006
目を覚ますとそこは、ガラス張りの床の上だった。
「うわっ、冷たっ」
その床は氷かと思うほどの冷たさだった。
『目覚めはどう?』
ゆっくりとした体温のないような声が聞こえる。
「ミコト……さん?」
玉座に座り、こちらを見ている女性、ミコトと瓜二つだった。
目を何度も擦る芽吹。
「いや、違う。この人はミコトさんじゃない。ミコトさんはこんなに冷たい目をしていない」
その言葉に口の端を上げ、女性は笑った。
そして、足を使うことなく芽吹の前に瞬く間に移動し、氷で出来た短剣を芽吹の喉元に当てた。
「いかにも。ミコトと一瞬でも間違われるなんて、私もまだまだね。」
そう言うと、短剣を僅かに引く。
芽吹の喉元にじんわりと血が滲む。
「命まで奪うつもりはないわ。ただね、ミコトの手伝いされちゃ困るのよ。あの子は貴方の世界で動き回るには限界があるの。だから貴方に手伝いなんか頼むんだろうけど。良い?あの子に手を貸さないって約束して」
ミコトそっくりな、でも冷たい目の女性は目を三日月のようにした。
「ミコトさんは……ミコトさんは今どこに?」
「あぁ、あの羽の生えたのと一緒に居るわ。ほら」
その女性は額にシャボン玉のようなものを浮かびあがらせる。
そこには鎖で体を縛られたミコト、そして足下にはセシルが倒れている映像が写し出された。
「どうして、こんなことを。あんたイオリさんだろ?すぐに分かった。ミコトさんと瓜二つだ」
イオリはその言葉を聞くと、短剣をしまい再び玉座に座った。
「分かっているのなら話は早い。私はミコトと双子として生まれ、この世界に落とされた。二人いれば恐いものなどない」
「双子なら尚更、ミコトさんをどうしてこんな目に合わせる」
イオリは口に手を当て、笑いを堪えるような仕草をした。
「それはミコトが余りにも恐れるからだ。魔力が強大になれば、この世界同様ほかの世界も支配出来ると言うのに。力こそ正義なのだ。魔力もなにもない弱者はただ搾取されるのみ。そうして自分の運命を呪いながら死んでゆくしかない。しかし、ミコトは私の考えをひどく嫌った。そして何を思ったかお前たちの世界に行き帰ってはこなくなった。あまりにも愚かな選択をしたのだ」
「ミコトさんは、優しい人です。あなたとの思い出もとても大切にしている。そんなミコトさんの気持ちがわからないんですか?」
目を見開きイオリは答える。
「優しさが何になる、思い出が何になる?そんなものに溺れてしまえば、何れそれらのものに喰われてしまうだろう。さぁ、約束しなさい。ミコトにはもう手を貸さないと。そうすればあの子は自由には動けない」




