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綾②

「これでよかったのよ、これで」

でも頭の中ではグルグルと違う考えが回る。

もしかしたら、もしかしたら、2人で幸せになれたのかもしれない。

けど、やっぱりできなかった。湊太が好きって言ってくれた時、いちに言ったこととかそれまで考えてたこととか、全部消えた。

嬉しかった。

でも、苦しそうだった。

湊太は辛そうだった。


わたしのことでそんなに苦しむの?そんなにつらいの?


そう思ったら、湊太のことしか考えられなかった。湊太を苦しめたくない。

・・・私のことを忘れたら、そして、違う子を好きになって、幸せになってくれたらただ、それだけでよかった。

もう少しで好きって言いそうだったけど、この考えが私を止めた。

それは理性なのか、湊太への思いなのか、わからなかった。

けれど、部屋で一人になると泣きたくなった。でも泣いちゃだめ。

湊太に聞こえる。

ごめんね、湊太。苦しめてごめんね。

お互いの幸せは違うとこにあったんだよ。


その日を境に湊太と私は一緒に登校しなくなった。

あまり口もきかない。

あの時のことはまるで夢のように感じた。それはでも、私の中では忘れられない思い出となっていた。

「大丈夫?綾、最近顔色悪いよ」

「うん、最近寝てないから」

いちの顔がくもった。

いちには全部話した。そしたら、いちが泣きながら、「よくがんばったね」っていうから、また泣いてしまった。

以前はそんなに泣かなかったのに、最近はふとしたことで涙が出る。

湊太のことを思い出して、涙が出る。

けれど、私の中の湊太への気持ちは穏やかなものへと変わっていった。

だけど、冷めたんじゃない。深く深く見つめたら何かが吹っ切れた。

あの時とは違う。


湊太は部活に入ったらしく、朝早く、夜は遅い。顔を合わすことはない。

でもいい。見てるだけで。

こんなに幸せなら。

「ほら、いち、そんな顔しないでよ。次体育だよ。いこ」

「・・・うん、無理、しないでよ?」

「大丈夫。寝てないのは、勉強のしすぎってとこかな」

ここでいちがフッと微笑んで言った。

「よくいうよ」

2人で笑いながら、降りていく階段で湊太に会った。

湊太はしばらく見ない間に少し、背が伸びて痩せたような気がした。

こうやって会っても今はただすれ違うだけ。それでいい。

湊太の目を見たって、もう動揺しない。もう、「姉」と「弟」なんだから。

湊太はまだ辛そうに目を背けているけど、いつかは立ち直るだろう。

「ねえ、綾、ほんとに顔色悪いよ?」

「うん、大丈夫・・」

「ちょっ、綾」

目の前がふいに暗くなって、血の気がすーっとひいていく。

あ、倒れる。


気が付いたら保健室だった。

「あれ・・」

あたりは薄暗くて誰もいなかった。どうしよう、かばん取りにいかなきゃ。

ベッドから下りると、誰かが入ってきた。先生かな。

「あの・・・」

ベッドを仕切るカーテンから見えた顔は湊太だった。

どうして?!どうして、湊太がいるの?

いちは?

とたんにドキドキして、胸が苦しくなっていく。

「綾」

ドキンとした。久しぶりに聞いた。湊太の声が私を呼ぶのを。

「気が付いたのか?」

「湊太、私どうしたの?」

「倒れたんだ。階段の踊り場で」

「湊太が運んでくれたんだ」

「・・・」

無言の肯定。

「保健の先生が頭は打ってないから気が付いたら帰っていいって」

「そう、あっ、かばん」

「取ってきた。いちさんがよろしくって」

何か雰囲気がぎこちない。無理ないか。あれから2週間しか経ってない。

あの時のこと、全部鮮やかに思い出せる。

「帰ろう。もう大丈夫だろ」

「うん」

2人で無言のまま保健室を出た。

「鍵返しに行くから玄関で待ってて」

「あ、うん」

湊太が一人で職員室に行ってから玄関へ向かった。

周りはもう完全に日が暮れていて玄関のあたりは電気も少なくて薄暗い。

靴を履き替えて、外に出ると、空には星が輝いていた。

「・・・きれい」

冬の空は空気が澄んでいて、はっきりと星が見えた。たくさんの宝石をちりばめたようにきれいだ。

そこへ湊太がきた。

「おまたせ」

「ううん」

やっぱりまだぎこちない。というか、私が自然にふるまえていない。

湊太はごく普通に歩いている。まるで何もなかったように。

それどころか何かウキウキしているのは気のせい?

「綾、寒くない?マフラーいる?」

「ううん、大丈夫」

「無理すんなよ。青白い顔して」

湊太は無理矢理私にマフラーをまいた。

妙に親切だ。どうしたの?ほんと。

しばらく歩いていると、突然、湊太がいった。

「俺が前に言ってた『年上の超かわいいずっと好きな人』って綾のことだったんだぜ」

ドキドキドキ。急激に顔が熱くなってくる。反則だよそういうこというの。。

「でも、それもこの間、終わった。全部終わったから」

スーーーっと時が凍ったみたいだった。

自分で望んだ結果だった。

何をショックを受けているのか。大丈夫、大丈夫。

自分に言い聞かせるようにしてむりやり笑った。

笑って、湊太の方見たら、こっちみてた。めちゃくちゃ真剣な目で。

「いやな思いさせてごめん。もう、「弟」だから。姉としてみるように努力する」

そのセリフで終わったといいつつ、湊太の私に向ける思いの強さを感じた。

応えたかった。私も実は好きって。でも、理性が止める。もう、ダメだって。

今、そんなこと言ったら何もかもめちゃくちゃだって。

「もう、気にしないで。気にしてないから。湊太は私の弟でしょ?」

わざとそういうと、湊太は一瞬口をつぐんでそれからかすかに笑った。

「ああ、ありがとう」

家に着くと、母さんがおでんを作っていた。

「綾が倒れたって聞いてびっくりしたわ」

私は思わず、湊太の方をみた。

「わざわざ連絡したの?」

「・・・してない」

「いちちゃんからよ」

ああ、いち。

いちに連絡しなきゃ。今日のこと心配してるだろうし。

「綾、電話するならごはん食べてからにしなさい、食べられるでしょ?」

「はーい。

そして、食事の後、部屋でいちに電話をしていた。

『ふーん、そんなこと言ったの、湊太くん』

「うん、なんかちょっと大人っぽくなったみたい」

『じゃあ、あのことも湊太くんにとって、必要なことだったのよ』

「必要なこと?」

『そう、まあ、思春期ってことじゃない。過剰なシスコンだったってことよ』

「・・・いち」

『つまり、あんたのその気持ちも思春期の通過儀式ってことね』

いちはわたしの気持ちが思春期にありがちの恋に恋しているって言いたいわけ?

「ひどいじゃない、少なくとも私は本気よ」

『本気なら、黙ってなさいよ。湊太くんには』

いちこそ、本気の声で言っている。わかってるよ。わかってる。だからあんなに苦しんだのに。

私がため息をつくと、いちがちょっと笑った。

「何?」

『辛かったらさ、あたしがいるから。忘れないでよ?』

「・・・ありがとう」

いちが友達でよかった。本気でそう思った。

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