇ。多分……というか絶対大丈夫だと思うよ。でも、友達を助けて欲しいって思うなら、それを口に出さないと。そしたらなんだか気持ちがなのはに届く気がするんだ」


そう言って春香はそばかすがついてる頬を上げて、可愛らしくえへへと笑う。アリスはそんな春香が少し羨ましかった。


「春香様は本当になのは様のことが好きなのですね。ま、わたくしも負けておりませんが」

「あはは。そうだね。アリスになのはを取られたくないものね。今日からライバルかな?」


恋の。とは、アリスは口が裂けても言えなかった。アリスは春香が運ぶ作業を手伝い始めた。そして、あやめとマコトをベッドの上に寝かせた。


アリスはなのはの顔と春香の顔をちらりと見る。きっとこの二人の間にはとても大きな信頼か関係が生まれてるのだろう。


「だからこそ、負けたくありませんわ」


アリスはそう小声でつぶやき、なのはの頭を優しく撫でた。なのはの顔はまだ青ざめていたが、先ほどよりか少し穏やかに見えた。



◇◇◇◇◇


「ここがなのはの夢の世界……学校か?」

「そうみたいでござる。一面雪景色。絶景かな絶景かな」


マコトとあやめはなのはの夢の世界に来ていた。そこはマコトも通う三月小学校によく似ているところで、雪がとても積もっていた。


「もう十月も終わるし……そろそろ雪降るかなぁ」


マコトは空を綺麗に彩る雪を見上げから、ポツリと呟く。そんな時だった。空から何か雪以外の何かが降ってきた。マコトは驚き、そこから飛び退く。


ぐしゃりと、その降ってきたものが潰れた。わずかに残る肉片でそれは人間の形をしていたものであろうと推測ができた。マコトとあやめはごくりと息を飲んだ。


なんせその肉片があったところが緑色に染まっていたからだ。白い雪に少しずつしみていく緑色の液体をみて、ただならぬものを二人は感じた。


そしてその肉片と緑の雪は消えていく。それは、夢の世界の現象ということを説明できるのには容易すぎる現象であった。


屋上。二人は目だけでそう会話した。屋上にきっと何かあるのだ。そして階段を駆け上る。誰もいない学校に響き渡る、二人の足音が不思議な音楽を奏でていた。


バンッとその音楽を止めるようにマコトは屋上の扉を殴り壊す。すると屋上には予想通りになのはと、予想外に近くに長身の青年が当たり前のように立っていた。


「てめぇ……ハキーカ……!!」


紫髪の長身の男性のハキーカはマコトたちに気づいて、にこりと笑った。いつも通りの不気味な笑みに、マコト達は何もされてないのに構えてしまう。


「おや、マコト君たちじゃないか。いいところに。君達も彼女の説得をしてくれないかな?」


まるで友達に頼むようなトーンでハキーカは語りかける。ゆっくりと重りを引きずりながらマコト達の方に歩いてきた。


「僕様を殺してくれるように頼んでくれない?多分、なのはちゃんにしか完全に殺せないんだよね。僕様を」


クスクスと彼は笑いながら近づいてくるが、次の瞬間大きく吹き飛ばされていた。マコトが殴り飛ばしていたのだ。ハキーカはフェンスを突き破り、下に落ちていく。ぐしゃりと潰れる音が少し遅れて聞こえてきた。


「この手を汚すのはオレだけで十分だ……」

「マコト殿……」


マコトは手をパンパンと払い、なのはの方に近づいていく。そして、なのはの手をとって帰るぞと優しく声をかける。ののははわかりましたと言ってゆっくりと立ち上がる。


「さて、ナイトメアを探さないとーーー!?」


あやめがそう声をかけたら、ドアから何かがくる音が聞こえた。カン。カン。カン。規則的に聞こえてくる金属の音はゆっくりと次第に近づいてくる。


カツン。と、立ち止まる音が聞こえたと思うと、何かが入ってきた。


その入ってきたものをマコトとあやめは信じられないものを見るような目で見る。なのはは何かわかってたように、それを見ていた。


「だから言ったじゃんか。僕様はなのはちゃんでしか殺せないって」


マコトは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにハキーカのところに走り出す。一瞬で距離を詰め、思い切り殴る。


