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あの日以来亜理紗がよくライブに誘ってくれる。でも何かと理由をつけて断った。 ごめん。
会いたくなかった、雄樹君にもヒロトさんにもライブであった人達に。
あたしなんかが行くところじゃなかった。だから消したかった、ふとした瞬間に思い出すあの楽しい感じ、雄樹君の笑顔。
思い出したくなかった。今までの平凡な生活が惨めに感じるから。
たまにくる雄樹君からのライブのお誘いも、本当は行きたかった。
でも行った後の後悔を思い出すと悲しくなって、メールも返せなかった。
普通に仕事に行って定時に帰る。たまの残業。
それでよかった、あたしのに日常なんてそんなもの。キラキラしたものなんてなくていい。
あった分だけ動揺するのは嫌だった。
亜理紗からライブ以外のお誘いがあった。
仕事帰り亜理紗の家で宅のみ。買出しをして亜理紗の家に向かう。
「久しぶり~。ちかぜんぜん会ってくれなかったから寂しかったよ~。」
「ごめんごめん、最近忙しかったのよ。お詫びに美味しい物作るからゆるして?」
「わ~い!!それ目当てで宅のみにしたんだから!」
キッチンを借りて亜理紗の好きなものを作っていく。
「ちかってさ、昔から料理うまいよね。やっぱり毎日してると違うのかな。」
「あたしは仕方なくやってるだけだし、これくらいみんなできるよ、亜理紗もヒロトさんのために作ってあげれば?」
「ヒロトの方が上手だからいいの!!うまい人が作ったほうがいいんだから、私は食べる専門って事で。」
亜理紗といると落ち着く。この子はあたしの存在をいつでも大事にしてくれる。
でも無理に入ってこない。この感覚は安心する。
私が昔から料理をしていることにだってあまり突っ込んでこない。
だから昔一度だけ話した。
私には家族がいない。
いない訳ではなかったが一緒に住んでいなかった。
小さい頃母親が事故でなくなり、父親と姉と三人で暮らしていた。でも私はおばあちゃんの所に引き取られた。
たぶん生活が苦しかったんだろう。
おばあちゃんももう年だから1人しか引き取れないと言ったらしい。だから私だけ引き取ったんだと後から聞かされた。
おばあちゃんはとても優しくてでも居候のあたしは何でもした。しなくて言いと言われたけど、肩身が狭かった。
今ではそのおばあちゃんもいない。私が就職した年だった。
社会にでた私を見て安心したのだろう。暑い夏の夜、縁側でた倒れていた。最初見たときは寝ているのかと思うほど優しい顔だった。
遺言などはなかった。親戚が全部おばあちゃんの物を処分した。
そこにお父さんは来なかった。
淋しかったけど、探そうとは思わなかった。今更あってどうしていいかわからないから。
初めての1人暮らし。このとき初めて亜理紗を頼った。
どうしていいかわからない私を亜理紗と亜理紗の家族は助けてくれた。
弁護士のお父さんは私のために財産も入るように色々してくれた。
お婆ちゃんが私名義で作ってくれていた通帳を預かってきてくれた。
頼りがいのあるお父さんでいいなって思った。
住む場所も探してくれて、今だに連絡をくれる。亜理紗は両親をうざいって言ってるけど、私はいいなって思う。
亜理紗も1人暮らしを始めて私たちの生活は別々だけど、たまにこうやって会うのがいい。私たちの関係はこれくらいでいい。
今は親友だと思っている、亜理紗もそう思ってくれてるみたいだし。
「ちかさ、あんまり口出したくないけど、雄樹君となんかあった?あのワンマン以来ライブ来ないし、雄樹君も心配してるみたいだよ?」
「なんもないよ。最近忙しくてなかなか帰れないんだよな。」
「じゃあ、何で雄樹君に連絡しないの?けんかでもした?ヒロトもなんかあったんじゃないかって心配してる。雄樹君もなんも言わないし。」
「だって何もないもん。やっぱりああ言う所は私は苦手みたい。さっ食べよ!」
亜理紗はそれ以上聞いてこなかった。でも今回ばかりは不満そうだ。