第十六話 炎の運動会
あ、今回は俺……じゃなくて、私ですか。
前回はどうやらあやめというドリームダイバーの話だったと聞きます。そして、あやめはもう確実に死ぬ未来だという宣告。しかし、なのはとマコトの二人は未来を変えるためにあやめを助けに行きました。その結果は……今、ベッドの上に寝ているあやめさんを見れば、一発でしょう。では、今回の話をお楽しみくださいませ。
……たくっ。メンドクセェんだよ。なんで
「秋!そう秋だよなのは!!」
「そうだね春香ちゃん!でも顔近いかな!!」
涼しい空気が流れ入ってくる教室で、興奮したような青い髪の少女。春香はなのはの肩を掴んでグラグラと揺らしながら秋という単語を繰り返す。
秋といえばなんだろうか。食事?読書?いや、春香はその二つではないもう一つの秋、すなわち。
「運動の秋!つまりもう直ぐ運動会!!」
ひゃっほー!とか叫びながら、春香は腕をぐるぐると回しながら嬉しそうにはしゃぐ。しかし、今は食事中であるため、なのははご飯を食べながら、あははと笑いながら見ていた。
「あらあら。そんなに楽しみなのですか?春香様」
そう上品に笑いながら、赤い髪を縦ロールにしている少女。三月アリスがそう春樹に言った。
「もっちろんだよー!!まぁ、僕はなのはとアリスとは敵同士だけど、こっちにはマコトさんがいるからね!!友達同士だとしても遠慮しないよー!!」
春香がそう言って無邪気に笑う。なのはもそれを見て楽しく笑う。春香と一緒にいると退屈がなく、彼女の笑顔を見ると自然に自分の顔も笑顔になる。
「……友達。ですか」
アリスは口の中で確かめるようにその単語を何度か繰り返す。春香は大丈夫?と少し心配そうな顔をしながら、アリスの顔を覗き込む。
なんせ、自分が言った言葉がおそらく原因なのだ。少し負い目を感じてしまうのは仕方ないことであろう。
しかし、アリスはすぐに笑顔を向けて大丈夫です。と、一言だけ言った。そして、お弁当をなおして少しお手洗いに行きますと宣言して教室から出て行った。
「……なんか、悪いこと言っちゃたかなぁ?」
「多分、大丈夫だと思うよ。うん……そういえば、三月さんのこと下の名前で呼び捨てにしてたね」
「え、だって、友達じゃん……まぁ、なのはは緊張してるんだろうけど、今度普通に呼んでみたら?アリスちゃんって」
「う、うん。頑張るよ……?」
そう少し疑問系で宣言したなのはを春香は笑いながら背中を叩いて応援をした、なのはには痛みと共に何か暖かいものを感じた気がした。
「……そういえば、あやめさんは?大丈夫なの?」
「うん。元気……とは言わないけどね。でもなんか、前よりか自分に自信があるように見えるかなぁ」
「よかった……あの時、公園で会話しとき、なんか考えてたように見えたから……それに、僕とちょっと似てるところがあるような気がしたから……えへへ。変、かなぁ」
また春香は照れながらえへへと笑う。そういえば、春香も一時期家族のことで悩んでいたことがあった。同じようにあやめも家族のことで悩んでいた。
だからか。彼女はどこか似たような悩みを持っていたから、少し心配だったのである。優しい彼女だから。しかし、なのはにはとても眩しく見えた。眩しくて、なのはは目を背けたくなった。
「さぁて!次の時間は体育だ!!えへへ!いっぱい食べていっぱい頑張るぞ!」
春香はそう言ってご飯をばくばくと食べて、じゃ!と言って席を立つ。ドアをガラリと開けると、誰かにぶつかって倒れてしまう。
春香はおっととふらつきながらぶつかった人に大丈夫か聞く。そしてぶつかった人を見て驚いたように目を見開き、嬉しそうな声をかける。
「あ、アリス!おかえり!」
「……ええ。ただいまですわ。春香様。そして、行ってらっしゃいませ」
「ふえ?……あ!そうか!次体育だからはやく着替えないとだ!!じゃね!アリス!!」
そして春香は慌ただしく隣のクラスに入っていった。その後ろ姿を見つめながらアリスはため息をひとつ漏らして、小さく口を開ける。
「わたくしには友達なんて……できるはずなどないのですわ」
その声は誰にも聞こえないほど小さな声であった。だから、なのははそんなことはつゆ知らず、アリスと楽しく談笑を始めるのであった。
因みになのはは何度もアリスのことを『アリスちゃん』と呼ぼうとしたが、何故か恥ずかしくていうことができなかった。
◇◇◇◇◇
「こんにちはそして死ね♪」
