007
「そんなもの……」
芽吹の喉元がヒリヒリと痛む。
「まだ抵抗するのか、それならば!!」
イオリが短剣を頭の上にかざした。
その時。
『や、め、て』
声がフロアに響き渡った。
「この声は」
芽吹とイオリが同時に叫ぶ。
「イオリもうやめて、力は……私達の魔力は支配するためでも、誰かを追い詰めるために使うのでもないわ」
「どうやって、あそこから」
「この子が助けてくれたのよ」
キュウと鳴きながらアザレアがミコトの後ろから顔を出す。
「この子はね、あなたが昔プレゼントしてくれたリボンを変化させ、産み出した生き物なの。この子は何時でも私の側に居てくれた。まるで貴方の代わりをするように」
「ふふ、皮肉ね。昔かけた情がこんな形になるなんて。私の足を引っ張るだなんてね」
「イオリ、貴方のことは私が止めるわ。これ以上自分の魔力の使い方を間違えないように」
ミコトは呪文のようなものを唱え出す。
「⚫⚫⚫―――」
辺りが光に包まれ、それに呼応するようにイオリも何か呟く。
その途端、フロア全てが漆黒の闇に包まれた。
そして、光と闇。
互いが互いを打ち消すようにぶつかり合う。
「私が持てる全ての魔力を解放する。アザレア手伝って頂戴」
ミコトは覚悟したように目を瞑る。
その途端、今までとは比べ物にならないような閃光がミコトの体から放たれた。
「これで最後よ。イオリ、もう一度やりなおしましょう」
アザレアと手を取ると、閃光の輝きが増す。
断末魔のようなイオリの叫び声が響いた。
そして、全ての光が消え、イオリはその場に倒れた。
ミコトがイオリに近づき優しく頭を撫でる。
「目が醒めたらイオリは全ての記憶を失っているでしょう。でもまた一からやり直せば良いの」
そう言いイオリを抱き起こそうとした時、イオリの目がカッと開いた。
「甘いわ。何処までも一緒よ」
手のひらをミコトにかざし、底のないような暗い光を放った。
きゃああぁぁー
「ミコトさん!」
芽吹が急いで駆け寄ったが、ミコトとイオリの姿はもうどこにもなかった。
まるで、初めから存在していないかのように――
♦♦♦
「よーし、これで良い」
芽吹が『ミコト魔法堂』と書かれた看板のかたがりを治す。
それをアザレアが心配そうに見つめる。
『芽吹くん』
ミコトの声がした……ような気がした。
芽吹はこぶしを強く握る。
「ミコトさん。僕はあなたが帰ってくるまで、ずっとこの店で待ちます」
♦♦♦
午後八時、ミコト魔法堂の扉には『close』の文字が掲げられた。
おしまい。




