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ドリームダイバーズ  作者: は〜げん
1/26

第一話 始まりは突然に

待ってる人いたかなぁ・・・新作の第一話です

夢。


それは人が眠る時に見ることができる、妄想と想像の世界。その世界では、人が見たいものや見たくないもの。求めてるものや求めてないものなど・・・とにかくいろいろなものが存在してる、まさにカオスの世界。


そんな世界だからか、現代・・・とある奇病が流行っていた。それは、一度寝ると夢を見続け、やがて死に至る・・・その奇病の名前は『無限睡眠症候群』と呼ばれていた。


しかし、月日が経てば対処法は発見される。外から起こすことができないのなら、内側から。つまり、夢の中で起こせばいい。そんなわけでとある科学者が作った道具を使って夢に潜る職業ができた。その名前はーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

は〜げん魔法少女シリーズ第二部

『夢に潜るもの〜ドリームダイバーズ〜』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「・・・なんだ・・・この未来・・・」


メガネをかけた、ピンクの髪を後ろで団子にして、白衣を着ている小さな女の子がそう震えながら呟く。


それもそのはず、彼女が見ている景色は、いたるところが燃え盛りまさにこの世のおわりだと言えるような。そんな景色が眼前に広がっていた。彼女が一歩歩くと、その足を置いた地面がサラサラと崩れ去った。


「・・・これが、いつ必ず訪れる未来・・・?ふざけるな、こんな未来・・・!!」


そういうと、目の前に二つ人影が見えた。彼女はそれを目を凝らしてみようとする。そこにいたのは、大きな人影と小さな人影。その二つが戦っていた。


しかし、小さな影がだんだんとさらに小さくなっていくのを見て、少女は小さく悲鳴をあげる。


「何故だ・・・未来を変えるにはどうすれば・・・」


震えながらそういうと、突然世界がグラリと傾いた。そして、目の前の世界がだんだんと消えていく。


「ま、まってくれ!!私はまだ見ないといけないことがあるんだ!!持ってくれ・・・!」


そんな消えていく世界の中、最初に消えたのは目の前で戦っていた小さな影であった。それを見た少女は今度は大きな声で悲鳴を上げた。



◇◇◇◇◇



ピピピ・・・ピピピ・・・


無機質な機会音が響く部屋の中、布団の中に入ってる少女がもぞもぞと動いた。そして、その音を鳴らすものを叩いて、音を止める。


「ふ、ふぁ〜・・・眠いな・・・」


そう言いながら大きく伸びをする、オレンジ色の髪の少女。ゆっくりと起き上がりフラフラと、洗面所まで歩いていく。


パシャパシャ


冷たい水で顔を洗い眠気を飛ばす。そして、歯磨きもして、一日をまともに生活する準備を整える。


よし、と気合を少し込めた後は、いそいそと服を着るためにクローゼットに向かう。


そこで取り出したのは、青くて、鎖骨が覗くワンピース。そしてその上にライトグリーンの袖がないジャケットを羽織り、オレンジの髪を赤いウサギのようなリボンを使ってツインテールにする。


「・・・よし、今日も元気にがんばるぞ」


そう小さな声で呟いた少女の名前は『大沢 なのは』小学五年生のごく普通の女の子。家族構成も普通であり、OLの母と、小説家の父と仲良く暮らしていた。


大きな欠伸を噛み殺しながらリビングに向かうと、すでに母と父が起きていて、おはようと声をかける。なのはもそれに対しておはようと眠そうな声で返事を返す。


「あれ、お父さん。仕事終わったの・・・?」


そう、父に質問をするなのは。父は少し照れ臭そうに頭を掻きながら口を開ける。


「いや、後ちょっとなんだが、さすがに三徹はきつくてね・・・少し休憩。多分今日中には終わるぞ〜そしてお父さんはゆっくり眠ってやる!!」


最後は大きな声でそう叫んだ後、食べかけのトーストを食べた後、コーヒーで無理矢理流し込んで、席を立った。今から仕事の続きをしにいくのだろう。それをなのはは応援の意味を込めて手を振る。そしたら父も手を振り返して少しなのはは少し嬉しくて、父の背を見送った。


