第十一話 マコトの真実 後編
レーヴ。私はレーヴだ。
前回のあらすじだが……ふーん。どうやら、いろいろとハキーカが何かしてるようだな。私にはあまり興味はないが……ま、気になるなら前回を見てくれ。あらすじを言え?……いや、前回の話の大体のところなら覚えているだろ?
「……なんだろうな、これ……」
赤い髪をポニーテールにしている少女が……マコトがそうポツリと呟く。周りは闇のように暗い世界が広がっており、少女はそこに浮かぶようにプカプカとしていた。
「オレはどうしたいんだろうな……あの、ハキーカとかいうやつの言葉が図星で……」
そう言いながら彼女はクルリと回ってみせる。その暗闇の中には、彼女の赤い髪が光のように見えるだけで、動くたびに炎が揺れるように、そこだけが明るく見えた。
「結局、オレはガキなんだろうな……強くあろうとして、そして、オレより強くなりそうな奴に嫉妬して……ははは。笑いしかでねぇや」
そんな時、ふと彼女はもし誰かが助けてくれたら。と考える。あの時の青い髪の少女。春香のように助けに来てくれるのか。と。
「あいつらのことだ……多分、助けようとするだろうよ……けど、助けられてもなぁ……現実は地獄。夢も……地獄」
彼女はそう言いながらずっとその暗闇の世界にプカプカと浮かび続けた。心なしか、赤い炎のような光がだんだんと消えていってるように見えた。彼女は、どこまでもどこまでも流れていった。
◇◇◇◇◇
マコトが夢の中で助けが来るかどうか考えている時、時を同じくして、Dr.トーマスの研究所には、ベッドの上でマコトがぐっすりと寝ていた。
「マコト先輩が、む、無限睡眠症候群に……!!」
こうしゃべるのは、オレンジの髪をツインテールにした少女。名前はなのはといった。そのなのはが慌てた口調で言うと、作務衣に身を包んだ少女。あやめが安心してと、なのはに向かって言う。
「マコト殿が、無限睡眠症候群にかかっても……目を永遠に覚まさないわけがないでござろう?きっと、すぐに目をさますでござる。その手助けをしに行くだけでござる。……の?カナエ殿」
あやめがそうカナエと言う少女に声を投げかける。カナエは少し間を置いた後、そうだな。と台詞を口にした。
「それじゃ、早速ドリームダイブの準備をしようか」
そう言ったのは、この研究所のトップのような男性。Dr.トーマスと言った。そう言いながら、Dr.トーマスは腕時計のようなものをあやめとなのはに渡した。
「あやめさん……」
なのはがその腕時計のようなもの……ドリームコネクターを腕につけながら、そう口を開ける。あやめは、ん?と言って次のセリフを待った。
「私、マコト先輩に言われたんです……いや、お願い。かな。『オレの後輩でいてくれ』って。だから、そのお願いを叶えに行きます」
そう力強くしゃべるなのはを見てあやめは笑いながら背中をパシンと叩く。そして、なのはの方を向いて、口を開ける。
「言うようになったでござるな。たしかに、お願いは叶えないとでござる!……じゃ、行くでござるよ」
「……はい!」
二人はそうして夢の世界へと落ちていった。パタンとその場で倒れ、Dr.トーマスと、彼の助手。悟が担いでベッドの上に運んだ。
「……なのはちゃんに、あやめちゃん……大丈夫でしょうか」
悟はそういいながら、眠っている3人の顔を見た。やはり、3人とも幸せそうに寝ている。本当に戦いに行ってるとは思えないほど、幸せそうに。
「……まぁ、大丈夫だよ。だってこの子たちだよ?この子達が、誰か一人でも欠けるとこなんて……想像つかないしね」
Dr.トーマスがそういうと、悟はなんとなくそんな気がした。いや、自分でも薄々そうだとはわかっていた。だからこそ、同じ考えを持ってる人がもう一人でも欲しかったのだ。
そして、悟は優しくなのはの頭を撫でた。なのははウウンと言っただけで、眠り続けていた。
