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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【あの雪山三座】

作者: 降野 椛葉
掲載日:2026/05/07

こんにちは。

降野椛葉です。

今回は短編小説二作品目『あの雪山三座(せつぜんさんざ)

というのを投稿させていただきます。

ぜひご賞味ください。

〈あの雪山三座(せつぜんさんざ)

雪が降り頻る白昼は、昔から神様の催しものだと言われている。

というのも、そう言うのはこの高原に位置する集落だけで、言い伝えだ。

俺、吉備(きび) 冬夜(とうや)は神社の神主宗家の末裔で、

ゆくゆくは神主になることがはなから定まっている人生を生きている。

だが、俺はその運命に抗いたかった。

いや、そういう年頃だからただ反抗したいだけなのかもしれない。

でも嫌だった。

好きなことをできない人生は苦であると、昔幼馴染に悟られた。

その幼馴染の福田(ふくだ) (ひびき)は現在

俺の神社で巫女の手伝いをしている。

昔、「うちは将来巫女さんになる!」と豪語していた。

その夢の道を歩いている真っ最中の彼女に、俺は感心を抱いた。

故に今、この雪山を登っているのだから。

最初の逸話はこの地域では「三座伝説」と呼ばれており、

大昔に火山活動が活発化し、

三座なる山が連なりその三座を司る神様が現れ、

国軍の強制的な高原の軍用地化を

途轍もない大雪で振り払ったという。

その偉業が白昼に起こったことから

そういう伝説が創り上げられたそうだ。

というのも、この話を聞いたのは

俺がこういうのを興味が無かった頃に聞いたため

記憶と記憶とが混ざり合い混濁している可能性がある。

なので、一概にも本当にそういう伝説であるという確証がない。

だが、この集落辺りにはその伝説の白昼に大雪とともに

凍り付いたとされる大きな湖がある。

その湖は未だ未開明だが、それだけ強力な凍結度なのだろう。

俺は確証を得るために、

こうしてその雪山を登り、伝説を確認しに来ているのだ。

その伝説を確認したのち、俺はその伝説を用いて

ベストセラー作家になる予定なのでな。

俺は神主を抗い、唯一好きだった小説を書く立場になりたかった。

その作家としての初作はインパクトがあった方がいいだろう。

「…寒っ」

それにしても寒い。

冬至期だからというのもあるだろうが、

このかんじきでは凌げるものも凌ん。

雪という雪が、隙間隙間から入り込み、体温で溶けていく。

雪解け水ほど冷たいものはないであろう。

それしか知らないからな。

ふと、後ろを振り返ると

生まれ育った高原集落が見えてくる。

神社のどデカい神木も、社殿を雪から護っていた。

今日は神様の催し日と言っても過言じゃないだろう。

この雪山は比較的木々が少ない。

それ故に雪が邪魔をする。

だから登りたがる人も居ないのだ。

なのになぜ、こうも周りから人語が聴こえる…?

耳を澄ますと、

「しきふいくうくうふいしき

しきそくぜくうくうそくぜしき………」

(経を唱えているのか…?)

この高原は珍しく、辺りに寺という寺はない。

俺の神社がこの辺りの集落の民を束ねているためだ。

なら、なぜ坊さんがいる?