「ほら、なのは。早くご飯食べないと春香ちゃんがくるわ・・・」


そこまで行った時、ピンポーンとチャイムが鳴った。なのはの母がほらと言いたげな顔でにこりと笑うと、なのははパンを急いで食べて、オレンジジュースで無理やり流し込み持ってきていたランドセルを背負った。


そして行ってきまーすと言いながらリビングから出て行く。その姿をなのはの母は、笑顔で手を振りながら気をつけてねと声をかけた。


「ごめん!春香ちゃん!!遅れちゃっーーー」

「シャッターチャンス!!」


そんな声が聞こえたかと思うと、パシャリとシャッターを切る音が聞こえた。目の前にはカメラを持って人懐っこくへへへと笑う少女が立っていた。


青いオーバーオルの上に長袖のシャツを首から回して前で結んでおり、髪もきれいな青で俗に言うアホ毛が一本生えていた。顔にはそばかすが付いており、手には少し古めのカメラを持っていた。


春香と呼ばれた彼女。フルネームは『橘春香』という。なのはの幼馴染であり、お互いが親友と言える仲であった。


「もう、春香ちゃん。いきなり写真撮らないでよ!びっくりしちゃったよ!」

「あっはは!ごめんごめん!まぁ、遅れてきたお返しみたいな?でもほら!なかなかいい顔だよ?」


そういう問題じゃないと言いたかったが、春香の無邪気に笑う顔を見たらどうでもよく思ってしまうのは彼女のある意味才能かもしれない。


そして、2人は学校へ行く道をゆっくりと歩いて行った。歩きながら春香と談笑をするのはなのはの楽しみみたいなものだった。そんな時通学路にある電気屋のテレビからニュースキャスターの声が聞こえてきた。


「近年また増えつつある『無限睡眠症候群』ですが・・・何か対処法とかあるのでしょうか?」

「そうですね。なんなら寝ないってのが一番なんですがーーー」


そんなセリフが聞こえてきてなのはは耳を疑う。寝ないのが一番。そんなのが無理なのはなのはもよくわかっている。すると、先ほどまで笑っていた春香の顔に影が差し、なのはの手を掴んでいきなり走り出した。


「えっ、ちょっと!春香ちゃん!どうしていきなり走るの!?」


走りながら、なのはは肩で息しながらそう言った。そして学校の前に着くと春香は先程のように笑顔になってなんでもないと一言だけ言った。なのはは絶対そんな事はないと思ったが、何かを聞く勇気がなかった


そんな自分が情けなくて、嫌になる。前からそうだ。自分は何かする勇気がない。きっと今までもそして、これからも。でもそれが自分だと、割り切る


「・・・うん、わかったよ春香ちゃん」


そう言った後、2人は学校へと入っていった。


そんな少女を物陰から覗いてる影が一つ。顔は見えないがとても身長が高く、首輪と手と足に重りをつけている男性がいた。


「ふーん・・・あの子が・・・ね。僕様たちの相手になるかわかんないけど・・・ま、今は気にすることじゃない、か」


そう言って帰ろうとするが、声をかけられて呼び止められる。


「おいそこのお前、怪しいな・・・なにしてるんだ!!」


そう警官に呼び止められて男性は少しため息をついた後、ゆっくりと近づいていく。警官は少しおびえて一歩下がる。


「うん。君が僕様の通り道になってもらうよ。いいよね?」

「は?なにを言っーーー


「永遠に醒めない夢を・・・グッドナイト」


そんな声が聞こえたかと思うと、男性は消えて警官はバタンと倒れた。警官の口からは心地いい寝息が聞こえてきた。



◇◇◇◇◇



キーンコーンカーンコーン


ありきたりなチャイムが鳴り響き、なのはの通ってる小学校。三月小みつきしょうにいる児童が部活動生以外はそそくさと帰り支度を始めていた。それは、なのはも例外ではなく、一人教室で春香が来るのを待っていた。


