湊太の青春
風が強かった。頭がバサバサだ。
俺は屋上のフェンスにもたれて、ずりずりと座り込んだ。これすると背中が痛い。
ついでに殴られた頬も痛かった。
ぬるくなった牛乳飲んでると、何で俺がハルに殴られなきゃなんないのかって思ってムカついた。
ハルにはハルの理由が・・・あっ!!
そうか、あの女だ。やたら少女趣味で、甘いもの大好きって感じのフワフワしたやつだった。
開き直ったらうざいが。
ハルの好きなのって、アイツだったのか。そりゃ、悪いことしたな。でも、ハルだっていきなり殴らんでもいいんじゃね?説明しろよ説明。
「何やってんの?」
「・・・考え事」
綾は、よっこいしょって、俺の隣に座った。
綾は俺の姉だ。この世で一番俺を理解する人といって、差し支えないだろう。
綾は俺の天使なのだ。
一歩動くたびに、羽が揺れて、俺の目をかすめる。
「風が強いね」
見上げてた目線はいつのまにか見下ろすようになった。
顔が見えない。泣いててもわからない。(あんまり泣かないけど)うつむいたら顔が見えない。
・・・弟ってのつらい。
そこで慰めるために抱きしめられない。
キスをして、泣くなよって言えない。
だって、俺は弟なんだから。
「綾、そこ座ると冷えるぞ」
少しでも近づきたいと思って『姉ちゃん』って呼ぶのをやめた。だけど、何も変わらない。
余計に辛いだけ。
どこまで近づいていいのかわからない。境界線ってどこだ?
越えないように、綾を傷つけないように。
「ちゃんと、話しなよ」
「え?」
「今朝の子。かわいそう。何がヤなの?」
無邪気な顔してよく聞くよ・・・。
あいつが俺を見上げる感じが綾に似てたから、OKしたんだ。ただ、それだけで。
好きでもなんでもなかった。
「全部」
「湊太!」
「あれはダメだ。ハルの好きな子」
「えっ!?うそ」
俺は伸びをしながら、立ち上がった。
綾が慌てて、ついてきて、俺の服を掴む。
「知ってたの?」
「まさか。さっき・・・」
綾が服を掴んだまま、離さない。
なんか、彼女みたいでいいな。
「湊くん」
お邪魔虫!
今朝の女だ。名前は忘れた。朝っぱらから呼び出す奴の名前なんか憶えてられない。
綾がパッと手を離して、上目遣いで俺を見上げた。
・・・・かわいい。
「先、行くね」
さっと、階段下りようとした綾の腕を無意識に掴んでいた。
「湊太?」
「ここにいて」
うわっ。俺、何言ってんだ。やばいよ。
「お姉さんもいてください。第三者の人がいてくれた方が冷静になれるから」
こいつも下から見上げてくるけど、全然似てない。
気の迷いだったかな。
「屋上、行こう」
「寒いからここがいい」
女はムッとした感じで黙り込んだ。そして、突然、泣き出した。
またかよ!!
「湊くんはあたしが嫌いになったの?どうして、別れるなんて言うの?悪いとこ、あったら直すから、
ゆってよ!ねえ」
あ~~~~~!うざったい。悪いとこ?!あるよ!全部だよ!気づけよ!すぐ泣くとこ!!
俺はとことん、不機嫌になった。俺は怒るとますます無口になる。
綾が気づいて、俺をひっぱった。
「なんか言ったげなよ」
「何も言うことないし。それにもともと、俺から話すことない」
女が怒ったような目で見てきた。
「どうして別れたいのか、理由ぐらい言ってよ」
・・・いい加減うざい女だ。俺は(面倒くさいが)そう言おうとした。
「湊太には好きな人がいるの」
綾・・・。突然の事実に、女は驚きの表情をして止まった。
「だから、別れてあげて・・・って私がいうとだめだよね」
さすがだ。俺の天使!マイスウィートハニー!
「そっか。好きな人、できたんだ。ごめんね。困らせて。さよなら」
女は去った。案外あっさりしてんなー。
綾を見ると・・・泣いていた。
「何で泣いてんだ」
「だって、かわいそうだよ・・・」
「なんで、綾が泣くんだ」
「・・・つらい」
そういって綾は俺に抱き着いて、泣き出した。
ちょっと・・・マテ!
この体勢はヒッッジョーにヤバい!何がヤバイって?
俺の理性がヤバイっちゅーねん。
ほら、この両腕が勝手に綾を抱きしめている。
そっと触れたら、ぎゅっと抱きしめて、それから・・・。
俺は一気にバッと離れた。
綾はいまだに事態を把握してない感じでボケっとしている。
やばいーーーーーーーー!!
俺、何やった?いま。
俺は片手で、口押さえて走り出した。
・・・・もう絶望・・・。