俺は立ち止まり、鞄からうちわを取り、

辺りに集ってきた霧を晴らそうとした。

すると、真後ろから『サクッサクッ』という雪を踏む音が聞こえた。

俺が振り向く間もなく、俺の後ろに歩いてきた者はこう言った。

「この先、進むべからず。進んでも知らんけーね…」

そして振り向くとそこには誰も居なかった。

寒さと恐怖感で、俺は震えが止まらなかった。

このまま下山をしよう。

という俺の脳の考えを、俺の身体は許さなかった。

脊髄が、俺の脳だ。

赴くままに、俺は登山を再開した。

進みに進むと、その山中に祠があった。

その祠の鳥居には、『昼山神社(ひるぜんじんじゃ)』と書かれていた。

俺は凍りついた。

なぜなら俺の神社も『昼山神社』だからである。

つまりこの祠は俺の神社と同じ神様を祀っていることになる。

なら、伝説の神様って…

俺は悟ると、背後にサクッという雪が踏みつけられる音がした。

振り返ると、するそこには数珠を左右の腕に3つ、

合計6つ着けた坊さんが居た。

「あーあ、進むなと言っちゃのに。まあ神主の吉備だし、そりゃ無理か。

きっと神様(かんさま)に似ちゃったんじゃね」

坊さんは淡々と喋る。

一方の俺は凍りついたままで、雪がかんじきを離さない。

「お、お前は、一体、な、なにも、何者なんだ」

悴んだ口で問う。

「わしのことは別にどうでも良い。ただ、

汝は勘違いをしているようじゃから教えちゃる。

所謂『三座伝説』を辿って来た汝は、国軍を途轍もない大雪で振り払ったと

聞いているようじゃが、そんなわけがなかろう。

あの日、神様がしたのは大雪降らせ、湖を凍らせただけじゃ」

と、坊さんは湖を見つめ言う。

「じゃ、じゃあ一体誰が、こ、国軍を…」

身を手で覆い坊さんに問う。

「わしら、"妖魔"じゃよ」

と坊さんが言うとともに、坊さんは姿をバケモノへと姿を変えた。

「あの日、わしら妖魔は大量の国軍を刺し、殺し、食い荒らし、

あの湖へと肉体や内臓、骨やらを捨てた。

その時、わしらの残虐非道の行為を見た神様が湖を凍らし、

食い荒らされ、血が飛び散った大地を大雪で覆ったのだ。

その時神様はこう言った。

『君たちの今やっていることは非道だが、

先にやっていたことは正義たるものだ』とな。

だからわしらは後に神様が生んだ人間を、

神様を祀る集落の神社の神主として立てたのじゃ。

その『三座伝説』というのも広め、神様をこの地の英雄としちゃ。

もちろん伝説はわしらが改変し、美しく映るようにしちゃが」

俺はそれを聞いて、背筋が凍った。

今まで見ていたものは表面にすぎず、美しく偽り飾られた裏面でもあると。

昔、響が俺の神社社務所内で

一緒に物語を読んでいる時にこう話していた。

「この物語って、美化されてると思うんじゃ!」

と響は立ち上がった。

「?どーゆーことじゃ?」

俺は聞いた。

「『この主人公は鬼の軍と鬼の王を圧倒的に制圧し、英雄へと上り詰めた』

ってあるけど、本当に圧倒的に制圧しちゃんかね?

それに、英雄に上り詰めたって言うのも

英雄がすんごい偉業を成し遂げたって大袈裟に言ってるみたいじゃ!」

響は手を腰に当て言った。

「いや、それが物語じゃろが」

俺は突っ込んだ。

「そーゆーことじゃなくて!」

と響は言ったが、今ならその言葉の意味がわかるかもしれない。

結局、俺は美化され続けた舞台で踊らされていたにすぎず、

その能管の笛音も、鼓の打音も、全て一つの狂言のために

取り繕われていたのだ。

ただ、喜劇ではなく悲劇。

俺は貴族ではないし、これは喜劇ではない。

なら一体…

そう悟っていると、坊さんは口を開いた。

「汝は伝説の全てを知った挙句、

神主にはならぬと言い、運命に抗った。

わしらは昼山の神主しか慕っておらん。

その将来の神主が、神主にはならんと言ったのだから用済みだ」

坊さんは懐に忍ばせていたのであろう得物を取り、

俺に向かって歩いてくる。

「はっ。全てにおいて都合の悪ぃ俺はいらねーってか」

なぜ今、抗わなかったのだろう。

ここで俺が「神主になる!」とでも言っておけば

未来は変わっていたのかもしれないのに。

いや、抗いたくなかったのか。

いつまでも子どものままじゃ、ベストセラー作家なんて然り。

大人になんて、程遠いも程遠いな。


『サクッ』という音は、果たして雪を踏んだ音なのか、

はたまた得物が突き刺さった音なのかはわからない。

この時の時間は丁度正午。

白昼も白昼、大雪だった。

祠の前では雪が赤い朱色に染まり上がる。

伝説の如く、大雪が降り頻り、赤い雪を覆った。

吉備冬夜は知り得なかった雪解け水ほど冷たいものに、成ったのだ。

大雪は神様の催しもの。

なら、吉備冬夜が何処に行ったのかは、きっと、神様だけが知っている。

〈あの雪山三座ー終わりー〉

吉備冬夜は、自分の意思で『伝説を暴く』という執念を貫きました。

ですが、その執念の先に待っていたのは…

結局、吉備冬夜は自分の正解に辿り着けたのでしょうか。

皆さんも一度、執念に付き添ってみるのは如何でしょう?

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