平穏な日々の終焉
日本でエイミーと暮らすことになって6年が過ぎた
エイミーは18歳になっていた
髪も伸ばして最初に会った頃とは全然違う
呼び戻した時、クロードもびっくりするだろうな
あれから6年、つまりいつ呼び戻されても不思議じゃない
もしかしたら次の瞬間には消えていなくなるのかもな
最近、エイミーは寝るときも外出する時も、風呂以外は常にリュックを身に付けている
エイミーが日本にいる間に勉強した内容がびっしりと書き込まれたノートがいくつも入っている
異世界に持って帰るためだ
内容は主に医学や薬学だ
結構難しい内容なんだが、この6年間、小学校の勉強から始めて、大学レベルの専門的な内容も理解できるようになった
まあ、最初は日本語もわからないので外出も出来ないから、勉強するしかなかったのもあるかもしれない
日本には言語を瞬時に習得できる魔法なんてのもないしな
あと、俺がエイミーに頼んで、リュックに入れてもらったものが一つある
日本に戻ってそれほど時間を置かずヤスタカの家を訪ねたんだが、その時にヤスタカの部屋で見つけたんだ
綺麗にラッピングされた小さな箱を
最初に会った時のファミレスの会話を思い出した
そういやマリの誕生日が近いとか言っていたな
「異世界に帰ったら、その箱をマリに渡してくれないか」
エイミーにはそう伝えておいた
いつ来るかわからない”その時”を待ちながら平穏な日常が続いている
「次の休みにどこか行きたいところはあるか?」
「一度、遊園地に行ってみたいです」
「わかった」
おそらく、もうすぐエイミーは異世界に帰る
せめてそれまでに出来るだけ日本を満喫してもらいたい
というか、こっちの食事に慣れてしまったけど、帰ったら異世界のあの不味い食事に耐えられるのか?
そんな事を考えてしまう
遊園地は満喫してくれたみたいだった
「まるで異世界でしたね」
まあ、エイミーにとっては全てが異世界なんだが
その帰り、二人で次の予定を話しながら歩いていた時、俺は足を止めてしまった
「そのファミレスが、どうかしたんですか?」
エイミーが尋ねてくる
「いや、ちょっと思い出したことがあったんだ」
そう、ここだった
全てはここから・・・・
突如、エイミーの足元から光が放たれた
いよいよその時が来たんだ
「エイミー!」
俺は咄嗟に何か言おうとした
エイミーも自分に起きていることが理解できているようだった
「キミヤさん、私・・・!」
え?
なんだ
なぜ俺の足元にも光が・・・
まさか
次の瞬間、目の前が真っ白になった
目の前に金髪ボブの少女がいた
まだ幼稚園児くらいの幼い少女
そのくらいの歳に見える
その少女は俺のほうに倒れてきた
とっさに手を出して支える
「ラヴィニアを部屋に運び休ませておけ」
そう言い放つ見覚えのある顔
「久しぶりだな、キミヤ。あとエイミー・・・なのか?」
「どういうことだ、なぜ俺まで呼び戻した!」
兄妹の感動の再会を邪魔するように俺はまくし立てた
クロードは極めて冷静に言い放った
「お前が最後の希望なんだ」
なんだって?
この6年の間に何があった?
「まさか、俺がいないことが敵にバレたのか?」
クロードは少し難しい顔をしている
「そうではある。しかしそういう単純な話ではないんだ」
「講和条約が破られたのか?」
その質問に対し、俺が全く予想もしていない返事が返ってきた
「ニーレンバーグ王家は滅びた。もう条約なんてものは存在しない」
それに付け加えるように、さらなる衝撃の事実が告げられた
今あの国を支配しているのは
「女王のマリなんだ」
クロードに案内されて一室に入った
以前エイミーの事でこいつと話した場所だ
「なぜだ、なぜマリが?国を滅ぼしたって?」
「詳しい事情は俺にもわからない。だが、彼女は明らかにアスティア国をも滅ぼそうとしている」
わからない
何がどうなればそういうことになるんだ
「で、お前は俺に何をしろと言うんだ。まさかマリを倒してくれとでも言うつもりか?」
返答次第では、俺は再びお前にNoを突きつけることになる
「いや、これはなんとなくなんだが、彼女を救って欲しいと思っている」
救って欲しい?
「どういう意味だ?」
「きっと何かあったのだと思う。どういう事情でそうなったのか、なぜそういう決断をしたのかはわからない。だから、お前がマリに直接会って全てを解決して欲しいと思っている」
・・・・・・それはおそらくお前に頼まれなくともやろうとするだろうがな
「簡単に会いに行けるのか?」
「いや、難しい。現在、マリとは戦争状態にある。すでに敵味方に大勢の犠牲者も出ている」
敵兵が俺を通してくれるわけがないってことか
「戦況は今どうなっている?」
「敵国の戦力としてはギリル要塞に守備兵の2000と要塞の前に巨大ゴーレムが2体。それとは別に8000の兵が控えている。こちらの戦力は6000といったところだ。現在のところ、戦闘は要塞の南側で行われている。基本的にこちらは防戦に専念している形だ」
巨大ゴーレムと来たか・・・・
その戦場を突破し、敵国の城までたどり着く
これは一筋縄でいく話ではないな
「話はわかった。やれるだけはやってみるつもりだ」
「ところで、話は変わるんだが・・・・」
クロードの様子が突然変わった
「お前達、どうなんだ?」
ん?
こいつは何を言っている?
お前達って俺と誰の話だ?