「開始早々命をかりとろうとする君の精神はすごいね」
暗い部屋の中で青い髪の少女が、紫の髪の青年に向けて勢いよくハサミを突き出した。それを青年は笑いながら避け続ける。
「もう♪最近戦えてなくてイライラしてるから付き合ってよ♪」
「ははは。ストレス解消で殺されたくないなソンジュ様」
「あら、あなた不死身でしょハキーカ♪」
物騒な会話をしながら、青年。ハキーカは霰のように襲いかかるハサミをパシンと払い、ピンとソンジュという少女にデコピンをした。
ソンジュはニコニコと笑いながら、仕方ないなと言いたげにストンと床に座り込んだ。ハキーカは手頃な椅子に座る。
「……そういえばお姉さまは?そろそろご無沙汰だと思うのだけど♪」
「レーヴお嬢様かい?……確かどこかに出かけて行ったね。多分……ふふふ……おもしろくなってきたね」
そんなハキーカの答えにソンジュはふーんとつまらなそうにいうだけで特に何も言わなかった。そしてしばしの間沈黙が流れる。ハキーカはチャランと腕についてある鎖を少し動かす。するとそれが合図だったかのようにソンジュがすくっと立ち上がる。
「ま、どうでもいいわ♪じゃ、質問を変えるわよ♪あなたは何でここに来たのかしら♪」
「だから何度も言ってるように……君の力を僕様に渡してくれない?」
「わかりやすく言うと♪」
「僕様のために死んーーー」
そこまで言うとソンジュはスカートの下からハサミを取り出してハキーカに突きつける。ビュンと風を切る音が聞こえ、ハキーカの眼前にハサミが迫った。
ハキーカは顔の笑みを崩さずに椅子から降りた。ソンジュは背中にハサミをトンっと優しく突き当てた。しばらくの沈黙。そして、それを破るかのごとくソンジュが口を開けた。いつも通りの、笑顔で。
「あなたが私の最愛の人なら二つ返事したわよ♪でもあなた唯の人間……でもないか♪どちらにせよ好きじゃないし♪例えるなら『好きでもない人に告白された女の子』みたいな♪」
「ははっ。言い得て妙だね。まぁ、いつかきっと振り向いともらうよ」
「あら♪愛の告白かしら?」
「そうだね。僕様からの愛の告白。僕様のために死んでくれませんか?」
「そうね♪まずはお友達から終わりましょう♪」
「おや、開始10秒も経たずにふられちゃった」
「あなたにしては長く持ったほうよ♪自分の幸運に感謝しないとね♪」
そこまで言うと二人はまた笑い出す。しかし、背中にハサミが当たってることは変わらず、それを忘れたかのように二人は笑う。
しばらくの時間が経った後、ハキーカは突然出口に向かって歩き出す。どうやら帰るらしい。ソンジュはつまんなさそうにハキーカの背中の一点を見つめる。そして、ぼそりと呟く。
「あなたは本当に人間なのかしら♪……それとも本当に不死身♪」
そのハキーカの背中には、生々しく肉をえぐり、そして深々と一本のハサミが突き刺さっていた。
◇◇◇◇◇
「はぁ……」
「ど、どうしたの春香ちゃん。そんなに大きなため息ついて……」
とぼとぼと帰り道を歩きながら、暗い顔をした春香になのはは心配そうな顔で言葉を投げかける。春香はどこか遠くを見るように空を見上げた。
「いやぁ、僕のクラスにさある男子がいるんだけど……そいつが、運動会の練習に真面目に参加しようとしなくて……はぁ。先生大激怒。そいつ、運動ができないからってねぇ……」
そして、また大きなため息を漏らす。暫く歩くと分かれ道となり春香はじゃあねと言ってなのはが行くのとは違う道を歩いていく。
なのはは春香に手を振り、彼女の姿がみえなくなってから、自分の家に向かい歩いていく。
(運動が苦手……か)
その気持ちは彼女自身はわからなくもなく、寧ろ彼女も運動が苦手な方に分類されるような人間である。
しかし、最近はドリームダイバーの仕事やマコトに付き合わされるランニングなどのトレーニングを重ね、いまは普通レベルの体力に落ち着いてきたが、それでもやっぱり運動は苦手だ。
「……んっ、なに?……携帯になんかきたのかな」
突然、お尻のポケットに入れていた携帯がブルブルと振動して、メールか電話が来たことを告げる。
少し慌てながら携帯を開くと、そこにはマコトからメールの知らせがきていた。そこには『至急』と、一言だけ書いてあった。
嫌な予感がして、なのはは携帯をポケットになおしながら、ドリームダイバーの研究所兼事務所へと、走り出した。
◇◇◇◇◇
ガチャ!
