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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どっちが狼?

作者: 明日花



どうやら俺はとことんついてないらしい。


思えば入学した時から面倒なことばかりだった。一年の時、生意気な面をしていると言いがかりをつけて殴りかかってきた(たぶん)先輩を逆に返り討ちにしてから何故か見知らぬ奴らに喧嘩を売られるようになった。こちらから買わなくても殴りかかってくるため、相手を殴ってしまうのは正当防衛、だと思う。俺は決して悪くはない。

それだけではない。運が良かったのか、一度も負けることなく過ごしてきた俺は、いつも一人でいるせいかいつの間にか一匹狼などと呼ばれるようにもなった。正直恥ずかしい。あと俺は決してぼっちではない。

まあそんなこんなで二年に上がってからもその生活が変わることはなく、今日も売られた喧嘩を適当にかわしつつ、同室者のいない寮室(いつの間にか同室者は部屋を移動した)へと戻る最中のことだった。



「アンタがイッピキオーカミ先輩?」



後ろから聞こえてきたのは知らない声。またいつものように喧嘩を売りに来た奴だろうと、無視して歩き続ける。



「ねぇ、先輩ってば」

「……」

「ねぇ~先輩~」

「…………」

「オーカミ先輩って呼ぶけどいいの?」



諦めが悪い奴なのか、いつまでも着いてこようとするそいつに思わず眉間に皺がよる。仕方ないが相手をするか、と思った時だった。



「いいの?背中向けてて。襲っちゃうよ」



いつの間にそんなに近づいていたのか、耳に息を吹きこむように囁かれる。慌てて距離をとり後ろを振り返ると、そこには笑顔を浮かべた男がいた。



「やっとこっち向いた」



やれやれと言ったふうにため息をついてこちらに近づいてくるそいつと距離を保つように後退りしつつ、その男を眺める。

襟足が眺めの黒髪は毛先だけ銀色に染められており、ブレザーのかわりに着ている白のパーカーの所々にできた赤黒いシミが目に入る。



「俺、この前入ってきた一年なんだけどさ、なんか聞いたらすごい喧嘩強い人がいるっていうからわざわざ会いに来たわけ。アンタ、強いんだよね?喧嘩しようよ、俺と」

「うぜえ、とっとと失せろ」



こいつみたいに喧嘩に酔ってるような奴は面倒なことが多い。こちらも無駄な労力は使いたくないのが本音である。体制を低くして相手の懐を狙う。脅すように蹴りを一発入れると大概はビビって帰ってくれるのだが。



「っと、危ない。今のは何、脅しのつもり?残念だけど、俺はオーカミ先輩と喧嘩するまで帰らないつもりだけど」



ニヤリと笑い鋭い殺気を放ってこちらに向かってくるそいつの拳を避けながら、面倒なことになったと頭を抱えたくなった。








一進一退。……いや、むしろ押されている。こんな一年野郎に。

今までにない状況に焦ったせいか、思わず足をもつれさせてしまった。ヤバい、と思った瞬間にはもう遅かった。バランスを崩すのを見計らって足払いをかけられた俺は背中を強く打ち付けてそのまま倒れこんだ。衝撃に息を詰める俺を追い込むように腹に一発入れられ、そのまま胸元を掴みあげられる。


「ねぇ、もう終わり?もうちょっと相手してよ」

「っるせえ、さっさと、この手、離しやがれ……」


首をゆるく締め上げられ、息苦しさに視界がぼやけてくる。酸素を求めて喘ぎながら途切れ途切れにそう言って睨み付けると、そいつは驚いたように目を丸くした。 すると急に胸元の手が離され、勢いよく流れ込んでくる空気に咳をする。突然殺気が消えたことを訝しんで見上げると、目を細めて笑いながら顔を近づけてくるそいつに、思わずビクリとする。


「ねえオーカミ先輩、アンタ今すっごいエロい顔してるよ」

「ハァ!?何バカな事いってんだテメェ!」

「本当だってば」


何言ってんだこいつ。心の底からそう思っていると、さらに顔を近づけてくるそいつ。慌てて身をよじる俺を押さえつけ、耳元に口を寄せる。


「……涙目とかすごいかわいい」


そう言われた直後、耳に走る鋭い痛み。どうやら噛みつかれたらしい。顔を反らそうとするも固定されて動かすことができない。


「うっ……、っやめ……」


しばらく甘噛みのようなものを繰り返して、やっとそいつは俺の耳から口を離した。



「ねえオーカミ先輩。俺やっぱりアンタと喧嘩するのやめた」

「っ、なら早く退けっ」

「うん、喧嘩はやめたけど、今度からはアンタのこと襲いに来るから」

「……は?」



言ってる意味がわからない。戸惑うようにソイツを見上げると、やけにぎらついた目がこちらを向いていた。



「オーカミ先輩をヤりたいってこと。狼っぽく言うなら、俺の(つがい)になってほしいなって」



つがい……だと?理解したくないが理解してしまい固まる俺の上から退いたそいつは、もう一度俺と目をあわせてこう言った。



「覚悟しててね、オーカミ先輩」



片手を軽く振って楽しそうに帰っていくそいつの背中を見つめながら、俺は一人呟いた。




「……お前の方が、よっぽど狼に似てんだろ」




獲物を捕らえて逃がさない狼のように鋭いそいつの瞳が、頭から離れそうになかった。



End.


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