が、ハキーカはその攻撃を片手で受け止めてマコトの勢いを利用して外に投げ飛ばす。フェンスにあたり、そこに張り付くと、ハキーカは笑い出す。


「まぁでも、君らでも殺せるかもね。でも、君らに殺されたくないから、多少反抗はするよーーー!」


ガシャンと音がしてマコトの腹を蹴り潰す。口からマコトは血を出して、目が焦点が合わないように、グラグラと動き出す。


ハキーカの後ろから、あやめが忍者刀で斬りかかる。しかし、ハキーカは体を少し動かしてそれを避けて、体をひねりあやめを勢いよく殴り飛ばそうとした。


しかし、あやめはその拳の先に手を置いて跳ね上がる。そして空中で器用に体を回し、ハキーカの頭に回し蹴りをぶつけた。


ハキーカの体制が崩れて、その隙をついてあやめは忍者刀を突き刺そうとするが、ハキーカは横に大きく飛んでそれを回避する。


「マコト殿!大丈夫でござるか!?」

「カハッ……カハッ……あぁ、だ、大丈夫……だ。少し吐きそうなだけ、だ……」


マコトをフェンスからはなしながら、あやめはそう言う。マコトは震える足を止めるように思い切り叩き、気合を込めるように、よし。と短く声を発した。


ハキーカはというと、首をぐるぐる回しており、あまりダメージは通ってない様子であった。二人は、ハキーカの想像以上の強さに、生唾を飲み込んだ。


「そうだ。なのはちゃんがさ、僕様を殺したくない理由知ってる?」


ハキーカは楽しそうにそう言って二人を見た。マコト達の近くにはいつの間にかなのはが立っていて、ハキーカの声を受け入れるような姿勢で立ちすくんでいた。


「簡単に言えば僕様を殺したら、君たちに見捨てられるかもしれないって言ってたよ。ははは。思ったより信頼ないんだね」


マコトがなのはにそうなのか?と尋ねると、なのははこくんと頷いた。ハキーカはその光景を見て楽しそうに笑っていた。


ギュン!


瞬間的な音が響いた。すると、またハキーカが大きく吹き飛ばれされた。綺麗に先ほど突き破ったフェンスの間を通ってまた下に落ちていく。そして、また肉がつぶれるような音が聞こえた。


「……私、考えたんです。色々と。私がハキーカさんを唯一殺せる……それにこの前、レーヴという人を殺した……とまでは言えないけどあんなにしてしまった……怖い。もう血を見るのが怖い……そして、それで見捨てられるのが怖い……」


なのははあの時初めて人を傷つけてしまった。それはナイトメアかもしれない。敵かも知れない。そんなことはどうでもよくて、人型のものを傷つけたことが重要であった。


心の優しさか。それとも心にあった甘えか。今まで戦いに参加しなかったのは、自分に戦う力がないと、そう思っていたからだ。しかし、今は違う。戦う力。それでいて殺傷をできる力。彼女はそれを得てしまった。


故に恐怖する。今まで持ってなかったものが、何かを得てしまった場合、あるのは歓喜ではなく……


「なのは殿……」


あやめがそう言ってなのはに手を伸ばすが、なのははそれを払いのける。その目は恐怖というより、絶望というのに近かった。


あやめはなんと声をかければいいかわからなかった。少し声をかけるだけで、なのはは壊れてしまいそうであった。それ程までに彼女は、絶望した表情であやめ達を見ていた。


「私は……ダメなんです。自分が嫌だ。こんな力を持っても戦いたくないって心のどこかで思ってる私が嫌だ。ウメちゃんのことを助けないどころか、忘れていた私が嫌だ……見捨てられるのも、嫌だ……」


なのははそう言う。目には涙すら貯めてなかった。あるのは、虚空を見つめる目であった。


ドゴォ!


そんな大きな音が聞こえた。そして次にあやめの目に映ったのは、後ろに大きく吹き飛ばされ、フェンスに体をぶつける姿と


拳を前に突き出していたマコトの姿であった。


マコトは構えを解きながら、なのはの方にゆっくりと歩いていく。あやめは止めようと手を伸ばすが、考え直し、同じようについていった。


なのはは何をされたかわからないと言いたげに、マコトの方を見ていたが、マコトの剣幕に小さく悲鳴をあげる。


「さっきから黙って聞いてたらグチグチグチグチ……オレらがお前を見捨てる?」


マコトはそう言ってなのはの胸ぐらを掴み上げる。グエッとなのはは声を出すが、マコトはそれを無視して荒々しく声を出す。


「オレがお前を見捨てる?嫌いになる?バカにしてんのか!?オレらがそんな奴らに見えんのか!わざわざ助けに来たやつを!力が強いという理由だけで見捨てるようなクズに見えんのか!?お前はそう見えたのかもしれねぇ。けど、オレは断言できる!例えお前が化け物級の力を持ってようが化けもになろうがこの世界を滅ぼす力を持ってようが人型のナイトメアを殺そうがあいつを殺そうが!!」