(春香ちゃん遅いなぁ・・・春香ちゃんのクラスの帰りの会。長引いてるのかなぁ)


そんなことを思いながらぼーっとしていると、後ろから声をかけられる。なのはは誰だろうと思いながら後ろを向くと、そこにいたのは一人の少女だった。


赤い髪でサイドに二つ、ロールを作っており、青いショールをつけていて、黄色い長袖シャツに青いロングスカートを履いていた。


「ごきげんよう。なのは様」

「あ、ああああ・・・あなたは・・・」


なのはの声が裏返りながらそう言う。それもそのはず、目の前にいる少女の名前は『三月アリス』。この三月小。いや、この三月町を作った三月グループのトップの一人娘。つまりは、お嬢様であった。


「ど、どうしました?何かしちゃいましたか・・・?」


少し涙目になりながらそうアリスに言う。誰だってまさか同じクラスだと言っても、お嬢様に話しかけられるとは思ってない。そんなものである。


アリスは少しだけ悲しそうな顔をした後、いえ、と一言前置きを置いて口を開けようとした。


「やっほー!!ごめんなのは!!僕のクラス、少し話が長引いちゃって!!・・・もう、佐々木のやつ。目立ちたいからって突然水風船をばらまくかね・・・って!!えぇ!!三月さん!?なんで!?」


ドアをがらりと開けながらそんな慌ただしいリアクションをした春香は急いでなのはの元に近づく。そして、アリスはふっと息を漏らしてにこりと上品に笑った。


「いえ、なんでもありませんわ。では、なのは様。春香様。ごきげんよう」


そういい、スカートを軽く持ち上げて頭をぺこりと下げる。なのはと春香もつられて頭を下げるのを見て、アリスはまたにこりと笑い優雅な歩き方で教室から出て行った。


「なんだったんだろう。何か言いたげだったけど・・・」

「さぁね。お嬢様の考えてることはよくわからないなぁ。ま、悪い人じゃないし、変な話ではないと思うよ」


二人は先程のアリスの行動に色々と考えながらトコトコと帰り道を歩いていた。そして角を曲がると何かにぶつかったような音が鳴り、なのはは後ろにどしんと倒れて、尻餅をつく。


「あ、わりぃ!急いでたもんで・・・怪我はないか?」

「あぁ、はあ・・・えっと、あなたは・・・?」


なのはが痛む尻をさすりながら顔を起こすと、そこには赤いポニーテールにヘソがチラリとのぞくほど短いシャツに三月小と書かれたジャージを羽織り、元気そうな肌の色。つまりは褐色の肌で、なぜか靴を履いてなく裸足であった。


「おっと、名前を言ってなかったな。オレの名前はマコト。大和田マコトだ!よろしくな!!」


この少女との出会いが、なのはの運命を大きく加速させるのは、まだ彼女は知らなかった。


その後話を聞くと、どうやら彼女はとある場所に行きたくて急いでたらしい。しかし、場所がわからないのでいろんなところを走り回ってたら、なのはたちに出会ったというわけである。