「質問の意味がわからないんだが」
「お前とエイミーの関係はどうなんだと聞いている」
「は?」
「6年も一緒にいて何も無いということはないだろう」
こいつ、何を言ってやがる
「あのな、俺の国では未成年に手を出したら犯罪なんだ。社会的に殺されるんだぞ。何かあるわけないだろ」
クロードはポカンしている
「じゃあ、本当に何も無いのか?もしかして女に興味がないのか?」
それは日本でも言われたよ
合コンの誘いも断るし、誰かに言い寄られても全部断っていたからな
家に異世界人がいますなんて他人に知られるわけにはいかなかっただけだ
「言っておくが、この国では10歳で嫁ぐなんてのも普通なんだぞ」
「全く、とことん中世だな」
その夜、俺は以前と同じ部屋に通された
部屋の様子は全く変わっていない
なんだか懐かしさすら感じる
ベッドで横になりながらいろいろと思案していた
やはりあの時、マリを力づくででも連れて帰るべきだったのだろうか
突然、ドアがノックされる音が聞こえてきた
誰か来たのか?
「入ってもいいですか?」
女の声だった
というか、エイミーの声だ
「ああ」
返事をすると、エイミーがドアを開けて入ってきた
昔、俺達が召喚された時、目の前で倒れた金髪ボブの少女ではなく、もう大人と言ってもいい女性
エイミーは近づいてきて、ベッドで横になっている俺の隣に立つと、しばらくの沈黙の後、深々と頭を下げた
「申し訳ございませんでした」
「は?」
今回の事には何の関係もないだろう
何を謝っているんだ?
「いえ、言ってみたかっただけです」
なんだそれは
「ここに座ってもいいですか?」
エイミーはベッドの片隅を指した
「ああ」
しばらく沈黙が続いた後
「なあ、クロードに何か言われたのか?」
「ええ、あなたの悪口を聞かされました。聞きたいですか?」
「いや、いいよ。だいたい想像は付く」
「そうですか」
再び沈黙が続く
今度はエイミーから切り出した
「昔、私がここで言ったこと覚えてますか?」
何かいろいろと言われたけど
「どのことだ?」
「私が相手の事も考えず、勝手に召喚してしまったことを謝りたいって」
「ああ、そうだったな」
「だから、私、その責任を取ると言いました」
「ああ」
そうだった
この世界に来て、右も左もわからない俺をいろいろ助けてくれた
「この国では10歳で嫁ぐのだって普通なんです」
なんだ、突然
「それはクロードにも言われたよ。ほんと、とことん中世だよ」
「だから、この世界では私はもう行き遅れの女になってしまいました」
・・・・返答に困る
エイミーは続ける
「異世界に長く転移されてしまってたから、もうお嫁に行けないかもしれません」
・・・・
「その責任は誰が取ってくれるのかなって」
俺は思わず正論で返す
「いや、お前の場合は同意していたじゃないか。誰かに責任なんて・・・」
そこまで言って、言葉を引っ込めた
「わかった。わかったよ。俺が責任を取る。意味はわかるな?」
「はい!」
翌日、俺とクロードは作戦を練っていた
「マリの元へは俺が一人で行こうと思っている」
それが俺の出した結論だった
しかし、多くの兵が守っている敵国の領土を一人で突破するのは難しい
「だから、敵の全兵を要塞周辺に集めたい」
その隙に俺は迂回路を通り敵国領土を抜けていく
「どうやって集めるつもりだ?」
クロードの当然の疑問に俺は答える
「そうしなくてはならないほど俺達の戦力が強いと思わせればいいのさ」
だから、まず要塞を守っている玩具2体を俺が破壊する
アスティア国に俺がいることがわかれば、援軍を呼ぶはずだ
それだけじゃない
膨大な兵力で攻めてきたと思わせる必要もある
「だから、見てくれだけでもいい。一般民衆にも兵士の姿をしてもらい、行軍に参加してもらって欲しい。戦闘になれば後方で見ているだけの部隊で構わない」
「なるほど」
だが、この作戦には致命的かもしれない欠点もある
全兵力が集まった敵の攻撃を、クロードがハリボテ混じりの軍でしのぎ切れるのかという点だ
「お前は勝たなくていい。なるべく時間稼ぎをしてくれればそれでいい。やれるか?」
「やるしかないのだろう?」
クロードは作戦を了承してくれた
「だが、準備に時間がかかりそうだ。お前はその間、久しぶりに領地巡りでもしてきたらどうだ?もちろんエイミーも一緒にな」
「いいのか?」
「お前がいれば護衛もいらないだろうしな」
それからしばらくの間、俺とエイミーは各地を巡った
昔、小さなガキだった奴が立派になってやがる
逆にエイミーを見て目を丸くする人も何人いたことやら
いや、ほぼ全員か
怪我人の治療には二人で対処した
エイミーはもう当時の俺よりも優秀かもしれない
そして、領民を連れて狩りにも行った
この時だけは飯の不味さから解放される
平和な日々
こんな日々がずっと続けばいいと思った
いや、俺がそういう世界にしないといけないんだ
そして、出兵の準備は整った
「じゃ、行ってくる」
俺はエイミーにそう告げた
「必ず無事に帰ってきてください」
「もちろんだ」
安心させるように俺は微笑みかけた
「あと、これ」
エイミーが何かを差し出す
これは、エイミーのリュックに入れていたヤスタカのプレゼント
「これはキミヤさんからマリさんに渡してください」
「ああ、わかった」
そうだ
俺はこれをマリに届けないといけない
ヤスタカ・・・・
必ず届けてやるからな
次が最終話です




