第十七話 アリス・イン・ワンダーランド 前編
よっ。俺は春樹だ。覚えてる?今、小学校で先生やってんだ。
前回は、見逃せない勝負だったな。マコトと加速するナイトメア。そして、勇気を持ち始めたなのはたちの戦い。そして最後にマコトが感じたことは気のせいかそれとも……
え?運動会?……なんか、下のクラスのマコトってやつが無双してた。
赤い髪の少女。三月アリスはビルの最上階の窓から街を見下ろしながら、そうつぶやく。お風呂に入った後だからか、髪はロールにしてなく肩まで伸びていた。
見下ろす町は夜も深いというのに、所々が明るく光っており、まるでイルミネーションのようであった。が、それも時間が経てば一つ一つ消えていく。それがほとんど消えた時、アリスは窓から離れた。まるで、これ以上ここを見たくないというように。
ベッドの上に寝転んで、しばらくボーッとする。毎年そうだった。誕生日が来るたびに彼女は少し憂鬱になっていく。別に、生まれたことを恨んではない。そもそもこんな豪華な生活ができる。他人より恵まれているから、そこには感謝をしている。
あぁ。と、一つ声を漏らす。なぜこんなにも憂鬱なのか。答えは知っている。しかし、そんな答え認めたくない。今彼女が求めてるのは、その答えとは違う、しかしそれらしい答えであった。
「そうですわ。運動会で負けたことが何よりの原因。勝っていればこんなに憂鬱にはなりませんのに……」
誰に聞かれてないのに、嘘の答えを言うアリス。これが原因ではないことは、彼女が一番よく理解している。確か去年は運動会で勝ったからだったか。
もし。もしここで本当の理由を自分が認めてしまえば、それはあの二人に対する大きすぎる侮辱を与えることになる。
それが嫌だった。それが怖かった。あの二人は今までの人とは違うのに、こんなことを考えている自分もまた、嫌で怖かった。
もぞもぞと、布団の中に入り、まるで自分の世界に閉じこもるように、布団の中にもぐった。息苦しいが、それで少し気は紛れた。
(信用しませんと……なのは様と春香様はきっと……今までの人と違いますわ……でも……)
深く潜り、そして体操座りのように丸まり、目を閉じる。周りの音も聞こえず、そして光も入らず、孤独のような闇の世界に彼女は自ら入っていく。自らに罰を与えるように。
「友達、ですか」
まるで自分の中の二人に問いかけるようにぼそりと呟いた後、ゆっくりと。彼女は眠りの世界にへと誘われていく。
自分の中にいる二人がいった答えは、彼女が求めた答えが、それとも違うのか。誰もわからず、誰もわかろうとはしなかった。
◇◇◇◇◇
「え、もうすぐでアリスの誕生日なの!?」
「う、うん。さっきアリ……三月さんのお付きの人が教えてくれたの。貴方達なら教えてもいいとか言われて……」
「ふーん……そっかぁ。誕生日かぁ」
そう呟いたあと何かを考えるようなそぶりを始めて黙る青髪の少女。彼女は春香といい、少し困ったような表情を見せるのは、なのはと言った。
今、二人はなのはの家で遊んでいる。と、言ってもただただ喋ったりダラダラするだけで、遊んでるということは少し、違うかもしれない。
それでもお互いは言葉にしなくとも十分に楽しかった。それに、喋るときは春香のとても面白い話が聞ける。それを頷いたり、驚いたり、笑ったりしながら、なのはは聞いていた。
そして、今の話は実はなのはが今日のうち初めて春香に話題を振った瞬間である。内容は素朴な誕生日の話題だが、それでも話題といえば話題。しかも、アリスの誕生日の話題ときた。珍しく春香が長考しても、誰も馬鹿にはできまい。
「……アリス……というか、お金持ちって何を喜ぶのかなぁ……」
アリスは、名も知れた三月グループの一人娘。ゆえに大金持ちで、おそらく何不自由ない生活を送っている。
この前は島を一つ丸ごと買っていた。何が欲しいのか見当がつかず、二人はうんうん頭をうならせる。
「このまま悩んでも仕方ないね……よし!マコトさん達のところに行こう!3人寄ればもんじゃの知恵っていうしね!みんなよればお好み焼きの知恵だよ!!」
「そ、そうだね春香ちゃん。というか、もんじゃじゃなくて、文殊の知恵だよ」
