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私は電車に乗って目的地を目指した。
運命だったのかもしれない。
彼に出会ったのは私が社会人になって2年目だった
仕事にもなれ、やっと接客業という仕事にも自身が持てるようになった頃親友の亜理紗が気晴らしにと誘ってくれた。
あたしはもともと社交的ではなかった
亜理紗は小さい頃からの親友
彼女は私の知る限りの人間の中でだれよりも完璧だった。
容姿、性格ともにあこがれる存在。頭も良く運動神経も抜群で言うことナシといった感じだろう。
彼女は私に優しかった。
子供ながらに最初はおもった。
・・・・彼女はあたしに優しくしているけど何か裏があるんじゃないか・・・
・・・・もしかしたらあたしに優しくして周りからの評価を上げようとしているんじゃないか・・・
でもちがった。
彼女はいつまでも優しかった。
何の特徴もない私と仲良くしてくた。
私は世間で言ういじめられっこだった。
何をしたわけでもないのにいじめにあっていた。
女子特有のいじめ。
最近テレビでよくいじめにあって自殺。なんていうニュースをよく耳にする。
私の学生の頃もシカトや何かを隠すなどあったが、現代に見受けられる暴力的なもの、陰湿なものはそこまでひどくなかった気がする。
女子にはグループがあったりする。
クラスに1人はリーダーみたいな女の子がいたりするもので、わたしはその子の標的になってしまった。
仲の良かった女子まで私の周りから離れていった。
シカトというやつだ。みんな彼女に言われて、私をシカトした。
万が一彼女の言うことを聞かなかったら。次は自分がいじめられてしまう。
一人になるのが怖い。
みんなそんな心理が働いたのだろうか。
いうことを聞かなかったからといって、彼女に何ができるだろうか。
亜理紗みたいに可愛いわけでもないのに、頭が言い訳でもないのになぜ、彼女なんかにいじめられなければならないのか。
亜理紗にいじめられるなら仕方ない、ほかの女子も従うのは仕方ないことだと納得できたかもしれない。
いじめられながらも私はそんなことを冷静に考えるような子供だった。
理由は幼馴染の男の子、遙だった。
彼にはいじめられている理由なんていえなかった。
おまえの所為だなんて。
私はあの頃遙が好きだった。
好きというかあの年頃なら憧れに近かったのかもしれない。
私をいじめていた子もそうだったのだ。
遙が好きだったのだ。
でもそのいじめはあまり私には効果がなかった。
あの頃の私は周りの行動にあまり興味がないから。
そのうちいじめもおさまった。
いじめをしていた彼女は遙と仲の良い私に嫉妬していたのだろう
今考えればそう思える
でもあの頃のあたしは違っていた。
あの時期からだ、私が遙を避けるようになったのは。
あの頃一度だけ亜理紗に
「ねえ、なんで私と仲良くしてくれるの?」
一度だけ聞いた。
「あたしといたって楽しくないでしょ?亜理紗はかわいいし頭もいい、あたしなんか・・・・」
「なにいってんの?あたしが誰と一緒にいたっていいでしょ。あたしはあんたのこと気に入ってんだから」
「ねえ、 あたしのいい所ってどこ??」
「うーん・・・・ まあいろいろよ。しいて言えばその何にも興味なさそうなところとか(笑)」
「ばかっ!! それ、ほめてないから。」
亜理紗に誘われて人生はじめてのライブハウスに行った
興味がなかったわけではなく今までに行く機会がなかったのだ。
仕事の後、待ち合わせていた下北沢に急いで向かう
亜理紗は人脈も広く友達も多い
この日は当時の彼氏ヒロトのイベントらしく、彼にもあってほしいと誘われた。
電車に乗っている間少しドキドキした。
いつもの自分と違ったことをするのは勇気がいる
もともといろいろな音楽が好きなあたしは
ライブがどんなものなのか、どんな曲が聴けるのかワクワクしていた。
想像したのはよくテレビで見るような大規模なライブ
有名なバンドなどが、ステージで歌う
若者達は立てのりで騒いで一緒にうたう
想像するだけで早く見たいと好奇心にかられた。
電車を降りて亜理紗に連絡する
・・・・
・・・・・・・・
繋がらない
どうしよう
事前にメールできてたライブハウスの場所を確認する。
前に下北沢に来たのはいつだろうか、記憶の端にも残っていない下北沢の地形
なんとなく南口に下りてみる。
長い階段を下りたところで、キャッチといわれる人やティッシュ配りの人が押しよせてきた。
金曜の夜ということもあり騒がしい
なんだ、渋谷や新宿と変わらない
こうゆう感じは苦手
亜理紗と連絡も取れないし帰りたい・・・・・
いや、ここまできてしまったのだから行くしかない
今日だけ。
今日だけがんばろう。
久々に亜理紗に会えるし、亜理紗の新しい彼氏も一度ぐらいは見ておきたい。。
ケータイを片手にライブハウスまでの道のりを急いだ。
商店街らしきところをぬけて、看板を探す。
この辺かな・・・・・・
♪・・・・・
亜理紗だ! もしもし??