「きっと、大丈夫」
確かめるように、口の中でその言葉を転がすように喋る。きっと、大丈夫だろう。仲間が欠けるのは、ダメだ。悟は首にかかっている、枕のネックレスをぎゅっと握りしめた。
◇◇◇◇◇
「ここが、マコト先輩の夢……?」
「なんでござろうか……この夢は……」
なのはとあやめが疑問をいうのも無理もない。その世界は、まさしく白一色であり、何も置いてない、奇妙なところであった。どこを見渡しても白い世界が広がっていた。
あやめはクナイを一つ取り出し、まっすぐ投げ飛ばす。まっすぐ進むそのクナイは、しばらく進んだあと目に見える距離でカツンと、壁に突き刺さる。
「ふむ。意外に狭いのでござるな……」
《それでも、野球ドームぐらいの大きさはあるぞ》
突然聞こえたのは、通信機から聞こえるカナエの声であった。たしかに、比較対象がないためあまり広くは見えないがそう言われたら広く見える。
あやめとなのははとりあえず投げ飛ばしたクナイの場所までゆっくりと歩く。いつ、どこからナイトメアが襲いかかってきてもおかしくないため、自然と周りを警戒していた。
通信機から聞こえるカナエによると、周りに敵の反応はないらしく、それで少し安心する。しかし、一見とどこまでも広がる世界に、なのはは言い知れぬ恐怖を覚え始める。だからか、あやめに会話をしようと口を開ける。
「そういえばあやめさん。病院に行ってましたけど……大丈夫ですか?」
「病院?あぁ。まぁ〜簡単に言えば、前に言った通り体が弱いゆえ、定期的に病院のお世話になってるのでござる」
「定期的にお世話って……なんか、病気か何かですか?」
「んん〜ちょっと違うでござる……まぁ、ここら辺は込み合った話になるでござるから、この話はここで終わりでよかろうか?」
そう言われたら話を続けるわけにはいかない。しかし、頭の中でなのはは少し考える。本当に夢の中ではとても元気であり、まるで『夢の中でしか生きられない』そんな風に見えた。
(まぁ、違うよね……そんなこと、ありえないし)
なのははそう言って自分の頬をパンと叩く。今は余計なことを考えてはいけない。今の目的はマコトを早く見つけて起こすことである。
《……!?二人とも、そこから離れろ!》
突然聞こえるカナエの大声。二人は慌ててその場から大きく左右に分かれて飛んだ。すると先程までたっていたところに何か黒い影が落ちてきた。その影は、顔のみまるで闇のようになっていたが、他の部分は見覚えがある姿であった。銀色の軽装の鎧にまるでどこかの民族のような化粧を顔にして、赤いポニーテールで髪をまとめていた。
「マ、マコト先輩!?い、いやちがう……!!」
《あぁ。あれはマコトのナイトメア……まずいぞ、大変まずい……》
カナエが慌てながらそう言う。なのはは一瞬理由がわからずたじろぐ。しかし、次の瞬間いやでもわかってしまう。
「えっ!?」
ヒュンと音がして、目の前からマコトのナイトメアが消えた。そして次の瞬間に、あやめが大きく殴られたような音を響かせ、吹き飛ばされる。
「……超ダッシュ」
そう、マコトにはほぼ無敵の能力がある。そして、敵はマコトのナイトメア。使えないはずがなかった。
離れないと。なのははそう考えるがもう遅い。いつの間にか目の前にナイトメアがいて、あやめと同様に大きく殴り飛ばされる。
「きゃぁ!?」
なのはは叫び声をあげながら殴り飛ばされる。ナイトメアは大きく足を踏み込みまた超ダッシュと小声でいうと、なのはに一気に近づき、何度も何度も、その大きな拳で、何度もなのはを殴り続ける。そしてトドメと言わんばかりに、腹に大きな一撃を与えた。
「ガッハァ……!!」
なのはは口から血のようなものを出しながら大きく弧を描き飛んでいく。そして地面に何度もぶつかり、勢いが止まったのは、壁にぶつかった時だった。