そんななのはのツッコミを聞いてるか聞いてないかわからない勢いで、外に飛び出していく。なのはも慌てながら、母親へ外に遊びに行くということを伝えるのもそこそこに、春香を追いかけて行った。
しばらく道沿いに歩き、角を曲がればドリームダイバーの研究所兼事務室につく。なのはと春香は少し息を上げながら、お邪魔しますと部屋の中に入る。
そこにはいつものメンバー。マコトとカナエ。Dr.トーマスに悟。そして、こちらに気づいて手を振るあかねと、自由に歩けるほどになってるあやめがいた。
「あ、あやめさん。身体はもう……?」
「あぁ、大丈夫でござる。拙者、もう前線に復帰できるでござるよ……主らに迷惑をかけたらしいでござるな。大変申し訳ない」
あやめがそう言って頭をさげる。なのはは慌てながら大丈夫ですよ!と大声で言う。なんとか頭を上げてもらい、今回ここにきた趣旨を説明する。
「ーーーてなわけで、三月さんの誕生日プレゼントどうするかって話なんですが……なんかアイディアないですか?」
そうなのはが言うと、皆腕を組んだりして悩み始める。大金持ちだというのがやっぱり大きいかもしれない。
すると突然皆がないか思いついたのか、いつの間にか置いてあるフリップに文字を書き始める。なのははなにか、とても疲れるような気がして、ごくりと生唾を飲み込んだ。
まず真っ先に手を挙げたのは春香であった。なのははなんとなくどうぞと言って発言を促した。そして、春香が意気揚々とフリップを見せる。そこにはこう書いてあった。
【なまこ】
「なんでここでなまこを選択したの!?ボケを狙ったんでしょ!思いつかなくてボケたでしょ!」
嫌な予感は的中して春香に対してなのはは激しくツッコミをした。すると、隣に座ってカナエがやれやれと言いながら、スッと手を挙げる。
やっぱりなのはがどうぞと言ってカナエが完璧だとかつぶやきながら、フリップを見せた。
【ヒエログリフを覚える本】
「ぶっははは!!カナエ!なんだそれ!そんなの欲しいやつお前だけだろーが!!」
「な、何を言う!ほぼ全ヶ国語を喋れて書けるなら、つぎは象形文字だろう!?」
「ボケじゃねぇのがすげぇよ。つーか、全ヶ国語ってお前一周回って頭おかしいよ」
「くっ、そういうなら君はどうなんだ!?どうせ、プロテインとか脳内筋肉なことを言うのだろう!」
カナエがそういうとマコトはちらりとなのはを見る。どうやら促すのを待っているらしい。なのはは少し困惑しながら、マコトがフリップを出すように促す。そしてマコトが見せたのには。
【マックのクーポン】
と書いてあった。カナエは君の方がひどいわ!と大声でマコトに文句を言う。マコトも大声でヒエログリフよりかマシだバーカ!と負けないぐらいの大声で文句を言い返した。
ギャーギャー騒ぐ二人をよそに、悟が小さく手を挙げる。なのははこの状況を打破して欲しくて、悟のフリップを見せてもらうように頼んだ。書いてあったのは。
【端っこ】
「裏切られた!フリップ見るまで信じてたのに!なんですか端っこって!どこですかなんのですかー!?」
「いや、ここは俺もボケるべきかと……」
「そんな必要一切無いです!!」
軽く息切れをしながら、大声で言うなのはは、やっぱり的中した悪い予感に対して頭の中で悪態を吐く。
すると、あかねが手を挙げる。なのははなんとなく無視を決め込みたいところであったが、無視を本当に決めるわけにはいかずやはり促すなのは。
よく見ればDr.トーマスも手を挙げてきた。多少信じてたが、まさかDr.トーマスがのるとは予想外。これまた無視するわけにはいかないので二人同時に促す。そこに書いてあるのは。
【あかねさんが作った誕生日ケーキ】
【僕が作ったパソコン】
「おぉ……意外にまとも……」
「まぁ……ボケが思いつかなかっただけだけどね……」
「兎に角あれだ。あたしが作るケーキの味は保証するぜ」
なのははなんとなくホッとして息を吐く。あかねとDr.トーマスの提案したプレゼント。両方とも、多分かなりすごいことになるが、これでは彼らがあげるようなプレゼントになってしまう。
が、その真面目すぎる提案が仇となったのか……他の面々が負けじとふざけて答えを書いてきた。