「えっと・・・大和田さんは、三月小の子なんですか?」

「んあ?いや、マコトでいいよ。で、質問だが・・・そうだな前はそうだったな。今は違う。俗に言う小卒ってやつさ!!はっはっは!!」


そう豪快にマコトと名乗る少女は笑う。そして、道案内をしていた春香が突然ピタリと止まる。どうやら目的地に着いたらしく、マコトに促す。


「おっ、ここか!サンキュー助かったぜ!!あ、そうだ。少し上がってかね?おっちゃんに頼めば・・・んあ?どうした?えーと・・・春香ちゃんだっけ?」

「・・・ここって、もしかして、もしかしなくても・・・ドリームダイバーの仕事をするところですが・・・?」


春香がそう呟くと、マコトはニヤリと笑った。そして大声でそうだと言って言葉を続ける。


「ここはドリームダイバーの事務所兼研究所!!そしてオレがここの支部のドリームダイバー!!大和田マコトだ!!」


そう言って豪快にまた笑い始める。それを見たなのはは、苦笑いを浮かべるが、それと対照的に春香は突然なのはの手をつかんだ。


「帰ろうなのは。もう道案内は終わったし」

「えっ、あっちょっ、待ってよ春香ちゃん!!」


そして二人は。いや、春香は逃げるようにその場から走って行った。その後ろ姿をマコトは少しやっちゃったというような顔で苦笑いをした。


「まったく、あんたは何がしたいんだ?こんなこともできないのか、この単細胞の筋肉バカが」


突然、後ろから声が聞こえて、マコトは振り向く。そこには少し大きな白衣に身を包んだ、ピンクの髪をお団子にして、メガネをかけている少女がバカにしてるような視線をマコトに向けていた。


「うっせ、もやし娘が。あの春香って女の子があんな態度を取るなんて思わなかったんだよ」


マコトはぶっきらぼうにそう言うと、その眼鏡の少女に近づく。


「でもさ、見えてんだろ?先の結果。教えてくれよ、モヤシ」


そう言うと眼鏡の少女は眼鏡を軽く上にあげた後、軽く息を漏らす。その表情はとても少女に見えなくて、大人の女性のように見えた。


「今度ティーカップを一個買ってくるか」

「・・・へへ、OK。オレが買って来てやるよ。花柄の可愛らしいやつがいいだろうな」


そう言うとマコトは駆け出していった。その速さは少女とは思えないほど速く、一瞬で視界から消えていた。


「・・・話を聞かんやつだな。ま、未来はもう見えている。私の方はもう一つ椅子でも頼んでおく、か」


そう言いながら眼鏡の少女は事務所兼研究所の中に消えていった。彼女が見えたもの。未来というのは本当に進むのか。それとも違うのか。それを知るのは、神とこの眼鏡の少女だけかもしれない。



◇◇◇◇◇



「・・・ごめんね、なのは。でも僕あんまりあそこ好きじゃ・・・」

「ヒュー!ヒュー!やばっ、だめっ、はっ、はっゲフォ!!死ぬ、死ゴフォ!」

「あぁ!そうだ、なのは体力全然ないんだった!!だ、大丈夫!?」


あの後事務所兼研究所から逃げるように走った二人は、名もない小さな公園に来ていた。そして、体力がないのに全力で走りすぎたなのはは今瀕死状態になっており、春香は急いでベンチに座らせた。


「どう?落ち着いた・・・?」

「ふぅ・・・ふぅ・・・うん、少し・・・は・・・ゲフォ!!」


しかし、なのは全然大丈夫ではなく、少し喋るたびに、大きく咳をしてしまう。どうすればいいかわからなくて少し泣きそうになるのを春香は我慢する。


「おいおい、大丈夫か?走りすぎて倒れそうなか?」


ふと、凛とした女性の声が聞こえて、春香となのはは顔をあげる。目の前には黒いショートヘアーに、きりっとした目立ちで『三月パン』とプリントされたエプロンを着ている女性が立っていた。


「ちょっと待ってろ・・・確か・・・あった、ほれ、水だ。まだ口はつけてねぇから安心して飲みな」

「ありが・・・とうございます・・・」


そして、なのはは水をごくりと飲む。少し経つと多少息も落ち着いてきたようで、なんとか話せるぐらいになってきた。


「ありがとうございます。所で貴女は・・・?」


なのはは改めて礼を言いながらそう聞くと、女性はクイっと親指で後ろを指した。


そこにはよく公園とかでクレープ屋とかでありそうな車の移動型店舗があり、そこには看板で『三月パン』と書かれていた。


「あそこ、あたしの店みたいなもんでね。ここでボーッとしてたらあんた達が見えて心配してやってきたってわけさ」

「へぇ!お店やってるんですか!!凄いですね!あ、写真撮っていいですか?」


春香が元気よくそう聞くと、女性は一つ返事で許可を下ろし、その言葉を聞いと春香は飛び上がるように喜びながら、三月パンに駆けていく。そして、女性となのはがポツンと残された。


