第十五話 あやめられぬ過去 後編
「……マコト先輩、あの……」
「あ?なんだよ?言いたいことがあるならはっきり言え」
「あう、その……お、怒ってます?」
そんな会話をしながら、二人の少女。片方はオレンジ色のメルヘンちっくな服装。もう片方はまるで森に住んでる民族のような服装に身を包んでいる二人が、そんな会話をしながら歩いていく。前者の名前はなのは。後者の名前はマコトと言った。
今二人はある人物の夢の中にいた。その人物とは伊賀あやめといい、彼女たちの仲間であり、そして。
「……あんな風に言われて、頭に来ないやつなんかいねぇよ」
先程、この世界で死ぬと未来を見て言われた少女であった。
◇◇◇◇◇
時は少し遡り、あやめが研究所に担ぎ込まれたところまで戻る。慌てた顔のなのはに、マコトが駆け寄ってあやめの顔を覗き見る。
あやめの顔は例に漏れずとても幸せそうで、でもどこか悲しそうな顔で眠っていた。それだけで、何が起こったかは充分すぎるほど伝わった。
「……あやめ……くそ、急いでドリームダイブの準備を……」
マコトはそう言ってあやめをベッドに運ぼうとするが、それを突然メガネをかけたピンク髪でお団子にまとめた少女。カナエがマコトの肩を掴んで行動を止める。
マコトはあやめのほうを向き続けながら、カナエに対して、なんだ?と静かに声を投げかける。カナエは少し悩むそぶりを見せて、言いにくそうに口を開ける。
「やめろ。あやめは助からない……そんな、未来が見えた」
「……え?い、今なんて……?」
カナエの静かな、しかし、確実に耳に届くほどの衝撃を持っていた言葉に、なのはは思わず聞き返す。カナエはマコトの手をあやめから離しながら、なのはの言葉に対しての答えをのべる。
「私が見た未来。そこでは、あやめがバラバラにされて……夢の中でバラバラにされてしまっては流石に現実の肉体も耐えられない。故に、あやめは助からない。故に、助けに行く必要はない」
淡々と、カナエは事実を述べるように、なのはに告げた。なのはは思わず一歩後ろに下がってしまう。
「わかったか?無駄とは言わん……が、確実に助からない。するなとは言わん。が、意味のない徒労に終わる」
あくまで、する必要がないと言わないようにしているのがわかったが、それが尚更残酷に聞こえてしまった。カナエは未来を見ることができる。故に、あやめが死んでしまうという未来は確実に起きてしまうのだ。
「死ぬ……あやめが死ぬのか……」
マコトがポツリと呟く。カナエは表情一つ変えずに、マコトの肩を掴む力を強めた。それは、無言の肯定の意味を込めていた。
が、マコトはその肩を掴んだ腕を引き離した。それも、無言で示した反抗の意思であった。二人がじっと見つめ合う中、やがてマコトがゆっくりと口を開ける。
「未来を見た……そしてそこであやめが死んでた。だから助けに行くな。あぁ、言いたいことはわかるぜ。未来が見えてるお前だからこそわかる無駄な徒労。トランプですら、勝てる未来が見えたら適当にやっても勝てるんだ。死ぬなんて未来を見ちまったんだ。お前なりの親切心なんだろうな」
「だったらわかるだろう?私が言ってることが……君には理解できるはずだ」
「あぁ、理解できるぜ。けどな」
そう言ってマコトはカナエがつけているネクタイをぐっと引き寄せて、掴み上げる。マコトは静かな怒りの感情を込めた顔で睨みつけながら、口を開けた。
「理解できるのと、はいわかりましたっていうのは別だぜ。未来で死ぬから行くな?ふざけんじゃねぇぞ。助けに行ってその先にあるのがあやめが死ぬとか生きるとかそんなのは一切関係ねぇ。オレはただーーー」
そこまで言い、マコトはまた強くカナエを引き寄せた。二人の顔はとても近くなり、マコトの一切乱れてない息遣いがカナエの顔に当たった。
そして、マコトはカナエのネクタイを握り、切断してしまうのではないかというほどの力を込めながら、口を開けた。
「オレはただ、あやめを助けたいだけだ。そこに理由なんざねぇ。何もせず、じっとしたくねぇんだ。わかったらささっとその口を閉じて、無駄だとか無意味だとかそんな言葉を一生ほざくな」
