綾の苦悩
湊太への気持ち、これは何なんだろう?混乱の中、思いを確信していく綾。
ざわざわと教室のざわめきの中、私はひとり頭を抱えていた。
頭痛がするわけじゃない。
あの時!屋上に続く階段で、湊太が!!
あ~~~~~~~!考えれば考えるほどわからん!!何考えてたのよ!
・・・キスするなんて!弟が!
ちょっと待ってよ!ほんとにもう・・・。めっちゃヤバいよ。
わたしの気持ちが、湊太に向いてるってのがいま、自分で怖い・・・。
でも、やっぱり弟だし・・・。欲求不満なのかな・・・?だからって弟に~!
「どうしたの?綾」
「いち~。やっぱりあんたしか頼れないよ!」
「はあ?悩んでんの?相談のろか?」
いちは、研修医と付き合ってて、学校卒業と同時に結婚する、すごい女だ。
と、今まで思ってたけど、今日、今、私以上すごいやつはいないよ~!
「いちの家行くから」
「まあ、いーけど。学校はダメなの?」
「ダメ!!とりあえず、いちんちで全部言う」
「うん、わかった。あれ、けど、今日湊太くんと帰る日じゃ・・・」
しまった!でもすっぽかす!
「ううん。湊太は今日用事あるからって」
「へぇ~」
いちが疑わしそうに見て、ニヤニヤしてたけど。
・・・気づいてんのかな。
放課後、湊太に見つからないように、ダッシュで学校を出た。
どっちにしたって、湊太が迎えに来るわけないか。
「相談て、もしかして恋愛関係?」
突然、いちが言った。いちの長い髪が風にバーッて流されたのを片手で押さえながら。
「ていうか・・・うん。」
「やっぱりね。・・・湊太くん?」
「えっ?!」
どうしてわかったの??って言おうとしたら、いちは全然違うところ見てた。
「湊太・・・」
湊太がいた。ショートカットの女の子と一緒に。
何か胸が痛くて、見たくなかった。
ほかの女の子と一緒にいる湊太なんか・・・って!
おいおい!なんか自分、すごくやばくない?!
弟だよー?!
「いち、早くいこ」
「うん・・・」
いちの家は豪邸だ。
親がどっかの社長か会長やってて、子会社いくつももってるらしい。
いちの部屋は2階にあって、10畳ぐらいの広さ。
「紅茶、何がいい?」
「アップルティー」
「さわさん、アップルティー2つ」
「はい」
さわさんというのは、いちの家のお手伝いさん。
40歳ぐらいの優しそうな人。
お茶がきて、一口飲んでから、いちが口を開いた。
「大体予想がつくんだけど、言っていい?」
いちの耳にかけた髪がさらさらと零れ落ちる。
ティーカップをソーサーの上に置いて、いちは言った。
「湊太くんのことでしょう?」
「・・・うん。なんでわかったの。」
「湊太くんの綾を見る目がねえ。。。姉を見る目じゃないね」
・・・すごすぎ。こういう人をするどいっていうんだよね。
「どうしたらいいのかな。」
「何か言われたの?」
「・・・キスされた」
「・・・」
いちは絶句して、いやはや、と首を振った。
「青春の暴走ね」
何、それ。
私はいちに今朝の一件を話した。
その間中、いちは難しい顔して、黙って聞いてくれた。
「・・・というわけなの。もう、どうしていいかわかんない」
一通り、話したら、なんだかスッキリした。
「あのさ、綾、ひとつきいていい?」
「何?改まって」
「さっきの話からすると綾は湊太のこと好きなんだ?」
いちの言葉に私は茫然自失。
私が。湊太のことを好き?弟の、湊太を。
「ちょっと待ってよ。どうしてそんなこといえるの」
そうやって反論しながら、自分自身のどこかでわかってた。
湊太が好き。
湊太が好きって気持ちが今、すごくいっぱいあって、止められなかった。
「そうよ。好きなの」
いちは、やっぱりって、感じで、私の頭にポンと手を置いた。
「つらいね。いくら両想いでも、どうにもならないんだから。」
「じゃあ、どうしたらいいの?もう気づいちゃったのに。湊太が好きって。」
口に出す度、気持ちが強くなっていく。
こんな気持ちいけないのに。
いちは苦しそうに、けれど、きっぱりといった。
「綾は、湊太くんを受け入れちゃダメだよ」
あきらめろって・・・言ってるの。
いち。
なんかすごく遠くにいちが見える気がした。
やっぱり、他人からみたら、変だよね。姉弟なんだもん。血がつながってるんだもん。
いちにもわかんないよね。・・・いちにもわかんない。
「いち、ありがとう。今日は帰る。」
いちが驚いて、私を引き留めた。
「何言ってんの?帰ったら、湊太くんいるんだよ?今日は会わない方がいいよ!」
「どうして?」
私は泣きそうな顔をしていたかもしれない。
自分が自分じゃないように感じた。
だって、会いたいの。湊太に。
もし、湊太が私のこと好きじゃなくても会いたい。
触れたい。
・・・どうしちゃったんだろう。
さっきまでうだうだ悩んでたのに。
なんか、けど、湊太がいるだけで幸せって感じちゃったら、もうダメ。
道徳観念なんか、吹き飛んでしまう。
「感情に流されちゃダメ。冷静になりなよ。」
「冷静だよ。落ち着いてる。今、自分の意志で湊太に会いたいって思う」
「ダメ!綾は落ち着いてない!今の綾が湊太くんにあったら、絶対にいっちゃうよ」
「いっちゃう?」
「好きって。それが湊太くん巻き込んで二人を不幸にするんだよ?」
いちの言葉はいつも正しい。私と違って、大人だし、冷静な判断もできる。
だけど、このことは今はもういちにはわかんない。
私が好きっていうことで湊太が不幸にするのでもかまわない。
もう、覚悟できてる。
ひとりは嫌だけど、二人なら不幸も幸せだと思う。
「ごめんね。いち」
わたしがカバンをもって、出ていこうとするのをいちはもう、止めないでじっと見てた。
「バカ。もう知らないよ?どうなっても。姉失格だよ」
「そうかもね。でも、姉じゃないよ。もう。」
まだ、何か言いたげだった、いちを残して、家を出た。