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別れ

ちょっとR15回です。

「イチさん、結婚するんだって」

「ウソ」

「ホント」

綾の髪をなでながら、俺は額に口づけた。

綾は俺にぎゅってしがみついて(抱きついての間違いではなく)笑った。

「よかった。結婚式行きたいね」

「そうだな。俺と綾と2人で」

「2人でね。」

今、俺が泣きそうなくらい幸せなことに綾は気づいているだろうか。

綾も同じくらい幸せだろうか。

さっきまで俺は震えていた。寒くて。

愛が足りないから寒くて。綾がいないから。

でも今はあったかい。綾がいて、愛がある。綾がいて…俺の腕の中に。

天使は、堕ちても幸せなのかな。俺のそばで眠るこの愛しい天使は…。



「父さん」

「座りなさい。2人とも」

居間には、父さんと母さんがいた。わざわざ会社休んだんだ。

俺は綾の手をぎゅっと握りしめた。綾の手は暖かかった。

「手を離して、座りなさい」

父さんは表情を変えずに言った。俺も綾も離さなかった。

覚悟は決めているのだ。

母さんは両手をきつく組んでまだ一言も発さない。

俺たちがソファーに腰かけると、父さんがため息をひとつついた。

「何かの間違いであってほしかった。私の子供たちがこんな…」

父さんは俺たちを静かに見つめた。

「綾、湊太。お前たちは人間なんだ。人間である以上してはならんことをしてるんだぞ。今なら、まだ間に合う。まともに戻れ」

俺が思わず立ち上がりかけたのを、綾が止めた。

「あたしは間違えたことはしてないわ」

「綾!」

母さんが綾を引っぱたいた。綾は頬を押さえて、母さん、父さんを見つめ返した。

「まともって何?あたしたち、十分まともでしょう。好きでもない人と一緒にいるよりよっぽどまともだわ」

「綾!お前は…!!好きなら誰でもいいのか?!湊太は弟なんだぞ。血が、つながってるんだぞ!」

俺は叫んでいた。

「そんなの十分わかってる!血がつながってるなんて!そんなのずっとわかってる!そのせいでずっと苦しんだ。我慢してた。綾に触れたい、綾を抱きしめたい、キスしたいって」

「湊太!お前まで汚らわしいことを…誰でもいいのか!その欲望を満たしてくれたら、誰でもいいのか?!」

「違う!!」

俺は綾を抱きしめた。強く、強く抱きしめた。

「綾じゃなきゃ、だめなんだ。綾じゃないと、嫌だ」

母さんがポツンといった。

「今ならまだ引き返せるのよ。まだ、今なら…」

青ざめて立っている母さんは可哀そうだ。

俺はもっと母さんにとって、父さんにとって、残酷な事実を告げようとしてるから。

「もう引き返せないよ。俺たち。…引き返すつもりなんてないけど」

父さんは訝し気に片眉を上げて、母さんは目を見開いて驚いた。

「それは、まさか、もう!?」

「どういう意味だ」

綾が手を握り返してきたのが分かった。

「寝たんだ。俺は綾を抱いたんだ」

母さんはもう蒼白で膝をついてしまっていた。

父さんは驚きすぎて声が出ないようだった。

やがて、はっと気が付いて、拳で俺をなぐった。

父さんは泣いていた。

「お前たちはバカだ」

母さんはそんな父さんの肩をたたいて慰めた。

母さんだって泣いているのに。

そして、父さんは結論を下した。

「湊太、お前は後悔してないのか。綾もか」

俺たちが迷いなく、うなづいたのをみて父さんは寂しそうだった。

「なら、湊太、京都のおばあちゃんのところへ行け」

「?!」

「お前たちが本物だというのなら何年離れたって大丈夫なはずだ。自信がないのか?」

父さんは試すように言った。俺はそれでも綾と離れたくなかった。

そんなことを言って、父さんは長く離れていれば冷めるだろうと考えているのが分かった。

そんな思惑にははまりたくなかった。けど、自信がないわけでもない。

「わかったわ。父さん。湊太、京都に行きなさい」

「綾」

綾の目は決意に満ちていた。綾も、綾自身も確かめたいんだ。

俺たちは本当に愛し合ってるのか。

「じゃあ、行くよ。京都に」

「湊太が大学を卒業するまで会うことを禁止する。湊太も帰ってこなくていい」

「6年も?!」

俺と綾は顔を見合わせた。

6年も綾と会えないのは辛かった。

愛しているからそばにいたいのに。

「じゃあ、父さん、6年たって、本物だったらどうするの?」

「好きにしろ。もし、ダメになったらそれまでだ」

綾…ずっと一緒にいたかったけど綾のために、ずっと一緒にいるために…

今は離れよう。


俺たちは出発までの2週間、毎日愛し合った。

いくら抱いたって、綾は変わらず愛しかった。

いくらキスしても物足りなかった。

親たちは気づきながらも、知らないふりをしていた。

6年たてば終わってしまうことだと考えていたのだろうか。


それから、綾と離れ離れの生活が始まった。

最初はすぐそばに綾がいないことにひどく戸惑った。

寂しかったし、不安でもあった。何に対しての不安なのかはわからなかった。

離れてみて、初めて綾とのつながりの深さを実感した。


今、ここに綾がいない。声さえもきけない。

それだけしか考えられなかった。

けれど、1年、2年と住むうちに新しい友達もでき、俺は次第に京都に慣れ親しんでいった。

今頃、綾は何をしているだろうか。

俺は京都の空に綾を見ていた。



リアル弟のいる友達は気持ち悪いって言ってた。だよね。

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