そう言うと、突然ドアが開く音が聞こえた。そこにはDr.トーマスと悟が立っていた。寝ているあやめ。一触即発の雰囲気の二人。そして涙目でこっちを見てくるなのはを見て、状況説明を悟は求めた。
「……いや、なんでもないですよ、悟さん。ただあやめが無限睡眠症候群になったから助けに行くだけです。だろ?なのは」
「えっ、あ、はい!」
「そ、そうか……ならいいが……よし、早速準備しよう。悟くん。あやめくんを運んでくれ」
Dr.トーマスに指示され、悟はあやめの体を担いでおくの治療室まで運ぶ。その後ろからなのは達が付いて行く。そして、マコトはカナエの横を通り過ぎる時、小声で耳打ちをした。
「……未来ぐらいオレが変えてやる」
そんな一言。確実に叶うはずのない、そんな一言。しかし、カナエにはその言葉が実現不可能と思うと同時に、少し期待を抱きながら、彼女達の後ろ姿を見送って行った。
◇◇◇◇◇
「……まぁ、今はどうでもいい。オレが証明すればいいだけの話だしな」
そんな過去のことを思い出しながら、マコトは力強くそうつぶやく。なのははそんなマコトを見て、安堵の息を漏らす。ギスギスした雰囲気は、なのは自身も好きではないからだ。
暫く歩くと、大きな家が見えた。この辺りにはない家。そして、その家から発せられるいようとしえない空気に、マコトとなのはは思わず生唾をごくりと飲み込む。
「多分、ここにあやめがいる……しかし、あいつ金持ちなんだなぁ」
「そう、ですね……こんなに大きな建物。普通じゃ住めませんもの」
二人はそんな会話をしながら、その家……というか、屋敷としか言えないほど大きなそれの前に立っていた。扉は固く閉ざされており、開けることは難しそうであった。
「……マ、マコト先輩……もしかして……」
「へへ。そのもしかしてだ……下がってろなのは!」
マコトはそう言ってなのはの制止を振り切り、その扉に向かってこぶしを思い切り突き出す。ドォン!と大きな爆発音が響き、あたり一面が大きく揺れた。
それだけの打撃が来れば、扉が壊れるのは必然であり、二人の前には屋敷が大きな口を開けているように、扉が綺麗に粉々にされていた。
「ああー!なんであなたは扉を破壊して中に入ろうとするんですかー!?」
「細かいことは気にすんな。どうせ夢の中だ」
「いやいやいや!夢の中でもこうやって部屋に入るということ自体が問題なんですよ!モラルの問題!」
「はいはい以後気をつけまーす」
マコトはなのはの激しいツッコミに適当な返事をしながら、その屋敷の中に入っていく。なのはは少し躊躇したが、すぐにああもう!と叫んで、すぐに追いかけていく。
屋敷の中は一見普通に見えた。しかし、先に入っていたマコトがしゃがみこんで何かを見ているのを発見して、なのはは近づいて横から覗き見る。
「何を見て……ひっ!?」
「ちっ……あまり趣味がいいインテリアじゃねぇなこりゃ……」
そこにポツンと置いてあったのは、虚空を見つめている、何かであった。しかし、上の方についてある毛のようなもの。そして、その虚空を見つめている、そこに入るはずであったと想像がつく、近くに落ちてある目玉。
「人、の、頭……」
それは、目玉をくりぬかれている、人の頭であった。髪の長さからして、女性の頭か。それが、置いてあるのは奇妙でもあり、恐ろしくもある。
なのはは思わず口を押さえてうずくまる。しかし、うずくまった先にも何か人の手のようなものがポツンと置いてあった。
「うっ、おえ……」
なのはは嗚咽を漏らしながら、口の中から何か出そうなのを無理やり抑える。マコトはそんななのはに大丈夫か?と優しく声をかけながら、上手く立てないなのはに肩を貸す。
ありがとうございます。と震える声でお礼を言い、なのははゆっくりと立ち上がる。しかし、だからと言って慣れたわけではなく、まだ恐怖と気持ち悪さで足元がおぼつかない様子であった。
しかし、立ち止まるわけにはいかない。二人は彼女を助けて、証明しなければならなかった。だから、歩く速度はゆるめども、立ち止まることはありえなかった。