マコトは途中から息継ぎを一切せずにそこまで行って。胸ぐらを掴んだ手をゆっくりとはなして、もう一度力強く拳を振りかぶり、なのはの右ほほに突き出した。


今度はさらに大きな音が響いた。まるで爆竹が爆裂したかのような、耳をつんざく音が辺りに響く。なのはの右ほほにはマコトの拳が生々しいほどめり込んでいた。


だが。そんな大きな音が響いたのにもかかわらず、なのはは。


「つっ……うっ……」


その場から全く動いてなかった。


「お前を……」


マコトはそこで言葉を一旦止めた。そしてなのはの方を見る。なのはは、体をガクガクと揺らしながらも二本の足で地面に、力強く立っていた。


「お前を見捨てるなんて、そんなバカなことはしねぇよ。確かにオレは一度お前に嫉妬したさ。けど、そんなオレをお前たちは助けてくれた。だったら、オレはお前を絶対に助けるさ。何があろうともな」


マコトはそう言いなのはの肩をポンと叩く。するとなのはは突然膝から崩れ落ちて、口から荒い息を漏らしていた。


「そうでござるよ。マコト殿に聞いたでござるが、拙者のことを命を張ってでも助けてくれた。そんななのは殿を見捨てるなんてそんなことできないでござる」


あやめがそう言うと、突然マコトの腕についてるドリームコネクターが反応を起こした。しばらくノイズが響き、直ぐにある声が聞こえてくる。


「なのは!僕だよ春香!それにアリスもカナエさんもいるよー!!」

「春香……ちゃんの、こえ……」


そのこえの主の春香はごほんと一つ咳をしたあと、あー、と一言挟んで、恥ずかしそうなこえで言葉を続ける。


「僕はなのはのことが大大だーい好きだから、何があってもなのはの友達だよ。これから先、喧嘩とかもするかもしれないけど、僕は絶対になのはの友達でいるよ」

「なのは様はわたくしに教えてくれたではありませんか。わたくしがわたくしである限り、普通だと。なのは様もなのは様である限りふつうですわ」


春香とアリスのそんなこえが聞こえてきた。それを聞いてなのははフェンスに手をかけてゆっくりと立ち上がる。


「……そうだな。なのは。君の未来は安泰だということを伝えておこう」

「みん、な……」


そうなのはは目に涙を溜めながら、ぽつりと呟く。ふと気づくと、マコトが手を差し出していた。なんとなくだが、その後ろには春香たちみんなが見えたような気がした。


「まぁ、あれだ……照れくさいこと言うが……」


マコトはそう言って照れ隠しのようにニカっと笑う。


「もうちょっとオレらのことを信頼してくれよな。オレらは先輩である以前に、仲間だ。もし信用できないなら……」


ピッとマコトは手を突き出す。しかし、それは先ほどからのような怒りなどの感情は一切こもってなかった。


あやめもホッとしたような、そんな顔をしながら、マコト手の上に手を重ねる。その光景を見たなのはは、ゆっくりと手を重ねた。なんとなくだが、その手の上にはマコトたちの他に三つ。他の手が重なってるように見えた。


そして、なのはは空いている手で涙をぬぐい、マコト達にまるで太陽のような笑顔を向けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第20話

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「改めてお願いします。マコト先輩。あやめ先輩……それに、みんな」

「あぁ、こちらこそ、だ」

「一緒に頑張るでござるよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナノハナサクヤ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「おーーーい!そろそろいいかなぁ?」