まるで大喜利ように、我負けじと手を挙げる春香たちをなのはへ少し面倒くさそうにみるが、仕方ないというように、回答を見せるようにみんなに言う。
【なまこの端っこ】
「悟さん!?端っこの場所を考えた結果なまこですか!?違います!場所じゃなくてどちらかといえば端っこをやめてほしいです!」
【モスのクーポン】
【古代文字の徹底解読】
「マコト先輩!!それ自分が欲しいやつですよね!カナエさんも笑わない!あなたもあまり変わり無いですよ!普通の女の子だとそんなものに興味はないです!……え、そんな意味がわからないという顔しないで!」
【なまこの真ん中】
「春香ちゃん!端っこがダメじゃないの!場所の問題じゃないの!なまこがダメなの!」
【カステラの端っこ】
「お菓子屋さんにおいてあるやつ!カステラの中で一番おいしいところですそれは!でもプレゼントには合わないと思いますあかねさん!」
【最新式のパソバナナ】
「書き直しましたよね!無理してぼけないでくださいDr.トーマスさん!最新式のバナナってなんですか!味が変わったりするのですか!」
【なまこを】
【かっこよく】
【かくと】
【NAMAKO】
「ないないない!なまこはどう足掻いてもなまこですよ!というかマコト先輩もカナエさんも悟さんも春香ちゃんに付き合わなくていいんですよ!」
【なまこを】
【初めて】
【食べた人】
【頭おかしい】
「それは多分全世界人が思ってるやつ!というか!みなさん!!」
なのはが明らかにここに来た時よりか疲れた顔をしながら、机をバンとたたく。そして、胸に溜まっていた思いをぶちまけた。
「プレゼントになまこもらって嬉しいわけないでしょーー!!!」
結局大喜利大会を開いただけで終わってしまった。あとであかねがなのはに笑いながらお疲れとか言ってきたが、じゃあ乗らないでくださいとは、言えなかった
◇◇◇◇◇
「遂に、今日ですわ……あぁ、なんで嘆かわしいこと」
ベッドの上で寝転がりながら、赤い髪の少女、アリスはそうポツリと呟く。とても憂鬱な気分を、ベッドの上でゴロゴロと転がることで、紛らわしていた。
「なのは様や、春香様に今日誕生日だということは伝えておりません……まぁ、それがいいはずですわ。信じると、こっちが傷ついてしまいます……」
誰に聞かれてるわけではない、が、声に出したほうがなぜか心が楽になる。ような気がした。しかし、実際はまるでダムのように言葉は止まることなく流れていき、そのたびまた憂鬱になる。
「友達、なんて……」
アリスはそう呟き、目を閉じる。思い出すのは、あの日の思い出。彼女が、まだこの小学校に上がらず、幼稚園生だった頃の話。
彼女はその時は普通の少女だった。いや、普通になろうとしていた。連日テレビに出てくる大富豪達は、異端としてみられ、扱われている。そんな風に彼女は見られたくなかった。
だから、服は安い商品を求め、食べ物はセール品を、住む場所は、ぼろアパートを選んだ。
最初は窮屈な生活。しかし、それが普通だと思えば彼女はフッと気が楽になる。これで自分は異端としてみられない。テレビで見世物のように扱われないで済むんだ、と。
そして、そんな彼女にも友達はいた。それも、数多く。少し膨張が含まれるかもしれないが、クラス全員と友達であった。
それが普通だと、彼女は信じて疑わなかった。
そんな時、ある一人の友達に言われた。よくある普通の話題。誕生日はいつかという、そんな話題。それに対してアリスは普通に答えた。それを聞いて、皆が皆、その日遊びに行きたいと口々にアリスに提案を持ちかける。アリスはそれが普通であると信じ、それを快く引き受けた。
そして、その誕生日の日。彼女はぼろアパートの中でちょっと豪華なケーキを用意して、友達が来るのを今か今かと待ち望んでいた。住所はちゃんと教えた。あとは時間が経てばきっと来てくれる。
二時間前になった。
一時間前になった。
時間になった。
10分過ぎた。
30分過ぎた。
一時間過ぎた。
二時間過ぎた。
三時間過ぎた。
五時間が、過ぎた。
待てど暮らせど、誰もこなかった。いや、人は来ていた。しかし、なぜかアパートの前にしか来なくて、家の中に入ってこない。それがアリスには理解できなかった。