「たくっ、あやめのやつ……どんだけ闇抱え込んでんだ……?」
「そう、ですね……夢の中は普通その人が一番したいことが出る……春香ちゃんは家族と遊園地に行く。マコト先輩は……」
「……あん時はすまなかったな……オレの夢に結構色々とされたんだろ?」
「あ、いえ!別に大丈夫です。それにあの時は大変でしたが、今は……その……マコト先輩と一緒に居られるから、とても嬉しいです!」
そう言ってなのははえへへと笑う。マコトはこんな状況だからこそ、先程あんな姿を見せてしまったから、彼女は笑顔を無理やり出した。顔は青く染まってるのにだ。
それは弱さは一切なく、あるのはちっぽけな強さ。しかし、それだけでマコトは力が付いてくるような、そんな強さであった。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。オレが男だったらそのきゃわいい笑顔に惚れてたところだぜ」
「ちょっ、もう!からかわないでくださいよ!」
なのははぷくっと頬を膨らませて、マコトに文句を言う。マコトはワリィと笑いながら、一応の謝罪をする。まるで、先ほどの空気がどこかに行ってしまったかのようであった。
しかし、いたるところに人間の頭や腕と思われるものが置いてあるのは変わりないが。しかし、それを気にしないように明るく振舞ってるのかもしれない。
「さて……」
そんなことをしてるうちに、一つの扉の前に着いた。そこからは何かいるような雰囲気を醸し出しており、この先に、あやめがいるように思えた。
「未来、変えましょうね……」
「……あぁ、もちろんだ。じゃないと、ここまで来た意味が皆無だから、な」
二人は顔を見合わせて、こくりと頷いてその扉を開けた。まるで、運命の扉のように見えたその扉は、見た目よりも重々しく、その扉は鈍い音をだしながら、ゆっくりと開いていった。
そして、その先に待っていたのはーーー
◇◇◇◇◇
「……人間ってのは難儀だよね……まぁ、僕様も人間なんだけど……」
「で?それを私に言ってなんのつもりだ?ハキーカ」
無数の本が置いてある書斎に、紫髪の長髪の男性、ハキーカと、赤い髪で赤を基調とした服装をした女性、レーヴがにらみ合う形で座っていた。
レーヴがした質問に対して、しばし考えて、ハキーカは口を開ける。視線は本の方に向けながらだが。
「だって君は人間に近いもの……っとと」
ハキーカがそう言った瞬間、レーヴは読んでいた本をハキーカの眼前に素早く突き出した。ハキーカはニコニコとしながら、怖い怖いと呟く。
「その言葉……私に対する侮辱と捉えていいのだろう?私達に人間と一緒?君達人間は罵倒で豚だとか、ウドの大木とか言うらしい。それと一緒だ」
ぐいっと本を近づけていき、コツンとハキーカの顔にぶつかった。ハキーカはまだ口元に笑みを残しながら、レーヴの腕を掴んで、下に降ろした。
「そんな怖い顔しないでよ。話したくても話せないじゃないか……ふふふ」
「……ちっ」
レーヴは舌打ちをしながら、本を手から離した。パタンと音がして地面に当たると、ハキーカはようやくレーヴの腕から手を離した。
ハキーカは自分が読んでいる本に視線をじっと向けながら、なんというか考えているように見えた。しばらく時間が経った後、おもむろに口を開ける。
「人間ってのはみんな夢を見てる。けど、ここにいるのはみんな夢を見ていない。未来に絶望し、夢を見れない僕様。狂ってしまい、夢を見れない彼女。言われたことしかしない、夢を見れと言われてない彼。でも……」
そこまでいって、ハキーカはレーヴの方を指差す。レーヴはムッとした表情で、その指先を見つめる。
「でも君は夢を見ている。かなわないかもしれないけど、君はこの外に出る方法を探すという夢を見ている……夢に生きてるから、ある意味夢を見てるかもしれないけど。ね」
そう言ってクスクスと笑う。レーヴはため息をついて、ハキーカの腕を下げる。そして、冷たい目でハキーカを睨みつけた。
「いいか?私の夢……外に出る夢は確実に叶う。そのためにエネルギーを貯めている……夢を見るときに出るエネルギー。それをあるところに献上しないといけないが、一定数献上すれば、あとは自由に扱っていい。そして……」