フラフラとなのはは立ち上がる。マコトは味方だと心強いが、敵だとなんと恐ろしい相手だ。自分が一方的に殴られるという恐怖。それを今なのはは身を以て体験していた。
「やら、せるか!!」
ナイトメアの後ろにいたあやめがそう叫んでマコトに一気に駆け寄る。そして大きく忍者刀を振り上げ、ナイトメアの背中めがけて振り下ろす。
しかし、その忍者刀が切り裂いたのは空間。ナイトメアはその忍者刀が振り下ろされる前に動くのぐらいは簡単であった。
後ろに回られ、あやめはなすすべなく背中から上空に打ち上げられる。打ち上げられた時間はわずか数秒足らずだったが、見ていたなのはは、それは何分にも、何時間にも思えた。
ぐしゃりと嫌な音を立てて地面に激突したあやめ。口から出るのは血が混じったつばのみであり、叫び声をあげる余裕すらなかった。
(つ、強い……いや、違う。強いもあるけど、もう……)
恐怖。なのはを支配してたのは恐怖の感情であった。大きすぎる。強大すぎる力は、小さな力を持ってるものには、それはその強大さよりか、何乗にも大きく見えてしまった。
ギロリと、顔がないはずなのにナイトメアが睨んできたような気がして、なのはは思わずびくりとしてしまう。頬を冷や汗がたらりと流れて、身体中が寒気により震え始める。
ナイトメアは、そんななのはを一瞥した後なのはの方に歩き始める。ナイトメアにとってはもう、なのはは唯の虫。気に入らないから。目障りだから。なんとなく、殺す。その対象に入っていた。
なのはは震える足を右手で抑えるが、ナイトメアが一歩一歩近づくたびに、それに反応するかのように足の震えは止まらなくなってきていた。
「ーーーひっ!!」
口からなのはは小さな悲鳴を漏らす。そんななのはをナイトメアが何も感じないというように見下ろしていた。そしてゆっくりと拳を上げていく。
(い、いやだ……死にたくない……!!)
なのはは思わずぎゅっと目を瞑る。死に対する恐怖により彼女は身動きが取れなくなっていた。何も出来ずに消えていってしまうのか。しかし。それはあまりにもーーー
ゴウッ!と、風を切る音を出しながら、ナイトメアが一気に拳を振り下ろす。なのははその拳が振り下ろされる間考え事をしていた。古来より、格闘家が極限状況まで追い込まれた時、周りの速度が遅くなり、思考が多くできるという。
(私は、約束したんだ……マコト先輩を助けるって……だから、ここで死ぬのは、諦めるのはーーー)
「最低すぎる!!!」
なのははそう叫び、ナイトメアが振り下ろした拳に両手を伸ばして受け止める。ゴキリと、骨が折れるような音がして、なのはの両手があらぬ方向に曲がる。叫び声をあげてなのはは後ろに吹き飛ばされる。ナイトメアは姿勢を低くし、また、超ダッシュをしようとする。しかし。
「ーーーー?」
体が動かない。なぜか、とても腕が重い……いや、違う。先ほど振り下ろした方の腕が、空中でまるで釘か何かに打ち付けられたように、がっちりと固まっていた。
「マコト先輩は……超ダッシュ……カナエさんは未来視聴……あやめさんは……わからないけど」
遠くに吹き飛ばされたなのはは膝だけでゆっくり立ち上がっていた。プランと、動かない腕に視線を落とし、そしてまた口を開ける。
「それじゃ、私の能力はなんだと思いますか……?」
その瞬間、ナイトメアは理解した。そしてその場からも動こうとしたが、腕が空中で動かないため体が動かなかった。
「私の能力は……空間固定……!!この能力は対象を固定できる……私の力の都合上、あまり長時間は止めれない……けど!あやめさん!」
「了解したでござるっ!!」
後ろからそう声が聞こえたかと思うと、先ほど吹き飛ばされたあやめがナイトメアの背中に深々と忍者刀を差し込んでいた。
なのはが空間固定したのは、ナイトメアの武器である大きなグローブ。 しかし、逆に言えばそこしか固定されてないわけであり。故に。
ドゴォ!