もしもしあたし!! ごめんね電話出れなくてっ いまどこ??
多分ライブハウスの近く。 コンビニのところにいるんだけど、あってるかな?
あってるあってる!! その隣のビル、地下に下りる階段あるから降りておいで! 中で待ってるから。
電話を切って向かう。
壁まで黒く塗られた通路に、ここであっているのかと少し不安になる。
入り口にあるカウンター いかにもって感じの人が2人。
「どのバンドみにきたの?なまえは?」
・・・・・しまった。何も聞いてない。
「あの・・・・・あたし亜理紗の友達で・・・・・」
「ありさ??」
「あの・・・・・・ヒロトさん言う方の彼女で・・・・・」
「?? ちょっとまってて。今確認するから。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうしよう。こうゆうの苦手。
ホントにここで合ってるのかな・・・・・・
しばらくすると奥から男の人が戻ってきた。
「お待たせしました。 ちかちゃん??」
「あっ はい。そうです。」
「じゃあこのまま入っておくの左の扉だから。 ヒロトも亜理紗ちゃんもいるから。」
「あっ。 ありがとうございます。」
奥に進むと、また黒い。
なんだか厚そうな扉。その向こうからはロックだと思われる爆音。
この状況で、この音量ならあけたらすごい音なんだろうな・・・・・
扉に似合った太いレバーに手をかける。
あれ?? かたいっ!!開かないんだけど!!
・・・・・・・・・・・・・
「すいません・・・・ はいらないの??」
後ろから男に人に声をかけられた。
「すいませんっっ!! なんか開かなくてっっ」
どうしよう・・・はずかしい・・・
こうゆう状況は一番苦手、自分が恥をかくのは嫌。絶対馬鹿だと思われてるんだろうな・・・・
ふっ・・・・
少し笑った男の人は横から扉に手をのばした。 ガチャ・・・・・ ジャカジャカッ!! ダンダンッ 爆音が通路に広がった。
そうゆうことね、下に回してから押すのね・・・・・ 恥だわ。
「どうぞ。レディーファースト。・・・」
「・・・・・ありがとうございます。・・・・・・・」
彼の開けてくれた扉に体を滑り込ませる。
はじめての世界 いろんな色のライトが体に突き刺さる。一瞬クラッときた。
ステージと思われる少し段が上がったところには見たこともない4人組のバンドが音を出している。
その前には学生なんじゃないかと思う若者たちが、ギュウギュウトステージに詰め寄っている。
この光景は予想どうり。
でも想像したより狭い感じだな・・・・・・・
「大丈夫?」
「はい。すいません大丈夫です。」
まだ後ろにいた彼が声をかけてくれた。 たぶん邪魔なんだろう。後ろのほううにいこう。
「ちか~っっ!!」
大きな音の中からかすかに亜理紗の声が聞こえた。
まぶしいライトをよけて亜理紗の顔を捜す。
前のほうから亜理紗がこっちに向かってくる。
久々に会った亜理紗は変わらず可愛かった。いや前より綺麗にもみえた。
「よく一人で来れたねー!!迷わなかった??てかその格好・・・・・・」
「仕方ないじゃん、仕事帰りだもん。ってか先入ってるならちゃんといってよ!!あたし入り口でテンパッタよ!!」
「笑 やっぱり そうなるかと思って先はいってみた。 新しい体験もたのしいでしょ。
わらって亜里沙は言う。」
「なんか飲む??」
後ろからモデルみたいだけど少し怖そうな男の人が私たちに声をかけてきた。
「ちか、彼がヒロトだよ。今日のイベントは彼が開いたの。」
「はじめまして、亜理紗の友達のちかです。今日はこんな格好できてすいません、お招きいただいてありがとうございます。」
「なに業務的になってんのっ!!なんかのむ??」