次の日、アリスは普通に幼稚園に行った。そこには、ざわざわと騒いでいる友達がいた。アリスは普通に何を話しているか聞きに行った。
すると、友達はアリスに聞こえないようにこそこそと話し始める。アリスは首をかしげ、しつこく何があるか聞く。すると、友達の一人がキッパリとした声でアリスに言った。
「アリスちゃんって、貧乏なんだね。お金持ちだと思ってたから、てっきり豪華なビルかなんかに住んでるかと思ってた」
一瞬、彼女があまりにも間違ったことはいってないという態度であったので、アリスは何を言われたか理解できなかった。が、すぐに理解できた。
彼女達は、アリスが大富豪だと知って近づいてきた。そして、テレビのお金持ちのようなアリスの生活を見ようとしたのだ。
みな、アリスのことは友達ではなく、まるで動物園にいる動物を見るかのような、そんな好奇心で近づいてきたのだ。
どれだけ、アリス自身が普通であろうとしても、周りはそれを許さず、むしろ異端であれと願う。そんな無慈悲な現実をアリスは突き付けられてしまった。
その日から、彼女は普通ではなく異端であるように振る舞った。服は高級ブランド物に着替え、食事は高級食材を。住んでる場所は、ぼろアパートから、大きなビルに移動した。
すると、周りの目は前とは変わった。一度誕生日の日にまたパーティを開いたら、何十人もの人が参加した。そして、皆アリスのことを舐めるように見てきた。
その視線はアリスはとても不快であった。すべてが、好奇心の塊だったから。まるで、自分とは違う人間を待てるようだったから。
隣では同じクラスの少女が仲よさげに話してくる。アリスは適当に相槌をうつが、内心では、彼女のことは誰かと考えていた。
ふと、アリスは今日のパーティに来ている人物をみてみた。皆、楽しそうに喋りながら、食事を楽しんでいる。しかし、アリスは全員の顔を見て、そしてわかった。
隣で喋りかけてくる少女も、高い料理をムシャムシャと食べる少年も、ドレスを着て会話をしている女性も、ワインを飲んでいる男性も。全て。
アリスは誰一人覚えてなかった。
その日から、アリスは誰にも誕生日を教えないようになった。そして、友達を作らないようにもした。悲しくなることはわかっていたから。
小学校に入学して、まもなく。友達を作らず、いつも一人で窓の外から景色を眺めるということしかしてなかったアリスに、二人の少女が目にとまった。
青髪の活発そうな少女と、オレンジの髪の優しそうな少女。アリスはなんとなく。本当になんとなくだが、彼女達をじっと見ていた。
そのまま5年の年月が経ち、やっとオレンジの髪の少女と同じクラスになれた。その時彼女は意を決してその少女に話しかけた。ドリームダイバーの話と一緒に。
過去のこと。そう一言で片付けられるようなことであったが、子供時代には、それはとても重く、忘れることができないような内容であった。
(わたくしと、なのは様達は友達。なのでしょうか)
声には出さなかったが、アリスはそう自分に問いかける。きっと、あの二人に問いかければ、一言で答えるであろう内容だが、アリスは答えきれなかった。
そうだ。今日は外に出てみよう。きっとこの気持ちも変わるだろう。彼女はそう考えて、扉に手をかけようとした。
すると突然、目の前の扉が開いた。自分では何もしてないのに。だ。アリスの目の前には、紫色の髪をした長身の青年が立っていた。
「そろそろまたお前かとか言われそうだよねぇ……」
くすくすと笑いながら、その青年はゆっくりとした足取りでアリスに近づく。アリスは恐ろしくて、一歩後ろに下がるが、気丈な態度でその青年に声をかけた。
「……貴方、もしかしてお父様のご友人?それとも、取引相手ですか?どちらにせよ、ここはわたくしの部屋ですわ。お父様の部屋なら案内いたしますが……」
「んん?いや、僕様は君のお父さんに用はない。あるのは、君にだよ。アリスちゃん。それに君のお父様は、ぐっすりと寝ているはずだよ?」
アリスは思わずは?と聞き返した。なぜ寝ているというのだ?確かに昨日、疲れたか何かで出張先から帰ってきながら、車の中で寝てしまったと聞いた。そして、それをおつきの人が運んできたということも。それが何の関係がある?いや、なぜそもそも知っているのだ?