「このままいけば確実に溜まる……て、事?うまくいくかなぁ」
「うまくいくとかうまくいかないじゃない……」
レーヴはそう言って、席を立ち出口に向かって歩いていく。そして、扉に手をかけてゆっくりと開けながら、小さく。それでいてよく通るような声を出した。
「うまく、行かせるんだ」
そう言い残して彼女は去っていった。一人残されたハキーカは、クスクスと笑いながら、同じように席を立つ。そして、ポツリと声を漏らした。
「うまく、いかせるねぇ……そう思ってる時点で君はもう……人間みたいなもの。なんだよねぇ……ふふふ」
ハキーカは重りを引きずりながら、出口に歩いていく。そこから出るまでも、彼の笑い声が途絶える事はなく、ずっと響き続けた。
◇◇◇◇◇
「ーーーおいなのは。目を閉じて、そして深呼吸しながらゆっくり開けろ」
扉を開けたマコトが最初に言ったのは、まるで忠告のような。これを無視したら、お前は大変な目にあうと言ってるかのような。そんな意味合いを含めた言葉であった。
なのはは言われた通りに慌てながら目を閉じた。嫌な予感が身体中を駆け巡り、冷や汗がたらりとこぼれる。鼻の奥を何か鉄のような香りがすぅーと通っていく。
ゆっくりと。ゆっくりと、目を開ける。そしてそこにあったのはーーー
「……ひ、ひっ!?」
赤い絨毯のような、紅い池のようなものが広がっているその部屋に、バラバラにされている肉片が至る所に散りばめられていた。
そんな異質な世界を見て、なのはは今度こそ、口から何か気持ち悪いものがこみ上げてきて、それを止める事ができずに、口から出してしまう。
抑えようとしても、抑えようとしても、それが止まる事はなく、それが尚更、気持ち悪さを加速させる。
マコトは優しく大丈夫か?と声をかけながら、背中をさする。それがとても安心して、なのははだんだんと息を整えていく。
ありがとうございます。と、マコトに礼を言って口を拭う。そしてゆっくりと立ち上がり、改めて周りを見渡す。そして小さくあっ。と声を漏らした。
「あ、あそこ、あやめさんが……で、でも……」
あやめは見つけた。しかし、なぜかプカプカと浮かんでるような風に見えた。なのはは目をこすりながらじっとそこを見つめる。そして気付いた。
何か透明な……アメーバなようなスライムのようなものの中に、あやめが入っていた。あれがこの世界のナイトメアなのだろうか?
「……っ!くるぞ!」
マコトが叫ぶと同時に、ナイトメアが透明な体を触手のようにふり、空気を切りながら、襲いかかってくる。
マコトはなのはを押し飛ばし、自分はその場にかがむ。そして、足を力強く踏み込んで、上空に飛び上がった。
腕を大きく振り、ナイトメアがいるところに勢いよく突き出す。なにか当たった感触はあったが、ダメージを与えたような気はしなくて、マコトは内心首をかしげる。
そのタイミングを突かれて、ナイトメアはマコトの足を掴んで振り回した。そして地面にむかって投げ飛ばされて、地面にある赤いものを飛び散らせながら、何度もぶつかり転がり続ける。
ガンッと壁に当たる音が聞こえ、ようやく勢いが止まる。が、咳き込むごとに口から血が飛び出して行き、彼女が先ほど受けたダメージの大きさを物語っていた。
「あ、や、め……!!」
しかし、それでも彼女は立ち上がる。なのはも小走りでマコトの元にやってきて、傷の治療をする。離れた骨などを一時的に固定してくっつけるのだ。
が、それもある意味荒治療。根本的な解決にはなっておらず、傷の痛みは消えない。
でも、それだからこそ、彼女は立ち上がる。震えながらもだ。この痛みは、きっと、無駄じゃないと彼女は信じていたからだ。
「なのは、お前は下がってろ。攻撃ができないお前は……」
「で、でも私……戦えます!攻撃するだけが、戦いじゃない……た、盾ぐらいなら……!!」
自分が肉盾となると、なのはは目に涙を浮かべ、足がガタガタ震えながら、そう宣言した。肉盾になることも楽ではなくて、むしろ苦である。先程攻撃を食らったマコトを見ればそんなこと一目瞭然。
