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☆ミコト魔法堂へようこそ☆  作者: 道尾ゆう
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005

「はぁ~、気が重いなぁ」

芽吹の足は鉛がついたように、ゆっくりと魔法堂へ向かう。

「ミコトさん、とうとうこの日が来ちゃいましたね」

そう言いながら魔法堂の扉を開ける。


「あれ?誰もいない……」

店の中は変に静まりかえっている。

「おーい。ミコトさーん、アザレアー」

呼び掛けるが返事はない。


頭を掻く芽吹の前に、ガラスの欠片のようなものが落ち葉のように落ちてきた。

そこには、なんと悲しげなミコトが映っている。


「なんだこれ!?」

手に取ろうとすると、一瞬で消えてしまった。

その時、釜の液体がより激しく煮えたぎった。


(これは……異世界とやらに来いということか?)


芽吹は拳を力強く握った。

そして、勢いに任せ釜の中へ飛び込んだ。


飛び込んだ瞬間、芽吹を不思議な感覚が襲う。

あれほど煮たっているようにみえた液体に熱さは感じない。

それよりも、海に包まれているようで下へ下へと落ちていく。



「いたたっ……」

尻餅をついた芽吹は思わず声をあげる。


「ここは、一体?」


芽吹の目前には中世のような町並みが広がっている。羽が生えた人、本で見たゴブリンのような人、はたまた物騒な武器を持った人など、芽吹が生まれてこのかた見たことのない光景だった。


「ここが……異世界」

唾を飲み込み、周囲を見渡す芽吹の背中を誰かが押した。


「ひっさしぶり!」

振り向くと見覚えのある少女が居た。

セシルだ。


「ミコトに頼まれてさぁ、わざわざ迎えに来てあげたってわけ」

「ミコトさんに?ミコトさんの居場所知ってるのか?」


食いつくように問う芽吹にセシルは呆れたように言う。


「ちょっと、落ち着きなさいよ。私がミコトの居場所なんて知るはずないじゃない。ただミコトからのテレパシーがあってね、キミを迎えに行ってくれって」


「そうか……」

芽吹は肩を落とす。

「ちょっとー、落ち込むにはまだ早いわよ。ミコトの居場所、だいたい見当はついてんのよね。たぶん、あこ!あのお城よ」


セシルが指差したのは街の中心にある、荘厳な建物だ。廻りには透明で薄紫のバリアが張られている。


「めっちゃ近いじゃん」

感嘆の声をあげる芽吹にセシルは指をふる。

「近いって思うでしょ?でもね、あそこはバリア張ってんのよね。だから誰でも……って、ちょっとぉ!!」


セシルの言葉もそこそこに芽吹は、なんとバリアと呼ばれるものの中に入り込んでいた。


「ん?なんか問題あった?」

芽吹は平然としている。


「あっれー、おかしいなぁ。バリアに触れるだけで、ものすごい電流が流れるって小さい頃から聞いてたんだけど」

セシルは首を傾げる。


「そんなのただの噂だよ。最初は何でもないものなんだ、それが噂という尾ひれがついて、そのうちとんでもない化け物になる。僕の世界でもよくあることさ」


前を歩く芽吹にセシルは見直したように言う。


「キミ、意外と賢いのね」


「本の受けうりだけど」

芽吹は小さく言った。


「ん?なんか言った?」

「いや、何でもない」


バリアの中を進むと大きな扉が見えた。

「これ、どうやって開けるんだろ」


二人が首を傾げたその時。

扉が大きく軋む音を立て、ゆっくりと開いた。


「案外、簡単に開くのねぇ」


「いや、これは僕たちを招いているんだ。良い意味でも悪い意味でも」


「ふぅん、まぁどちらでも良いわ。進みましょ」


城の中は甲冑などが並べられている。

途中、魔方陣のようなものも見える。


「そういえば、どうしてミコトさんがここに居るって思ったんだい」


「だって、ミコトって。イオリにそっくりなんだもん」


「イオリ?」


「そう。この城の主で、この世界の支配者イオリ。

三年に一度だけパレードで姿を見られるんだけど、それはもうミコトそっくりなの。キミたちのお店でミコトを見たときはイオリかと思って驚いちゃった」

セシルは飛び回りながら言った。


(そっくりか……)

芽吹はあの写真の事を思い出した。


(それって、もしかしたら)


上に昇る階段に差し掛かった時、二人を筒のような光が包んだ。


『こちらへ』


どこからか声が聞こえた。


そして、凄い速さで上に引っ張られる感覚を感じた。

途中、芽吹は気を失ってしまった。


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