大きな音がして治療室のドアが開かれる。その治療室にはいつも通りのメンバー。マコトとあやめ。そしてカナエとDr.トーマス。ベッドの上には一人の少年が幸せそうに眠っていた。
なのははなんとなくその少年に見覚えがあった。しかし、なのははその顔を思い出すより、自分の息を整えるので頭いっぱいであり、そのことまで頭をまわせなった。
暫くして、息が整いそのベッドの上に寝ている少年の顔を覗き見る。見た目は、ふくよかな体型の少年だった。
「……あ、こんにちは」
またガチャリと音がして、一人の女性が入ってきて、ぺこりと頭をさげる。恐らくは少年の母親であろう。少し顔を青ざめながら、全員の顔をチラチラとみる。なんせ全員子供。しかも一人は近くのベッドで眠っているのだ。心配なのは仕方ないだろう。
「えっと、この子たち……が、本当にドリームダイバー……なんですか?」
「おお、そうだぜおばさん」
「こら、やめなさいマコトくん……まぁ、彼女たちに任せてください。さぁ、来たばかりで悪いけど、マコトくん。なのはくん。任せたぞ」
Dr.トーマスという、一見初老の男性に見える人が、二人にそう促す。そして、二人はDr.トーマスから腕時計のようなものを受け取り、前にかざす。
「……おい、筋肉ダルマ」
すると突然メガネをかけた少女。カナエが視線をあやめに向けたまま、マコトに声をかける。マコトは差し出しかけていた腕を下にゆっくりとおろして、なんだ?と、カナエの声に応えた。
「お前が言ったように、未来は変わったな。それで、お前はどうしたいんだ」
「どうしたい。とはなんだ?」
「未来は変わる事がわかったから、私の存在意義など皆無に等しいということが、わかってしまった。あれほど大口叩いてたのにな」
そこまで言うとカナエは自嘲気味に笑いながら、あやめの額を優しく撫でる。あやめはうぅんと唸るだけで目は覚まさず、幸せな寝顔を崩さなかった。
「未来を見れる。しかし、外れた。これは大きすぎる。大きすぎた失態だ。百発百中じゃなくなった私の、存在意義など……」
「何言ってんだてめぇ」
カナエの言葉を遮るようにマコトが声を上げて、そしてカナエの後頭部をパシンと叩く。カナエは突然叩かれて驚いたような顔でマコトの方をみる。マコトの方はというと、自分の方を向いたカナエの頬を両手で挟み込んだ。
「たかが一回、未来視聴が外れただけで気にしすぎだ」
「だがーーー!」
「それによ」
カナエが言おうとした言葉をまた遮り、マコトはニッと笑いながら一言述べた。そして、その言葉の続きを何時もの彼女からは想像できないような優しい声で述べ始める。
「オレはお前の言葉を頼りにしてんだ。未来?そんなのじゃねぇ。お前自身の強さを頼って行動してんだぜ。そこは、間違えんなよ」
そう言ってマコトはカナエの頭をポンポンと優しく叩く。そうされるとマコトはなぜか嬉しくて。でも、それを見せるのが恥ずかしくて慌てて顔をそらす。
「お?なんだ照れてるのかぁ?」
茶化すように、しかし、自分も恥ずかしさを紛らわすかのようにマコトがカナエの顔を覗き見ながら、そう言う。
カナエはドンとマコトを押して、黙れと不機嫌そうにつぶやき、プイッと後ろを向く。マコトは頭をかきながら、文句を言いたげな表情で、患者の方へ歩く。
「ありがとう……」
「ーーーえ?」
後ろで小さな声が聞こえたような気がして、マコトは振り向く。しかし、そこにはカナエの姿はなく、ドアが開いていて、その奥から誰かの足音が遠ざかっていく。
マコトは少し清々しい気持ちでドリームダイブの準備を始める。なのははもうすでにダイブしていたのだが。
◇◇◇◇◇
「つっ……やっぱりいてぇな……」
痛むところをさすりながら、マコトは夢の世界にやってきた。辺りをキョロキョロと見回すと、そこは見たことがあるところだった。
ふと、入り口にかかってある表札に視線を落とす。そこには慣れ親しんだ小学校の名前である『三月小学校』と、書いてあった。
なんでここに?と疑問が隠せなかったが、突如学校の敷地内から何かが打ち上げられて、そして爆発する音が聞こえた。
「なんだぁ!?……は、花火……?」