他の部位を動かすのは可能である。ナイトメアは左足で、あやめの腹を蹴った。また大きく吹き飛ばされるあやめ。地面に激突して、何度も体を打ち付けて、やっと口から血を出しながら、 とまった。
「あ、あやめさん!」
「だ、大丈夫で……ござる……」
なのはは慌ててあやめに駆け寄る。そしてナイトメアの方をちらりと見てみる。ナイトメアは背中しか見えないが、なにか、 凄みのようなものを感じていた。
《ーーーおい!二人とも聞いて喜べ朗報だ!》
突然通信機からカナエの声が聞こえてきた。なのは達は、何事かと、その声に耳を傾ける。
《あいつの夢を解析してみたんだ。この夢は、あいつの強くありたいっていう気持ちの現れ……つまり、あのナイトメア自体があいつの夢なんだ。あいつが、願った世界に欲しいのは、強い自分だったわけだな》
「え、じゃ……つまり……?」
《察しが悪いな……どこまでもバカだ……つまり、だ。あいつは、あいつの中にいるってわけだ……腹の中でも切り裂いてやれ!》
カナエがそういう。そしてなのははナイトメアの方に視線を向ける。あれが、マコトが欲しかったもの。強い力。親も、仲間も守れなかった自分が、欲したのは、それであった。
「マコト先輩……」
口の中で確かめるように、自分に発破をかけるように、何度も何度も繰り返す。マコトがいる場所は分かった。あとは、そこに到達すればいい。やっと見えたゴール。それは楽そうに見えてきつい、そんな道であるが、なのははぎゅっと目を閉じて、ゆっくりと前に歩き出す。
たとえ険しくとも、厳しくとも、ゴールはゴールだ。なのははそう自分に言い聞かせて、目を見開いた。
その目は先程までとは全然違う。諦めないという強い意志が込められた瞳であった。
◇◇◇◇◇
「……」
なのは達が戦ってる中、マコトはただボーッとしていた。何をするでもなく、何かやろうと考えるのでもなく。ただ、浮かんでいた。
「つよく、なりたいだけだったんだ……強くなりたいんだ……はやく、帰ってくれねぇか……なのは、あやめ」
マコトは今二人が懸命に戦ってることを知りながらも彼女はそういう。それは、二人に対する冒涜としりながらも、だ。
「早く帰れよ……クソが……」
「本当にそう思ってるの?」
突然、自分とは違う声が聞こえてばっと体を起き上がらせて周りを見渡す。一面広がるくらい世界。しかし、ある一点がまるで炎のように赤くなっていた。そこには一人の小さな女の子がポツンとたっていた。
「……テ、テメェは……」
「私は、貴女の奥底にある私……まぁ、あまり深く考えずにね。ただの私はオレなの」
そう言って、その少女はウフフと笑ってせかせかと、こっちに歩いてくる。マコトはゴクリと生唾を飲み込んで、ゆっくりと立ち上がった。
「で?私がオレに何の用だ?」
「べっつにー?まぁ、少し文句を言いにね」
そう言って少女はグイッと顔を近づけた。もともとマコト自身も身長は低いため、顔と顔を付き合わせる形になっていた。
その時見た少女の顔は、何処か、マコトらしくて、しかし何か忘れてしまった感情を持ってるように見えた。だからこそ、マコトはその少女から顔をそらす。
「私の夢覚えてる?お父さんとお母さんと動物園に行きたいってやつ。で、今の私は強くなりたい……だっけ?」
そう少女は言うと、二へへと笑いながら、マコトがそらした顔の方を向いた。マコトは少し間を空けてそうだと言って頷く。
「……身の丈を知りなよ!」
そう言って少女は力強くマコトを腹を殴る。マコトはグゥッと言いながら腹を押さえてうずくまる。文句を言いたげに、少女の顔を見上げるが、少女はむすっとした顔で見下ろしていた。
「私達はまだ子供なんだよ?それがなに?強くなりたい?なれるわけないし限界あるし!」
他でもない自分から言われたその言葉。心の底にぐさりと何かナイフのようなものが刺さったような気がして、胸がズキズキと痛む。
「……しるかしるかしるかしるかしるか!!」
しかし、彼女は認めるわけにはいかなかった。この言葉を認めてしまったら、自分の中で何かが終わってしまうような気がした。だからこそ、彼女は声を大にして否定する。