下の方から突然男性の声が聞こえてきた。そういえば、ハキーカは外に吹き飛ばされていたのであった。3人は顔を見合わせて、少し急ぎ足で学校から出て行く。


そして学校の外には雪の上に、子供っぽくあぐらをかいた一人の青年がニコニコと笑っていた。そして待ってましたと言わんばかりにゆっくりと立ち上がる。


「さぁて、ここに来たってことは……と、なのはちゃん。少し顔つき変わったね。これは期待していいかな?」

「はっ!うちの後輩はさっきまでの後輩とはちげぇよ……サポートは任せろ。好きにやってみろ、なのは」

「は、はい……!」


なのははそう言って前に一歩足を踏み出そうとする。しかし、なかなか前に出ない。ちらりと後ろを見ると、マコト達が立っていた。


それを見たなのはは安心した。ゆえに一歩。また一歩と踏み出せた。そして、腰を少し低くして、構える。ハキーカは薄気味悪く笑いながら、へぇ。と感心した声を漏らした。


「来るんだ……いいねぇ、僕様を殺してくれる感じがするよ」

「私は……あなたを倒す……そして!」


なのははそう言ってゆっくりと右手を水平にあげる。まるで、右手が銃だと言わんばかりの構えを取り、目をカッ、と開く。


「過去の私と決別する!!」

「いいねぇ!!その心意気!その意志の強さ!!これなら僕様を殺してくれそうだ!!」


ダンッと音がして、重りをつけてるはずなのに、軽やかな身のこなしでハキーカが飛び出す。そして、体をひねりながら、ハキーカは拳を突き出した。


なのはは、それを右腕を曲げてガードをする。しかし、ハキーカにとってそれは計算のうちだった。力任せに右腕を押し込んで、なのはを弾き飛ばす。


なのはは体勢を崩されながら、大きく吹き飛ぶ。ハキーカはまた駆け出して吹き飛ぶなのはを追いかける。


なのはは吹きとびながらも両手両足を無理やり地面につけ、肉を削りながらも勢いを殺した。そして、ハキーカの方を向いて、両腕を前に突き出す。


「吹きとべっ!!」


なのはがそう叫ぶと同時に、ドンッ!と大きな音がその両腕から聞こえ、透明な球体が発射された。ハキーカは足に力を込めて、走るのをやめて、体を捻ってそれを避ける。


すると、後ろでドォン!と爆発した音が聞こえた。ハキーカがそこを見ると、白かった地面が大きくえぐられ、壁があったところは跡形もなく消えていた。


「へぇ……怖いねぇ……でも、それじゃ僕様は殺せない。なんせ、僕様は不死身だからね」

「わかってます……だからいま、考えてるんです!」


そうなのはは声を張り上げていい、また透明な球体をいくつも発射する。体にビリビリとしびれるような衝撃がなんどもなのはに襲いかかる。それほどまで、この攻撃は勢いと破壊力があるのだ。


(不死身って言ってるけど……そんなことはないはず……!!)


自分に言い聞かせるようになのははそう頭の中で何度もつぶやいた。ハキーカは無数に襲いかかる球体を、いとも簡単に避け続けて、少しずつだが、なのはに近づいてきていた。


「君すごいねぇ……自分の足を固定して、自分が吹き飛ぶのを抑えている……衝撃による体のダメージと足の固定によるダメージは馬鹿にならないはずなのに、ね」


ハキーカの言う通り。なのはの能力の固定は使い続けるたびに、身体中に疲れと痛みがだんだんと襲いかかる。長時間は使えない能力であるそれは、少しずつ、ハキーカに殴られた痛みよりなのはにダメージを与えていた。


事実、なのはの顔には気持ち悪い汗が浮かび始め、固定してるはずなのに足がガタガタと震え始める。そんなことをしてるのにハキーカはなのはの攻撃を全て綺麗にさばいていた。


「どうしたの?それじゃ、僕様どころかお嬢様や妹様……それに、僕様も殺せないよ?」

「くっ……!!」


茶化すようにハキーカは笑いながら近づいてくる。なのははいったん固定を解除した。すると、体に急激な疲労と痛みが襲いかかり思わず膝をついた。


その瞬間をハキーカは見逃すわけもなく、一瞬で近づき、サッカーボールのようになのはの腹を蹴り上げる。


カエルが潰れたような、そんな生々しい声を上げて、なのはは上に打ち上げられる。今度はなのはの顔をハキーカは思い切り蹴り飛ばした。


なのはがけられた勢いは壁にぶつかるまで止まらず、壁にぶつかった時にはなのはは身体中から血を流していた。


「残念だよ……まぁ、僕様を殺すにはそんな数の攻撃じゃ意味がないし……まぁ、仕方ないね。殺せないなら君には死んでもらうしかーーー?」


その時ハキーカはなのはが壁に埋まりながらも、口元を上げたように見えた。それを疑問に思い足が止まる。いや、違う。止まった理由はそれだけではない。


ハキーカが止まった理由に気づき驚き、そして喜ぶように顔をほころばせるのと同時に、なのはは壁の中から這い出て、震える手を上げてハキーカがいる方向に腕を構える。そして、いつもとは違う、とても凛々しい顔をして、なのはは口をゆっくりと開ける。


