湊太の決意
ポエマー湊太。震えすぎだ!
イチさんの家の前までくると、イチさんはちょっとふっきった笑顔を俺に見せた。
「ごめんね。湊太くん」
「えっ」
「綾にあーんなことしちゃって。…うらやましい?」
いたずらが成功した子供みたいな笑顔だった。
「あたし、結婚する」
「!」
門に手をかけて、イチさんはくるりと俺に背を向けると、落ち着いた声で話し出した。
「あたしが、彼に別れたい、婚約解消したいって言った時に、あの人、理由聞かないで"待ってる"って言ってくれたの。一方的にあたしが言い出したことなのに。その時はそれが苦しかった。彼の優しさが苦しかった。」
彼…イチさんの元婚約者はもっと苦しかっただろう。俺は思った。
自分の方を見ていないイチさんをずっと見ていかなきゃならないんだから。
「でもね…今はよかったって。彼がいてくれてよかったって思えるの。あたし、彼を愛していけるわ。綾に感じていたのとは違うけれど、これから先何十年もずっと…。」
俺は家に帰ってからずっと考えていた。
イチさんとのことはなんとか決着がついたけど、綾は…どうしたいんだろう。
イチさんに抱かれようとしていた。あの時の綾は本気だった…と思う。
どうして。どうして。どうして。
揺れていた。綾の気持ちがわからなくて。
俺のこと好きでいてくれたんじゃなかったのかな…。
俺にとって、綾はずっと最愛の人だけれど、綾は違う。今まで弟としてしか見てこなかった俺をほんとにいきなり愛せるもんなんだろうか?
ふと思いついた考えは急に頭の中に広がっていった。
ちょっと!ちょっと!!ちょっと待てよ!
そんなのアリか?!今更!!今更!!やっと、手に入れたのに。
愛しい綾…。
俺の中で綾は笑っていた。遠い空の中で笑っていた。幸せそうに。
俺はまぶしそうに見上げるだけだ。
飛べないから。綾がそばにいないと飛べないから。俺は地に足をつけてまぶしそうに見上げるだけだ。
幸せな、幸せな綾を・・・・。
「湊太」
ハッと気づくと綾がそばにきていた。
「どうした…綾?」
今にも泣きそうだ。俺は震えながら、綾の顔に触れた。
「ごめんね、湊太。あんなことしてごめんね」
綾にそっと口づける。頬に流れた涙の筋を唇でなぞる。
「あたし、湊太が好き。愛してる」
震える唇で尋ねる。
「男として?」
声が…震える。全身が震えていた。
「男として」
俺の天使は降りてきてそして堕ちた。
笑いながら打ちました。会いたくて震えてます。