001
・基本的に一話完結型です。
・異世界の色々な住人が訪ねてきます。
・魔力があるミコトに対し、芽吹はいたって普通の男子校生です。
桐島 芽吹は友人と別れた後、本を買おうと新しく出来たはずの本屋を探していた。
「おかしいなぁ、ここら辺って聞いたんだけどな」
しかし、新しく出来たはずの本屋は探せど探せど見つからない。
それどころか、どんどん狭い路地へと迷い混んでいた。
「うわ、この年で迷子になりそうだ」
狭い路地の壁が、自分を圧迫してくるような感覚に陥る。
進むこと数分、狭い路地を抜け出たその先にあったのは、決して新しいとか綺麗だとは言いがたい古びた店だった。
掲げられ多少、右に片寄った看板にはこう記されている。
(☆ミコト魔法堂☆)
間違っても本屋じゃないよな……。
明らかに妖しいその店に、芽吹の好奇心が妙に駆り立てられた。
息を飲み、扉を開ける。
埃っぽい空気に思わずむせる。グツグツと音が聞こえる。
店の中央には大きな茶色い釜。
それを杖のようなものでかき混ぜる一人の女性。
「あの、ここって……本屋じゃないですよね」
芽吹が思いきって声をかける。
その女性は芽吹に気がつくと驚いた表情を見せた。しかし、すぐに嬉々とした表情に変わりこう言った。
「ミコト魔法堂へようこそ。珍しいですね、50年ぶりのお客さまだなんて」
「50年ぶり?」
芽吹はミコトの言葉を自分の聞き間違えかと思った。
「あの50年ぶりって?」
「えぇ、人間のお客さまは50年ぶりです。あの時は……小さな女の子だったかしら」
なんか、この店ヤバそうだぞ。
芽吹はそっと後ろに下がり、店から出ようとした。
それをミコトが慌てて止める。
「待って下さい。この店をあなたが見つけたっていうことは、あなたもまたこの店を必要としている、ってことなんです」
(僕が必要なのはただの本屋なんですけど)
何と返そうか、言葉を探す芽吹にミコトはひとつの提案をした。
「この店でアルバイトしませんか?時給は2000円で」
「2000円って結構、条件良いじゃないですか?まさかとんでもないブラックとか……」
「いえいえ、仕事内容は店番それに簡単なお使いだけです。時間は……そうですね、学校帰りに3時間だけで構いません」
あまりの好条件に一種の怪しさを感じながらも、本を買うお金欲しさに芽吹は、このミコトの提案を飲むことにした。
「それでは、まず店番を頼みましょうか?私はアザレアと所用を済ませたいので。アザレア、おいで」
ミコトがそう呼び掛けると、店の奥から奇妙な生き物が飛び出してきた。
ウサギのような長い耳、一見ウサギと間違えそうなその生き物の色は透明に近い青だった。
今までの人生で見たことのない動物だった。
「これは……何ていう動物ですか?」
しゃがみこみ近くでまじまじと観察する。おそるおそる撫でてみると猫のような触り心地だった。
「動物?この世界ではそういう風に言うんでしたね、でもこの子には私がつけた名前しかありません。アザレアはアザレアです」
煙にまかれたような芽吹の表情を見て、ミコトは「ふふっ」と笑った。
「ここのお店の名前見ました?」
釜の中の様子を伺いながらミコトが聞いた。
「そういえば、魔法堂って」
「そう、魔法堂です。魔法に馴染みってあります?」
「馴染みもなにも、小さい頃に本で読んだり」
「見たことは?」
「見たこと?もちろんありませんよ。第一、魔法なんて存在しないでしょ」
芽吹が言うと、ミコトはうーん。と唸った。
「何から説明しようかしら……。驚かないで聞いてくださいね。実は、魔法は存在するんです。ある世界では。このお店には、その世界から時々お客さまがいらっしゃるんです。」
(この人は正気なんだろうか?この人が店長の店ってやっぱりヤバいんじゃ)
戸惑う芽吹の様子を見て、ミコトは言った。
「どのみちすぐに分かりますよ。ほら、最初のお客さまです。」