しかし、それでも彼女はちっぽけな勇気を振り絞って、そう提案したのだ。その提案を、マコトは承認する義務がある。
「OK。守りはお前に任せる……いくぞ、あやめを……」
「助けましょう!二人で!!」
未来を変えるため、二人はお互いにうなずき合い、すっと立ち上がる。そして、ナイトメアに向き合いーーー
「うるさいな……」
「なっ……!?」
向き合ったその先にいたのは、いつものようなくノ一風の衣装に身を包んだ、ここに来た理由の一つである、黒髪の少女。
「あやめ、さん……?」
「うるさいっていってます。黙って下さい。あ〜!もしかして、しゃべり続けないといけないタイプなのぉ〜?」
「なんだてめぇ、少し変だぞ……?」
「変……あぁ、やっぱり私は変なんですねわかります今までいろんな人を見てきましたけど私が変というのは変わりない事実で私にルビをふれば変人になってしまうほど私は変なのですなこんなゴミみたいな変人は生きる価値なんてあるのでしょうかいいやありません早い事死んだほ」
「な、何があったんだお前……いつもと全然違うぞ……」
そうマコトに言われ、あやめはペラペラと喋っていた口を一旦閉ざす。そして、彼女はまるでマコトたちが何を言ってるかわからないと言ってるような顔で、質問に答えようと口を開ける。
「いや、だって私、本当の自分がわからないもの。だから、色々やってしっくりくるの探してるだけです」
「そ、そうか……そんなことより!今はあのナイトメアを倒すのが先だ!手を貸してーーー」
「そんなことより?」
突然、空気がピリッとしたように変わってしまう。あやめが震えながら、口の中で何度もそんなことよりという単語を何度も発する。マコトとなのはは思わず恐ろしさにより一歩下がってしまう。
「私は子供の頃からの自分がないの……すべて親が作ったでござる。だから、そんな私が自分を探しているのをぉ〜そんなこと呼ばわりですか……」
そうするとあやめはギリっと闇の中から獲物を狙う蛇のような瞳で二人を睨んだ。その瞳はいつも見るあやめのそれとは全然違う瞳であった。
ゆえに二人はごくりと生唾を飲み込む。が、マコトはハッと我に返ってあやめに一気に近づいた。彼女の能力、超ダッシュによって、瞬きの間に彼女はあやめのすぐ後ろに移動していた。
確かに、今の彼女は話を聞ける状態ではなく、一度気絶などをさせて此処から連れ出すのが先決だと、彼女は判断したのだ。
しかし
「……なっ、どこにもいない!?」
そう、あやめの姿がどこにもなかったのだ。ズザァと赤い地面を滑るのを、足でブレーキをかけながら、周りを見渡す。
そして、彼女はあやめの能力について思い出していた。それと同時に赤い地面の一部がグニャグニャとゆがんだ。
「忘れていた!あやめの能力はーーー!!」
そして、その歪んだ赤いものがだんだんと人の形をなして、まことに襲いかかる。それが繰り出した小さな刀がマコトの右足に深々と突き刺さる。
それが合図だったかのように、今まで沈黙を貫いていたナイトメアが触手を無数に出して、連続で 突きの攻撃を繰り出してきた。
赤い地面がえぐれ、マコトの体に無数の触手が襲いかかる。マコトはとっさに腕をクロスしてガードするが、そのガードすらその連続攻撃の前には無意味であった。やがて、ガードが崩れていき、体全体に突きを受けてしまい、大きく吹き飛ばされる。
「忘れていたなんて失礼な。拙者の能力。それは、自己変化。つまりは、何にでもなれる……まぁ、ナイトメアに化けるのは無理だけど」
そう言ってその赤い何かだったものは、あやめの形に戻っていく。マコトはガラリと音を立てながら、ゆっくりと立ち上がる。
なのはも急いで駆けつけてマコトの前に立った。それを見たあやめがイライラしたように舌打ちをする。そして忍者刀を持ち替えながら、ビシッとなのはの方を突き刺す。
「あなた何弱いくせに前に出てるんですか!?誰かに守ってもらえるって思ってるの!?それどこか今は自分が他人を守ろうとしてる……ふざけないで!あなたは弱いのよ!!弱者は弱者らしくーーー」
