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HighCal

作者: 尾川亜由美

高カロリーの朝食を、がんばって恋人の為に食べる彼のお話。

描写にあれこれと拘って、色々書いてみた短編小説です。


彼女が作る朝食は、美味か不味かととれば、どちらかと云えば佳味と言えよう。

だが、そこに好みまで入れてくると、どうにも舌に合わない。


円形の小さなテーブルを覆う、洗濯したての白いテーブルクロス。

そこに所せましと並ぶ、朝食の品。


白いハートのマグカップには甘い甘いミルクチョコレートが

飲み物になったような、だるい甘味のココアがたっぷり。

口直しにと申し訳程度に置かれた、光を放つグラスにはこれまた甘いミルクが。

水差しを買って、良い飲み水を入れようじゃないかと提案しても彼女はうんと頷かない。

理由はよくわからない。新鮮で冷たく、咥内に心地いい水を確保するのがなかなかに面倒だからかもしれない。


副菜のサラダだが、色彩豊かな野菜がカッティングされてボウルに入っており

水分を弾くレタスやトマト、しゃきしゃきとした触感のきゅうりが心地いいはずが、シロップのドレッシングで台無しとなっている。

サラダにシロップはやめたまえ、と何度も言っても彼女は、健康的なピンクの舌を噛むように出しながら慎重にシロップを掛ける。


さて少しお腹に溜まるものを行こうと思えば、シチューが目に入る。

彼女曰く、とっておきのビーフシチューは、香辛料と塩、コンソメの素、全てが過剰に入り過ぎて舌と歯茎が痛くなる。

そろそろ年頃だし、健康に気を遣いたいのだがと何度言っても、彼女は鍋の中での味付けを止めはしない。


さあ主食に行こう、これだけでも食べて今日を乗り切ろうと思えば、真っ白の皿にはトーストが二枚乗っている。

余談だが、彼女は白が好きだ。高い栄養素を取りながらも、随分と華奢な体にはやはり、白の長いワンピースを纏い白い指輪を嵌め白いネックレスをつける。


…と、まあ彼女の外見はさておき、こんがりきつね色に焼けたトーストには

予め乗せてあったバターがとけて、滝のようにトーストのみみから垂れてくる。

そのうえ、とろとろにとけたチーズとガーリックオイルが掛けられて、濃厚な味を好む人間でも参るほどの味となっていた。

香りもそうだ。バターの香ばしい香りと、チーズの独特な乳製品の香り、ガーリックオイルのつんとくる香りが混ざり合い、鼻腔を刺激どころか攻撃する。

もしも、今のスラックスが腹部で入らなくなって来たら、10のうち全ては彼女の所為だと取っていいだろう。


最後に、デザートとなる。

私は朝食にまでデザートは要らないと何度も言うのだが、彼女は甘い物を三食つけないと気がすまないらしい。

三角大に切られたティラミスは、妖艶な紫の食器の上でミルクソースを掛けられて鎮座している。

これも、彼女のとっておき料理のひとつだ。

例によって砂糖やら甘味料の配合は凄まじく、トーストを食べた後に無理にこれを胃に掻きこむとその日の正午にはトイレに駆け込むこととなる。

だから、大きく切って痩せの大食いの彼女にスプーンで口まで渡してやるしかない。

基本的に懐っこい彼女は、幸いなことにそういった好意を快く受け止める子だ。


地獄の朝食は終わりだ。締めくくりに、お茶でも出してはくれまいか。

そう合図すれば、彼女はすっ飛んで花柄のティーポットを出し、ティーカップになみなみと茶色の高貴な液体を注ぐ。

苦みを基調とした香りは、今までの料理にない心地いい世界を連想させ、私を一時幸せの途へと手招いてくれるが、彼女はそうはさせない。

互いのティーカップにお茶を注ぎ切ると、角砂糖を3つはぶちこみ、ミルクを入れて、さあどうぞと罪のない笑顔でカップを手渡してくれる。

私はそろそろ愛想笑いが疲れながらも、これも義理人情だと一気にそれを食道に流す。



そろそろ、家を出よう。気分は概ね悪いが。

そんな時、彼女は席を立って今までの食事の中で

一番甘い、口づけをひとつ頬にくれる。


それだけは、私は嫌いにはなれない。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

これは結構昔に書いたお話なのですが、とにかく描写を大切に書いてみようと思って執筆したものです。

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