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家についてベットに吸い込まれるようにそのまま眠りに着いた。目が覚めたときにはもう夜近くになっていた。
顔元でケータイのランプが光る。
「ちか~。だいじょうぶ?ちゃんと家に着いてる??心配だから連絡ちょうだい!!」
あった後は必ず連絡をくれる亜理紗の心遣いはすばらしいと思う。
家路に着いたことをちゃんと返信する。
もう1件は・・・・
ヒロトさんだった。亜理紗からきいたんだろう。少しがっかりした自分がいた。
シャワーを浴び、昨日のお酒とタバコの匂いを落とす。外を見ながら。あぁ、また同じような日が続くんだとふと思った。
ヴヴー ヴヴー 携帯がなる。
『どうも、雄樹です。まだ寝てるかな?酔いは醒めたかな?昨日はライブ来てくれてありがとう。もし良かったらまた来てな。一応連絡先教えときます。09045・・・・
彼からだ。
少しドキドキした。うっすらと顔を思い出す。
この年になって知り合いが増えるとは思わなかった。しかも若い男の子・・・・・なんだか自分まで若くなった気分になる。
雄樹くんか・・・・彼いくつかな、これって返信したほうがいいよね?でもなんて返す?私も番号教えたほうがいいのかな・・・・・・
色々考えてたら返すのが面倒になって、いったんおいておくことにした。
気づけばあれから日がたっていた。ちょうどあの週末から一週間。
ポケットで携帯が振るえる。
ヒロトさん?
「ちかちゃん久しぶり。今日イベントあるんだけど来る?前にちかちゃんが言ってたバンドのやつらが出るんだけど、多分こいつらだと思うんだよ。亜理紗は撮影でこれるかわかんないんだけどどう?」
亜理紗はモデルをやっている。
有名なトップモデルとかではないけれど、何をやっても続かない亜理紗には趣味程度の仕事があっているのかもしれない。
「私も今日は仕事なんです。なんじからですか?いければいきたいです。」
「多分やつらは9時ぐらいだから。一応チケット取っとくから入り口で名前言って。なんかあったら俺に連絡してね。」
今日いけるかな・・・・でも1人だと辛いな。ヒロトさんってやつぱりやさしいな。気が利くというかお兄さんって感じかな。
あっ・・・・・雄樹君に連絡しないと。
また携帯を取り出し文字を打つ。
「ちかです。返信遅くてすみません。今日またライブに行くかもしれないです。あたしが気になってたバンドのライブがあるみたい・・・・仕事なので間に合えば行って来ます。
ではまた。」
なんか報告みたいになってしまった。でもなんて送っていいのかわからない。
仕事も終わり、時間もあったのでヒロトさんに教えてもらったライブハウスに向かう。新宿という都心は夜になっても明るかった。
大通りに立つビルの地下、ここだけは場違いな感じのつくり。
ライブハウスって地下が多いなぁ。
入り口で名前を告げて中へ入り込む。
すでにライブははじまっていた。誰だかわからないけど何となく前に見たことのある人もいる。
何組目かはわからないけど見覚えのあるバンド。
メンバーがステージに立ち真ん中にはマイクが1本。
あっ・・・・・あの人たちだ。
曲が始まると、前みたいに人が一気にステージに押し寄せる。
赤くなったステージの脇から男の子が出てきてマイクを掴む。
爆音に負けない彼の声。激しい動きがフロアを巻き込む。
盛り上がる若い子達に巻き込まれ私もその中に引きずり込まれてしまった。
苦しい、早く横に逃げなきゃ。
激しい曲が終わりみんなの動きが落ち着いたとき、ふとステージに目をやるとボーカルの男の子と目があった気がした。
あれ・・・・??
ゆうき・・・・・くん??
もっとちゃんと見たかったけど人だかりでみえない。
人に溺れそうになったあたしを横からヒロトさんが助けてくれた。
「大丈夫?このバンド結構売れてきてるから危ないよ (笑)」
「あの・・・・あの人って・・・・・」
「あぁ雄樹? 今頃気付いた?」
笑いながらヒロトさんが言う。
「あの日声かけられたでしょ?俺があいつに言ったんだよ。ちかちゃんいきなり外行っちゃうし、あいつ人見知りで暇してたから。見に行けって。」
あぁ、そうゆう事か。なんだか納得してしまった。
「スミマセンなんだかきを使わせてしまって・・・・・・」
ステージの彼を見た。
歌っている姿はあの時とまた違ったキラキラした彼で、なんとも妖艶で美しかった。
なんだか急に恥ずかしくなってステージから見えないところに隠れる。
雄樹君のバンドが終わってフロアが明るくなる。
どうしよう、帰ろうかな。
知り合いのいない私は自分の居場所をなくして外に出た。
ライブハウスの周りにはザワザワと人がいる。雄樹君のバンドのメンバーも見かけた。その間をすり抜けて駅にむかう。
「ちかちゃん!!」
無意識にその声に反応して振り向くと汗だくの雄樹くんがいた。
「あの・・・・・あたし知らなくって。・・・・ゴメンナサイ。」
「いや、別に謝ることじゃないし。言わなかった俺もさ・・・ね?」
自分でも何に謝っているのかわからなかった。
「あのさ、明日休み?今日も打ち上げあるしもしよかったら戻らない??ヒロトもくるし、亜里沙ちゃんは今日はいないの?」
「亜理紗は仕事なんです。だから・・・・・1人で参加するのはちょっと。」
「・・・・・・そうだよね、ごめん。」
なんだかこの感じがたまらなく嫌で、彼にさよならを言って足早に駅に向かった。
電車に乗り込みメールが来ていることに気付く。
「ちかまだいる?あたしこれから向かうよー☆いるならヒロトにも言っといて。あいつ電話でないからぁ~!!」
はぁ~。 亜理紗遅いよ。
「ごめん、今電車乗っちゃったよ。ヒロトさんにも言わずに出てきちゃったからお礼言っといて。」
「めずらしいじゃん。どうしたの?なんかあった?」
「なんもないよ、今度ゆっくり会お」
亜理紗の勘の鋭さは怖い。なにがあったわけではないけどなんだかもやもやしている。
早くお家に帰ってシャワーを浴びたい。そう思いながら最寄り駅までの時間目をとじた。