第45話 バズ・ニンジャ(八/十五)
深い森の中、俺たちは濃い疲労を感じながら、戦闘していた。
ここは第八階層、藪と木々で視界は悪く、それだけでストレスが溜まる。
休憩は第五階層のセーフゾーンで一回。十分ほどしか取れなかった。
複窓しているリスナーが教えてくれたのだが、テルマウス氏がまだ追いかけてきているらしい。追いつかれたくなくて、短めになってしまった。
「ムラサキムラサキムラサキっ、あと鮫丸斬撃波ッ!」
想定より戦闘で手こずっているのも、疲労の原因だ。
あんまるが青いオーラで切り裂いたのは、紫色の肌を持ち、角と牙と爪を生やした半透明の老婆。紫ババアである。霊体系のモンスターで、俺とは相性が悪い。
「めんどくさいッ! なんで毎回コレ言わんとダメなん!?」
俺も長クナイを振り回し、ビジネススーツを着た長身痩躯ののっぺらぼうを切り裂く。――と、二体になった。こっちも厄介だ。
『ミスター・トールマンの呪的防護の解除条件、なんだっけ』
『ない。ランダムで全消滅するから、アタリの個体引くまで倒し続けるしかない』
『四人パーティーとかだと楽なんだけどな』
ステッキで殴りかかってくる米国生まれの妖怪を斬る。また増えた。再度斬る。
タイプ:フェイクロアの主なモンスターは、都市伝説の魑魅魍魎。"ムラサキと三回唱える"等の条件を満たさないと、倒すことができない。
「ムラサキムラサキムラサキ……おらっ! 段蔵くんっ、紫ババアの群れ、終わったよ!」
「こっちの手伝いを頼む!」
「りょ!」
ふたりで、ひたすらミスター・トールマンを斬り続ける。こいつは増えるだけの物理モンスターだ。
倒すだけでいいなら、なんとでもなる――はずだった。
がさり、と音を立てて。
近くの藪から、小太りの男が飛び出してきた。
「やっと追いついたでぇ! 逃げるっちゅうことは後ろめたいことあるんやろッ、それを――」
『テルマウス!?』
『は!? なんで突っ込んでくるんだよ!?』
最悪だ。
スキルを頼りに、俺たちだけをターゲットにし、ひたすら追いかけてきたのだろう。血走った目が、少し遅れてモンスターの存在を捉え、驚愕で表情が歪む。
「危ないッ!」
あんまるが叫ぶ。新たに現れたテルマウス氏に向かって、トールマンたちが殺到する。青いオーラを纏った鮫丸を振り上げて、しかし、振り下ろせない。
鮫丸斬撃波はダメだ。威力が強すぎる。テルマウス氏ごと切り裂いてしまう。
俺も連戦で、ゲーミング忍者装束に仕込んだ武器の大半を使い果たしている。
【風魔流忍法:呑牛之術】で取り出す時間も惜しい。
だから。
「――疾ッ!」
忍者投擲術。
咄嗟に、俺は袖に仕込んでいた最後の武器、数本の針クナイを投げ放った。
針クナイはトールマンたちの肘に突き刺さり、一瞬だけ動きを阻害する。
その一瞬があれば、問題ない。忍者瞬歩術で距離を詰め、トールマンを長クナイで撫で斬りにする。
「くそ」
使うつもりじゃない武器を、使ってしまった。
『いま、なにか投げた? 投擲のモーションだけ見えたけど』
『悪態つくとは珍しい。てか、いつもの手裏剣じゃないな』
『でもトールマンは動き止めたよね』
コメント欄に疑問が並ぶ。姫虎のことを考えると、触れられない。
触れている場合でもないが。
「テルマウスさん、怪我はないな。戦闘はできるか? できれば助勢して欲しいんだが」
「お、おお、おう……。せ、戦闘? 無理や、無理むりムリ! もう一年以上もまともに戦闘してないねんっ、俺は逃げ専やぞ!? 無理に決まっとる!」
尻もちをついて、テルマウス氏が怒鳴った。役に立ちそうにない。
「――あんまる、防衛戦だ。条件が厳しくなるが、やれるか」
「やるしかないっしょ。まだまだ元気メガ盛りだっつの☆」
明るい声音で言いつつ、さすがのあんまるも笑顔に影が差している。
厄介な戦闘に、また厄介な要素が増えたのだ。無理して笑っているに決まっている。
戦闘時間が十五分を超えたころ、ようやくミスター・トールマンの分身群は消滅した。
俺もあんまるも疲労が濃くて、なにも言えなかったが、お互いにわかっていた。
この疲労度では、今日はもう、攻略は不可能だと。
「戦闘終わったやんな? ほ、ほな……、インタビューとか、させてもらおかな……?」
「黙ってもらっていいスか」
「テルマウスさん、今回のあなたの行動は、ダンジョン開拓免許の規則、"危険行為の禁止"に著しく違反する。手錠をかけるつもりはないが、外で公社に引き渡させてもらうぞ」
しかも、この男を連行して帰らなければならないのだと。
俺たちは『迷宮見廻組』なのだから。
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