「オレは家族も仲間も守れなかった!だから、動物園に行くとかそんなこと言う暇なんて余裕なんてねぇんだ!オレは強くならなきゃならねぇんだよ!オレなら、オレならよ!わかるよな!!」
「ん〜……わかんない」
「……はぇ?」
自分自身からの否定。それに対してマコトは間抜けのような声をあげて、返事をする。それを聞いた少女は、あははと笑ってトコトコと走り出す。
「強くなる?うーん……なんで強くなるの?お仲間を守るため、家族を守るため……違う違う。貴女はいい感じの言い訳を探してるだーけ。それ以上でもそれ以下でもないの」
「ち、ちがう!オレはただ、みんなを守るために……!!」
そう必死に弁明するマコトはとても滑稽に見えた。それを見た少女は少し悩んだ後、人差し指をピシッと突き出して、口を開ける。
「強さだけがね、強さだとは思わないのよね。私。だって、今戦っているのは、私のナイトメアに押されて、ボロボロになってるのに戦う……それは弱いのかな?」
「…………」
それもマコトは否定できなかった。知っているから。自分がよく知っているからである。あやめ。そしてなのはの強さは、何度も一緒にいた自分はよく知っている。
あやめは、元より高い戦闘力をもっている。そして場を和ませる性格をしており、なのはは、他人を思いやる力を持っている。しかし、裏を返せばあやめは人によってはウザがられる性格でもあり、なのはは他人を思いやりすぎて、自分を異様に低く見る傾向がある。
「……弱くねぇよ……あいつらが弱いわけねぇよ」
弱いは強い。強いは弱い。
一言で強いといえる人間はいない。しかし、逆もまた然り。つまりは、強くあろうとするのが間違っているのだ。強くあるのではない。
「無理に強くなろうとするな……か」
「そゆこと。まぁ、私達は子供だし、まだ色々とおかしいところもあるよ。ここで強くなっても、お父さんたちが帰ってくるわけじゃない。でもそれでいいじゃない。だって、私達はもう十分強いんだから」
「……ふふ、あーはっはっはっは!!」
マコトは大声で笑いだす。それは今までの思いを全部吐き出すかのように、口を大きく開けて上を向きながら、笑い出す。
ひとしきり笑った後、そして大きく伸びをして、少女の方を向いてありがとな。と礼の言葉を述べた。
「どうも。んじゃ、最後に私から宿題!」
そう言って少女はマコトに近づいて、ガバッと抱きついた。マコトは少し悩んだ後、優しく抱き寄せた。
「絶対ぜーたいお父さんとお母さんを治してね」
「おいおい、オレを誰だと思ってやがる?」
「……そうだね。へへへ。変なこと聞いちゃった」
そして少女はマコトから離れて少し軽くトンと押し飛ばす。マコトはそれに乗って早足にそこから歩いていく。それをみた少女は今度はゆっくりと歩いて反対方法に進んでいった。
◇◇◇◇◇
「だぁぁああぁあぁあ!!!」
辺りに響く叫び声。なのはは口から止まらないほどの声を荒げて、ナイトメアを羽交い締めしていた。動かないのは片方の腕のみなのに、もう片方で簡単に振りほどけられそうである。
故に、気合を込めるためにも、そして体を支配する痛みを忘れるように、彼女は叫び声をあげていた。
「はやく、戻ってきて!ください!!」
そして次に口から出るのは、マコトのことであった。しかし、ナイトメアはとうとうなのはの腹を後ろ蹴りで蹴り上げて、飛ばした。
だが、間髪入れずにあやめが近づいてきて、忍者刀を背中につき刺そうとした。グサリと、音がなりナイトメアの背中に深々と忍者刀が突き刺さる。ナイトメアは唸り声のようなものをあげながら、動かせる手をつかい、あやめをガシッとつかんだ。
そして、大きく投げ飛ばす。今度は壁に直接ぶつかり、あやめは暫く地面に降りてこなかった。
数秒後、ガラリと音が聞こえてドスンとあやめが地面に落ちる。震える足に鞭を打ってあやめは立ち上がろうとするが、何故か立ち上がれない。いや、理由はわかる。
(勝てないって……わかってるからでござろうか……くそっ……)