いや、それ以前になぜ自分に用があるのだろうか?あいにくこの青年とは面識はない。気づくと目の前の青年はくすくすと困ったように笑っていた。
「あまり人の顔をジロジロと舐めるように見ないでほしいな」
そう指摘されて、アリスはアッと恥ずかしそうに顔をそらす。いつの間にか彼のことを舐めるように見ていたのだろうか。まるでーーー
「まるで動物園の珍獣を見るうに見ないでよ……普通に見れないのかな?」
アリスは自分がされたようにその青年のことを見ていた。それに気づいて、さらに恥ずかしそうに下を向く。
すると目の前の青年はアリスの顎をクイッと軽く持ち上げた。アリスの目の前に、貼り付けたような笑みを浮かべた、青年の顔が見える。
「君はさ。今日誕生日だっけ?友達をパーティに誘ったりはしないのかい?」
「貴方には関係ないことでしょ?あまり、頭を突っ込まないほうがいいですよ?」
アリスは冷たくそういうと、また、青年はくすくすと笑いだす。その笑みがとても、恐ろしく見えて、アリスは少し震え出す。ぎゅっと右手で左腕を強く握る。
「でもさぁ。君、お金持ちだよね。大富豪。でも、友達はゼロなの?反比例して友達は減るのかな?」
「なっ……」
人の神経を逆なでするような青年の声に、アリスは思わず怒りで相手を突き飛ばす。そして急いで、青年と距離をとった。
震える体を、おさめるように自分の腕で体を強く抱きしめる。相手は笑顔なのに、言い知れぬ恐怖を感じて、しまうのは何故だろうか。まるで人ならざるものを相手にしてるような気もした。
「そんなに怖がらないでよ。クスクス。可愛い顔が台無しだよ?」
「あら?口説いてるのかしら。だとしたらざんねんですわね。わたくし、あなたに興味湧きませんもの」
「おやおや。また振られてしまった……自分の容姿には多少なりとも自信があるのになぁ」
はっきり言って、アリスは今すぐ逃げ出したかった。が、逃げ出せない。足が竦んで動かないのだ。
「そうだ。今から君の誕生日パーティを開かない?」
「余計なお世話ーーー」
「おや、でも君はずっと楽しみにしてたんだろう?わかるよ。誰だって楽しみだよ。なんせ、自分が産まれた日だよ?しかも家族でもない赤の他人がさ!自分のことを!産まれてきたことを!手放しで褒めてくれるんだよ!!喜ばない人の方が少ないよね!!……あーでも君は違うのかな?いや、喜んでる方向で話そ」
「うるさい!!」
耐えられなかった。これ以上彼の耳の奥に残るようなねっとりした声をこれ以上聞きたくなかった。だからこそ出した大声での制止。が、彼はクスクスと大きな声で笑い始める。
「あ、あなたになにがわかるというのですか!?わたくしのこの気持ちが!わかるとでも!?」
「え?わかるわけないじゃないかそんなもの」
青年がそういうと、アリスはえっ。と、間抜けな声を上げてしまう。そうすると、青年がアリスの方に笑いながら近づいてくる。アリスは思わず腰が引いて尻もちをついてしまう。
「君の気持ちなんてわからないよ。だから色々言えるんだ。さぁ!楽しい楽しい誕生日パーティを始めよう!君の友達を呼ぼう!!そんな怯えた顔しないで!大丈夫!だって君は自分でもわかってるように異端なんだ。普通じゃない!普通を求めちゃダメなんだよ!!さぁ!さぁさぁさぁさぁ!!」
「わた、わたくしは……異端……違う……普通を……求めてるだけ……」
アリスは自分でもなにを言ってるかわからなくなってきた。なんとなく心がグラグラと揺さぶられるような声。それでいて、彼自身の言葉も意味がわからない。が、それでも十分なほど、アリスは怯えてしまった。
怯えて竦んだアリスを見て、青年が視線をアリスの高さに合わせた。そして、今日一番の笑顔で笑って見せて、アリスの頭に手を置いた。
「友達がいないのかな?もしくは、認めてないとか認められてないって思ってるのかな?……でも大丈夫!自分の心の中。とりわけ、夢の中には友達はたくさんいる」