「ちかちゃんはじめまして、亜理紗から話はきいてたんだ。亜理紗の昔からの親友でしょ?今日は来てくれてありがと。亜理紗の外の友達連れてくるのはじめてだからうれしいよ。俺飲み物買ってくるから、酒飲める??」
「私はうんうんとうなずいた。以外にもやさしい感じでほっとした。」
「あれ?ゆうき、おまえもうすぐじゃねーの?」
ヒロトさんはあたしの後ろに目をやった。
「うん、これから準備するとこ。」
ゆうき?さっき扉を開けてくれたひとかな?
そのまま彼とヒロトさんはプライベートと書かれた扉へはいっていった。
久々にあった私たちはたわいもない話しをしながらヒロトさんの買ってくれたお酒と、若い音楽を楽しんだ。
また次のバンドが出てきた。
深い血のような真っ赤なライトにてらされた3人。
低いベースの音が始まる
ドラムの音ギターの音が重なり合う
あれ?真ん中にマイク??
覗き込んでみると横の扉からクタクタのTシャツをきた華奢な感じの男の子が出てきた。
マイクをつかみとり彼の声が音に重なり合う。
わあぁ・・・ かっこいいかも・・・・
続けて何曲か歌い終わると、ボーカルの男の子がMCを始めた
気づくと箱の中の観客はステージ前に押し寄せていた。
「あっ どうも、こんばんは。
みんな夜遅くなのに集まってくれてありがとうございます。今日はこの企画をしてくれているヒロト、呼んでくれてありがとうございます。
まだまだ今日は長いので楽しんでください。 では次の曲。」
彼らは人気があるのだろう、ライブハウスもおおいに盛り上がっている。
そして何曲か歌ってそれ以上に会場をわかせていた。
最後になりヒロトさんがステージに立つ。
「みんな今日は本当に集まってくれてありがとう。またこの企画やりたいと思うんで楽しみにしててください。
そして、今日出てくれたバンドのみんな、ありがとう。またよろしくな。」
イベントが終わってから、そのまま帰ろうとするあたしを亜理紗が引き止める。
「今帰っても電車ないよ?」
「大丈夫、タクシーで帰れる距離だし、亜理紗もヒロトさんと帰るでしょ?」
まだ人の多いフロアの中を掻き分け出口を目指す。
「ちかちゃん。この後打ち上げあるんだけどおれらと行かない? 亜理紗もくるし。
ほかのやつらはさっきバンドで出てた奴とか、悪い奴はいないし。」
ヒロトさんが声をかけてきた。でもあたしはあまり大勢でのみに行くのは好きじゃない。知らない人と飲みに行くのはツライ。
「ちか~行こうよ。明日はどうせ休みでしょ?あたしもちかいないと寂しいし~」
甘えた声を出す亜理紗は最高に可愛い。こんなに可愛く頼まれたら断れるわけがない。
結局打ち上げをやる飲み屋に流れ込んでしまった。
居酒屋は見渡すとほとんどが男の子ばかりの飲み会になっていた。
そっか、バンドやってる人って男の子が多いんだなと今更ながら気づく。
周りの人も気を遣って話しかけてくれる。
あたしの隣にさっきまでいた亜理紗は気づけばヒロトさんの横に移動していた。
ヒロトさんって年上だよね??かっこいいし優しそうだし、亜理紗はいいのつかまえたな。
なんだか新しい空気が吸いたくなって、あたしは1人外にでた。
夏でも夜は涼しいなぁ。
近くにあった自販機の横にしゃがみこみ、今日はじめてのタバコを取り出し火をつける。 このクラッと来る感じがいつもなら嫌な感じだが、なんだか心地よかった。
何本目だろうか、またタバコに火をつけると男の子が声をかけてきた。
「ヒロトさんと亜理紗ちゃんが探してたよ。」
見上げてみたけど、お酒のせいか視界が曇る。
「あっ、すみません。これ吸ったら戻るんで。」
一言いってタバコに目を戻す。
すると男の子は隣に座ってきた。
・・・・・・・・・・
何これ、どうしたらいいの?