その場から動けないはずなのに、ナイトメアは圧倒的な力でなのはとあやめを恐怖で押さえつけていた。恐怖故か、ナイトメアは見た目より巨大になって見えた。
「マコト……先輩……!!」
しかし、なのはは立ち上がる。あやめはわかっていた。彼女は、自分が壊れても、死んでもマコトを助けようとするだろう。それが、なのは。他人のために、自分を下げ続けた少女の考え。それは、とても痛々しかった。
「……ふ、ふふふ……ここで拙者が負けを認めたら……諦めたら……」
「私が、ここでマコト先輩のことを見捨てたら……」
「「それは最低だ!!」」
二人は同時にそう言って一気に駆け出す。目指すはまっすぐナイトメアの所まで。ナイトメアは、体の重心を低くして、二人の攻撃に備える。
「マコト先輩!!はやく戻ってきて!!お願い……!!マコト、マコトちゃん!!」
「……いいぜ!!」
突然聞こえたその声に、なのはとあやめは足を止める。すると、ナイトメアが突然がくんと下を向く。そして、切り裂かれた背中から、手と青い色の服が伸びてきた。そして、だんだんと見えてくる。そこから出てくる顔は見覚えがある、あの顔であった。
「よぉ、なのは……あやめ……遅れたけど、戻ってきたぜ」
「マ、マコト先輩!!」
青いジャージをはためかせ、褐色の肌をした今二人とも一番会いたい少女。マコトがそこにいた。まるで、最初からそこにいたかのように、彼女は堂々としていた。
「アァア……!!」
ナイトメアは、ゆっくりと首だけをまわし、マコトの方を向いた。すると、突然動かなかった腕が動き出した。それと同時に後ろの方でなのはがバタンと地面に倒れる音が聞こえた。
「だめ……逃げて、マコト先輩……!!」
なのはがそういうがナイトメアは動き出した手を振りかざし、マコトの方に振り下ろした。しかし、マコトはその場から動かず、ただ手を突き出してその攻撃を受け止めようとした。
ガツン!と音が聞こえ、マコトの左腕がゴギッと音が聞ならしあらぬ方へ曲がる。しかし、マコトは痛みに声をあげるどころか、大きく踏み込み、そして動く方の手を力強く握りしめる。
「いてぇな……けどな!!」
そして目を見開きながら拳を勢いよく突き出す。ゴウッと音を鳴らし、その拳は真っ直ぐと迷いなくナイトメアの腹に向かって進む
「オレの攻撃の方がもっといてぇ!!」
その拳はナイトメアの腹を突き破る勢いでぶつかり、そして、ナイトメアは大きく上空に吹き飛ばされる。ナイトメアは勢いを落とすことなく、その部屋の天井にぶつかる。そして、その天井はピシリと音を立てて崩れていった。それは、ナイトメアと同じようにドロリと。しかし、地面に当たる前には完全に消えていた。
その白い部屋の周りにはまた世界が広がっていた。そこを見たなのは達は思わず感動で声を漏らす。勝った感動もあったが、それよりも勝っていたのは。
「ーーー素敵……」
外の世界に広がる緑の大地。そして、至る所に動物が幸せそうに暮らしている、そんな世界であった。それを見たマコトは少し笑った後、地面に倒れこんだ。
「なんだ……」
マコトはそう一言言って大きく伸びをする。そしてそのまま腕を上に伸ばす。日差しがとても眩しくて、でもどこか暖かくて、マコトはにかっと笑いながら、また口を開けた。
「オレの夢……変わってねぇじゃねぇか……」
そんなマコトの周りをパタパタと青い鳥が、二匹踊るように飛んでいた。
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【次回予告】
「今日からお手伝いにきます」
「もうすぐ夏休みかぁ」
「そうですわ。わたくしにいい案がありますの」
「う、うん!似合ってるよ!」
【次回:12話 さまーばけーしょん 準備編】
お疲れ様でした。今回、試験的に2話連続で投稿させてもらいました。
いつの間にか他人を妬んでることはたまにあります。まぁ、仕方ない事ですね。それを、きちんと受け止めればマコト先輩みたいになれるはず。しかし、マコト先輩は人生何周してるのかな