「えっと、あの・・・」

「んあ?あ、もしかして客が来るとか気にしてたりする?大丈夫、客あんまこねぇから」


そう言ってはははと笑う女性は、どこか子供っぽくて、なのはも少しつられて笑う。その笑顔を見たら女性はまたにこりと笑い、なのはの頭をポンと、2回叩いた。


「ようやく笑ったな。あんたみたいな可愛い子は笑うのが一番だよ」

「あ、ありがとうございます。でも、私かわいくなんかーーー」


そこまで言うと女性はなのはの口を片手で押さえて言葉を遮った。そして、にこりとまた笑いなのはの手を引っ張り、三月パンまで歩いていく。


「おーい、そこの青髪ー少しいいか?」

「むぅ!僕は青髪じゃないです!春香って名前があるんですよ!!それと、そこの女の子はなのはって名前です!」

「はっはっは、悪りぃな・・・んー・・・じゃ、あたしも自己紹介しとこうかな。



あたしの名前は『西園寺あかね』だ。よろしくな?」


そう言うとその女性・・・あかねは、三月パンの奥に入った後何かを持ってきて二人の前に差し出した。


「これ・・・クロワッサン・・・?」

「そう、あかねさん特製のクロワッサン。味に自信アリだ。これ、今回だけやるから家族とかと一緒に食べてあたしの店を宣伝してくれ」

「えっでも・・・」

「いいっていいって!ほら、さっさと帰った帰った!時間も時間だ、親御さん達も心配してるだろうよ!!」


そう言ってあかねはなのは達の背を押す。なのは達は顔を見合わせた後、お互いに笑いあい手を振りながら公園から出て行った。その後ろ姿をあかねは微笑みながら見ていた。


「ありあり?どうしちゃったのあかねちゃん。そんなに笑って・・・何かいいことあったの?」

「そうなのです・・・はっ、もしかして春兄・・・達に会うのが楽しみで!?そうとわかれば早速・・・!」


すると後ろからスーツ姿の女性と三月高校と書かれた制服を着た少女があかねに声をかけてきた。


あかねはんー?と言いながら後ろを見た後、先程なのは達に見せたようににこりと笑って


「いいや、なんでもねぇよ」


と言った。後ろで夕日が彼女を淡く、照らしていた。



◇◇◇◇◇



「ただいまー・・・と、お父さんの邪魔しちゃいけないか」


そう言いながら、小声でもう一度ただいまと言いながら家に帰ってきたなのは。手には先程もらったクロワッサンが数個入った袋を持ちながら。


そそくさとリビングに入って袋から一つクロワッサンを取り出す。出来たてではないが、ほのかにあたたかくて、バターの香りがしてきた。すると、お腹がグゥとなって顔を少し赤らめる。


「・・・一つぐらいいいよね・・・」


そう呟いて、クロワッサンにパクリとかぶりつく。サクッとした音が聞こえたかと思うと、すぐにふわりとした生地の食感とバターの味と香りが口いっぱいに広がった。


「お、おいしい・・・」


今まで食べて中で一番おいしいクロワッサンとは、まさしくこれのことである。それほどまでに美味しかった。


「!そうだ、お父さん三徹って言ってたから・・・これあげたら喜ぶだろうな」


そういいながら、クロワッサンを一つ取り出して皿の上に置いたあと、少し考えてインスタントコーヒーの準備に取り掛かった。


そして、できたコーヒーを甘えのカフェオレにして、クロワッサンと一緒に父が仕事をしている部屋まで足を運ぶ。そしてドアを数回ノックする。


「おとうさーん?差し入れがあるんだけど・・・?おとうさーん、あけるよー」


ガチャリとドアを開けて中に入り父を探す。そして視線の中にすぐに入ってきた。机の上に突っ伏して寝ているらしい。近くには完成した小説のデータを入れたUSBメモリを大切に保管してある箱があったので、仕事が終わったあと疲れて寝てしまったのだろう。


