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松原さん?
考え込んでいた私に尾崎君が声をかけてきた。
「そんなに怒られたの?」
「いえ、大丈夫です。あたしが悪いんで気をつけます。」
だめだ、雄樹君が言う様にちゃんと割り切らないと。私は今出来る事を精一杯しないと。
それから雄樹君は必要以上に会社では私に構わらなくなった。
ライブはたまに誘われていくけど、打ち上げには行かないようにした。
今の仕事には少し充実さがあった。初めてのことばかりだけし、失敗もあるけど、何か終わるごとに結城君が褒めてくれる。
私だけってわけじゃないけど嬉しかった。
誰もいないフロアにあたし1人、資料に目を通す。
「松原さん?まだ残ってたの?」
海老澤部長がまだいたみたいだ。
「はい。仕事を家に持ち帰りたくなくて、でももう帰ります。タイムカードは切ってあるんで・・・」
「切らなくてもいいのに、働いた分はきっちり会社からもらわないと。」
あたしは慌てて散らばった資料をかき集めた。
「ねえ、この後ちょっと時間くれる?この前の撮影のお疲れ会しよ。」
海老澤部長に言われるがままに会社近くの居酒屋で乾杯した。
「明日にひびかない程度に飲みなね。俺、明日代休だから。」
言いながらビールを飲み干す。
「そういえば、明日ライブでしたね。」
「そう、みんな仕事してるから何時もは休日しかやらないんだけど、明日は特別。
しかも時間早いから休みにした。」笑
バンドの話をする海老澤部長はやっぱり雄樹くんだと感じる、彼はまっすぐで芯があっていいなって思う。
「明日いけないけどがんばってください。」
ありがと。と微笑んでくれる彼、本当の彼はどっちなのか。
「あの、聞いてもいいですか?」
「なに?」
「海老澤部長の大切なものはどっちですか?仕事?それともバンドですか?」
ずっと気になっていた。望んでいる答えはないけれど、知りたかった。
「両方とも大切だよ。ちかちゃんにはどうみえる?今後どうなるかはわからないけど,今はどっちがかけてもだめかな。
お互いが支えあってる感じ?ちなみにちかちゃんはどっちの俺が好き?」
「えっと・・・・・・・・」
答えられなかった。ステージでキラキラ光ってる雄樹君も、慕われて頼りがいのある海老澤部長も今こうやってあたしと話してる彼も
すべてが好きだ。
「ちかちゃん、俺と付き合わない?」
「いえ、あたしなんて・・・・・今は仕事で手いっぱいです。」
苦笑いする彼
「俺はさ、初めて会ったちかちゃんも好きだし、仕事をがんばってる松原さんも好きだから。これからもちかちゃんを見ていたいんだ。」
真剣そうな目をしてあたしに話しかける雄樹君。この愛の告白は本物ですか?雄樹君もあたしと同じように思ってくれてますか?
だめかな?と聞いてくる彼になにも言えなかった。
その後は気まずくお互い会話もはずまなかった。