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メトロノームは知っている

作者: 璢音

メトロノームとは、一定のテンポを示す機械の事。このテンポに揃えれば、皆の音も綺麗に揃う筈だった。

 ギロは自分の外見に嫌気がさしていた。あの見た目のせいで一体何人の人に嫌がられただろうか。素朴な音は優しさの証。なのに想いは届かない。いくら嘆いても、いくら考えても、アンサンブルは実現しない。一人メトロノームを見つめ、ジャカジャカと溝を擦る。ギロはただ、バイオリンの外見や音色に憧れるだけ。


 フルートが奏でる音は微かに震えていた。一体何を想ったのだろうか。人々に愛される音色をもっているのに、想いは届かない。金管楽器に憧れて、今まで一緒にデュエットして来た仲間を裏切り仲間を無くしてしまった。一人になって気付く仲間の重要性。この関係が直るのはいつだろうか。 思わせ振りなトロンボーンに恋い焦がれる余り、遅めに設定したメトロノームのテンポが早くなる。だけど奏でる音はフラット気味。


 トランペットは自身に満足していた。沢山の仲間とパートナーを見つけていたからだ。メトロノームはテンポ120を保っている。

 幸せの先に待っていたのは雑音(ノイズ)。それはギターが他の楽器と練習する度に音量が増していく。ノイズは段々と酷くなり、自身を蝕む。想われているとは知らずに。


 タンバリンは僅かにシャンと鳴る。分からないフレーズを毎日繰り返す。タンバリンを振り、面を打ち、指を滑らせる。メトロノームに合わせてタンタンと。

 少し答えが見えてきたと思ったら、また違う小節で同じ事が起こってしまう。だからこそ他の楽器と合わせず、ただひたすらに個人練習をする。

 存在感のあるベースに憧れて毎日繰り返す。


 ベースは自由気まま、神出鬼没。低い音の存在感を全く理解していない。僅かに弦を弾いただけで響く低い音。その魅力に誰しもが憧れを抱く。ベースはいつもの仲間達と、今日もノリながらリズムをとっていく。

 メトロノームなんて使った事が無いし、タンバリンのような小物には興味もない。必要なのは圧倒的な存在感をくれるアンプだけ。


 アンプは色々な弦楽器と共に演奏をしていく。最近のお気に入りはベース。勿論他の楽器も受け付けるが、明らかに音色が違う。気に入った楽器の時はいい音を奏でるようつまみを調節し、そうでない楽器は自分で調節をと促す。誰しもが気付く。自分は気に入られてないのだと。

 アンプはいつからか、周りに嫌われてしまった。そんな自分でもベースは一緒に居てくれると知り、安心する。

 ベースは音を大きくする為にアンプを利用しているに過ぎないという事に、アンプは気付いていない。

 アンプは思う、「自分が楽しければそれでいい」と。メトロノーム等要らない。自身が音を奏でる訳ではないからだ。楽器に任せれば良いのだと、そう思っている。


 バイオリンは繊細な音を響かせる。 パートナーに裏切られた悲しみを胸に、いつか戻って来てくれると信じて。同じパートを好んでしまった事を悩みながら、今日もメトロノームを前に反省をしている。 ギロからアンサンブルを持ち掛けられた時、音色が合わないからと断ってしまったので、ギロとの関係が悪くなってしまった。だが、後悔はしていない。自身の追い求める音楽にギロは存在していないからだ。


 ギターは天真爛漫。自身の弾きたいパートを練習し、合奏を心待ちにする。パートのすれ違いに薄々勘づき、戸惑いながらもどうにかしようと全員でチューニングを行おうと持ち掛ける。しかし、なかなか音程が合わないのでとうとう諦めてしまった。


 ドラムは自身の音を主張した。元はトランペットとパートナーだったことも今は忘れ、新たなパートナーを探す。

 スネアを乱れ打ちし、シンバルを思いっきり鳴らす。だが認められない事を知り、一切の干渉を止めた。リズムは乱れ、演奏どころではなくなる。


 トロンボーンは数々のパートから望まれ、自身も多くの楽器を望んだ。フルートやバイオリンとも練習をした。だがトロンボーンは気付いていない。「自分だけ拍がずれている」事に。それが全体の音を乱している事に。メトロノームは皆と違うテンポで拍を刻んでいる。

 キーボードがトロンボーンの音色を使っているのを喜んでいる場合ではない。


 キーボードはあくまでも中立。メトロノームを見ているので自身もズレの原因だと気付いている。でもどうしたらちゃんと合うのか分からない。

 それに、トロンボーンの音色にも飽きてきた。そろそろソロがしたいなぁと思った。しかしトロンボーンの喜びようを見るとそうにもいかない。キーボードのボタンを見つつ、時期をはかる。


 クラリネットはメトロノームを見つめ自身のパートを一人で充分に練習してから、他のパートの音色を聴く。悪いとこは指摘し、直そうと努力するが一向に良くならない。


 サックスはキーボードの音色を聞きながらも、自身とアルトサックスのアンサンブルの心配をしている。ちゃんとリズムや音が合っているか不安になる。

 時にメトロノームをふっ飛ばし、自分の好きなように演奏をし、挙げ句の果てに自分で自分の首を締める。

 不安なフレーズは直る筈もなく、そのまんま。


 アルトサックスは自身の理想の音楽を追いかけ、パートナーを次々と入れ替えている。自分が求めている音楽が、どんなものなのかも分からないままで。

 一人で練習した際のあの切なさを埋める為、一緒に練習する相手を探すのだ。あの楽器もだめ、この楽器も駄目だと。やっと見つけたパートナーは違うパートに行ってしまい、また一人ぽつんとその場に残る。

 今はサックスとのアンサンブルに夢中だが、この先いつ気が変わるか分からない。


 メトロノームは知っている、演奏者の拗れた関係を。楽器が悲しい音を奏でている事を。ほとんどの楽器の想いは届かず、苦しんでいる事を。


 捻れた関係は音の空中分解を引き起こす。僅かだったズレも大きくなる。皆間違いに気付かずにそのままだからだ。

 小節番号はもはやただの数字でしかない。指揮者も手の出しようがない。


「もう皆で合奏するのは無理だろうか」




 タクトを振る指揮者の手が止まった。

自身の体験談を、どうしても書きたくなってしまいました。四角関係って実際に存在するんですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルオンはタンバリンだぁぁぁぁっ! ・・・・・違う?(;ω;)
[一言] 三角関係もありますけど四角関係とは!(;・∀・) と思ってたら自分含め四角関係に遭遇したことあった。 自分アホス
2012/09/13 15:32 退会済み
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