《あーあー……き、聞こえるか?》
そして、その花火に気づいた瞬間、腕につけてるドリームコネクターから、先ほど聞いた声が響いた。カナエである。
少し上擦いた声で聞こえるそれは、マコトの耳に入ってきたと同時に、その声から何か異常が起きたとわかるのにはそう時間がかからなかった。
「で?どうしたカナエ。変な声だが、何かあってんだろ?」
《……自分が言ったことを覚えておけ……緊張してるこっちが馬鹿みたいではないか》
何かボソボソと言っており、マコトはなんだと聞き返す。するとカナエはなんでもない!と大声で言ったため、マコトは思わず耳をふさぐ。
取り敢えず敷地に入らないといけない。マコトは辺りを警戒しながら、ゆっくりと一歩足を踏み入れる。キョロキョロと周りを見て、異変に気付く。
マコトは目を細めてそこを見る。そこには一人の見覚えのある少女がうつむいて座っていて、マコトはその少女に声をかける。
少女……なのははマコトの声を聞いて顔を輝かせながら、後ろをバット振り向く。そしてマコトに駆け寄り、ガバッと抱きついた。
「マコト先輩……!どこ行ってたんですか……遅いです……いろんな意味で怖かったんですから……」
いろんな意味?そんな気になる言葉を聞いてマコトは思わずそこを聞こうとした。しかし、その思考はまた大きく聞こえた花火が打ち上がる音でかき消されてしまう。
暫く二人でそこを見上げていると、今度は屋上に何かの人影が見えた。マコトは念のため足を広げて立ち、なのはの首元に手を近づけて、いつでも逃げれるようにと準備をする。
が、それは杞憂に終わる。なぜならその屋上にいた人物は突然飛び降りたのだ。マコトは驚いた声を上げて、その人物を目で追った。
そして、それは地面に綺麗に着地した。マコトは思わず腰を低くするが、そのことを知ってか知らずかその人物は腕をピッと上に突き上げた。そして大きく息を吸って。
「宣戦!我ら選手一同は!スポーツマンシップに基づき!正々堂々戦うことを!誓います!!」
と、高らかに宣言した。マコトは驚いた顔で、なのはは対照的な表情でその人物を見えていた。
そして、マコトは気づいた。堂々としていたので気付かなかったが、彼はまさしく今回依頼に来てた少年そのものであった。
「それでは……」
少年はそう一言言って手をパンと叩く。すると少年の姿が一瞬で消えた。なのはとマコトは突然消えたので、慌てながら辺りを見渡して少年を探す。
ガンッ
何かに殴られるような音がして、なのはドンと吹き飛ばされる。マコトは能力を使いなのはを受け止める。その時、彼女は見た。少年がとても素早く。それは、マコトと一緒かそれ以上の素早さで動いているのを。
マコトは心の中で舌打ちしながら、キッと一点を睨みつける。するとそこに狙ったかのように少年が現れた。彼はとてもニコニコとした表情で手を叩いていた。
「あぁ、ごめんごめん。まさかこの程度の速さについてこれないとは思わなくて……」
「はっ。正々堂々はどこ行ったんだ?」
「ケースバイケースだよ。あぁ、あんまり怖そうに睨まないで。僕、子供だよ?」
そういう少年は今度は口を押さえて笑い出す。子供と言っていたが、彼の瞳は子供のような純粋さは一切なかった。
マコトはふと、彼が履いてる靴がどこか異様な雰囲気をただよわせていふことに気付く。どうやら、あれがナイトメアか。だから、あんなに速く動くことができたのだろう。
「うんうん。運動会の競技の、リレーは僕の勝ちかな?」
「勝ち?笑わせんな。まだ始まったばかりだろうが。リレーってんのは最終ラップまでどちらが勝つかわかんねぇんだぜ」
そう言ってマコトは軽くぴょんぴょんとその場で跳ねる。それを見て少年はピタリと笑いを止めて挑戦的な目でマコトを見た。
「じゃ、試してみる?お兄さん」
「オレの方が年下だし、それにオレは、お姉さんだ」
その言葉が最後。なのはには突風が吹いたように見えたの同時に二人の姿が消えていた。そしていたるところから打撃音が聞こえてきた。
二人とも常人の瞳にはとらえることができないほどのスピード。なのはは固唾を呑んで見守るしかなかった。
ドゴン!