「ふふふ・・・おとうさん、ここに差し入れ置いておくね」


そして、机の上にコトンとクロワッサンとカフェオレを置く。なのはは何となく父の寝顔に顔がいった。


父はよく眠っており、心地いい寝息を立てていた。幸せそうな顔で寝ている顔は見てるこっちも幸せになる。しかし、なのははある違和感を覚える。


変な話が、あまりにも幸せすぎる寝顔だった。ドクンと心臓が脈打ち、なのはは父の名前を呼びながら父の体を揺らす。それでも父は全く起きる気配がない。なのはは、とてもよく眠ってるだけだろうと思うことにした。


「・・・あっ」


しかし、気が動転してか、カフェオレが入ったコップを倒してしまう。それは勢いよく飛び散り、父の顔につく。


それでも、父は起きず、静かに、ゆっくりと、心地いい、寝息を、立てていた。



「おとうさん!!起きてよおとうさん!!ねぇ!ねぇったら!!」


なのはは力任せに父の体を揺らす。頭の中に今日の朝ニュースで聞いた言葉が頭に響く。『無限睡眠症候群』この時はまだ、疑惑であった。


ガッシャーン!!


そう大きな音を立てて父が椅子から転げ落ちる。それでも父はゆっくりと幸せそうに寝ていた。それにより、疑惑は確証にかわり、確証は少女を絶望に落とした。


「そんな・・・どうして・・・」


そう言いながら震えながら後ろに下がると、ふとポケットの中から何かの紙が出ているのが見えた。なのはは震える手でそれを出してゆっくりと広げる。そこには


『もし、お前の父親が無限睡眠症候群に陥ったら、ここに来い。私たちが目覚めさせてやろう』


そんな高圧的な文章の下には、写真が一枚入ってた。そこに写ってたのは、二人の少女と、二人の男性。


その少女のうち一人は見覚えがあった。夕方に出会ったドリームダイバーの女の子・・・


「そうだ・・・ドリームダイバー・・・!!」


なのははそう口の中で繰り返した。ドリームダイバー。無限睡眠症候群の患者を助けることができる、唯一のメンバー。なのはにとっては正に希望であった。そうと決まれば父を運ばなければならない。しかし、どうやって運ぶか。


ピンポーン


そんな時いきなりチャイムがなった。なのはは焦る気持ちを抑えつつ、インターフォンから誰がいるかを見た。ドアの前にいたのは白髪で、白衣に身を包んでいて、首から枕のネックレスをぶら下げている青年がいた。その顔はどこかで見たことがあった。確か・・・


「そうだ!この写真の人ーーー」

「えっと、なのはちゃん。多分、お父さんが無限睡眠症候群になってるんだよね?運ぶのを手伝いに来たよ」


そこまで言われていろいろと疑問に思うことができてくる。何でこんなに行動が早いのだろうか。まるで未来が見えてるようだ。


しかし、今は藁にもすがりたい思い、なのはは扉を開けて青年を招き入れる。青年はぺこりと頭を下げて、なのはの案内のもと、なのはの父を背負った。


「えっと・・・あなたは・・・?」

「ん?俺か?俺の名前は小野悟だ。しかし、今は悠長に自己紹介してる暇はない。なのはちゃん、走れるか?」

「えっ、あっはい!」


そう返事をすると、悟はなのはの父を背負いながらも力強く走り出した。なのはは思ったよりも早い悟と父の背中を見ながら、早くも走れるといったことを後悔していた。


なのは自身は、父がもうすぐマコトたちの手によって救われると思っていた。しかし、運命はそんなにつまらなくなかった。


ここから彼女の運命は大きく歪み、そして、動き始める。そうなることを今は一人を除いては知る由もなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【次回予告】

「おーさすがだぜ、カナエ」

「見えるんだよな。これが」

「とても楽しくできそうだ!」

「もう嫌だーーー!!」

【次回:02話 おいでませ夢の世界】


お疲れ様でした。今回から第二部が始まりました。一応第一部の「ヒロイン=ヒーロー」を読んでなくても読めると思います。

新キャラも多数登場する予定。これからも長く付き合っていただければ、とても嬉しいです

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