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あの日以来の彼からのメール
「土曜日ライブやるからよかったら来て。名前入れとくから。」
「はい」とだけメールを返し、ため息意をつく。
はぁ~
彼の事が頭から離れない。この気持ちは何なのか。わかってる。
わかってるけど認めるのが怖い。
土曜日はすぐにやってきてしまった。
まだ始まる前ありさと話す。
「ちか、雄樹君といつの間になかよくなってたの?ヒロトから何となく聞いたよ~!!」
「そんな仲いいほどじゃないよ、一度ご飯は一緒に食べたけど何にもないし、今日だって久々にメールきたから・・・・・」
「何いってんの☆気になってるくせにぃ。ちかは素直じゃないからなぁ~。このひねくれ者~。」
笑いながら私のホッペを引っ張る。
私は勘がいいんだぞ~と笑いながら亜理紗は言うが、本当そのとうりだ。気にならないわけがない。
あんなに綺麗でかっこいい彼を気にならない人なんていないと思う。
そのとうり今日のライブにも彼目当てであろう女子が大勢かんじとれた。
今日は彼のバンドのワンマンらしい。
これだけの人数を集められるバンドは中々今はいないとヒロトさんが言っていた。
ステージが赤く照らされていく
深い赤
みんなライトに吸い込まれるように前に集まっていく。もうあの人ごみに入りたくないと後ろのほうに下がった。みんなが雄樹君の登場を待つ。
・・・・・・・・あれ? 出てこない。
フロアもおかしいとざわつきはじめた。
後ろかな・・・・
ヒロトさんがニヤつきながら言ったそのとき。
バンッ!!
後ろのドアがあいて雄樹君が飛び出してきた。
目の周りが黒く塗られて印象的。
フロアの人だかりが一気に後ろに流れる。
危ない!!
思ったらすぐに彼が人ごみを掻き分けてステージへと向かった。
あたしも人に飲まれて連れて行かれる。
フロアの盛り上がりは終始絶好調だった。隙を見て横に逃げたがあたしまで汗だくになってしまった。
大丈夫?亜理紗が声をかけてくれる。
こんなに盛り上がるバンドだとは思わなかった。彼等から飛び散る汗はなんだか清々しくてパワーがあった。
途中で雄樹君がTシャツをぬぐう。
見惚れていると目が合ってにやっと笑う彼。
そのままあたしの顔にTシャツが投げつけられた。
ぼふっ!!
顔に当たってそのまま地面に落ちる。一瞬何が起こったかわからなかった。
Tシャツに女の子たちが群がる。
もみくちゃになりながら逃げるあたし。ステージで歌いながら笑っている雄樹君を睨む。
ライブも終わって早々に帰ろうとした。
亜理紗に打ち上げに誘われたが行く気がしなかった。ライブをみている自分が雄樹君を見ている自分が、恋している錯覚が嫌だった。
外に出るといつものようにバンドメンバーがファンの子達に挨拶をしている。
あたしも顔見知りになったので、お礼だけは言って足早に駅にむかった。
タバコ・・・・吸いたい。
ふと思って帰り道の公演に立ち寄る。携帯が着信を知らせているのはわかっていた。でもとる気にはなれない。
亜理紗かな・・・・・・
もしかしたら。
思いながらも知らないふりをしてタバコに火をつける。
ふぅ~。息を吐いた瞬間に目に入ってきたものにびっくりした。
ゆうき・・・・・・くん?
「何でかえんの?俺すぐ外出たのに電話も出ないし。」
「ごめんなさい。人が多くて苦しくなっちゃって。電話は・・・・・・気付かなくて。」
嘘にしか聞こえない言い訳をならべる。
「戻らない?打ち上げもあるし。」
「今日は帰ります。体調よくないし、ほら雄樹君は早く戻ってください。みんな待ってますよ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「タバコ1本くれない?」
彼がそう言うから手に持っていた箱とライターを差し出す。
一息つくと「今日たのしかった?」
「はい」
「俺が後ろから出てきてびっくりした?」
「そりゃもう」
嬉しそうに彼が笑う。なんだか悲しくなってくた。こうやって話していても遠い存在に感じて、でもこんなに近くにいて手を伸ばせば触れる距離なのに。
「あの、そろそろ戻った方がいいんじゃ。あたしなら別にほっといてもらっていいんで。」
「わかったと言ってライブハウスに戻る彼の後姿を目で追い続ける。」