そんな音が聞こえたかと思うと、マコトが大きく吹き飛ばされて、壁に衝突していた。今度はなのはが急いで駆け寄り、マコトを壁から引き離す。
「おや、お兄さん。まだ最終ラップまで行ってないよね?まだアンカーじゃないよね?」
「あぁ、そうだな……さて、そろそろ本気と行きますか」
「マ、マコト先輩……!!」
なのはは心配そうな声でマコトに声をかける。マコトは、なのはの方を見てにこりと笑う。そしてなのはの頭を軽く撫でて、まっすぐとナイトメアを見ながら、声を出す。
「オレが負けると思うか?……安心しろ。オレに、任せとけ」
その言葉は短かったが、なのはに大きな安心を与えた。そして、目の前からマコトの姿が消えると同時にナイトメアの姿も消えた。また、その音速をも超えるスピードの対決を見ながら、なのははぎゅっと自分の手を握りしめ、空を見上げた。
空は雲が全くない快晴で、なのははなんとなく勇気をもらった。そして、頬をパンと叩いてやる気を入れる。
「見るだけは嫌だもん……あの子みたいに、もう失いたくないし……」
そう決意を固め、なのははその音速のこえたバトルを見るために、じっと目を凝らした。
◆◆◆◆◆
(チッ……インチキ能力もほどほどにしやがれってんだ……!)
マコトは押されていた。動く速さはほぼ一緒。いや、若干だが、マコトの方が速い。しかし、それでも押されていた。
理由は簡単。ナイトメアの方がながく速く動けるからだ。その差は若干というほどだが、この場合の若干は大きすぎた。
じわじわと削られていく体力。一撃一撃は軽いが、何発も受ければダメージは溜まっていってしまう。
「しまっ……」
マコトはとうとう能力切れの時間が来てしまい、その隙を突かれてナイトメアの連撃を許してしまう。何十発もの拳が雨のように降り注ぎ、マコトは大きく吹き飛ばされる。
地面に何度もぶつかりながらゴロゴロと転がり、勢いが止まった時には身体中に擦り傷を作ってしまっていた。
口からつばと血を吐き出しながら、膝をつきながら立ち上がる。そんなマコトをナイトメアは少し離れたところに立って笑いながら見ていた。
「大口叩いた割にはもうボロボロだよお兄さん。やっぱり弱いね」
「はっ。たかがオレと一歳ぐらいしかかわんねぇくせによ……オレは強いぜ」
「ふぅん。まぁ、いいや。どちらにせよ君の相棒は逃げたらしいけどね」
ナイトメアがバカにしたようにそう言われ、マコトは始めてなのはがその場から消えてくことに気づく。
辺りを目だけ動かして見渡すと、それを見たナイトメアは茶化すような声を上げる。
「弱い奴の相棒は弱い奴だね!!おずおずと逃げちゃって……でも仕方ないね!この世はそんなものだよ!一緒に走ろうとか言った奴は基本僕を置いていく。そんな世界だよ!あの臆病者のクズがどこに行ってもそれはしかたーーー」
「オイ」
冷たい、氷のような視線を感じてナイトメアはしゃべるのをやめてその視線が出るところを見る。そこにはボロボロだが、強い、まるで鬼のようなオーラを持っているマコトがジッと睨みつけていた。
「な、なに?怒ってるの?本当のことを言われて怒るなんて、ガキだーーー」
「お前にあいつのなにがわかるってんだ……?あいつは弱くねぇし、クズじゃねぇ……あいつは強い。少なくとも、初めて会った時のあの頃よりか何十倍も強くなってんだ。それ以上知ってるような口であいつをバカにしてみろ」
そこでマコトはまた一段と強くナイトメアを睨みつける。あまりの恐ろしさにナイトメアは後ろに一歩。自分の意に反して動いてしまう。マコトはまだ、強く睨みつけ、そしてゆっくりと口を開ける。
「二度とその口きけねぇようにしてやる……覚悟、決めろよクズ」
ゾクリと、ナイトメアは背中に氷水を入れられたような錯覚に陥るほどの寒気を感じた。が、すぐに気を取り戻す。自分が負けるはずがない。と。
速さは負けてるが、持久力は勝っている。ならばそこを突けばいい。負けてるのも微々たる数字であり、それを耐えれれば、あとに見るのは『勝機』のみーーーが、なぜこんな寒気を感じる。なぜこんなに奴に怯えている。なぜ、自分はーーー
『負ける』と、思っているーーー?