あやめはぎゅっと忍者刀を握りしめて、そしてなのはを睨みつけた。なのははそれに対しーーー
一歩、前に進んだ。
「あなたねぇ……!!弱者は弱者らしく!守られてればいい!守ろうなんて考えるなぁぁぁぁ!!」
そう言って、あやめは忍者刀を思い切り投げ飛ばす。風をきりながらまっすぐなのはに飛んでいく。
「……確かに私は弱いです。守るよりか守られる方が性に合ってます……けれど!」
なのははそう叫んで一気に駆け出した。突然の行動であやめは少しびくりとするが、手にクナイを持ち同じように駆け出した。
「私はまだ攻撃するための武器を持ってない。持ってないけど!!」
なのはは思い出していた。あの、恐ろしい相手に拳ひとつで戦った小さな勇者の勇姿を。それのおかげで、なのはは勇気がわいていた。
そしてなのはは拳を握り、足を踏み込んで思い切り突き出す。が、あやめは少し驚いただけで、すぐにその攻撃をいなして、クナイがなのはの肩に突き刺さる。
なのはは痛みに声を上げるが、すぐに自分の髪留めを外して、グルグルとあやめの腕にクナイごと巻きつけた。
あやめは一瞬何があったかを考えるが、すぐにクナイから手を離そうとする。しかし、動かなくなっていた。まるで、何かに固定されたかのように。
「まさかーーー!!」
「そう、です……!!私の能力でクナイとゴムを固定しました……!!あなたはもう、逃げられない!!」
「成る程……考えたでござるな!しかし、それはお主も同じこと!それに、私は知ってますよぉ〜これってやり続けるとだんだん疲れちゃう!だから!」
あやめはそう言って動かすことができる腕を使い、もう一つの忍者刀を取り出して、なのはを切りつける。なのははなす術もなく連続で斬りつけられ、赤い液体を辺りに飛ばした。
「私が『あなた』に負けるわけーーー!!」
「『あなた達』……だろ!!」
一瞬。そう、一瞬だけだった。あやめが気を抜いた瞬間は。しかし、それだけで彼女が動くのには充分すぎる時間だった。
あやめの隣に、マコトが立っていた。風を切り、大地に足を踏みして、拳をあやめの方に向けていた。そして、マコトはニヤリと笑った。
「なのは!なるべく固定しておけよ!」
「わ、わかりました!」
「あやめ!!これはお前に対する!!」
マコトはそう言って思い切りあやめの右ほほを殴り飛ばす。しかし、あやめは固定されてるため吹き飛ぶことはなく勢いを一切殺させず、衝撃を受ける。
それはなのはも同じ。しかし、なのはは歯を食いしばり、その衝撃を耐えた。マコトはそれを見て、安心した顔で体をひねりまた拳を構える。
「怒りの!友情の!鉄槌だぁぁあぁあああぁぁあ!!!」
ドガン!そんな爆発した音が響いたかと思うと、また同じような音が響いた。マコトはあやめの体に連続でそんな音が聞こえるほどの勢いでパンチを繰り出し続けた。
無数の拳があやめに降り注ぎ、やがてなのはが糸が切れた人形のように倒れるまで、続いた。
なのはが倒れると同時に、あやめは大きく殴り飛ばされる。ドガァ!と、音がして壁に大きくめり込む。マコトは肩で息をしながら、なのはの方をちらりと見る。なのはは疲れた顔をしながらも、マコトにVサインを送って見せた。マコトも笑いながら、Vサインをなのはに送った。
「あ、そうだ……あやめを早く起こすためにもまずナイトメアを倒さないと……」
マコトは頬をパシンと叩いて、ナイトメアと向き合おうとする。なかなかに強い相手だが、何となく今なら勝てる気がしたからだ。それ程までに、なのはから勇気をもらった。
ナイトメアはというと、とても静かになっており、それはとても不気味に見えた。が、マコトはこれチャンスと捉え、能力を使って一瞬でナイトメアの後ろへと回り込む。そして、あやめにしたようにラッシュを叩き込もうとしていた。
その行動が未来の歯車を回し始めた。
ナイトメアは突然狂ったかのように触手の連撃をあるところに浴びせ始めた。そこはーーー
「ーーーっ!?あ、あやめ!!」
そう、あやめがいる壁に向かってだ。風をきるような連撃は、すべて当たれば体がバラバラになってしまうような威力を持ってることは見てわかった。