「夢の、なか……?」
アリスが蚊の鳴くような声でそういうと、青年はそうだよ。と、優しく言う。そして、アリスの顔の前に手を突き出して、つぶやいた。
「グッドナイト。いい夢を……」
◇◇◇◇◇
「うわぁ……大きいねぇ……」
「そうだね春香ちゃん……なんか、胃が痛くなってきたよ」
アリスの誕生日の日。二人はサプライズのような形にしようと、アリスには内緒でここまで来ていた。目の前に壁のようにそびえ立つのは三月グループが所持しているビル。
その前にいる二人の少女はそれを見て大きく息を吐く。しばらくすると、ビルのなかから一人の初老の男性が二人を手招きした。
「いやぁ、よく来てくれましたな。アリス様のご友人方」
なのはたちが近づくととても喜んだ顔で二人を出迎えてくれた。なんとなく気恥ずかしい気分になる二人。
その男性。たしか、じいやと呼ばれていたか。そのじいやに連れらてこれまた大きなエレベーターの前に来る。チンと音がして扉が開き、二人をなかに誘導する。
「アリス様は最上階にいらっしゃいます。名前が書いてあるからどこにいるかは一目でわかるかと。後はご友人方で楽しみくださいまし」
そう言われて二人だけがエレベーターで上へ上へと上がっていく二人。しばらくするとあまりにも長すぎるからか、なのはが春香に言葉をかけた。
「そういえば春香ちゃんはプレゼントなににした?私はお人形を作ってきたんだけど……」
そう言ってなのはが見せたのは、可愛らしい猫のお人形だった。小学生が作ったというにはあまりにも完成度が高いそれを見て、春香は素直に感嘆の声をだす。
「すごいね!僕はそんなの作れないよ……あ、僕はね。これ」
と言って春香は首に下げたカメラを突き出した。なのはは少し考えるが、まさかこれをアリスに渡すとは思えない。
時間が経って、春香は少し恥ずかしがるように顔を赤く染めた。そして、答えを言おうとしたが、その前にエレベーターが最上階までついてしまった。
春香は早足で外に出てアリスの部屋を探す。なのはも探すが、そこはすぐに見つかった。アリスと名前が書いてあるのを見つけて数回ドアをノックする。
が、なかから返事はなかった。ドアノブを回してみたら、なんと鍵はかかっていなかった。
なのはが入りますよ〜と控えめな声を上げてドアを開けると、アリスはベッドの上にいた。
寝てたのかという安心感を持って、起こそうかと考えた。が、寝てるのを起こすのは迷惑と考えて、どうしようかと春香に声をかける。
春香はというとどこからか取り出したマジックを持っていたずらっ子ように笑ってアリスに近づいていく。
なのはは止めようと追いかけるが、その時あることに気づいた。アリスの格好である。ベッドの上でアリスは寝ているが、なぜか布団はかかってなく、それに靴を履いていた。
なのははゆっくりと近づいてアリスに触れた。だっておかしいではないか。アリスが寝る時に靴を履くわけがない。ましてや布団を被らないということもありえない。
なのはは触れた手でアリスを揺すった。春香も気づいたらしく、青ざめた顔でなのはの方を見る。数回揺さぶり、なのはは声を大してアリスの名前を呼ぶ。
アリスは何も答えない。なのははへなへなと力が抜けるように座り込んだ。
「起きない……アリスちゃんは……」
「そんな、アリスが……」
そんな絶望的な表情を出す二人をよそに、ベッドの上ではアリスが規則正しい寝息を立ててスヤスヤと眠っていた。
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【次回予告】
「ようこそわたくしの誕生パーティへ!」
「もうこれ以上後悔だけはしたくない……!」
「わたくしはおかしい異端人ですわ!」
「あなたはあなただよ……あなたなんだ……!!」
【次回:18話 アリス・イン・ワンダーランド? 後編】
続きます