瞬間。目の前からマコトが消えていた。そして、しまったという気持ちと、後ろにマコトが回り込んでいたのに気づくのは同時であり、マコトの拳を背中に直撃を受ける。
グシャァ。と音を立てながら近くの茂みに顔を突っ込む形に吹き飛ばされる。ゆらりと体を震わせながらナイトメアは立ち上がる。
「なんてことを……しやがる……!!」
マコトには及ばない。しかし、それでも殺気を持ったこえでナイトメアはマコトを睨みつける。そして、ナイトメアも攻撃をするため、足を踏み込んだ。
「瞬きさせる前に……殺してやる!!」
「そうか、じゃあオレは……」
そう言ってマコトはニヤリと笑う。それは先程までの殺気などどこにもない。いたずらに成功した子供のように無邪気な表情であり、マコトは更に言葉を続ける。
「瞬きはめちゃくちゃさせてやるぜ。だろ?なのは」
「空間固定ーーー!!」
ガサリと、草むらから一つの影がナイトメアの足に抱きついてきた。そして、ナイトメアは体の自由が消えていく感覚にとらわれて行った。
「な、なんできさまがぁ!?」
「え、えへへ……作戦通りですマコト先輩!!」
ナイトメアは唸りながら、腕を使いなのはを引き剥がして投げ飛ばす。が、足は釘を打ち付けられたかのように重く、そして地面に張り付いていた。
焦りだすうちに、ナイトメアは目の前に一つの影がきてるのが見えた。その影の持ち主を恐る恐る震えながら、ナイトメアは見る。
「な?言った通りだろ」
そこにはボロボロになりながらも仲間を信用し、そして、仲間と協力して今まさに勝利を掴みとろうとしてる少女がいた。
「瞬き。何回できるかな?」
「や、やめ、やめてくださいー!!僕はただ、活躍できない運動会だからどんな手を使ってでも活躍したかっただけなんでーーー」
「瞬きの回数は数えてやる。さて、オレの仲間を侮辱した罪。償ってもらうーーー!!」
ドドドトドドドーーー!!!!
弾丸のような拳が。雨のような拳が、ナイトメアに降り注ぎ、その連撃は、なのはが能力を使う代償を最大まで払うまで続いた。
「瞬きーーーする暇もなかったか?」
観客が一人しかいない場所で、マコトは決め台詞をつぶやいた。そのあと、弱々しい拍手が鳴り響き、マコトは手を上に挙げた。
(ーーーしかしなぁ)
手を上に挙げながらマコトは先程の戦闘を思い出していた。思い出したは最後のあの時。マコトが一瞬でナイトメアの後ろに回り込んだあの時。
マコトはあの時俗に言うブチギレていた。だから、いつも以上に足を踏み込み、いつも以上に加速した。その時妙な感覚にとらわれていた。
その瞬間。本当に一瞬だけだった気がするが、万物が動くのより早く動いた気がした。まるで。
(時を止めた……みてぇな……?はは。さすがに夢見すぎ、か)
少女は違和感を気のせいと、夢のせいだと片付ける。そして、それを忘れるかのようになのはがいる元に、ゆっくりと歩いて行った。
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【次回予告】
「友達、ですか」
「アリスの誕生日かぁ」
「友達なんて……」
「君は悲しい人間。だね」
【次回:17話 アリス・イン・ワンダーランド? 前編】
終わりました。お疲れ様です
久しぶりに更新して……覚えてますかね?理由はアレです。中間と体育祭です。はい。言い訳乙ですね。
次回はアリスちゃんメイン回。お楽しみ