「あなたの足についてる重りを……固定させました」

「へぇ……やるねぇ。僕様が君を蹴り飛ばしたときかな?」


ハキーカはグイッと足を動かそうとするが、足は微動だにせず、まるで空間に強固な根が張ったようになっていた。


しかし、ハキーカは笑っていた。これから起こることを楽しみに待っている子供のように、にこやかに、そして気持ち悪く笑っていた。


「…………いき、ます……これからやるのが私が考えた、あなたを倒すためにする……攻撃です……!」


なのははそう言って両手を前に突き出す。そして、手から先程のように勢いよく球体がまっすぐハキーカに向かって飛んでいく。


が、それはハキーカに当たらず、彼の目前でピタリととまる。ハキーカは初めて笑みを消して驚き、辺りを見渡す。


「……へぇ、これはこれは……」


ハキーカは感心したように声を漏らす。彼の周りにはいつの間にか、無数の球体が取り囲んでいた。そして、少し離れたところに肩で息をして頭を押さえているなのはの姿もあった。


「今、私の力で全ての攻撃を固定してます……これを解除したらどうなると思いますか」

「面白いことになるね」


なのははそんなハキーカの回答を聞いて、目を閉じる。そして、マコト達の方を向いてゆっくりと目を開けた。


彼女達はこくりと頷いた。なのははそれをみて、痛みがスッと消えていくように感じた。だからこそ、ここまで戦える。戦えたのだ。



そしてなのははハキーカの方を向く。彼の顔はもうあまり見たくなかった。が、彼の顔を見ないことも、それはしたくなかった。だから、なのははニヤニヤと笑っているハキーカの方を向いた。


なのはは、ゆっくりと口を開けて一つの言葉を呟いた。


空間固定ストップザヒア解除ーーー!」


その言葉を合図に、一斉に球体がハキーカに襲いかかる。雨あられのように降り注ぐその攻撃をハキーカはノーガードで受け止めた。


肉が削られ服が破けて、重りが破壊される中、ハキーカはいつものように。いや、それ以上に太々しく、気味悪く、そして清々しく、楽しそうに、笑っていた。


(あぁ、これで僕様はやっとーーー)


彼が思ったことは、そこで途切れた。それと同時に爆風があたりの雪を消し去り、大きな轟音を響かせながら、広がっていった。



◇◇◇◇◇



「ーーーっつ……ん、あれ。僕様はなんで……」

「よ、よかった。起きたんですね、ハキーカさん」


ハキーカはむくりと上体を起こし、目の前で心配そうにこちらを見ている、先ほどまで戦っていた少女の顔を見た。


そしてすぐに頭の中には色々なことが駆け巡る。結論はすぐに出た。自分は生かされたのだと。


「なんで、僕様を殺さなかったのかな。情けでもかけたのかい?」


ハキーカはそうなのはにといた。すると彼女は違うといえように顔を横に数回ふる。それを肯定するように、後ろでマコトとあやめが一歩前に進んだ。


「だってもう、この戦いであなたは死にましたから……」


ハキーカはなのはが数秒理解できなかった。そして、合点がいったように笑い出して、ゆっくりと立ち上がる。


「これから自由に生きろってこと?ははは。面白いこと言うね、きみ。でも、僕様はそんな理由で死んじゃダメ。もっと確実に死なないとダメなんだよね……と、言っても予定通りと言えば予定通りだ」


ハキーカはそう言って天を仰いだ。まるで、これが最後に見ることができる青空と言いたいように。そして、あははと笑い始める。いつも通りの笑いだが、何処かおかしく見えた。


それが怖くてなのはは少し後ろに下がる。ハキーカはそれに気付いて子供に説明させるように口を開ける。


「もうすぐ、もうすぐこの時間この場所この瞬間に……ほぉら、きた。予定ーーー」


グサリ


グサリグサリグサリグサリグサリ


「通りーーーだ」


ハキーカはドスンと前向けに倒れる。彼の背中には無数のハサミが突き刺さっていた。そして、赤く染まる地面とは対照的に、ハキーカの顔は青く染まっていった。


なのはは腰が抜けたように座り込む。マコトとあやめは少し狼狽するが、すぐになのはの腕を掴んで走り出した。


なのはが最後に見たのは、大きなハサミを持った少女がゆっくりと倒れているハキーカのところに、歩いて行くところであった。


そして最後に、その空間すべてに聞こえるほどの大きさで何かが切り落とされてぐしゃぐしゃにする音が、響いた。


そこで、彼の物語は幕を下ろした。


お疲れ様でした。あと更新遅れてすいません。

この話でなのはちゃんの話は終わりです。いい人に囲まれてなのはちゃんほんと幸せ。いいなぁ。

次回もお付き合いしていただければ幸いです

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