「あの・・・タバコ吸いますか?吸わない人だったらゴメンナサイ。」
「いや、ライブ終わったし吸いたくなった。」
そう言ってくれて一安心。タバコを取り出し火をつけてあげた。
どうもと彼は一言いってタバコを吸う。
「あのさ、ライブとかよく来るの?今日は楽しかった?」
「実は初めてだったんです。あたし仕事してるし、夜はいつもお家にいるんですけど、今日は亜理紗に呼ばれてきたんです。ヒロトさんのイベントがあるからって。
途中から来たからもしかしたらあなたのバンドは見てないかも知れないけど。楽しかったですよ。
最後のほうにやってたバンドとか、バンド名とか全然わからないけど、四人組だったかな?赤いライトが印象的だった、あの人たちは有名な人なの?
前の方混んでて見えなかったけど、なんか好きな感じだった。」
しゃべりすぎたと思った。 恥ずかしくて彼のほうを見れない。
「良かったらまたライブ見に来てね。
また楽しんでもらいたいし。」
「えっと・・・・機会があれば・・・・ あの。先に戻りますね。」
そういってあたしは彼とおいてお店に戻った。
亜理紗とヒロトさんと話をして気づくと朝になりそろそろ帰ろうと、みんなでお店を出た。
始発まで一緒にいると言ってくれた亜理紗とヒロトさんにさよならを言って駅に向かう。なんだか1人になりたかった。
始発まで後一時間か・・・・・
ロータリーを見渡すと酔っ払って騒いでる若者、いちゃついてるカップル、浮浪者。
あたしもその中に混じり始発をまつ。
夏の朝の風は寒さを誘う。
「始発まってんの?」
男性はあたしの横に腰掛けた。
そのうちどこかに行くだろうと、あたしはシカトしてみる。
「俺だよ、さっき外で話したじゃん。」
何となく聞き覚えがある声だったので、彼のほうを見る。ライトに照らされた彼の顔はとても綺麗で男らしい顔立ちでなんともいえなかった。
初めてちゃんと見た。
「あっ・・あの時ドアを開けてくれた・・・
あの時暗くてよく見えなかったんです。スミマセン。」
「あのさ、外で話したとき連絡先聞きたかったんだけど・・・・・先に戻っちゃったからさ。良かったらまたライブ来てほしいし教えてくれない?メアドとか・・・」
彼の綺麗な顔に見惚れて何を言われてるか最初はわからなかった。
綺麗な彼の顔が苦笑いする。
「俺の顔なんかついてる?」
「っつ!!スミマセン!!連絡先ですよね。」
急いでカバンの中からケータイを取り出した。
その後はたわいもない話をて、気づけば電車の動く音がしている。
「もう始発過ぎちゃいましたね。電車のりますよね?」
「いや、俺この近くに住んでるから。」
「すいません。なんか一緒に待ってくれてたんですか??本当にスミマセン。」
謝ってばかりだね。と彼に笑われた。
「ほら、女の子1人だとあぶないかし。俺も良い覚ましにちょうど良かったよ。俺、雄樹ってゆうんだ。連絡するから。」
綺麗な彼の笑顔から笑顔がこぼれる。
素敵過ぎる彼の笑顔はあたしの心をキュンと締め付ける。
お礼を言って、手を振る彼を後ろにあたしはホームに向かった。