マコトの脳裏にはここに来る前カナエに言われたことを思い出していた。もしかしたらこれが未来通りの結果になるのではないか。
そして、今彼女がいるのは空中。超ダッシュをするには地面を強く踏みしめないといけない。故に、能力であやめを助けるのは不可能だった。
そしてなのはも満身創痍。もう、カナエが言った未来が訪れるまで数秒とかからない。マコトは一瞬だが、敗北の二文字が浮かんだ。
しかし。彼女はその二文字をかき消すかのように大声で叫ぶ。それは、その二文字を消す意味もあり、また、彼女や自分に対する叱咤激励の意味もあった。
「未来を変えるんだろ!!」
その叫び声は自分にも、なのはにも届くほどの大きさだった。それと同時に触手があやめがいるところに連続で爆発するような音を出しながら、打撃を与えていた。
時間にして小数点以下。しかし、それでもその触手は何百も連撃を加えていた。が、マコトも口の中で未来を変えると叫んで、勢いよく拳を連続で突き出し、ナイトメアの触手より多い回数の連撃を喰らわせる。
マシンガンのような音が辺りに響き、ナイトメアはだんだんと形を維持できなくなっていく。やがて、グニュリと変な音を出しながらナイトメアが風船のように破裂した。
辺りに飛び散ったそれは、マコトが地面に降りた時にはもう全て消えていた。しかし、あやめがいたであろうところにはもくもくと煙が立っておりマコトはそこを青ざめた顔で見ていた。
未来を変えると大口をたいて、未来を変えることができなかった。大切な仲間を救うことができなかったかもしれないという二つの絶望がマコトにのしかかる。
しかし、マコトは前に進む。絶望なんか関係ない。自分は未来を変えるために行動したんだ。その行動の先に絶望があるなら、悔いはなかった。
そして煙を払いながらゆっくりと近づく。やがて何かにつまづいて倒れる。マコトは恐る恐るそれに手を伸ばしペタペタと触る。そんなことをしていると煙がはれていき、その触ってる物が何かわかっていく。その正体を見てマコトは震えながらも口を開ける。だがどこかーーー
「ーーーははっ」
どこか誇らしげな顔で倒れている、一人の少女であった。その少女を見てマコトは笑いながら抱き上げ、そして優しくつぶやく。
「無茶しやがって……でも、お前はかっこいいぜ、なのは」
「え、えへへ……ありがとう、ございます……」
そのままマコトはゆっくりと壁のところにいるあやめのところまで近づいていく。あやめはマコトに殴られたところ以外は無傷で、下をうつむいていた。
そしてゆっくりと顔を上げてマコトとなのはの顔を交互に見る。そして、震えながら立ち上がり頭を下げようとした。しかし。
「謝んなあやめ。そもそも夢の世界で謝られてもお前はあんまり記憶ねぇだろ。だから、さ」
マコトは手を差し出した。あやめはその手を驚いたように見つめる。マコトはあやめの方にその手を近づける。
「この手。握ってくれや。んで、帰ろうぜ……なのはもそれでいいだろ?」
「……はい!勿論です!」
なのはが力強く答えてマコトと同じように手を差し出す。あやめは目に涙を溜めながら、その手を取った。
「お前はお前のままでいろ。誰かに作られたお前でも、それはお前だ。恥じることじゃねぇよ」
「はい。それに、私は……あやめさんのこと大好きですから、どんなあやめさんでも仲良くなります!」
あやめはその時、はっきりと礼の言葉を述べた。いや、あまり聞き取れなかったが、きっとそういったんだと思う。なぜなら
彼女の顔は今までで一番、彼女らしかったからーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【次回予告】
「もう直ぐ運動会!」
「こんにちはそして死ね♪」
「何言ってんだてめぇ」
「全部オレに任せとけ」
【次回:16話 炎の運動会】
お疲れ様でした。
あやめさんの話が終わりました。彼女はドリームダイバーになるために実験台にされたんですね。
色々と物語が分かってるかこの頃。次回は一旦ギャグ回です。ではまた次回




